光学と量子エレクトロニクス 第12章 §12.4 ★★★ 高い振動数で電子は自由な粒子として振る舞い χ→−ωp2/ω2 になる。これを KK の関係と合わせると、吸収スペクトルの重み付きの面積が電子の数密度だけで決まる
高い振動数での振る舞い
光の振動が速すぎて、電子が束縛の力を感じる前に向きを変える振動数を考える。例題 12.1 で見たように、撃力の直後の応答は χ(0+)=0、χ˙(0+)=ωp2 である。この2つは束縛にも減衰にもよらない一般の性質である。撃力の一瞬に電子が受け取るのは運動量 −eE1 だけで、位置はまだ動いていないから、物質の中のすべての電子(数密度 N、内殻の電子も含める)について P˙(0+)=Ne2E1/m になる。原子核も同じように動くが、その寄与は質量の比 m/M だけ小さいので無視する。式 (12.3) を部分積分で 1/ω について展開すると
χ(ω)=ωiχ(0+)−ω2χ˙(0+)+O(ω−3)=−ω2ωp2+O(ω−3),ωp2=ε0mNe2(12.14)
になる。十分に高い振動数(X 線の領域)では、どの物質も自由電子の気体と同じ誘電関数 1−ωp2/ω2 に近づく。
f 総和則
一方、式 (12.10) の第1式で ω を大きくすると、ε2 が ω より十分低い振動数で減ってしまう限り、分母を −ω2 で置き換えることができ
ε1(ω)−1≈−πω22∫0∞ω′ε2(ω′)dω′
となる。これを式 (12.14) と比べると
総和則
∫0∞ωε2(ω)dω=2πωp2=2πε0mNe2(12.15)
ε1(0)−1=π2∫0∞ωε2(ω)dω(絶縁体)(12.16)
∫0∞ωIm[−εr(ω)1]dω=2πωp2,∫0∞ωκ(ω)dω=4πωp2,∫0∞[n(ω)−1]dω=0(12.17)
を得る。式 (12.15) を f 総和則と呼ぶ。吸収スペクトルを ω で重み付けた面積は、吸収の形や物質の種類によらず、電子の数密度だけで決まる。吸収の山を幅の狭いものから広いものに変えても、山を別の振動数へ動かしても、その合計の面積を変えることはできない。
同じ式は、上半面で正則な ωχ(ω) の、実軸の [−R,R] と半径 R の大きな半円からなる閉曲線の積分からも出る。閉曲線の積分は 0 で、大きな半円の上では式 (12.14) から ωχ≈−ωp2/ω なので、その積分は −ωp2⋅iπ である。よって ∫−RRωχdω=iπωp2 で、虚部をとり、被積分関数 ωImχ が偶関数であることを使うと式 (12.15) になる。
名前の f は振動子強度に由来する。式 (12.11) の細い線の重みを入れると、左辺は 2πωp2∑jfj になるので、式 (12.15) は ∑jfj=1(電子1個あたり)、原子1個あたりでは振動子強度の和が電子の数 Z に等しいことを言っている。これは第1章で引いた Thomas–Reiche–Kuhn の総和則(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第12章)と同じ内容で、量子力学の側では交換関係 [x^,[H^,x^]]=−ℏ2/m から、光学の側では因果律と高い振動数の自由電子の振る舞いから出る。
伝導度で書くと、εr=1+iσ/(ε0ω) から ε2=Reσ/(ε0ω) なので、式 (12.15) は∫0∞Reσ(ω)dω=2πε0ωp2 になる。ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第2章で Drude の伝導度について確かめた和則は、この一般の式の一例である。
式 (12.16) は式 (12.10) の第1式で ω=0 とおいたものである。分母の ω′ のために低い振動数の吸収ほど重く数えられ、赤外のわずかな吸収(イオンの振動)が静的な比誘電率を大きく持ち上げることがある。式 (12.17) は、εr の代わりに 1/εr と n~ に同じ議論を当てたものである。どちらも上半面で正則で(εr は上半面で 0 にならない)、高い振動数で 1/εr≈1+ωp2/ω2、n~−1≈−ωp2/(2ω2) になる。最後の ∫(n−1)dω=0 は、κ が ω−1 より速く減ることから出る(KK の第2式で ω を大きくすると、κ≈πω2∫(n−1)dω′ が残るため)。屈折率は平均すると 1 で、n>1 の領域があれば必ず n<1 の領域がある1屈折率の和則の整理は M. Altarelli, D. L. Dexter, H. M. Nussenzveig, D. Y. Smith, Phys. Rev. B 6, 4502 (1972)。。n<1 は位相速度が c を超えることを表すが、信号の先頭が伝わる速さは c を超えない。n~ が上半面で正則で、∣ω∣→∞ で 1 に近づくことから、この結論が出る(A. Sommerfeld と L. Brillouin の議論)。
