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比べる2つの分布:経路の分布と、流れを強めた経路の分布

2026年10月15日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第6章 熱力学的不確定性関係と速度限界
目次
  1. 定常状態と時間で積分した流れ
  2. 流れを 倍にする仮想的な駆動
  3. 経路の確率と2つの経路の分布の
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第4部 第6章 §4.6.1 ★★★ 定常状態の経路の分布 PP と、流れをそろって (1+θ)(1+\theta) 倍にした PθP_\theta の DD は θ2⟨Σ⟩/4\theta^2\langle \Sigma \rangle /4。エントロピー生成は「流れを変えたときに経路の分布がどれだけ動くか」の尺度になる

分子モーターは ATP を1個使うごとにおよそ1歩進むが、熱運動のせいで歩みは一定でなく、ときどき後ろにも下がる。細胞の中の化学反応で時間を刻む仕組みも、同じように揺らぎを伴う。こうした小さな機械に「一定の速さで正確に動け」と求めると、どれだけの代価が要るのか。2015年に Barato と Seifert は、定常状態で流れる量(モーターの歩数、反応の回数)の相対的な揺らぎの2乗とエントロピー生成の積が2を下回らないことを見つけた(A. C. Barato and U. Seifert (2015), Phys. Rev. Lett. 114, 158101)。これを熱力学的不確定性関係(thermodynamic uncertainty relation、TUR)と呼ぶ。翌年、Gingrich・Horowitz・Perunov・England は、連続時間の Markov 跳躍過程の任意の流れについてこれを証明した(T. R. Gingrich, J. M. Horowitz, N. Perunov, and J. L. England (2016), Phys. Rev. Lett. 116, 120601)。

この章では TUR を、この巻の背骨の言葉で導く。比べる2つの分布は、定常状態の経路の分布 PP と、どの場所の確率の流れもそろって (1+θ)(1+\theta) 倍になるように駆動を少しだけ変えた経路の分布 PθP_\theta である。第1節で、この2つの DD がちょうど θ2⟨Σ⟩/4\theta^2\langle \Sigma \rangle /4 になることを示す(Σ\Sigma はエントロピー生成)。第2節で当てる DD の性質は、DD の2次の係数が Fisher 情報であり、Fisher 情報が Cramér–Rao の不等式で推定の精度を押さえる、という第1部第7章の結果である。これだけで TUR が出る。出てくるものは3つある。精度とエントロピー生成の交換関係としての TUR(第3節)、状態を移す速さとエントロピー生成の交換関係である速度限界(第4節)、定常的に働く熱機関の出力・効率・出力の揺らぎの交換関係(第5節)である。第6節で、Einstein の関係・中心極限定理・量子力学の時間とエネルギーの不確定性関係と並べる。

エントロピー生成 Σ\Sigma は第4部第1章と同じく kBk_{\mathrm B} を単位とする無次元の量(nat)で、⟨Σ⟩\langle \Sigma \rangle はその平均、Σ˙\dot\Sigma はその速さである。定義には記号 ≔\coloneqq を使う。この巻の約束どおり pp は確率分布に取っておき、粒子の位置は xx と書く。J(θ)J(\theta) は Fisher 情報で、時間で積分した流れには J\mathcal J を使う。

定常状態と時間で積分した流れ

第4部第1章と同じく、温度 TT の液体の中で過減衰の Langevin 方程式に従う粒子を考える。ただし今度は設定を動かさず、そのかわり粒子をいつまでも一方向に押し続ける力を加える。いちばん簡単なのは、周の長さ ℓ\ell の円環の上の位置 xx の粒子に、周期的なポテンシャル U(x)U(x) と一定の力 ff を加える模型である。運動方程式は

γx˙=F(x)+ξ(t),F(x)≔−∂xU(x)+f,⟨ξ(t)ξ(s)⟩=2γkBT δ(t−s)(4.6.1)\gamma\dot x=F(x)+\xi(t),\qquad F(x)\coloneqq-\partial_xU(x)+f,\qquad \langle \xi(t)\xi(s) \rangle =2\gamma k_{\mathrm B} T\,\delta(t-s)\tag{4.6.1}

