解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第2章 §1.2.2 ★★★ 拘束を自動的に満たすように位置を f 個の数で書く。選び方は自由だが、1組の座標で配置の空間全体を覆えるとは限らない
定義
定義 1.2.1(一般化座標)
自由度 f の系で、f 個の実数 q=(q1,…,qf) と時刻 t から全粒子の位置を決める滑らかな写像
ra=ra(q1,…,qf,t)(a=1,…,N)(1.2.3)
が、次の2つを満たすとき、q1,…,qf を一般化座標と呼ぶ。
- どの q と t についても、ra(q,t) は拘束 (1.2.1) を満たす。
- 考えている配置のまわりで、拘束を満たす配置は q の値1組とちょうど1対1に対応する。このことは、3N×f 行列(∂ra/∂qi) の階数が f であること(f 本のベクトル (∂r1/∂qi,…,∂rN/∂qi) が1次独立であること)で確かめる。
1つ目の条件は、一般化座標を使えば拘束の式をもう書かなくてよいことを意味する。q をどんな値に動かしても、粒子は棒や針金の上にある。2つ目の条件は、f 個の数に余りも不足もないことを意味する。行列の階数が f より小さいと、q のある向きの動きが粒子を1つも動かさず、q の値から配置は決まっても、配置から q の値が1つに決まらなくなる。
鉛直面内の振り子では、おもりの位置を
r=(ℓsinθ,−ℓcosθ,0)(1.2.4)
と書けば、∣r∣=ℓ と z=0 がどの θ でも成り立ち、∂r/∂θ=(ℓcosθ,ℓsinθ,0) は長さ ℓ で 0 にならない。角度 θ(最下点から測る)が一般化座標である。回る棒に通した玉では、棒が xy 面内で x 軸から角度 Ωt の向きにあるとすると、玉の位置は原点からの距離 q を使って
r=(qcosΩt,qsinΩt,0)(1.2.5)
と書ける。拘束が時間によるので、写像は t を直接含む。
一般化座標は長さである必要も角度である必要もない。qi の単位は座標ごとにばらばらでよく、組 q=(q1,…,qf) はベクトルとしての長さや向きを持たない(太字にしないのはこのためである)。
座標の取り替え
同じ系に一般化座標の選び方はいくらでもある。二重振り子では、2本の棒がそれぞれ鉛直となす角 (θ1,θ2) を使ってもよいし、1本目の角と2本目の棒の1本目に対する曲がりの角 (θ1,θ2−θ1) を使ってもよい。一般に、別の一般化座標 q′=(q1′,…,qf′) との間に、滑らかで逆にも解ける関係
qj′=qj′(q1,…,qf,t)(j=1,…,f),det(∂qi∂qj′)=0(1.2.6)
があれば、ra を q′ で書いた写像も定義 1.2.1 の2条件を満たす。これを点変換と呼ぶ。二重振り子の例では、(θ1,θ2)↦(θ1,θ2−θ1) の Jacobi 行列は (1−101) で、行列式は 1 である。運動方程式をどの一般化座標で書いても同じ形になることは、この巻の主題の1つで、第1部第5章で確かめる。
点変換が時刻を含むと、写像が時刻を陽に含むかどうかも変わる。陽に含むかどうかは系そのものでは決まらず、関数とそれを書く座標の組で決まる性質である。
直線上の自由な粒子を慣性系の座標 x で書けば、位置は r=x で時刻を含まない。同じ粒子を、一定の加速度 a で動く台から測った座標 q で書くとする。このとき x=q+21at2 なので、写像 r(q,t)=q+21at2 は時刻を陽に含む。
同じ理由で、偏微分 ∂/∂t は、相方のどの座標を止めるかまで決めて初めて意味を持つ。慣性系の座標 x を止めると、空間に止まった点で時刻だけが進む。台の座標 q を止めると、台に乗った点が加速しながら進む。2つの向きは連鎖律で
(∂t∂)q=(∂t∂)x+at(∂x∂)t,(∂q∂)t=(∂x∂)t
と結ばれる(∂x/∂t∣q=at, ∂x/∂q∣t=1)。偏微分の向き(接ベクトル)は座標を取り替えるとこの規則で変わり、相方を x から q へ替えただけで時刻の向きが傾く。
同じ関数でも、相方の座標で時刻の偏微分が変わる
