解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第7章 §4.7.4 ★★★ 閉じた曲線 ΛE を1周して波が元に戻る条件が J=ℏ(n+μM/4)。滑らかな井戸の 21、壁つきの 43、箱の 1 はすべて Maslov の指数の数え方の違い
1周して元に戻る条件
束縛された運動では、曲線 ΛE は閉じている。WKB の波は曲線の上の各点に位相 ℏ1∫pdx を割り当てるので、曲線を1周して出発点に戻ったとき、位相が 2π の整数倍だけずれていなければ、1つの点に2つの違う値が割り当てられてしまう。1周で波の位相に加わる量は、道のりの分 ℏ1∮pdx から、前節の規則で数えた遅れ μMπ/2 を引いたものなので、条件は
ℏ1∮pdx−μM2π=2πn,n=0,1,2,…
である。作用変数 J=2π1∮pdx(第1部第14章)で書き直すと、次の形になる。
命題 4.7.1(Bohr–Sommerfeld の条件と Maslov の指数)
1自由度の束縛運動で、等エネルギーの曲線 ΛE が1周のあいだに滑らかな転回点を Nt 個、硬い壁を Nw 個通るとき、μM=Nt+2Nw と置くと、WKB の近似の範囲でエネルギー準位は
J(En)=2π1∮pdx=ℏ(n+4μM),n=0,1,2,…(4.7.18)
で決まる。
滑らかな井戸(転回点2つ)では μM=2 で J=(n+21)ℏ、第1部第14章で結果だけ使った形である。21 は2つの転回点の π/2 ずつの遅れの和である。箱(壁2つ)では μM=4 で J=(n+1)ℏ となり、n′=n+1=1,2,… と番号を付け直せば第1部第14章の J=n′ℏ と同じで、このとき準位 E=π2ℏ2n′2/(2ma2) は厳密値に一致する(検算 scripts/verify_ch4-07.py)。片側が壁、片側が滑らかな井戸では μM=3 で J=(n+43)ℏ になる。
第1部第14章で見たように、E=H(J) が作用変数の関数として分かっていれば、準位は En=H(ℏ(n+μM/4)) でただちに決まる。隣の準位との間隔は
En+1−En≈dJdHℏ=ℏω(J)=T(E)2πℏ(4.7.19)
で、古典の角振動数 ω(J)=∂H/∂J に ℏ を掛けたものになる。準位の間隔から古典の運動の振動数が決まるという対応(対応原理)は、作用角変数の ω=∂H/∂J そのものである。同じことを状態の数で言い直すと、エネルギー E 以下の状態の数はJ(E)/ℏ 程度で、相空間で曲線 ΛE の内側の面積 2πJ を 2πℏ=h で割ったものになる。第3部で状態を数えるときに相空間の体積を h で割った理由が、ここで1自由度について確かめることができる。
多自由度に広げると、可積分系の不変トーラスには独立な閉じた道 C1,…,Cf が f 本あり、条件 (4.7.18) はそれぞれの道について2π1∮Ck∑ipidqi=ℏ(nk+μk/4) になる。μk はその道に沿って数えた Maslov の指数である。変数が分離しない系にも使えるこの形は、Keller(1958)が与えた1J. B. Keller (1958), Annals of Physics 4, 180.。古い量子論の条件 ∮pdq=nh と比べると、違いはこの μk/4 だけである。
例題 4.7.4 半分の調和振動子 ★★
オリジナルx>0 では V=21mω2x2、x≤0 では V=∞(x=0 に硬い壁)の井戸を考える。
- (1) 作用変数 J(E) を求めよ。
- (2) Maslov の指数を数え、式 (4.7.18) から準位 En を求めよ。
- (3) 結果を、壁の無い調和振動子の準位 (k+21)ℏω と比べ、一致の理由を説明せよ。
- (4) 準位の間隔を式 (4.7.19) と比べよ。
解答
(1) 粒子は 0 と xmax=2E/(mω2) のあいだを往復する。ΛE は楕円の右半分を壁の所で縦に閉じた曲線で、∮pdx=2∫0xmax2m(E−21mω2x2)dx は楕円の面積 2πE/ω の半分 πE/ω である。よって J=E/(2ω)。
(2) 1周で滑らかな転回点 xmax を1回、壁を1回通るので μM=1+2=3。E/(2ω)=ℏ(n+43) から
En=2ℏω(n+43)=ℏω(2n+23),n=0,1,2,…
(3) (2n+23)ℏω=((2n+1)+21)ℏω は、壁の無い調和振動子の奇数番目 k=2n+1 の準位にちょうど一致する(検算 scripts/verify_ch4-07.py)。壁の無い調和振動子の奇数番目の固有関数は奇関数で x=0 で 0 になるので、その右半分は壁の境界条件 ψ(0)=0 を満たす、半分の井戸の厳密な固有関数である。WKB はこの場合も厳密値を与える。壁の π(μM に 2)と滑らかな転回点の π/2(1)を正しく数えたことが、43 という端数に表れている。壁を滑らかな転回点と同じに数えて 21 を使うと、E=ℏω(2n+1) となり、正しい値から 21ℏω ずれる。
(4) En+1−En=2ℏω。古典の周期は、片道 T/2 が調和振動子の4分の1周期 π/(2ω) の2倍なので T=π/ω、2πℏ/T=2ℏω で一致する。壁で跳ね返るので、古典の振動数は壁の無い振動子の2倍になっている。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ/J→0(量子数 n が大きい) | 証明 条件付き(自由度1で、転回点が孤立しポテンシャルが滑らか。壁は境界条件で置き換える。多自由度では系が可積分で不変トーラスがあるとき) | 行き先 近似の数理 第7章
1 J. B. Keller (1958), Annals of Physics 4, 180.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com