で、FF は周期 ℓ\ell を持つが、f≠0f\neq0 なら位置エネルギー −∫F dx-\int F\,\mathrm{d} x は周期的にならない。そのため分布は平衡分布に落ち着かず、確率の流れが一方向に流れ続ける非平衡定常状態になる。分布 p(x,t)p(x,t) は Fokker–Planck 方程式 ∂tp=−∂xj\partial_tp=-\partial_xj、j=1γFp−kBTγ∂xpj=\frac1\gamma Fp-\frac{ k_{\mathrm B} T}{\gamma}\partial_xp に従い、十分に時間が経つと時間によらない分布 ps(x)p_{\mathrm s}(x) に落ち着く。1次元の定常状態では ∂xj=0\partial_xj=0 なので、流れ jsj_{\mathrm s} は場所によらない定数である。各点の平均の速度を

ν(x)≔jsps(x)(4.6.2)\nu(x)\coloneqq\frac{j_{\mathrm s}}{p_{\mathrm s}(x)}\tag{4.6.2}

と書く。粒子の集まりを流体とみたときの、その場所の流速にあたる。

第4部第1章 の DD の減る速さの定理と同じ形で、エントロピー生成の速さは

Σ˙=γkBT∫js2ps dx=γkBT⟨ν2⟩ps(4.6.3)\dot\Sigma=\frac{\gamma}{ k_{\mathrm B} T}\int\frac{j_{\mathrm s}^2}{p_{\mathrm s}}\,\mathrm{d} x=\frac{\gamma}{ k_{\mathrm B} T}\langle \nu^2 \rangle _{p_{\mathrm s}}\tag{4.6.3}

である。設定を止めた緩和では Σ˙\dot\Sigma は D(pt ∥ π)D(p_t\,\|\,\pi) の減る速さだったが、非平衡定常状態では分布は変わらないまま Σ˙\dot\Sigma が正の値をとり続ける。このとき粒子は力 ff から仕事を受け取り、それを熱として液体へ捨て続けている。液体へ流れる熱の速さは平均の速さ v≔ℓjsv\coloneqq\ell j_{\mathrm s} を使って fvfv で、Σ˙=fv/(kBT)\dot\Sigma=fv/( k_{\mathrm B} T) でもある(例題 4.6.1 で確かめる)。

測りたいのは、時間 tt のあいだに流れたものの量である。粒子が円環を何周したか、モーターが何歩進んだか、反応が何回起きたか、がその例である。一般に

J[x]≔∫0tΛ(x(s))∘dx(s)(4.6.4)\mathcal J[x]\coloneqq\int_0^t\Lambda(x(s))\circ\mathrm{d} x(s)\tag{4.6.4}

の形の量を、時間で積分した流れと呼ぶ。Λ\Lambda は重みの関数で、Λ=1\Lambda=1 なら J\mathcal J は進んだ距離、Λ=1/ℓ\Lambda=1/\ell なら周回の数である。∘\circ は第4部第1章と同じ Stratonovich の積で、平均は ⟨J⟩=t∫Λ(x) js dx\langle \mathcal J \rangle =t\int\Lambda(x)\,j_{\mathrm s}\,\mathrm{d} x になる。J\mathcal J は経路を時間について逆回しにすると符号が変わる。この性質を持つことが、流れと呼ぶための条件である(滞在時間のように逆回しで変わらない量は流れでない)。

流れを (1+θ)(1+\theta) 倍にする仮想的な駆動

比べる相手の分布を作る。駆動の力に θγν(x)\theta\gamma\nu(x) を足して

γx˙=F(x)+θγν(x)+ξ(t)(4.6.5)\gamma\dot x=F(x)+\theta\gamma\nu(x)+\xi(t)\tag{4.6.5}

とする(θ\theta は小さい実数)。この力は実験で加えるものでなく、比較のために頭の中で考える仮想的な力である(A. Dechant and S.-i. Sasa (2020), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 117, 6430 の着想)。新しい力のもとでも psp_{\mathrm s} は定常分布のままである。実際、psp_{\mathrm s} を入れたときの流れは js+θνps=(1+θ)jsj_{\mathrm s}+\theta\nu p_{\mathrm s}=(1+\theta)j_{\mathrm s} で、場所によらないので ∂xj=0\partial_xj=0 を満たす。分布は同じで、流れだけが (1+θ)(1+\theta) 倍になった。θ=0\theta=0 の経路の分布を PP、θ\theta のときの経路の分布を PθP_\theta とし、どちらも初めの位置を psp_{\mathrm s} から選ぶとする。