関数 f=x2 は、慣性系の組では時刻を陽に含まず (∂f/∂t)x=0 である。同じ関数を台の組で書くと f=(q+21at2)2 になる。これを q を止めて微分すると (∂f/∂t)q=2at(q+21at2)=2atx となる。上の規則で計算しても 0+at⋅2x=2atx で一致する。
関数の値は同じでも、「時刻を陽に含むか」の答えは座標の組によって違う。
熱力学で偏微分に止める変数を添字で書くのも同じ理由である。内部エネルギーを体積で微分するとき、エントロピーを止めるか温度を止めるかで答えが変わる。断熱の微分は (∂U/∂V)S=−P だが、理想気体では内部エネルギーが温度だけで決まるので (∂U/∂V)T=0 になる。力学の偏微分に添字を書かないのは、相方の座標を1.2.3節で約束しておくからで、約束を変えれば同じ記号でも別の微分になる。
座標の組と偏微分の向きの関係は、詳しくは基礎理論『物理のための微分幾何入門』第2章で扱う。
1組の座標で覆えるとは限らない
一般化座標は、考えている配置の「まわりで」定義した。配置の空間全体を1組の座標で覆えるとは限らない。糸の長さ ℓ の振り子が鉛直面に限らず動く球面振り子では、おもりの位置は半径 ℓ の球面上にあり f=2 である。極角 θ(最下点から測る)と方位角 φ を使うと
r=ℓ(sinθcosφ, sinθsinφ, −cosθ)(1.2.7)
と書けるが、最下点 θ=0 では φ をどう変えてもおもりは動かない。このとき ∂r/∂φ=0 となり、定義 1.2.1 の2つ目の条件が破れる(例題 1.2.2)。球面全体を、どこでも2つ目の条件を満たす1組の座標で覆うことはできない(球面は有界で閉じた曲面なので、平面の開集合と1対1に連続に対応させることができない)。数学では、何組かの座標を貼り合わせて全体を覆ったものを地図帳(atlas)と呼ぶ。実際の計算では、最下点の近くでは別の座標(例えば水平面への射影 (x,y))に取り替える。この本で一般化座標を使うときは、座標が使える範囲の中で議論していることを前提にし、座標の特異点を通る運動を扱うときだけ断る。
例題 1.2.2 球面振り子の座標は最下点で使えない ★★
オリジナル球面振り子の写像 (1.2.7) について次に答えよ。
- (1) ∂r/∂θ と ∂r/∂φ を求め、それぞれの長さと、互いの内積を求めよ。
- (2) 行列 (∂r/∂θ, ∂r/∂φ)(3×2)の階数が θ=0 で 1 に下がることを示し、その意味を述べよ。
- (3) 最下点の近くで使える一般化座標を1組あげ、最下点で定義 1.2.1 の2つ目の条件を満たすことを確かめよ。
解答
(1) 微分すると
∂θ∂r=ℓ(cosθcosφ, cosθsinφ, sinθ),∂φ∂r=ℓ(−sinθsinφ, sinθcosφ, 0).
長さは ∣∂r/∂θ∣=ℓ、∣∂r/∂φ∣=ℓsinθ で、内積はℓ2(−cosθsinθcosφsinφ+cosθsinθsinφcosφ)=0。2本は直交する。
(2) θ=0 では ∂r/∂φ=0 で、∂r/∂θ=ℓ(cosφ,sinφ,0)=0 なので階数は 1 である。φ を変えてもおもりが動かないので、最下点の配置に対応する (θ,φ) は (0,φ)(φ は任意)と無数にあり、配置から座標の値が1つに決まらない。また θ を 0 から少し増やしたときにおもりが動く向きが φ によって変わるので、最下点のまわりの動きを (θ,φ) の微小な変化で滑らかに表すことができない。
(3) 水平面への射影 (x,y) を使い、r=(x, y, −ℓ2−x2−y2)(x2+y2<ℓ2)とする。∣r∣=ℓ はどの (x,y) でも成り立つ。最下点 (x,y)=(0,0) で ∂r/∂x=(1,0,0), ∂r/∂y=(0,1,0) となり、階数は 2 である。この座標は逆に赤道(x2+y2=ℓ2)で z 成分の微分が発散して使えなくなるので、球面全体には2組以上の座標が要る。
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