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比べる2つの分布:量子の箱と局所の箱

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第5章 Bell の不等式
目次
  1. 箱
  2. 局所的な隠れた変数の模型
  3. 信号を送れない箱
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第3部 第5章 §3.5.1 ★★★ 観測者2人の入力と出力の条件付き分布(箱)を定義し、局所的な隠れた変数の模型が出せる箱の集合 L\mathcal L が16個の決定的な戦略の凸包であることを示す

前の章(第3部第4章)では、積状態の混合で書けない状態をエンタングルした状態と呼び、その量を密度行列の言葉で測った。そこでの議論は、状態が密度行列 ρ^AB\hat\rho_{AB} で書けること、測定が射影測定で書けることを前提にしていた。この章では、その前提を外して、実験で直接見える量だけを比べる。2人の観測者 Alice と Bob が、それぞれ手元の装置の設定 xx、yy を選び、結果 aa、bb を記録する。何度も繰り返すと、条件付きの分布 p(ab ∣ xy)p(ab\,|\,xy) が得られる。この分布を、この章では箱と呼ぶ。

この章で比べる2つの分布は、エンタングルした状態を測って得られる箱と、局所的な隠れた変数の模型(2つの粒子が出発のときに共有した情報 λ\lambda と、それぞれの手元の設定だけで結果が決まる模型)が出せる箱の集合 L\mathcal L である。当てる DD の性質は、非負性・結合凸性・データ処理不等式の3つである。出てくるものは次の4つである。第一に、L\mathcal L の箱は CHSH 不等式 ∣S∣≤2\lvert S\rvert \le2 を満たし、量子の箱は S=22S=2\sqrt2 に達する。第二に、量子力学の中では 222\sqrt2 が上限(Tsirelson 限界)である。第三に、量子の箱と L\mathcal L の間の相対エントロピーの最小値 DLD_{\mathcal L} が、局所の模型を実験で棄却するのに要る試行の回数を決め、雑音を通すと DLD_{\mathcal L} は増えない。第四に、CHSH 不等式の破れから、装置の中身を信用しなくても、エンタングルメントの存在と盗聴者の情報の上限が言える。

この章の対数は自然対数で、情報量の単位は nat とする。量子ビットの Pauli 行列は記法の正本に従って X,Y,ZX,Y,Z と書き、恒等演算子を 1\mathbf 1 と書く。前の2章で ρ^p=p∣Φ+⟩⟨Φ+∣+(1−p)1/4\hat\rho_p=p| \Phi^+ \rangle \langle \Phi^+ |+(1-p)\mathbf 1/4 と書いた Werner 状態は、この章では箱の記号 pp と区別するため、混ぜる割合を VV として ρ^V\hat\rho_V と書く。結果の値 a,ba,b は ±1\pm1 とし、設定 x,yx,y は 00 と 11 の2通りとする。

箱

実験の配置を図 3.5.1 に示す。中央の源が2つの粒子を作り、左右に離れた Alice と Bob へ送る。Alice は設定 x∈{0,1}x\in\{0,1\} を選んで測り、結果 a∈{+1,−1}a\in\{+1,-1\} を得る。Bob も同じく設定 yy を選び、結果 bb を得る。設定の選び方は、源が粒子を作った後で、2人がそれぞれ乱数で決めるとする。これを nn 回繰り返して、設定の組 xyxy ごとに結果の組 abab の頻度を数えると、n→∞n\to\infty で

p(ab ∣ xy),∑a,bp(ab ∣ xy)=1(各 x,y)(3.5.1)p(ab\,|\,xy),\qquad \sum_{a,b}p(ab\,|\,xy)=1\quad(\text{各 }x,y)\tag{3.5.1}

が得られる。4つの設定の組それぞれに4通りの結果の確率があるので、箱は16個の数で決まる。結果の積の平均

Exy≔∑a,bab p(ab ∣ xy)(3.5.2)E_{xy}\coloneqq\sum_{a,b}ab\,p(ab\,|\,xy)\tag{3.5.2}

を相関と呼ぶ。ab=+1ab=+1 なら結果がそろい、−1-1 ならそろわないので、Exy=Pr⁡(そろう ∣ xy)−Pr⁡(そろわない ∣ xy)E_{xy}=\Pr(\text{そろう}\,|\,xy)-\Pr(\text{そろわない}\,|\,xy) である。

