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比べる2つの分布:記憶の分布と記憶の平衡分布

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第5章 Landauer 原理の一般形
目次
  1. 記憶の模型
  2. 2つの分布の と記憶の自由エネルギー
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第5章 §4.5.1 ★★★ 記憶の論理状態の中で局所平衡にあれば、非平衡の自由エネルギーは F[p]=∑mpmFm−kBT H(M)F[p]=\sum_mp_mF_m- k_{\mathrm B} T\,H(M) で、その余りは kBT D(pM ∥ πM)k_{\mathrm B} T\,D(p_M\,\|\,\pi_M)。論理状態は「自由エネルギー FmF_m を持つ準位」として扱える

1ビットの記憶を、中身が0でも1でも0に戻す操作を消去と呼ぶ。Landauer は、温度 TT の環境の中で1ビットを消去すると、環境へ少なくとも kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 の熱が出ると主張した(R. Landauer (1961), IBM J. Res. Dev. 5, 183)。この主張がないと、前の章の Szilard エンジンの帳尻はとれない。エンジンは測定で得た1ビットを使って熱浴から kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 の仕事を取り出すが、1周を閉じるには測定の記録を消さなければならず、その消去に同じ kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 が要るので、差し引きで第二法則は破れない。

ただし「1ビットにつき kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2」という言い方は、記憶の0と1が対称で、消す前の中身が五分五分で、熱浴が十分大きいという、3つの前提の上に立っている。どれか1つを外すと、消去に要る仕事は kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 より小さくも大きくもなる。たとえば0と1の状態の広さが違う記憶では、消去の仕事を kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2 より小さくすることができる。そのとき Szilard エンジンの帳尻は、消去でなく測定の側にコストが移ることで保たれる。この章は、前提を外したときに何が残るのかを、この巻の背骨である相対エントロピー DD で正確に書く。

比べる分布は2組ある。第1節では、記憶の論理状態の分布 pMp_M と、記憶をそのまま放っておいたときの平衡分布 πM\pi_M を比べる。記憶の非平衡の自由エネルギーの余りが kBT D(pM ∥ πM)k_{\mathrm B} T\,D(p_M\,\|\,\pi_M) になることを確かめ、記憶の論理状態がそれぞれ固有の自由エネルギー FmF_m を持つ系として扱えることを示す。第2節では、熱浴の操作の後の分布と、もとの Gibbs 分布を比べる。熱浴へ出る熱が、記憶のエントロピーの減り・記憶と熱浴の相互情報量・熱浴の DD の和に等しいという等式(Reeb–Wolf の等式)を示し、Landauer 原理をその3項のうち2項を捨てた不等式として読む。出てくるものは3つある。第3節は仕事で書いた Landauer 原理の一般形で、偏った記憶・不完全な消去・非対称な記憶をすべて1つの式で扱う。第4節は測定と消去のコストの配分で、和だけが kBT×(相互情報量)k_{\mathrm B} T\times(\text{相互情報量}) で下から押さえられ、配分は記憶の作りで決まることを示す。第5節は Maxwell の悪魔の1周の帳尻と、論理ゲートの消去のコストである。最後に、授業で習う Clausius の不等式と「1ビット kBTln⁡2k_{\mathrm B} T\ln2」の導き方と並べる。

この章でもエントロピーは自然対数で単位は nat とし、ビットに直すときは ln⁡2\ln2 で割る。WW は系がされる仕事、QQ は系が受け取る熱で、熱浴が受け取る熱は QRQ_{\mathrm R} と添字を付けて書く。記憶の論理状態を表す確率変数を MM(値は mm)、測られる系の確率変数を XX とする。この巻の約束どおり p,πp,\pi は確率分布に取っておき、定義には ≔\coloneqq を使う。

