解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第4章 §1.4.4 ★★ 独立変数を含まない L の第一積分から cosh のグラフが出る。停留する曲線が2本あったり、1本もなかったりする
2つの輪の間の回転面
x 軸を軸とする2つの同じ半径 R の輪を x=−h と x=h に置き、その間に回転面を張る。回転面は、曲線 y(x)>0(−h≤x≤h、y(±h)=R)を x 軸のまわりに回して作る。曲線の線素 1+y′2dx を半径 y の円周 2πy で回すので、面積は
A[y]=2π∫−hhy1+y′2dx(1.4.13)
である。石けん膜は表面張力により面積を小さくする形をとるので、この汎関数の停留点が膜の形の候補になる。この節では独立変数を t でなく x と書き、q˙ にあたるものを y′ と書く。
L=y1+y′2(定数 2π は停留点に関係しないので外した)は x を陽に含まないので、エネルギー関数が一定である。
hL:=y′∂y′∂L−L=1+y′2yy′2−y1+y′2=−1+y′2y.
(輪の位置の h と区別するため、この節ではエネルギー関数に添字を付けた。)この値を −a(a>0)とおくと、y=a1+y′2、すなわち
y′2=a2y2−1(1.4.14)
という1階の方程式になる。y=acosh((x−b)/a) を入れると y′=sinh((x−b)/a) で、cosh2−sinh2=1 から式 (1.4.14) を満たす。y≥a の範囲で式 (1.4.14) を変数分離すると、y′=0 となる定数解 y=a を除けば一般解はこの形に限られる。このグラフを懸垂線(catenary)と呼び、回してできる面を懸垂面と呼ぶ。
停留する曲線の数
左右対称の配置では b=0 で、端の条件 y(±h)=R は
R=acoshah⟺Rh=coshuu(u:=ah)(1.4.15)
になる。右の式の右辺 u/coshu は u=0 で 0、u→∞ でも 0 に近づき、途中で最大値をとる(図 1.4.2)。最大になるのは dud(u/coshu)=(1−utanhu)/coshu=0、すなわち utanhu=1 のときで、数値で解くと u∗≈1.200、最大値は u∗/coshu∗≈0.663 である。したがって、輪の間隔の半分 h と半径 R の比 h/R によって、停留する懸垂線の数が変わる。
- h/R<0.663 なら u の解が2つあり、停留する曲線が2本ある(浅い懸垂線と深い懸垂線)。
- h/R>0.663 なら解がなく、滑らかな回転面の中に停留点がない。
後者のとき、面積の下限に近づく形は、2つの輪をそれぞれ平らな円板でふさぎ、その間を細い線でつないだものになる(面積 2πR2)。これは滑らかな関数 y(x) のグラフの回転面ではないので、この節の汎関数の停留点としては出てこない。実際の石けん膜では、輪を引き離していくと、ある間隔で膜が切れて2枚の円板に分かれる。変分問題の解は「存在すれば Euler–Lagrange 方程式を満たす」だけで、存在するかどうかは別に調べる必要がある。

図 1.4.2 端の条件 (1.4.15) の右辺 u/coshu(厳密な値なので点線)。横の破線 h/R=0.5 との交点が2本の停留曲線にあたり、最大値 0.663 より上の破線では交点がない
吊るした鎖
長さ ℓ の一様な鎖の両端を吊るすと、鎖は位置エネルギー ρg∫y1+y′2dx(ρ は単位の長さあたりの質量、y は上向き)を最小にする形をとる。被積分関数は回転面の面積と同じ形だが、鎖の問題には「長さ ∫1+y′2dx=ℓ は一定」という拘束が付く。拘束を付けないと、鎖を伸ばしてどこまでも下へ垂らせば位置エネルギーはいくらでも下がる。拘束のある変分問題は 第1部第6章 で未定乗数 λ を使って扱い、結果は ∫(y−λ)1+y′2dx の停留問題に帰着する。y−λ を新しい y とみなせば回転面と同じ問題になるので、鎖の形も y=λ+acosh((x−b)/a) の懸垂線である。λ, a, b の3つの定数は、両端の位置2つと長さ ℓ の3条件で決まる。
例題 1.4.4 輪の間の2つの懸垂面の面積を比べる ★★
オリジナル半径 R=1 の輪を x=±h, h=0.5 に置く。
- (1) 端の条件 (1.4.15) から u が満たす式を書き、2つの解を数値で求めよ。それぞれの a はいくつか。
- (2) 懸垂面 y=acosh(x/a) の面積が A=πa(2h+asinh(2h/a)) であることを示せ。
- (3) 2つの懸垂面の面積と、2枚の円板の面積 2πR2 を比べよ。
解答
(1) 1=acosh(0.5/a) に a=0.5/u を入れると coshu=2u。グラフの交点を Newton 法などで求めると u1≈0.5894, u2≈2.1268 で、a1=0.5/u1≈0.8483, a2=0.5/u2≈0.2351 である。a は懸垂線の最も低い点の高さ y(0)=a なので、a1 が浅い懸垂線、a2 がくびれの深い懸垂線にあたる。
(2) y′=sinh(x/a), 1+y′2=cosh(x/a) なので
A=2π∫−hhacosh2axdx=2πa∫−hh21+cosh(2x/a)dx=πa(2h+asinha2h).
(3) 数値を入れると、浅い懸垂面は A1≈5.992、深い懸垂面は A2≈6.846、2枚の円板は 2π≈6.283 である。浅い懸垂面が最も小さく、深い懸垂面は円板より大きい。深い懸垂面は停留点ではあるが最小点ではない(前の章で、停留は最小の必要条件にすぎないことを見た)。(h を大きくしていくと、浅い懸垂面の面積が 2πR2 を超えるのは h/R≈0.528 からで、その先 0.663 までは懸垂面は存在するが円板の組のほうが面積が小さい。)
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