経路の確率と2つの経路の分布の DD

時間を幅 Δt\Delta t の小区間に分け、xk≔x(kΔt)x_k\coloneqq x(k\Delta t) とする。式 (4.6.5) から、1つの小区間での変位 Δxk=xk+1−xk\Delta x_k=x_{k+1}-x_k は、平均 bθ(xk)Δtb_\theta(x_k)\Delta t(bθ≔F/γ+θνb_\theta\coloneqq F/\gamma+\theta\nu)・分散 2(kBT/γ)Δt2( k_{\mathrm B} T/\gamma)\Delta t の正規分布に従う。したがって経路 (x0,x1,…,xn)(x_0,x_1,\dots,x_n) の確率密度は

Pθ[x]=ps(x0)∏k=0n−114π(kBT/γ)Δtexp⁡[−(Δxk−bθ(xk)Δt)24(kBT/γ)Δt](4.6.6)P_\theta[x]=p_{\mathrm s}(x_0)\prod_{k=0}^{n-1}\frac{1}{\sqrt{4\pi( k_{\mathrm B} T/\gamma)\Delta t}}\exp\Bigl[-\frac{\bigl(\Delta x_k-b_\theta(x_k)\Delta t\bigr)^2}{4( k_{\mathrm B} T/\gamma)\Delta t}\Bigr]\tag{4.6.6}

である(区間の始点で力を評価する Itô の離散化。Δt→0\Delta t\to0 の極限をとる)。θ\theta によるのは指数の中だけである。

命題 4.6.1(経路の DD とエントロピー生成 ★★★)

定常状態で時間 tt のあいだの経路について

D(P ∥ Pθ)=θ24⟨Σ⟩,⟨Σ⟩=Σ˙ t(4.6.7)D(P\,\|\,P_\theta)=\frac{\theta^2}{4}\langle \Sigma \rangle ,\qquad \langle \Sigma \rangle =\dot\Sigma\,t\tag{4.6.7}

が θ\theta の大きさによらず厳密に成り立つ。

証明

式 (4.6.6) の比の対数をとると、初めの分布と前の係数は消えて

ln⁡P[x]Pθ[x]=∑k(Δxk−b0Δt−θνΔt)2−(Δxk−b0Δt)24(kBT/γ)Δt=∑k−2θν(xk)Δt (Δxk−b0Δt)+θ2ν(xk)2Δt24(kBT/γ)Δt\ln\frac{P[x]}{P_\theta[x]}=\sum_k\frac{(\Delta x_k-b_0\Delta t-\theta\nu\Delta t)^2-(\Delta x_k-b_0\Delta t)^2}{4( k_{\mathrm B} T/\gamma)\Delta t} =\sum_k\frac{-2\theta\nu(x_k)\Delta t\,(\Delta x_k-b_0\Delta t)+\theta^2\nu(x_k)^2\Delta t^2}{4( k_{\mathrm B} T/\gamma)\Delta t}

となる。PP で平均をとると、xkx_k を決めたときの Δxk−b0Δt\Delta x_k-b_0\Delta t の平均は0なので第1項が消え、D(P ∥ Pθ)=∑kθ2γ4kBT⟨ν2⟩psΔt=θ24⋅γkBT⟨ν2⟩pstD(P\,\|\,P_\theta)=\sum_k\frac{\theta^2\gamma}{4 k_{\mathrm B} T}\langle \nu^2 \rangle _{p_{\mathrm s}}\Delta t=\frac{\theta^2}{4}\cdot\frac{\gamma}{ k_{\mathrm B} T}\langle \nu^2 \rangle _{p_{\mathrm s}}t になる。式 (4.6.3) から、これは θ2Σ˙t/4\theta^2\dot\Sigma t/4 である。

命題 4.6.1 が言っているのは、エントロピー生成は「流れを少し強めた世界の経路と、今の世界の経路を見分ける難しさ」だということである。⟨Σ⟩\langle \Sigma \rangle が小さい系では、流れを1割増やしても経路の分布はほとんど変わらず、観測から見分けることができない。逆に、流れを変えたことが経路に強く表れる系ほど、たくさんのエントロピーを生成している。平衡状態では ν=0\nu=0 で、仮想的な力そのものが0になり、D=0D=0 である。

