解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第7章 §4.7.5 ★★★ E<V の領域では p が虚数になり、WKB の波は e−∫∣p∣dx/ℏ で減衰する。指数は、ポテンシャルを逆さにした「虚数の時間の運動」の作用に等しい
古典的に入れない領域の WKB
E<V(x) の領域では式 (4.7.3) の p は虚数になる。∣p(x)∣=2m(V(x)−E) と書くと、最低次の式 (4.7.6) の解はσ0=±i∫x∣p∣dx′ で、WKB の波は
ψ(x)≈∣p(x)∣D+exp(ℏ1∫x∣p∣dx′)+∣p(x)∣D−exp(−ℏ1∫x∣p∣dx′)(4.7.20)
になる。ℏσ2 の評価も、p を i∣p∣ に置き換えて同じに行うことができる。障壁の中で振幅が増えるか減るかは、障壁の外の波とのつなぎ方(接続)で決まる。
高さが E より高い障壁が x1<x<x2 にあり(V(x1)=V(x2)=E)、左から粒子が入射するとき、障壁の中の波は主に減衰する側の項で、右の転回点 x2 での振幅は左の転回点 x1 での振幅の e−Θ 倍になる。ここで
Θ=ℏ1∫x1x2∣p(x)∣dx=ℏ1∫x1x22m(V(x)−E)dx(4.7.21)
である。2つの転回点での接続の係数(第V巻の接続の公式。近似の数理 第7章)は Θ によらない 1 の程度の数なので、透過する確率(透過率)T は、Θ≫1 で
T≈e−2Θ(4.7.22)
になる。この章では、透過率を周期 T と区別して T と書く。式 (4.7.22) で正しいのは指数の部分だけで、指数の前に付く係数は ℏ の次の次数の情報であり、この次数では決まらない。
虚数の時間の古典運動
指数 Θ には解析力学の意味がある。時間を虚数 t=−iτ に取り直すと、dtd=idτd なので、Newton の運動方程式 mx¨=−V′(x) は
mdτ2d2x=+V′(x)(4.7.23)
に変わる。これはポテンシャル −V(x) の中の実数の運動である。逆さにしたポテンシャルでは障壁が谷になるので、古典的に入れなかった区間 x1<x<x2 を、粒子は実数の時間 τ で普通に通り抜ける。この運動のエネルギーの保存は2m(dτdx)2−V(x)=−E で、このときの運動量 mdx/dτ はちょうど 2m(V−E)=∣p∣ になる(検算 scripts/verify_ch4-07.py)。したがって ℏΘ=∫∣p∣dx は、虚数の時間の運動で第1部第13章の特性関数 W=∫pdx を計算したもの、すなわち逆さのポテンシャルの中の運動の作用(簡約した作用)である。
トンネルの確率の指数は、実数の時間では許されない運動を、虚数の時間で許された運動に置き換えて、その作用を測ったものになっている。この見方は、経路積分で eiS/ℏ の時間を虚数に回したときに中心的な量になる(第4部第8章)。また、虚数の時間の発展 e−H^τ/ℏ は、温度の逆数を β=τ/ℏ と読めば統計力学の e−βH^ である(第5部第1章)。
滑らかな障壁で比べる
V(x)=V0/cosh2(x/ℓ)(Eckart の障壁、ℓ は幅)は、透過率が厳密に求まる滑らかな障壁である。ℏ=m=ℓ=1 の単位で、8V0>1 のとき
Texact=sinh2(πk)+cosh2(π2V0−1/4)sinh2(πk),k=2E(4.7.24)
である(検算 scripts/verify_ch4-07.py で Schrödinger 方程式を数値積分して確かめた)。図 4.7.3 は、V0=8 でこれと e−2Θ を比べたものである。

図 4.7.3 Eckart の障壁 V0/cosh2(x/ℓ)(ℏ=m=ℓ=1、V0=8)の透過率。縦軸は常用対数。透過率が9桁にわたって変わるあいだ、e−2Θ と厳密値の差は縦軸で 0.09 程度(比にして 0.82 倍)にとどまる。E が障壁の頂上に近づくと2つの転回点が近づき、e−2Θ は厳密値を上回って E=V0 で 1 になる(数値は scripts/verify_ch4-07.py –fig)
例題 4.7.5 Eckart の障壁のトンネルの指数 ★★★
オリジナルV(x)=V0/cosh2(x/ℓ) に、E<V0 の粒子が入射する。
- (1) ℏΘ=∫x1x22m(V−E)dx=πℓ(2mV0−2mE) を示せ。
- (2) ℏ=m=ℓ=1、V0=8、E=2 で e−2Θ を求め、厳密値 (4.7.24) と比べよ。
- (3) 比 e−2Θ/Texact が Θ≫1 で何に近づくかを式 (4.7.24) から求め、ℏ→0 でその比がどうなるかを述べよ。
解答
(1) u=sinh(x/ℓ) と置くと cosh2=1+u2、dx=ℓdu/1+u2 で、転回点は u02=V0/E−1 のとき u=±u0。
∫2m(1+u2V0−E)1+u2ℓdu=ℓ2mE∫−u0u01+u2u02−u2du.
∫−u0u01+u2u02−u2du=π(1+u02−1) を使うと(u=u0sinϑ と置いて留数で計算できる)、ℓ2mEπ(V0/E−1)=πℓ(2mV0−2mE)。2組の数値で数値積分と一致することを確かめた(検算 scripts/verify_ch4-07.py)。
(2) Θ=π(16−4)=2π で、e−2Θ=e−4π=3.49×10−6。厳密値は k=2、2V0−1/4=15.75 を入れてTexact=4.25×10−6。比は 0.821 である。
(3) Θ≫1 では sinh2(πk)≈e2πk/4、cosh2(π2V0−1/4)≈e2π2V0−1/4/4 で、分母の第1項は第2項に比べて無視できるのでTexact≈e−2π(2V0−1/4−k)。よって
Texacte−2Θ≈exp(−2π(2V0−2V0−1/4))≈exp(−42V0π)
で、V0=8 では 0.821(近似式で 0.822)。ℏ を戻すと 2V0 は 2mV0ℓ2/ℏ2 なので、比は exp(−πℏ/(4ℓ2mV0)) であり、ℏ→0 で 1 に近づく。指数の中の 1/4 は ℏ の次の次数の補正で、e−2Θ はその補正を落とした主要項である。透過率が9桁変わる範囲でも比が 0.82 前後で一定なのは(図 4.7.3)、補正が E にほとんど依存しない形をしているためである。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 1/Θ→0(障壁の中の作用 ∫∣p∣dx が ℏ に比べて大きい) | 証明 条件付き(障壁が滑らかで、2つの転回点が孤立していること。E が障壁の頂上に近いと転回点が近づくので使うことができない。係数は次の次数の量で、この式は指数の部分だけを表す) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com