記憶の模型

記憶を物理の系として書く。もっとも素朴な記憶は、2つの谷を持つポテンシャル UM(y)U_{\mathrm M}(y) の中の1個の粒子である。yy は粒子の位置で、左の谷にいれば0、右の谷にいれば1と読む。一般に、記憶の微視的な状態 yy の空間を互いに重ならない区画 Γm\Gamma_m に分け、y∈Γmy\in\Gamma_m のとき論理状態を mm と読む。論理状態は微視的な状態の関数 M=g(Y)M=g(Y) である。

谷と谷の間の山が kBTk_{\mathrm B} T に比べて十分高ければ、粒子が山を越える時間は谷の中で落ち着く時間よりずっと長い。そのため記憶を放っておく時間がその間にあれば、どちらの谷にいるかの確率 pmp_m は保たれたまま、各谷の中の分布だけが谷の中の平衡分布になる。これを局所平衡と呼び、微視的な分布は

p(y)=∑mpm πm(y),πm(y)≔e−βUM(y) 1Γm(y)Zm,Zm≔∫Γme−βUM(y) dy(4.5.1)p(y)=\sum_mp_m\,\pi_m(y),\qquad \pi_m(y)\coloneqq\frac{\mathrm{e}^{-\beta U_{\mathrm M}(y)}\,\mathbf 1_{\Gamma_m}(y)}{Z_m},\qquad Z_m\coloneqq\int_{\Gamma_m}\mathrm{e}^{-\beta U_{\mathrm M}(y)}\,\mathrm{d} y\tag{4.5.1}

の形をとる。1Γm\mathbf 1_{\Gamma_m} は区画 Γm\Gamma_m で1、外で0の関数で、β=1/kBT\beta=1/ k_{\mathrm B} T である。記憶が記憶として働くのは、この局所平衡の状態が長く保たれるからで、山が低ければ中身は熱の揺らぎで勝手に入れ替わってしまう。論理状態 mm の局所自由エネルギーを Fm≔−kBTln⁡ZmF_m\coloneqq- k_{\mathrm B} T\ln Z_m と定める。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの τin/τhop→0\tau_{\mathrm{in}}/\tau_{\mathrm{hop}}\to0(谷の中で落ち着く時間と山を越える時間の比。山の高さ ΔUb\Delta U_{\mathrm b} について e−βΔUb\mathrm{e}^{-\beta\Delta U_{\mathrm b}} 程度) | 証明 要確認(越える頻度の Kramers の式と、谷の中の分布が平衡に近づくことの前提を原典で照合していない) | 行き先 近似の数理 第7章

2つの分布の DD と記憶の自由エネルギー

比べる2つの分布は、記憶の論理状態の分布 pM=(pm)p_M=(p_m) と、記憶をずっと放っておいたときの平衡分布である。後者は全体の Boltzmann 分布 π(y)=e−βUM(y)/Z\pi(y)=\mathrm{e}^{-\beta U_{\mathrm M}(y)}/Z(Z=∑mZmZ=\sum_mZ_m)で、論理状態の分布にすると

πM(m)=ZmZ=e−βFm∑m′e−βFm′(4.5.2)\pi_M(m)=\frac{Z_m}{Z}=\frac{\mathrm{e}^{-\beta F_m}}{\sum_{m'}\mathrm{e}^{-\beta F_{m'}}}\tag{4.5.2}

になる。論理状態 mm の重みが、あたかもエネルギー FmF_m の準位の Boltzmann 因子のように書ける。

命題 4.5.1(局所平衡にある記憶の自由エネルギー ★★★)

微視的な分布が局所平衡の形 (4.5.1) にあるとき、第4部第1章の非平衡の自由エネルギー F[p]=⟨UM⟩p−kBT H(p)F[p]=\langle U_{\mathrm M} \rangle _p- k_{\mathrm B} T\,H(p) は

