光学と量子エレクトロニクス 第12章 §12.5 ★★ KK の関係そのものは近似を含まない。仮定は線形・局所・時間的に一様の3つ。実験では反射率だけを広く測って位相を出すが、測っていない振動数の外挿が誤差のもとになる
置いた仮定
KK の関係は、線形性と因果律と時間的な一様性から数学の定理として出るので、それ自体には近似が無い。近似が入るのは、物質がこの3つを満たすとみなす所である。
第一は線形性で、光の電場 E が原子の中の電場 Eat=e/(4πε0a02)≈5×1011Vm−1 に比べて小さいとして、分極を E の1次で打ち切った。強い光では2次・3次の分極(第17章の非線形光学)が加わり、式 (12.1) の形が崩れる。
第二は局所性で、ある点の分極がその点の電場だけで決まるとした。正確には応答は空間についても畳み込みで、感受率は波数にもよる χ(ω,k) になる(空間分散)。固定した k ごとには時間についての因果律が成り立つので、KK の関係は χ(ω,k) について成り立つ。光学で使う χ(ω) は k→0 の極限で、原子の大きさや電子の平均自由行程 a と波長の比 ka が小さいことを使っている。金属の異常表皮効果のように平均自由行程が表皮の厚さより長くなると、この極限が使えなくなる。
第三は時間的な一様性で、測定の間に物質の性質が変わらないとした。光で励起しながら測る(ポンプ・プローブ)場合は、遅延時間ごとに別の物質とみなす。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの E/Eat→0(光の電場と原子の中の電場の比) | 証明 要確認(微視的な力学から線形応答を導くときの誤差の評価を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第2章
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ka→0(原子の大きさ・平均自由行程と波長の比) | 証明 要確認(空間分散を落とす極限の評価を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第9章
反射率から位相を出す
KK の関係を実験に使う最も普通の場面は、強い吸収を持つ物質(金属・半導体のバンド間遷移の領域)の光学定数を求めることである。吸収が強いと試料を光が通らないので透過は測れないが、垂直入射の反射率 R(ω) なら厚い試料で広い振動数範囲にわたって測ることができる。
真空から複素屈折率 n~ の物質へ垂直に入射した光の電場の反射係数は (1−n~)/(1+n~) である(第14章)。定数の符号 −1 を外した
r~(ω)=n~(ω)+1n~(ω)−1=R(ω)eiθ(ω)(12.19)
の位相 θ を考える。n~ は上半面で正則で、r~ はそこで 0 にならない(r~=0 は εr=1 のときで、εr は上半面で 1 をとらない1上半面の虚軸の上で εr は実数で 1 より大きく、それ以外の点では実数にならない。Landau と Lifshitz の連続媒質の電磁気学の教科書に証明がある。)。したがって lnr~=lnR+iθ も上半面で正則で、実部 lnR は偶関数、虚部 θ は奇関数になる。lnr~ は ∣ω∣→∞ で 0 にならず対数で増えるが、ln∣ω∣/∣ω∣→0 なので大きな半円の寄与は消え、式 (12.10) の第2式と同じ形
θ(ω)=−πωP∫0∞ω′2−ω2lnR(ω′)dω′=−πω∫0∞ω′2−ω2lnR(ω′)−lnR(ω)dω′(12.20)
を得る(2つ目の形は主値の要らない数値計算向けの形)。θ が分かれば、式 (12.19) を n~ について解いて
n~=1−r~1+r~,n=1+R−2Rcosθ1−R,κ=1+R−2Rcosθ2Rsinθ(12.21)
が出る。κ>0 の物質では Imr~=2κ/∣n~+1∣2>0 なので 0<θ<π である。n~ が 1 より小さい高い振動数では r~<0 に近づき、θ→π になる。
図 12.4 は、図 12.2 と同じ Lorentz 振動子の R(ω) を「測った」とし、ω≤4ω0 の範囲の値と、その先を R∝ω−4 で延ばした値から式 (12.20)・(12.21) で n と κ を組み立てたものである。ω0 と ω02+ωp2=1.80ω0 の間で R が 0.78 まで上がる反射帯(ε1<0)があり、そこで n が小さく κ が大きくなる様子が再現されている。位相の誤差は ω≤2ω0 で 0.033 以下だった。外挿の指数は高い振動数の r~≈−ωp2/(4ω2)(式 (12.14))から R∝ω−4 を選んだもので、これを ω−2 と誤ると ω=2ω0 の位相が 0.36 ずれた。式 (12.20) の積分は対数 lnR を含むので、測っていない振動数の R の大きさよりも、その減り方の指数のほうが結果を大きく左右する。