有効電子数
測定した ε2 を ω まで積分した量を、式 (12.15) の右辺で割って
Neff(ω)=πωp22∫0ωω′ε2(ω′)dω′(12.18)
と書く。ここで ωp は全電子の数密度で作る。Neff(ω) は「振動数 ω までの吸収に参加した電子の割合」で、ω→∞ で 1 になる。図 12.3 は、電子の 1/4 が角周波数 ωv の価電子の山、残りの 3/4 が 8ωv の内殻の山に吸収の重みを持つ模型の Neff である。価電子の山を過ぎたところで Neff は 0.25 の付近で平らになり、内殻の山を過ぎてから 1 に近づく。平らな段の高さから、光学で測っただけで「この振動数の範囲で応答している電子が原子あたり何個か」を数えることができる。

図 12.3 2つの Lorentz の山(価電子:ωv・幅 0.15ωv・重み 1/4、内殻:8ωv・幅 1.5ωv・重み 3/4)を持つ模型の有効電子数 (12.18)。この模型の中では厳密な値で、線は点をつないだだけである。ω→∞ で 1 に近づく
例題 12.4 Drude 金属の3つの和 ★★
オリジナルDrude 模型の比誘電率 εr=1−ωp2/[ω(ω+iγ)] を考える(σ0=ε0ωp2/γ)。
- (1) ε2(ω) を求め、f 総和則 (12.15) を直接の積分で確かめよ。結果が γ によらない理由を述べよ。
- (2) Im[−1/εr] を求め、それが ωp に共鳴を持つ Lorentz 形であることを示せ。式 (12.17) の第1式を確かめよ。
- (3) 金属では式 (12.16) の右辺が発散する。極の項を引いた ε1(0)−1=π2∫0∞[ε2−σ0/(ε0ω)]ω−1dω を計算し、ε1(0) と一致することを確かめよ。
解答
(1) ω(ω+iγ)1=ω(ω2+γ2)ω−iγ なので ε1=1−ωp2/(ω2+γ2)、ε2=ωp2γ/[ω(ω2+γ2)]。
∫0∞ωε2dω=ωp2γ∫0∞ω2+γ2dω=ωp2γ⋅2γπ=2πωp2.
γ を大きくすると吸収の山は低く広がるが、γ は山の高さ(∝1/γ)と幅(∝γ)に逆向きに入るので面積は変わらない。物理的には、散乱が起きるより前の短い時間に電子が J˙=(Ne2/m)E で加速されることが、γ と無関係だからである。
(2) 1/εr=ω(ω+iγ)/[ω(ω+iγ)−ωp2] なので
−εr1=−1−ω2−ωp2+iγωωp2=−1+ωp2−ω2−iγωωp2,Im[−εr1]=(ωp2−ω2)2+γ2ω2ωp2γω.
これは固有角周波数 ωp・プラズマ周波数 ωp の Lorentz 振動子の Imχ と同じ形で、ω=ωp に山(プラズモン)を持つ。Lorentz 振動子の f 総和則(例えば (1) と同じ閉曲線の議論)から、∫0∞ωIm[−1/εr]dω=2πωp2 である。速い電子が薄膜を通るときに失うエネルギーの分布はこの量に比例する(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第6章の電子エネルギー損失分光)。
(3) ε2−σ0/(ε0ω)=ωωp2[ω2+γ2γ−γ1]=−γ(ω2+γ2)ωp2ω で、
π2∫0∞(−γ(ω2+γ2)ωp2)dω=−π2⋅γωp2⋅2γπ=−γ2ωp2.
一方 (1) から ε1(0)=1−ωp2/γ2 で、一致する。極の項を引けば、金属でも静的な和を使うことができる。
1 屈折率の和則の整理は M. Altarelli, D. L. Dexter, H. M. Nussenzveig, D. Y. Smith, Phys. Rev. B 6, 4502 (1972)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com