F[p]=∑mpmFm−kBT H(M)(4.5.3)F[p]=\sum_mp_mF_m- k_{\mathrm B} T\,H(M)\tag{4.5.3}

で、平衡の自由エネルギー Feq=−kBTln⁡ZF_{\mathrm{eq}}=- k_{\mathrm B} T\ln Z との差は

F[p]−Feq=kBT D(p ∥ π)=kBT D(pM ∥ πM)(4.5.4)F[p]-F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,\pi)= k_{\mathrm B} T\,D(p_M\,\|\,\pi_M)\tag{4.5.4}

である。ここで H(M)=−∑mpmln⁡pmH(M)=-\sum_mp_m\ln p_m は論理状態のエントロピーである。

証明

区画 Γm\Gamma_m の上では p(y)=pmπm(y)p(y)=p_m\pi_m(y) なので ln⁡p(y)=ln⁡pm+ln⁡πm(y)\ln p(y)=\ln p_m+\ln\pi_m(y) で、微視的な分布のエントロピーはH(p)=H(M)+∑mpm H(πm)H(p)=H(M)+\sum_mp_m\,H(\pi_m) と分かれる(第1部第3章の連鎖律 H(Y)=H(M)+H(Y ∣ M)H(Y)=H(M)+H(Y\,|\,M) で、MM が YY の関数である場合)。ln⁡πm=−βUM−ln⁡Zm\ln\pi_m=-\beta U_{\mathrm M}-\ln Z_m から H(πm)=β⟨UM⟩πm+ln⁡ZmH(\pi_m)=\beta\langle U_{\mathrm M} \rangle _{\pi_m}+\ln Z_m なので、各区画について ⟨UM⟩πm−kBT H(πm)=−kBTln⁡Zm=Fm\langle U_{\mathrm M} \rangle _{\pi_m}- k_{\mathrm B} T\,H(\pi_m)=- k_{\mathrm B} T\ln Z_m=F_m である。これを pmp_m で平均すれば式 (4.5.3) を得る。式 (4.5.4) の1つ目の等号は第4部第1章の式で、2つ目は DD の連鎖律 D(p ∥ π)=D(pM ∥ πM)+∑mpm D(πm ∥ π(⋅ ∣ m))D(p\,\|\,\pi)=D(p_M\,\|\,\pi_M)+\sum_mp_m\,D(\pi_m\,\|\,\pi(\cdot\,|\,m)) で、区画の中の条件付き分布が pp と π\pi で同じ(どちらも πm\pi_m)なので第2項が0になることから従う。

式 (4.5.3) は、記憶の論理状態を「自由エネルギー FmF_m を持つ準位」とみなしてよいことを言っている。微視的な自由度の寄与はすべて FmF_m に含まれ、論理状態の分布 pMp_M についての式だけが残る。FmF_m はエネルギーとエントロピーの両方を含む。2つの谷の深さが同じでも、谷の幅が違えば FmF_m は違う。

対称な記憶は、すべての mm で FmF_m が等しい記憶である。このとき πM\pi_M は一様分布で、D(pM ∥ πM)=ln⁡∣M∣−H(M)D(p_M\,\|\,\pi_M)=\ln\lvert \mathcal M\rvert -H(M)(∣M∣\lvert \mathcal M\rvert は論理状態の数)になる。記憶の自由エネルギーの余りは、中身のエントロピーが最大値からどれだけ足りないかだけで決まる。非対称な記憶では FmF_m が状態ごとに違い、余りは pMp_M と、FmF_m で重みを付けた πM\pi_M との DD で測られる。

消去を次のように定める。消去は、記憶の設定(ポテンシャルの形)を時間とともに動かす1つの決まった手順で、その手順は記憶の中身を見ずに選ばれる。手順の終わりには、どんな初めの分布から出発しても、論理状態は標準の状態 m=0m=0 にあり、谷の中は局所平衡にある。中身を見ずに同じ手順を当てることが要点で、中身を知っていれば、1なら0へ移すだけ(仕事0で谷を入れ替えられる)で済む。その場合の「知っている」ことのコストは第4節で数える。

