相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第3部 第5章 §3.5.2 ★★★ 4つの相関の組み合わせ S が局所の箱で ∣S∣≤2 を満たすことを16個の頂点で確かめ、勝率 3/4 のゲームとして読み直す
CHSH 不等式
4つの相関を次のように組み合わせる。
S:=E00+E01+E10−E11.(3.5.6)
定理 3.5.2(CHSH 不等式 ★★★)
局所の箱はすべて ∣S∣≤2 を満たす(Clauser–Horne–Shimony–Holt 1969、Phys. Rev. Lett. 23、880)。
証明
S は箱について線形なので、命題 3.5.1 から16個の決定的な戦略で ∣S∣≤2 を示せば足りる。決定的な戦略では Exy=AxBy なので
S=A0B0+A0B1+A1B0−A1B1=A0(B0+B1)+A1(B0−B1).
B0,B1=±1 だから、B0+B1 と B0−B1 の一方は 0、他方は ±2 である。よって S=±2 である。混合はこれらの凸結合なので −2≤S≤2 となる。
この証明では、決定的な戦略で4つの値 A0,A1,B0,B1 が同時に決まっていることを使った。1回の試行で実際に測るのは Ax と By の1組だけだが、局所の模型では測らなかった方の値も λ によって決まっている。量子力学では、交換しない2つの観測量 A^0,A^1 に同時に値を割り当てられないので、この証明の第1行が成り立たない。
2入力2出力のこの設定では、S の符号と項の並べ方を変えた8通りの CHSH 不等式(と、確率が 0 以上という自明な不等式)で L がちょうど切り出されることが知られている(Fine 1982、Phys. Rev. Lett. 48、291)。したがって、この設定で局所の模型が存在するかどうかは CHSH 不等式だけで判定できる。
CHSH ゲーム
S を勝ち負けの確率に直しておくと、3.5.4 節で相対エントロピーを計算するときに使える。審判が x,y を一様に独立に選んで2人に別々に渡し、2人は相談せずに a,b を返す。ab=(−1)xy なら2人の勝ちとする(xy=11 のときだけ結果を逆にし、それ以外ではそろえれば勝ち)。各 xy での勝率は (1+(−1)xyExy)/2 なので、平均の勝率は
ω=41x,y∑21+(−1)xyExy=21+8S(3.5.7)
である。CHSH 不等式は「局所の戦略の勝率は 3/4 以下」と同じことである。3/4 は、4つの xy のうち3つでそろえ、xy=11 ではあきらめる、という戦略で達成される。
例題 3.5.2 16個の決定的な戦略と古典の角度の模型 ★★
オリジナル
- (1) 16個の決定的な戦略のうち S=+2 となるものは何個か。それぞれの戦略が負ける xy は何通りか。
- (2) PR 箱(例題 3.5.1)の S と勝率を求め、PR 箱が局所の箱でないことを示せ。
- (3) 式 (3.5.4) の角度の模型で、Alice の角度を α0=0、α1=π/2、Bob の角度を β0=π/4、β1=−π/4 にとる。S と勝率を求めよ。
解答
(1) 定理 3.5.2 の証明から S=A0(B0+B1)+A1(B0−B1)。B0=B1 のとき S=2A0B0 なので A0=B0 なら +2。このとき A1 は自由で、B0=±1 と合わせて4個。B0=−B1 のとき S=2A1B0 なので A1=B0 なら +2。A0 は自由で4個。合わせて8個が S=+2、残りの8個が S=−2 である。S=+2 の戦略では4つの項 A0B0,A0B1,A1B0,−A1B1 のうち3つが +1、1つが −1 なので、負ける xy はちょうど1通りで、勝率は 3/4 である。
(2) PR 箱では E00=E01=E10=1、E11=−1 なので S=4、勝率は式 (3.5.7) から 1。S=4>2 なので、定理 3.5.2 から PR 箱は L に入らない。PR 箱は例題 3.5.1 で無信号だったので、L が NS の真部分集合であることがわかる。
(3) 式 (3.5.4) で、∣α0−β0∣=∣α0−β1∣=∣α1−β0∣=π/4、∣α1−β1∣=3π/4。E(π/4)=1/2、E(3π/4)=−1/2 だから S=21+21+21+21=2、勝率は 3/4。この模型は局所の箱なので S は2を超えられず、この角度で上限にちょうど一致する。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com