図 12.4 反射率から光学定数を組み立てる(図 12.2 と同じ Lorentz 振動子)。左:反射率 R(破線)と位相 θ。右:n と κ。点線は厳密な値、実線(κ は青の破線)は ω≤4ω0 の R と R∝ω−4 の外挿から式 (12.20)・(12.21) で作った値(外挿の近似)
測っていない振動数の R を模型で補う操作は、未知の量を既知の量の関数で置き換えて積分を閉じる操作で、第V巻の言葉では C 型にあたる。その誤差を測った範囲の情報だけで評価する方法は無く、指数を変えて結果がどれだけ動くかを調べるのが実際的な確かめ方になる。
近似の裏付け
型 C(閉じる) | 小さいもの 測っていない振動数の R(ω) を R∝ω−s の外挿で置き換える(小さいパラメータなし) | 証明 C 型=内部の評価なし | 行き先 近似の数理 第9章
この方法で金属の光学定数を広い範囲で組み立てた初期の代表例に、銀と銅の反射率の測定がある2H. Ehrenreich and H. R. Philipp, Phys. Rev. 128, 1622 (1962)。。反射率のほかに、斜め入射の偏光の変化を測るエリプソメトリは1つの振動数で ε1 と ε2 を直接決めるので、KK の関係を使わずに求めた値と比べて KK の関係を確かめることができる。また、組み立てた ε2 を式 (12.15) に入れて Neff が原子あたりの電子の数に近づくかを見ることは、測定と外挿が正しいかの確かめになる。バンド間遷移の構造を測った ε2 から読み取る話は、ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第6章で扱う。
例題 12.5 階段の形の反射率が作る位相 ★★
オリジナル金属の反射率を、角周波数 ωc より下で R1、上で R2 の階段で近似する(R1>R2)。
- (1) 式 (12.20) の第2の形を使い、ω<ωc と ω>ωc のそれぞれで θ(ω) を求めよ。
- (2) R1=0.95、R2=0.05 のとき、ω=0.5ωc と 2ωc での θ と、式 (12.21) の n と κ を求めよ。ω=0.5ωc での ε1 の符号を述べよ。
- (3) ω→ωc で θ はどうなるか。この近似の限界を述べよ。
解答
(1) ω<ωc では lnR(ω)=lnR1 なので、被積分関数の分子は ω′>ωc でだけ ln(R2/R1) になる。∫ωc∞ω′2−ω2dω′=2ω1lnωc−ωωc+ω を使うとθ=−2π1lnR1R2lnωc−ωωc+ω。ω>ωc では分子は ω′<ωc でだけ ln(R1/R2) で、∫0ωcω′2−ω2dω′=−2ω1lnω−ωcω+ωc からθ=2π1lnR2R1lnω−ωcω+ωc。2つをまとめると
θ(ω)=2π1lnR2R1lnω−ωcω+ωc
で、R1>R2 なのでどちらの側でも θ>0 である。
(2) ω=0.5ωc では ln∣1.5/0.5∣=ln3、ω=2ωc でも ln(3/1)=ln3 で、どちらも θ=2π1ln19⋅ln3=0.515 である。ω=0.5ωc では R=0.9747、cosθ=0.870 で分母は 1.95−2×0.9747×0.870=0.253 になり、n=0.05/0.253=0.197、κ=2×0.9747×0.492/0.253=3.79。ε1=n2−κ2=−14.3<0 で、金属の反射帯の性質を持つ。ω=2ωc では R=0.2236 で n=1.44、κ=0.333 になる。
(3) ω→ωc で ln∣ω−ωc∣→−∞ なので θ は対数で発散する。θ は 0 から π の間にあるはずなので、階段の近似は端の近くで破れる。実際の反射率は幅のある振動数でなだらかに下がり(プラズマ端)、このなだらかな変化を入れると θ は有限にとどまる。階段は端から離れた振動数で θ の大きさを見積もるための近似である。
1 上半面の虚軸の上で εr は実数で 1 より大きく、それ以外の点では実数にならない。Landau と Lifshitz の連続媒質の電磁気学の教科書に証明がある。
2 H. Ehrenreich and H. R. Philipp, Phys. Rev. 128, 1622 (1962)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com