解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第1章 §5.1.3 ★★★ 経路の重心のまわりの揺らぎは ⟨ξ2⟩=βℏ2/(12m)。高温ではこれが小さく古典の Z に戻り、最初の補正は ΔF=24mβℏ2⟨V′′⟩cl
重心と揺らぎに分ける
経路積分 (5.1.12) の経路を、重心 qˉ=q0 と揺らぎ ξ(τ)=q(τ)−qˉ に分ける(∫0βℏξdτ=0)。運動エネルギーの項は ξ だけを含み、ポテンシャルの項は qˉ+ξ を含む。自由粒子の経路積分が ∫dqˉ/λT を与えることを使って揺らぎの測度を規格化すると、
Z=∫λTdqˉ⟨exp[−ℏ1∫0βℏV(qˉ+ξ(τ))dτ]⟩ξ(5.1.16)
と書ける。⟨⋯⟩ξ は自由粒子の重み e−∫(m/2)ξ˙2dτ/ℏ での揺らぎの平均である。V が定数なら ⟨⋯⟩ξ=e−βV で、古典の Z=∫hdqdpe−βH と同じ形になる。
揺らぎの大きさは、例題 5.1.2 の Gauss 積分から読める。自由粒子の重みで ⟨∣qn∣2⟩=1/(mβωn2)(n=0)なので、
⟨ξ(τ)2⟩ξ=n=0∑mβωn21=mβ2(2πβℏ)2n≥1∑n21=12mβℏ2=24πλT2(5.1.17)
である(∑n≥1n−2=π2/6)。τ によらないのは、虚時間の原点の取り方が自由だからである。量子の粒子は、温度 T では幅がおよそ λT/24π≈0.12λT の広がりを持った塊として振る舞い、ポテンシャルをその幅で均して感じる。高温で λT∝T−1/2 が小さくなると、塊は点に縮んで古典の粒子に戻る。
有効ポテンシャルと Wigner–Kirkwood の補正
式 (5.1.16) の指数の平均を、キュムラント展開の1次 ⟨e−X⟩≈e−⟨X⟩ で評価する。ξ について Taylor 展開すると ⟨ξ⟩ξ=0 だから
ℏ1∫0βℏ⟨V(qˉ+ξ)⟩ξdτ=β[V(qˉ)+21V′′(qˉ)⟨ξ2⟩ξ+O(ξ4)]
である。2次のキュムラント(X の分散)の主要部は β2V′(qˉ)2Var(βℏ1∫ξdτ) だが、重心の定義から ∫ξdτ=0 なので消える。残る項は ξ4 の大きさで、ℏ4 の次数である。式 (5.1.17) を入れると
Z≈∫λTdqˉe−βVeff(qˉ),Veff(qˉ)=V(qˉ)+24mβℏ2V′′(qˉ)(5.1.18)
を得る。量子の効果は、ポテンシャルを曲率に比例した分だけ持ち上げた有効ポテンシャルで表される。Veff を Feynman–Hibbs の有効ポテンシャルと呼ぶ。
自由エネルギーにすると、ℏ2 の1次までで e−β⋅βℏ2V′′/24m≈1−β2ℏ2V′′/24m なので
F=Fcl+24mβℏ2⟨V′′⟩cl+O(ℏ4)=Fcl+24mβ2ℏ2⟨V′2⟩cl+O(ℏ4)(5.1.19)
となる。⟨⋯⟩cl は古典のカノニカル分布 e−βV での平均で、2つ目の等号は部分積分 ∫V′′e−βVdq=β∫V′2e−βVdq による。補正は (V′)2≥0 の平均なので必ず正で、量子の粒子は古典の粒子より自由エネルギーが高い。N 粒子の3次元の系では V′′/m を ∑i∇i2V/mi に替える。式 (5.1.19) を Wigner–Kirkwood 展開の最初の項と呼ぶ。
