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出てくるもの2:経路を縮めて下から押さえる

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第3章 第二法則は経路の D の非負性
目次
  1. 1時刻の分布に縮める
  2. 状態を粗く見る
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第3章 §4.3.4 ★★ 1時刻の分布や粗く見た状態の列だけで計算した DD は、データ処理不等式によりエントロピー生成の下からの評価になる

エントロピー生成 D(P ∥ P~)D(P\,\|\,\tilde P) は経路全体の分布の量で、実験で全部を測るのは難しい。式 (4.3.12) は、経路の一部しか見えなくても、見えている部分の DD が下からの評価になることを保証する。この節では2つの縮め方を扱う。

1時刻の分布に縮める

経路 Γ\Gamma をある時刻の状態 xtx_t に縮める。PP の xtx_t の周辺は順回しの時刻 tt の分布 ptp_t である。P~\tilde P の xtx_t の周辺を p~t\tilde p_t と書くと、これは逆回しの過程の、時刻 n−tn-t(λ\lambda が λt\lambda_t に戻った所)での分布である。式 (4.3.12) から

⟨Σ⟩≥D(pt ∥ p~t)(t=0,1,…,n)(4.3.18)\langle \Sigma \rangle \ge D(p_t\,\|\,\tilde p_t)\qquad(t=0,1,\dots,n)\tag{4.3.18}

が出る。平衡から始めて平衡へ戻す場合には、左辺は β(⟨W⟩−ΔF)\beta(\langle W \rangle -\Delta F) なので、散逸した仕事は、操作の途中のどの時刻でも「順回しの分布と、同じ λ\lambda での逆回しの分布の DD」以上である。Hamilton 力学で系と熱浴の全体を扱うと、相空間の上でこの式が等号になることが Kawai・Parrondo・Van den Broeck によって示されている1R. Kawai, J. M. R. Parrondo, C. Van den Broeck (2007), Phys. Rev. Lett. 98, 080602。下の脚注へ。等号になるのは、可逆な決定論的運動では1時刻の状態が経路全体を決めるからで、Markov 過程のように熱浴を縮約して確率的にすると、残りの経路の情報の分だけ不等号になる。

t=nt=n のときは p~n=p~0=peqλn\tilde p_n=\tilde p_0=p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_n} なので、式 (4.3.18) は

β(⟨W⟩−ΔF)≥D(pn ∥ peqλn)(4.3.19)\beta\bigl(\langle W \rangle -\Delta F\bigr)\ge D\bigl(p_n\,\|\,p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_n}\bigr)\tag{4.3.19}

になる。操作の終わりに系が平衡から遅れている分だけ、仕事は必ず散逸している。Vaikuntanathan と Jarzynski が「散逸と遅れ」として示した不等式である2S. Vaikuntanathan, C. Jarzynski (2009), EPL 87, 60005。下の脚注へ。式 (4.3.17) と比べると、両辺の差は全体のエントロピー生成 D(P ∥ P~p~0=pn)D(P\,\|\,\tilde P_{\tilde p_0=p_n}) そのものである。図 4.3.2 の下の線がこの右辺で、上の線との差が大きいことは、2準位の操作では散逸の大部分が操作の最中に起こり、終わりの遅れとして残る分はわずかであることを示している。

例題 4.3.4 急に変えた後に何回も緩和させる ★★

オリジナル例題 4.3.1 の操作で、βε\beta\varepsilon を 00 から ln⁡3\ln3 へ1回で変えた後、λ\lambda を λ1\lambda_1 に保ったまま mm 回跳ばせる(λ1=λ2=⋯=λm\lambda_1=\lambda_2=\dots=\lambda_m)。逆回しの初めの分布は peqλ1=(34,14)p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_1}=(\frac34,\frac14) とする。

  1. (1) ⟨Σ⟩=β(⟨W⟩−ΔF)\langle \Sigma \rangle =\beta(\langle W \rangle -\Delta F) が mm によらず 12ln⁡43\frac12\ln\frac43 であることを示せ。
  2. (2) 逆回しの周辺 p~t\tilde p_t がすべての tt で peqλ1p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_1} であることを示し、式 (4.3.18) の右辺を t=0,1,2t=0,1,2 で求めよ。
  3. (3) m=1,2,3m=1,2,3 について、全体のエントロピー生成 D(P ∥ P~p~0=pm)D(P\,\|\,\tilde P_{\tilde p_0=p_m}) を求めよ。
解答

(1) 仕事が入るのは最初の変化だけで、x0=ex_0=\mathrm e なら ε\varepsilon、g なら 00。⟨W⟩=12ε=12kBTln⁡3\langle W \rangle =\frac12\varepsilon =\frac12 k_{\mathrm B} T\ln3。βΔF=−ln⁡Zλ1+ln⁡Zλ0=−ln⁡43+ln⁡2=ln⁡32\beta\Delta F=-\ln Z_{\lambda_1}+\ln Z_{\lambda_0}=-\ln\frac43+\ln2=\ln\frac32。差は 12ln⁡3−ln⁡32=12ln⁡43≈0.1438\frac12\ln3-\ln\frac32=\frac12\ln\frac43\approx0.1438 で、mm によらない。

