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当てる D の性質:2次の展開と Cramér–Rao

2026年10月15日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第6章 熱力学的不確定性関係と速度限界
目次
  1. 経路の Fisher 情報
  2. 熱力学的不確定性関係
  3. Markov 跳躍過程の場合
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第6章 §4.6.2 ★★★ 経路の Fisher 情報は ⟨Σ⟩/2\langle \Sigma \rangle /2。流れ J\mathcal J を θ\theta の推定量とみて Cramér–Rao を当てると Var(J)/⟨J⟩2≥2/⟨Σ⟩\mathrm{Var}(\mathcal J)/\langle \mathcal J \rangle ^2\ge2/\langle \Sigma \rangle が出る

経路の Fisher 情報

第1部第7章で、パラメータだけが違う2つの分布の DD は2次の項から始まり、その係数が Fisher 情報であることを見た(第1部第7章):D(pθ ∥ pθ+δ)=12J(θ)δ2+O(δ3)D(p_\theta\,\|\,p_{\theta+\delta})=\frac12J(\theta)\delta^2+\mathcal{O}(\delta^3)。命題 4.6.1 の DD は θ\theta の2次式そのものなので、θ=0\theta=0 での経路の Fisher 情報は

Jpath(0)=⟨Σ⟩2(4.6.8)J_{\mathrm{path}}(0)=\frac{\langle \Sigma \rangle }{2}\tag{4.6.8}

である。直接スコアの分散を計算しても同じになる。∂θln⁡Pθ[x]=∑kν(xk)(Δxk−bθΔt)/(2kBT/γ)\partial_\theta\ln P_\theta[x]=\sum_k\nu(x_k)(\Delta x_k-b_\theta\Delta t)/(2 k_{\mathrm B} T/\gamma) の分散は∑k⟨ν2⟩⋅2(kBT/γ)Δt/(2kBT/γ)2=γ2kBT⟨ν2⟩t=⟨Σ⟩/2\sum_k\langle \nu^2 \rangle \cdot2( k_{\mathrm B} T/\gamma)\Delta t/(2 k_{\mathrm B} T/\gamma)^2=\frac{\gamma}{2 k_{\mathrm B} T}\langle \nu^2 \rangle t=\langle \Sigma \rangle /2 である。

熱力学的不確定性関係

流れ J\mathcal J を、PθP_\theta から取り出した標本を使って θ\theta についての何かを推定する量とみる。PθP_\theta では流れがそろって (1+θ)(1+\theta) 倍になるので、J\mathcal J の平均は⟨J⟩θ=(1+θ)⟨J⟩\langle \mathcal J \rangle _\theta=(1+\theta)\langle \mathcal J \rangle である。第1部第7章の Cramér–Rao の不等式は、偏りのある推定量にも Varθ(J)≥(∂θ⟨J⟩θ)2/J(θ)\mathrm{Var}_\theta(\mathcal J)\ge(\partial_\theta\langle \mathcal J \rangle _\theta)^2/J(\theta) の形で成り立つ。θ=0\theta=0 でこれを使うと、次の定理を得る。

定理 4.6.2(熱力学的不確定性関係 ★★★)

非平衡定常状態にある過減衰の Langevin 方程式 (4.6.1) の粒子について、時間 tt のあいだに流れた量 J\mathcal J(式 (4.6.4))は

Var(J)⟨J⟩2 ≥ 2⟨Σ⟩(4.6.9)\frac{\mathrm{Var}(\mathcal J)}{\langle \mathcal J \rangle ^2}\ \ge\ \frac{2}{\langle \Sigma \rangle }\tag{4.6.9}

を満たす。tt は有限でも任意の長さでもよい。

証明

Cramér–Rao の不等式から Var(J)≥(∂θ⟨J⟩θ)2∣θ=0/Jpath(0)=⟨J⟩2/(⟨Σ⟩/2)\mathrm{Var}(\mathcal J)\ge\bigl(\partial_\theta\langle \mathcal J \rangle _\theta\bigr)^2\big|_{\theta=0}/J_{\mathrm{path}}(0)=\langle \mathcal J \rangle ^2/(\langle \Sigma \rangle /2) である。両辺を ⟨J⟩2\langle \mathcal J \rangle ^2 で割れば式 (4.6.9) になる。

証明はこれだけである。Cramér–Rao の不等式を使うための正則条件(θ\theta について微分と平均の交換ができること)は、PθP_\theta が式 (4.6.6) のように θ\theta について滑らかな正規分布の積で書けているので満たされる。式 (4.6.9) の左辺は流れの相対的な揺らぎの2乗、つまり相対誤差の2乗 εJ2≔Var(J)/⟨J⟩2\varepsilon_{\mathcal J}^2\coloneqq\mathrm{Var}(\mathcal J)/\langle \mathcal J \rangle ^2 である。定理は εJ2⟨Σ⟩≥2\varepsilon_{\mathcal J}^2\langle \Sigma \rangle \ge2 と書くこともできる。相対誤差を半分にするには、エントロピー生成を4倍にしなければならない。