図

図 3.5.1 Bell の実験の配置。2人の観測者は入力(設定)を選び、出力(結果)を記録する。実験で直接得られる量は条件付き分布 p(ab ∣ xy)p(ab\,|\,xy)(箱)だけである。局所の模型では、源で作られた情報 λ\lambda を2つの粒子が持っていき、出力は λ\lambda と手元の入力だけで決まる

局所的な隠れた変数の模型

Bell(1964、Physics 1、195)が置いた仮定は次の2つである。1つ目は、源で作られた何らかの情報 λ\lambda を2つの粒子が持っていき、Alice の結果の確率は λ\lambda と Alice の設定 xx だけで決まり、Bob の設定 yy によらないこと(局所性)。2つ目は、λ\lambda の分布 q(λ)q(\lambda) が2人の設定の選び方と独立であること(設定の自由)。この2つを置くと、箱は

p(ab ∣ xy)=∫dλ q(λ) pA(a ∣ x,λ) pB(b ∣ y,λ)(3.5.3)p(ab\,|\,xy)=\int\mathrm{d}\lambda\,q(\lambda)\,p_A(a\,|\,x,\lambda)\,p_B(b\,|\,y,\lambda)\tag{3.5.3}

の形になる。λ\lambda を固定すると、2人の結果は独立になる。結果の間の相関は、すべて共有した λ\lambda を通して生じる。式 (3.5.3) の形に書ける箱を局所の箱と呼び、その全体を L\mathcal L と書く。

局所の箱の中で最も簡単なのは、λ\lambda が4つの値 (A0,A1,B0,B1)∈{±1}4(A_0,A_1,B_0,B_1)\in\{\pm1\}^4 を決め、Alice は設定 xx のとき必ず a=Axa=A_x、Bob は設定 yy のとき必ず b=Byb=B_y を出す箱である。これを決定的な戦略と呼ぶ。決定的な戦略は 24=162^4=16 個ある。

命題 3.5.1(局所の箱は決定的な戦略の混合 ★★★)

L\mathcal L は16個の決定的な戦略の箱の凸包(それらの確率的な混合の全体)に等しい。

証明

決定的な戦略の混合が式 (3.5.3) の形をしているのは、混合の番号を λ\lambda にとればよいので明らかである。逆を示す。λ\lambda を固定したときの Alice の応答 pA(a ∣ x,λ)p_A(a\,|\,x,\lambda) は、設定 x=0,1x=0,1 ごとに ±1\pm1 の上の分布なので、2つの独立な乱数 A0,A1A_0,A_1 をPr⁡(Ax=a)=pA(a ∣ x,λ)\Pr(A_x=a)=p_A(a\,|\,x,\lambda) で引いて a=Axa=A_x と出すことで実現できる。Bob も同じく独立な B0,B1B_0,B_1 で実現できる。λ\lambda と4つの乱数をまとめて新しい隠れた変数とみれば、各値で応答は決定的になる。

この命題から、L\mathcal L は16個の頂点を持つ凸多面体である。局所の箱が満たす線形の不等式は、頂点で成り立てば L\mathcal L 全体で成り立つので、16個の戦略を調べるだけで判定できる。次の節の CHSH 不等式はそうして示す。

具体的な局所の模型を1つ見ておく。λ\lambda を円周上の一様な角度とし、Alice は設定に応じた角度 α\alpha を選んで a=sign⁡cos⁡(α−λ)a=\operatorname{sign}\cos(\alpha-\lambda)、Bob は角度 β\beta を選んで b=sign⁡cos⁡(β−λ)b=\operatorname{sign}\cos(\beta-\lambda) を出す。2人の結果が食い違うのは、λ\lambda が2つの角度の垂直方向の間に入ったときで、その範囲は円周 2π2\pi のうち長さ 2θ2\theta(θ=∣α−β∣≤π\theta=\lvert \alpha-\beta\rvert \le\pi)である。よって

E(θ)=1−2⋅2θ2π=1−2θπ(3.5.4)E(\theta)=1-2\cdot\frac{2\theta}{2\pi}=1-\frac{2\theta}{\pi}\tag{3.5.4}

となる。それぞれの結果の周辺は一様で、θ=0\theta=0 で完全にそろい、θ=π\theta=\pi で完全に逆になる。この模型は偏光や スピンの向きを「粒子が持っていく角度」とみた素朴な描像で、3.5.3 節で量子の相関 cos⁡θ\cos\theta と比べる。