調和振動子では V′′=mω2 が定数で、ΔF=βℏ2ω2/24=kBT(βℏω)2/24 である。厳密な F=kBTln(2sinh(βℏω/2)) を展開するとF=kBTln(βℏω)+kBT[(βℏω)2/24−(βℏω)4/2880+⋯] で、第1項が古典の Fcl、第2項が式 (5.1.19) と一致する(第3部第3章・第6章で量子の振動子の Z を展開した結果と同じ)。図 5.1.2 のとおり、kBT≳ℏω では補正の式は厳密な値とほとんど重なり、kBT≪ℏω では 1/T で発散して使えなくなる。低温の極限で正しい値は零点エネルギー ℏω/2 を含む F→ℏω/2 で、これは ℏ の冪級数では表せない。

図 5.1.2 調和振動子の自由エネルギーの量子補正 F−Fcl。実線(青)は式 (5.1.19) の ℏ2 の補正 βℏ2ω2/24、点線(赤)は厳密な kBTln(2sinh(βℏω/2)/(βℏω))。kBT=ℏω での差は 1% 未満、kBT=0.25ℏω では 12% である。
補正が小さいための条件は、⟨ξ2⟩∼λT2 の範囲で V の曲率が変わらないこと、言い換えると λT が V の変化の長さより短いことである。振動子では λT2/ℓ2=2πβℏω(ℓ=ℏ/mω)で、条件は βℏω≪1、つまり準位の間隔が kBT より小さいことに一致する。この条件のもとで、N 粒子の Z は ∫∏id3rˉi/λT3e−βV になり、運動量の積分 ∫d3pe−βp2/2m/h3=1/λT3 を戻すと第3部の測度 d3Nqd3Np/h3N の h3N が出る。残る 1/N! は次の節で出す。
例題 5.1.3 4次のポテンシャルの量子補正 ★★
オリジナルH^=p^2/2m+λq^4 を考え、m=ℏ=λ=1 の単位を取る。
- (1) 古典の ⟨q2⟩cl を Gamma 関数で表し、式 (5.1.19) の補正 ΔF が T−1/2 に比例することを示せ。
- (2) kBT=1, 2, 5, 10 で ΔF を求め、H^ を数値で対角化して得た厳密な F−Fcl と比べよ。
解答
(1) V′′=12λq2 なので ΔF=24mβℏ2⋅12λ⟨q2⟩cl=2mβℏ2λ⟨q2⟩cl。u=βλq4 と変数を替えると ∫q2e−βλq4dq/∫e−βλq4dq=(βλ)−1/2Γ(3/4)/Γ(1/4) で、Γ(3/4)/Γ(1/4)=0.33799。したがって ΔF=2mℏ2kBTλ×0.33799 で、T−1/2 に比例する。振動子の T−1 より遅く減るのは、高温ほど粒子が曲率の大きい外側まで出るためである。
(2) 単位を入れると ΔF=0.16899/kBT で、kBT=1, 2, 5, 10 に対し 0.1690, 0.1195, 0.0756, 0.0534。厳密な値は、H^ を振動子の基底 150 個で対角化して F=−kBTln∑ne−βEn(最低準位 E0=0.6680)を計算し、古典の Fcl=−kBTln(∫e−βq4dq/λT) を引いて0.1639, 0.1177, 0.0752, 0.0534 である。相対誤差は 3.1%, 1.5%, 0.44%, 0.16% で、温度とともに小さくなる。残る差は ℏ4 の次数の項で、式 (5.1.18) で捨てた ξ4 の平均と2次のキュムラントの残りから出る。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの λT/ℓV→0(熱的波長が V の変化の長さ ℓV より短い。振動子では βℏω→0) | 証明 要確認(ℏ2 の展開の前提〔V の滑らかさ・級数が漸近級数にとどまる範囲〕を原論文で確かめていない。振動子では厳密な Z の展開と一致) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com