この証明の筋は、第1部第7章の温度計の議論とまったく同じ形をしている。そこでは「温度を少し変えたときに分布がどれだけ変わるか」が Fisher 情報で、それが温度の推定の精度の上限を決めた。ここでは「流れを少し強めたときに経路の分布がどれだけ変わるか」が Fisher 情報で、それがエントロピー生成の半分に等しい。流れの量 J\mathcal J は流れの強さ θ\theta に比例して平均が動くので、θ\theta を測る温度計のような道具とみなせ、その精度は Fisher 情報で押さえられる。

Markov 跳躍過程の場合

分子モーターや化学反応は、位置を連続に動く粒子より、いくつかの状態の間を飛び移る Markov 跳躍過程で書くほうが自然である。状態を i=1,2,…i=1,2,\dots、状態 ii から jj へ移る速さを kijk_{ij} とし、定常分布を pip_i と書く。辺 ii–jj を流れる正味の確率の流れと、往き来の総量を

jij≔pikij−pjkji,bij≔pikij+pjkji(4.6.10)j_{ij}\coloneqq p_ik_{ij}-p_jk_{ji},\qquad b_{ij}\coloneqq p_ik_{ij}+p_jk_{ji}\tag{4.6.10}

とおく。局所詳細つり合いを仮定すると、エントロピー生成の速さは

Σ˙=∑i<jjijln⁡pikijpjkji(4.6.11)\dot\Sigma=\sum_{i<j}j_{ij}\ln\frac{p_ik_{ij}}{p_jk_{ji}}\tag{4.6.11}

である(第4部第3章)。流れは、跳躍 i→ji\to j のたびに重み dij=−djid_{ij}=-d_{ji} を足していく量 J=∑跳躍dij\mathcal J=\sum_{\text{跳躍}}d_{ij} で、平均は ⟨J⟩=t∑i<jdijjij\langle \mathcal J \rangle =t\sum_{i<j}d_{ij}j_{ij} である。

仮想的な駆動は、速さを kijθ≔kij(1+θjij/bij)k^\theta_{ij}\coloneqq k_{ij}(1+\theta j_{ij}/b_{ij}) と変えるものにする(jji/bji=−jij/bijj_{ji}/b_{ji}=-j_{ij}/b_{ij} なので逆向きの速さは減る)。すると辺の流れはpikijθ−pjkjiθ=jij+θjij(pikij+pjkji)/bij=(1+θ)jijp_ik^\theta_{ij}-p_jk^\theta_{ji}=j_{ij}+\theta j_{ij}(p_ik_{ij}+p_jk_{ji})/b_{ij}=(1+\theta)j_{ij} で、すべての辺の流れがそろって (1+θ)(1+\theta) 倍になる。各状態に流れ込む流れの和は0のままなので、pip_i は定常のままで、⟨J⟩θ=(1+θ)⟨J⟩\langle \mathcal J \rangle _\theta=(1+\theta)\langle \mathcal J \rangle である。

跳躍過程の経路の Fisher 情報は、跳躍の回数が Poisson 過程の集まりであることから Jpath(0)=t∑i≠jpikij(∂θln⁡kijθ)2J_{\mathrm{path}}(0)=t\sum_{i\neq j}p_ik_{ij}(\partial_\theta\ln k^\theta_{ij})^2 になる。(速さ κ\kappa の Poisson 過程で時間 tt のあいだに起きた回数の Fisher 情報は t(∂θκ)2/κt(\partial_\theta\kappa)^2/\kappa で、それを状態 ii に滞在した時間で重みをつけて足したもの。)これを計算すると

Jpath(0)=t∑i<j(pikij+pjkji)jij2bij2=t∑i<jjij2bij(4.6.12)J_{\mathrm{path}}(0)=t\sum_{i<j}\bigl(p_ik_{ij}+p_jk_{ji}\bigr)\frac{j_{ij}^2}{b_{ij}^2}=t\sum_{i<j}\frac{j_{ij}^2}{b_{ij}}\tag{4.6.12}

である。Langevin 方程式の場合と違い、これはエントロピー生成の半分に等しくはならず、次の不等式で押さえられる。

補題 4.6.3(対数平均の不等式)

x,y>0x,y>0 について (x−y)ln⁡xy≥2(x−y)2x+y(x-y)\ln\dfrac{x}{y}\ge\dfrac{2(x-y)^2}{x+y}。等号は x=yx=y のときに限る。

証明

r=x/yr=x/y とおくと、示すべき式は r>1r>1 について ln⁡r≥2(r−1)/(r+1)\ln r\ge2(r-1)/(r+1)(r<1r<1 は x,yx,y を入れ替えれば同じ)である。g(r)=ln⁡r−2(r−1)/(r+1)g(r)=\ln r-2(r-1)/(r+1) は g(1)=0g(1)=0、g′(r)=1/r−4/(r+1)2=(r−1)2/(r(r+1)2)≥0g'(r)=1/r-4/(r+1)^2=(r-1)^2/(r(r+1)^2)\ge0 なので r≥1r\ge1 で g≥0g\ge0 である。