信号を送れない箱

局所の箱では、Alice の結果の周辺分布 p(a ∣ xy)=∑bp(ab ∣ xy)p(a\,|\,xy)=\sum_bp(ab\,|\,xy) は yy によらない。式 (3.5.3) で bb について和をとるとpBp_B が消えるからである。同じく Bob の周辺は xx によらない。この条件

∑bp(ab ∣ xy)=∑bp(ab ∣ xy′),∑ap(ab ∣ xy)=∑ap(ab ∣ x′y)(3.5.5)\sum_bp(ab\,|\,xy)=\sum_bp(ab\,|\,xy'),\qquad \sum_ap(ab\,|\,xy)=\sum_ap(ab\,|\,x'y)\tag{3.5.5}

を無信号条件と呼ぶ。これが破れていると、Bob が設定 yy を変えるだけで Alice の手元の統計が変わり、Alice は yy を読み取れる。相対エントロピーの言葉では、無信号条件は、Alice の周辺分布どうしの相対エントロピー D(p(⋅ ∣ x,y=0) ∥ p(⋅ ∣ x,y=1))D\bigl(p(\cdot\,|\,x,y{=}0)\,\big\|\,p(\cdot\,|\,x,y{=}1)\bigr) がすべての xx で 00 であることと同じである。無信号条件を満たす箱の全体を NS\mathcal{NS} と書く。L⊆NS\mathcal L\subseteq\mathcal{NS} であり、3.5.5 節で示すように量子の箱も NS\mathcal{NS} に入る。

例題 3.5.1 信号を送らないが局所でない箱 ★★

オリジナル次の2つの箱を考える。

  1. (1) PR 箱:ab=(−1)xyab=(-1)^{xy} を満たす2通りの (a,b)(a,b) に確率 1/21/2 ずつを置く。すなわち xy=11xy=11 のときだけ結果が必ず逆になり、それ以外では必ずそろう。この箱が無信号条件 (3.5.5) を満たすことを示せ。
  2. (2) Bob が b=xb=x を出し、Alice が一様な乱数 aa を出す箱を考える。Alice の入力 XX を一様に選ぶとき、相互情報量 I(X;B ∣ Y=y)I(X;B\,|\,Y=y) を求めよ。
  3. (3) (1) の PR 箱について、どの yy でも I(X;B ∣ Y=y)=0I(X;B\,|\,Y=y)=0 であることを示し、(2) との違いを述べよ。
解答

(1) どの xyxy でも、許される2通りは (a,b)=(+1,(−1)xy)(a,b)=(+1,(-1)^{xy}) と (−1,−(−1)xy)(-1,-(-1)^{xy}) で、aa は ±1\pm1 を 1/21/2 ずつとる。よって Alice の周辺はどの x,yx,y でも (1/2,1/2)(1/2,1/2) で、yy によらない。Bob の周辺も同じく (1/2,1/2)(1/2,1/2) で xx によらない。PR 箱(Popescu–Rohrlich 1994、Found. Phys. 24、379)は無信号条件を満たす。

(2) b=xb=x なので、YY の値によらず BB は XX の写しである。XX が一様なら H(B ∣ Y=y)=ln⁡2H(B\,|\,Y=y)=\ln2、H(B ∣ X,Y=y)=0H(B\,|\,X,Y=y)=0 なので、I(X;B ∣ Y=y)=ln⁡2I(X;B\,|\,Y=y)=\ln2 nat(1 ビット)。Alice の入力が1回で Bob に伝わる。

(3) PR 箱では、Y=yY=y を固定したとき BB の分布は xx によらず (1/2,1/2)(1/2,1/2) である。I(X;B ∣ Y=y)=∑xp(x) D(pB(⋅ ∣ x,y) ∥ pB(⋅ ∣ y))I(X;B\,|\,Y=y)=\sum_xp(x)\,D\bigl(p_B(\cdot\,|\,x,y)\,\big\|\,p_B(\cdot\,|\,y)\bigr) の各項の2つの分布が等しいので、和は 00 である。PR 箱の相関は xx と yy の両方で決まるが、片方の手元の統計だけを見ると相手の入力の痕跡は残っていない。PR 箱が局所の箱でないことは次の節の例題で示す。

木下の勉強ステータス

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