(2) 逆回しの過程は peqλ1p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_1} から始まり、mm 回の跳びはすべて Kλ1K_{\lambda_1} で、Kλ1K_{\lambda_1} は peqλ1p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_1} を動かさない。最後に λ\lambda を λ0\lambda_0 に戻す操作は状態を変えない。したがって逆回しの分布はどの時刻でも peqλ1p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_1} で、p~t=peqλ1\tilde p_t=p_{\mathrm{eq}}^{\lambda_1}。順回しは p0=(12,12)p_0=(\frac12,\frac12)、p1=(23,13)p_1=(\frac23,\frac13)、p2=(1318,518)p_2=(\frac{13}{18},\frac5{18}) で、

D(p0 ∥ peq)=0.1438,D(p1 ∥ peq)=0.01737,D(p2 ∥ peq)=0.00201.D(p_0\,\|\,p_{\mathrm{eq}})=0.1438,\qquad D(p_1\,\|\,p_{\mathrm{eq}})=0.01737,\qquad D(p_2\,\|\,p_{\mathrm{eq}})=0.00201 .

t=0t=0 では式 (4.3.18) が等号になる。x0x_0 を与えたときの残りの経路の条件付き分布が、詳細つり合いにより順と逆で一致するからである(順回しは ∏K(xt+1 ∣ xt)\prod K(x_{t+1}\,|\,x_t)、逆回しはpeq(xm)∏K(xt ∣ xt+1)/peq(x0)p_{\mathrm{eq}}(x_m)\prod K(x_t\,|\,x_{t+1})/p_{\mathrm{eq}}(x_0) で、式 (4.3.6) を繰り返し使うと同じになる)。散逸はすべて最初の急な変化で決まり、それが x0x_0 の分布のずれに書き込まれている。tt が進むと緩和でそのずれが消えるので、1時刻だけの評価は弱くなる。

(3) 式 (4.3.17) から D(P ∥ P~p~0=pm)=0.1438−D(pm ∥ peq)D(P\,\|\,\tilde P_{\tilde p_0=p_m})=0.1438-D(p_m\,\|\,p_{\mathrm{eq}})。m=1m=1 で 0.1438−0.0174=0.12650.1438-0.0174=0.1265、m=2m=2 で 0.14180.1418、m=3m=3 で 0.14360.1436(D(p3 ∥ peq)=0.00023D(p_3\,\|\,p_{\mathrm{eq}})=0.00023)。緩和が進むほど、急に変えて生じた自由エネルギーの余りが熱として失われ、全体のエントロピー生成が散逸した仕事 0.14380.1438 に近づく。

状態を粗く見る

もう1つの縮め方は、状態 xx を直接見ずに、粗い目盛り y=g(x)y=g(x) だけを毎時刻見ることである。経路 Γ\Gamma を (g(x0),…,g(xn))(g(x_0),\dots,g(x_n)) に移す関数を ff とすれば、式 (4.3.12) をそのまま使うことができる。粗く見た列の分布で順と逆の DD を計算すれば、それは真のエントロピー生成以下である。1本の長い定常な時系列から、見えている変数だけでエントロピー生成の下限を見積もる方法として、Roldán と Parrondo が実験データに当てはめた3É. Roldán, J. M. R. Parrondo (2010), Phys. Rev. Lett. 105, 150607。下の脚注へ。

例として、4つの状態が輪に並び、1刻みで右へ k+=0.2 e1/2≈0.330k_+=0.2\,\mathrm{e}^{1/2}\approx0.330、左へ k−=0.2 e−1/2≈0.121k_-=0.2\,\mathrm{e}^{-1/2}\approx0.121 の確率で移り、残りはとどまる系を考える(定常分布は一様)。この系のエントロピー生成は1刻みあたり σ=0.2084\sigma=0.2084 である(4.3.5 節の式 (4.3.21) で計算する)。状態を {0}\{0\}、{1}\{1\}、{2,3}\{2,3\} の3つにまとめて見ると、長さ LL の列の DD を LL で割った推定は L=1,2,4,8L=1,2,4,8 で 0.1560.156、0.1700.170、0.1860.186、0.1970.197 と増え、どれも σ\sigma を超えない。長い列を使うほど、まとめた状態の中での動きの向きが前後の文脈から読み取れるようになり、推定が真の値に近づく。一方、3つの状態の輪を {0}\{0\} と {1,2}\{1,2\} の2つにまとめると、推定はどんな長さでも 00 になる。この見方では右回りと左回りが鏡に映した関係にあって区別できず、見えている列だけでは時間の向きが分からない。データ処理不等式は下限を保証するだけで、下限が役に立つかどうかは何を見るかで決まる。

1 R. Kawai, J. M. R. Parrondo, C. Van den Broeck (2007), Phys. Rev. Lett. 98, 080602。

2 S. Vaikuntanathan, C. Jarzynski (2009), EPL 87, 60005。

3 É. Roldán, J. M. R. Parrondo (2010), Phys. Rev. Lett. 105, 150607。

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