補題 4.6.3 を x=pikijx=p_ik_{ij}、y=pjkjiy=p_jk_{ji} に当てると jijln⁡pikijpjkji≥2jij2/bijj_{ij}\ln\frac{p_ik_{ij}}{p_jk_{ji}}\ge2j_{ij}^2/b_{ij} で、辺について足すとJpath(0)≤⟨Σ⟩/2J_{\mathrm{path}}(0)\le\langle \Sigma \rangle /2 を得る。Cramér–Rao の不等式の下限は Fisher 情報が小さいほど大きくなるので、Langevin 方程式と同じ式 (4.6.9) がそのまま出る:

Var(J)⟨J⟩2 ≥ 1Jpath(0) ≥ 2⟨Σ⟩.(4.6.13)\frac{\mathrm{Var}(\mathcal J)}{\langle \mathcal J \rangle ^2}\ \ge\ \frac{1}{J_{\mathrm{path}}(0)}\ \ge\ \frac{2}{\langle \Sigma \rangle }.\tag{4.6.13}

跳躍過程では、不等号が2段になる。1段目は Cramér–Rao の不等号で、流れ J\mathcal J が仮想的な駆動についての情報をどれだけ取りこぼしているかを表す。2段目は対数平均の不等号で、各辺の往きと帰りの比 pikij/(pjkji)p_ik_{ij}/(p_jk_{ji}) が1から離れるほど(各辺が平衡から遠いほど)大きく開く。

例題 4.6.2 前後に跳ぶモーターの2段の不等号 ★★

オリジナル1次元の格子の上を速さ k+k_+ で前へ、k−k_- で後ろへ跳ぶモーターを考える(どの格子点も同じ)。時間 tt のあいだの正味の歩数を J=N+−N−\mathcal J=N_+-N_- とする。k+=3 s−1k_+=3\,\mathrm s^{-1}、k−=1 s−1k_-=1\,\mathrm s^{-1} とする。

  1. (1) ⟨J⟩\langle \mathcal J \rangle、Var(J)\mathrm{Var}(\mathcal J)、⟨Σ⟩\langle \Sigma \rangle を求めよ。
  2. (2) 仮想的な駆動の速さ k±θk^\theta_\pm を書き、経路の Fisher 情報 Jpath(0)J_{\mathrm{path}}(0) を求めよ。
  3. (3) 式 (4.6.13) の3つの量を tt を含めて比べ、どの不等号が等号になっているかを述べよ。
解答

(1) 前への跳躍 N+N_+ と後ろへの跳躍 N−N_- は、それぞれ平均 k+tk_+t・k−tk_-t の独立な Poisson 分布に従う。したがって ⟨J⟩=(k+−k−)t=2t\langle \mathcal J \rangle =(k_+-k_-)t=2t、Var(J)=(k++k−)t=4t\mathrm{Var}(\mathcal J)=(k_++k_-)t=4t である(tt は秒の数値)。1歩ごとに生成されるエントロピーは a≔ln⁡(k+/k−)=ln⁡3a\coloneqq\ln(k_+/k_-)=\ln3 で、⟨Σ⟩=(k+−k−)t a=2tln⁡3=2.197t\langle \Sigma \rangle =(k_+-k_-)t\,a=2t\ln3=2.197t である。

(2) 格子点1つあたりで見ると j=k+−k−=2j=k_+-k_-=2、b=k++k−=4b=k_++k_-=4 で、j/b=1/2j/b=1/2 だから k+θ=3(1+θ/2)k^\theta_+=3(1+\theta/2)、k−θ=1−θ/2k^\theta_-=1-\theta/2 である。正味の速さは k+θ−k−θ=2(1+θ)k^\theta_+-k^\theta_-=2(1+\theta) で確かに (1+θ)(1+\theta) 倍になる。Fisher 情報は Poisson の公式からJpath(0)=t[(3/2)2/3+(1/2)2/1]=t(0.75+0.25)=tJ_{\mathrm{path}}(0)=t\bigl[(3/2)^2/3+(1/2)^2/1\bigr]=t(0.75+0.25)=t で、式 (4.6.12) の tj2/b=t⋅4/4=ttj^2/b=t\cdot4/4=t と一致する。

(3) Var(J)/⟨J⟩2=4t/(2t)2=1/t\mathrm{Var}(\mathcal J)/\langle \mathcal J \rangle ^2=4t/(2t)^2=1/t、1/Jpath(0)=1/t1/J_{\mathrm{path}}(0)=1/t、2/⟨Σ⟩=0.910/t2/\langle \Sigma \rangle =0.910/t である。1段目(Cramér–Rao)は等号で、2段目(対数平均)だけが開いている。この模型では正味の歩数 J\mathcal J が θ\theta を推定するのに必要な情報を全部含んでいる。TUR が等号にならない理由は、前後の速さの比 k+/k−=3k_+/k_-=3 が1から離れていて、補題 4.6.3 の不等号が開いていることだけにある。

木下の勉強ステータス

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