解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第1章 §2.1.4 ★★ 対称なこまでは Euler 角の2つが循環座標になり、残る傾きの角の有効ポテンシャルから歳差運動が出る
Euler 角と角速度
1点を固定した剛体の向きは3つの角で決まる。この本では Euler 角 (φ,θ,ψ) を、空間に固定した z 軸のまわりに φ、次に回された x 軸のまわりに θ、最後に剛体の対称軸(剛体に固定した第3軸)のまわりに ψ だけ回す順で定める(z–x–z の順)。θ は空間の z 軸と剛体の第3軸のなす角、φ は第3軸が z 軸のまわりに回った角(歳差の角)、ψ は剛体が自分の軸のまわりに回った角(自転の角)である。回転行列 R=Rz(φ)Rx(θ)Rz(ψ) から剛体に固定した軸の方向の角速度の成分を計算すると(RTR˙ の反対称成分を読む)
ω1=φ˙sinθsinψ+θ˙cosψ,ω2=φ˙sinθcosψ−θ˙sinψ,ω3=φ˙cosθ+ψ˙(2.1.13)
となる。第3軸のまわりに軸対称な剛体(対称こま、I1=I2)では、回転の運動エネルギーに入るのは ω12+ω22=θ˙2+φ˙2sin2θ と ω3 だけで、ψ が消える。
重力の中の対称こま
固定点 O から重心までの距離を ℓ、O のまわりの主慣性モーメントを I1=I2, I3 とし、重力の中に置く。重心の高さは ℓcosθ なので
L=2I1(θ˙2+φ˙2sin2θ)+2I3(ψ˙+φ˙cosθ)2−Mgℓcosθ(2.1.14)
である。L は φ と ψ を含まないので、2つが循環座標で(手順1)
pψ=I3(ψ˙+φ˙cosθ)=I3ω3,pφ=I1φ˙sin2θ+pψcosθ(2.1.15)
が保存する。pψ は対称軸のまわりの角運動量、pφ は空間の z 軸のまわりの角運動量で、どちらも対応する回転対称性(こまの軸対称性と、重力の向きのまわりの回転)の Noether の保存量である。L は時刻を含まず、T は速度の2次の同次式なので E=T+V も保存する(手順2)。
φ˙=(pφ−pψcosθ)/(I1sin2θ) と ω3=pψ/I3 を E に入れると、θ だけの式
E−2I3pψ2=2I1θ˙2+Ueff(θ),Ueff(θ)=2I1sin2θ(pφ−pψcosθ)2+Mgℓcosθ(2.1.16)
になる(手順3。E は H と同じ量で、保存量を運動量のまま固定している)。θ は Ueff の谷の中を往復し、その往復を章動と呼ぶ。
定常歳差
θ が一定の値 θ0 のまま、対称軸が一定の角速度 φ˙=Ω で z 軸のまわりを回る運動を定常歳差と呼ぶ。θ の Euler–Lagrange 方程式 I1θ¨=∂L/∂θ に θ¨=0, θ˙=0, φ˙=Ω, ω3 一定を入れ、sinθ0=0 で割ると
I1cosθ0Ω2−I3ω3Ω+Mgℓ=0(2.1.17)
を得る。Ω についての2次方程式で、実数の解があるのは判別式が正、つまり I3ω3>2I1Mgℓcosθ0 のとき(θ0<π/2)に限る。自転が遅いこまは、どの角速度で歳差運動させても重力のトルクを支えられずに倒れる。2つの解は
Ω±=2I1cosθ0I3ω3(1±1−ϵ),ϵ=(I3ω3)24I1Mgℓcosθ0(2.1.18)
で、自転が速い(ϵ≪1)とき遅い方は
Ω−=I3ω3Mgℓ(1+4ϵ+O(ϵ2))(2.1.19)
となる。主要項 Ω−≈Mgℓ/(I3ω3) は、「重力のトルク Mgℓsinθ0 が、大きさ I3ω3 の角運動量の水平成分 I3ω3sinθ0 を回す」という初等的な説明の式と同じである。その説明は角運動量を対称軸の向きの I3ω3 だけで近似しており、歳差運動そのものが持つ角運動量 I1Ω を落としている。式 (2.1.19) の補正 ϵ/4 はその落としたぶんにあたる。
例題 2.1.4 こまの歳差の角速度 ★★
オリジナル質量 M=0.1kg、固定点から重心まで ℓ=0.03m、I3=2.0×10−5kgm2、固定点のまわりの I1=1.2×10−4kgm2 のこまを、鉛直から θ0=30∘ 傾けて毎秒 50 回転(ω3=314.2s−1)させる。g=9.81ms−2 とする。
- (1) 定常歳差の2つの角速度を式 (2.1.18) から求め、近似式 Mgℓ/(I3ω3) と比べよ。ϵ の値と、式 (2.1.19) の補正まで入れた値も求めよ。
- (2) この傾きで定常歳差ができる最小の自転の速さを求めよ。
- (3) 近似式の Ω を初めの φ˙ に選び θ˙=0 で放すと、どんな運動になるか。
解答
(1) Mgℓ=0.02943Nm、I3ω3=6.283×10−3kgm2s−1、I1cosθ0=1.039×10−4kgm2。ϵ=(6.283×10−3)24×1.2×10−4×0.02943×0.866=0.310 で、
Ω−=2×1.039×10−46.283×10−3(1−0.690)=5.12s−1,Ω+=55.3s−1.
近似式は 0.02943/6.283×10−3=4.68s−1 で、遅い方の厳密値より 8% 小さい。補正まで入れると 4.68×(1+0.310/4)=5.05s−1 で、差は 1% まで縮む。速い方の Ω+ は近似式では出てこない解で、ϵ→0 で I3ω3/(I1cosθ0) に近づき、歳差運動の角運動量 I1Ω がトルクと釣り合う側の解である。
(2) 判別式が 0 になる ω3=I32I1Mgℓcosθ0=2.0×10−521.2×10−4×0.02943×0.866=175s−1、毎秒 27.8 回転である。
(3) φ˙ が定常歳差の値 5.12s−1 からずれているので、θ0 は Ueff の極小からずれた点になり、θ は谷の中で往復する(章動)。運動方程式を数値積分すると、θ は 30∘ を端として 0.57∘ ほどの幅で振れる(scripts/verify_ch2-01.py)。初めの φ˙ を厳密な Ω− に選べば、θ は 10−6rad も動かない。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ϵ=4I1Mgℓcosθ0/(I3ω3)2→0(自転が速い) | 証明 証明済み(厳密な根 (2.1.18) を ϵ で Taylor 展開した級数で、∣ϵ∣<1 で収束する正則摂動) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com