第4部第3章では、⟨Σ⟩\langle \Sigma \rangle を経路の分布 PP と逆回しの経路の分布の DD として書いた(第4部第3章)。そこで比べた相手は「時間を逆に流した世界」で、ここで比べた相手は「流れを強めた世界」である。相手は違うが、どちらの DD も同じ ⟨Σ⟩\langle \Sigma \rangle で測られる。命題 4.6.1 は相手を時間反転から流れの拡大へ連続に変えたもので、θ\theta を小さくとれることが次の節で必要になる。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 系と熱浴の結合の強さ λc→0\lambda_{\mathrm c}\to0、時間を tλc2t\lambda_{\mathrm c}^2 で測る(van Hove の極限。熱浴は粒子より十分速く緩和し、つねに温度 TT の平衡にある。局所詳細つり合い) | 証明 条件付き(有限次元の系・熱浴が熱平衡で相関が速く減衰する。Davies 1974 の遷移の速さは熱浴の KMS 条件から局所詳細つり合いを満たす。Σ\Sigma を熱浴のエントロピーと同一視できるのもこの極限) | 行き先 近似の数理 第14章

例題 4.6.1 平らな円環を一定の力で回る粒子 ★★

オリジナルU=0U=0 の円環の上の粒子を一定の力 ff で押す。v≔f/γv\coloneqq f/\gamma、kBT/γ≕ck_{\mathrm B} T/\gamma\eqqcolon c とおく。

  1. (1) 定常分布 psp_{\mathrm s}、流れ jsj_{\mathrm s}、ν\nu、Σ˙\dot\Sigma を求め、Σ˙=fv/(kBT)\dot\Sigma=fv/( k_{\mathrm B} T) を確かめよ。
  2. (2) 時間 tt のあいだに進んだ距離 XX(Λ=1\Lambda=1 の流れ)の分布を、PP と PθP_\theta のそれぞれで求めよ。
  3. (3) (2) の2つの正規分布の DD を求め、経路全体の D(P ∥ Pθ)D(P\,\|\,P_\theta) と比べよ。v=2 μm s−1v=2\,\mu\mathrm{m\,s^{-1}}、c=0.5 μm2 s−1c=0.5\,\mu\mathrm{m^2\,s^{-1}}、t=10 st=10\,\mathrm s、θ=0.1\theta=0.1 で数値を出せ。
解答

(1) 力が場所によらないので一様な分布 ps=1/ℓp_{\mathrm s}=1/\ell が定常で、js=v/ℓj_{\mathrm s}=v/\ell、ν=js/ps=v\nu=j_{\mathrm s}/p_{\mathrm s}=v である。式 (4.6.3) から Σ˙=γkBTv2=v2c\dot\Sigma=\frac{\gamma}{ k_{\mathrm B} T}v^2=\frac{v^2}{c} で、γv=f\gamma v=f を使うと γv2kBT=fvkBT\frac{\gamma v^2}{ k_{\mathrm B} T}=\frac{fv}{ k_{\mathrm B} T} である。力 ff が粒子にする仕事の速さ fvfv が、そのまま液体へ熱として流れている。

(2) x˙=v+ξ/γ\dot x=v+\xi/\gamma を積分すると X=vt+∫ξ ds/γX=vt+\int\xi\,\mathrm{d} s/\gamma で、XX は平均 vtvt・分散 2ct2ct の正規分布に従う。PθP_\theta では駆動が v→(1+θ)vv\to(1+\theta)v になるだけなので、平均 (1+θ)vt(1+\theta)vt・分散 2ct2ct の正規分布である。

(3) 分散の等しい2つの正規分布の DD は(平均の差)2/(2×分散)^2/(2\times\text{分散}) なので

D=(θvt)22⋅2ct=θ24⋅v2tc=θ24⟨Σ⟩D=\frac{(\theta vt)^2}{2\cdot2ct}=\frac{\theta^2}{4}\cdot\frac{v^2t}{c}=\frac{\theta^2}{4}\langle \Sigma \rangle

で、経路全体の DD(式 (4.6.7))に一致する。データ処理不等式(第1部第4章)から一般には D(X の分布)≤D(P ∥ Pθ)D({X}\text{ の分布})\le D(P\,\|\,P_\theta) だが、この模型では等号が成り立つ。XX だけを見れば、経路が持っていた「流れを強めたかどうか」の情報が全部わかる(XX は θ\theta についての十分統計量である)。数値は ⟨Σ⟩=v2t/c=4×10/0.5=80\langle \Sigma \rangle =v^2t/c=4\times10/0.5=80、D=0.01×80/4=0.200D=0.01\times80/4=0.200 nat である。

木下の勉強ステータス

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