例題 4.5.1 広さの違う2つの部屋を持つ記憶 ★★

オリジナル長さ 4ℓ04\ell_0 の箱に1個の粒子が入っていて、温度 TT の熱浴に接している。箱は仕切りで左の部屋(長さ ℓ0\ell_0、論理状態0)と右の部屋(長さ ℓ1=rℓ0\ell_1=r\ell_0、r=3r=3、論理状態1)に分かれている。箱の中のポテンシャルは平らである。

  1. (1) 局所自由エネルギーの差 F1−F0F_1-F_0 と、平衡分布 πM\pi_M を求めよ。
  2. (2) 記憶の中身が五分五分 pM=(12,12)p_M=(\frac12,\frac12) のとき、D(pM ∥ πM)D(p_M\,\|\,\pi_M) を求めよ。
  3. (3) (2) の記憶の F[p]F[p] を、中身が0に決まっている記憶の F0F_0、および中身が1に決まっている記憶の F1F_1 と比べよ。
解答

(1) 平らなポテンシャルでは Zm=ℓm/λ0Z_m=\ell_m/\lambda_0 で、λ0\lambda_0 は長さの単位(熱的波長など。差の式には残らない)である。したがって Fm=−kBTln⁡(ℓm/λ0)F_m=- k_{\mathrm B} T\ln(\ell_m/\lambda_0) で、F1−F0=−kBTln⁡r=−kBTln⁡3=−1.099 kBTF_1-F_0=- k_{\mathrm B} T\ln r=- k_{\mathrm B} T\ln3=-1.099\, k_{\mathrm B} T である。2つの部屋の深さは同じだが、右の部屋は粒子の居場所が3倍広いのでエントロピーが ln⁡3\ln3 だけ大きく、その分だけ自由エネルギーが低い。平衡分布は式 (4.5.2) から πM=(11+r,r1+r)=(14,34)\pi_M=(\frac{1}{1+r},\frac{r}{1+r})=(\frac14,\frac34) で、仕切りを抜いたときに粒子が左右にいる確率そのものである。

(2) D(pM ∥ πM)=12ln⁡1/21/4+12ln⁡1/23/4=12ln⁡43=0.1438D(p_M\,\|\,\pi_M)=\frac12\ln\frac{1/2}{1/4}+\frac12\ln\frac{1/2}{3/4}=\frac12\ln\frac43=0.1438 nat である。五分五分の記憶は、広さに比例する平衡分布に比べて左に寄りすぎているので、自由エネルギーに 0.1438 kBT0.1438\, k_{\mathrm B} T の余りがある。

(3) 式 (4.5.3) から F[p]=12F0+12F1−kBTln⁡2F[p]=\frac12F_0+\frac12F_1- k_{\mathrm B} T\ln2 である。F0F_0 と比べると F[p]−F0=12(F1−F0)−kBTln⁡2=−(12ln⁡3+ln⁡2)kBT=−1.2425 kBTF[p]-F_0=\frac12(F_1-F_0)- k_{\mathrm B} T\ln2=-(\frac12\ln3+\ln2) k_{\mathrm B} T=-1.2425\, k_{\mathrm B} T、F1F_1 と比べると F[p]−F1=−12(F1−F0)−kBTln⁡2=(12ln⁡3−ln⁡2)kBT=−0.1438 kBTF[p]-F_1=-\frac12(F_1-F_0)- k_{\mathrm B} T\ln2=(\frac12\ln3-\ln2) k_{\mathrm B} T=-0.1438\, k_{\mathrm B} T である。五分五分の記憶は、どちらの決まった中身よりも自由エネルギーが低い。中身を1つに決める操作(消去)が仕事を要する理由がここにあり、しかもその量は、どちらの状態へ決めるかで 1.2425 kBT1.2425\, k_{\mathrm B} T と 0.1438 kBT0.1438\, k_{\mathrm B} T のように大きく違う。この差が第3節の主題になる。

木下の勉強ステータス

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