解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第1章 §5.1.4 ★★★ 同種粒子のトレースは置換の和。l 個を巡回させる置換は虚時間 lβℏ の1本の経路で、その和から Bose・Fermi 分布と理想量子気体の状態方程式が出る
対称化したトレース
同じ種類の N 個の粒子の状態は、粒子を入れ替えても Bose 粒子なら変わらず、Fermi 粒子なら符号が変わる。Z のトレースは、この性質を満たす状態だけで取らなければならない。置換を P、位置の組の置換を Pr=(rP(1),…,rP(N)) と書き、Bose 粒子に +、Fermi 粒子に − の符号を当てる(以下、複号は上が Bose、下が Fermi)。対称化(反対称化)の射影演算子 N!1∑P(±1)PP^ をトレースの中に入れると
ZN=N!1P∑(±1)P∫d3Nr⟨Pr∣e−βH^∣r⟩(5.1.20)
を得る。(±1)P は Fermi 粒子で置換の偶奇の符号、Bose 粒子で常に +1 である(正本に無い記号 P は、圧力 P と区別するためにこの節だけで使う)。
恒等置換の項だけを残すと、ZN≈N!1∫d3Nr⟨r∣e−βH^∣r⟩ で、高温では前節の結果から第3部の Z=∫e−βHd3Nqd3Np/(h3NN!) になる。第3部第2章で Gibbs のパラドックスを避けるために手で入れた 1/N!(第3部第2章)は、ここでは対称化の射影の規格化として出る。
恒等置換以外の項は、経路積分で読むと図 5.1.1 の右になる。粒子 1 の経路が粒子 2 の出発点に着き、粒子 2 の経路が粒子 1 の出発点に着く。2本をつなぐと、虚時間 2βℏ をかけて出発点に戻る1本の経路で、それは温度が半分(β が2倍)の1粒子の経路と同じである。相互作用のない2粒子では、Z1(β)=Tre−βH^(1)(H^(1) は1粒子の Hamiltonian)を使って
Z2=21[Z1(β)2±Z1(2β)](5.1.21)
である。第1項が恒等置換、第2項が入れ替えで、∫dr1dr2⟨r2∣e−βH^(1)∣r1⟩⟨r1∣e−βH^(1)∣r2⟩=Tre−2βH^(1) による。
一般の置換は巡回置換(サイクル)の積に分かれ、長さ l のサイクルは虚時間 lβℏ の1本の経路になって Z1(lβ) を与え、符号 (±1)l−1 を持つ。長さ l のサイクルが ml 個ある置換の数は N!/∏l(lmlml!) なので、相互作用のない系ではZN=∑{ml}∏lml!1[(±1)l−1Z1(lβ)/l]ml(和は ∑llml=N の組)となる。粒子数を決めない大分配関数 Ξ=∑NeβμNZN をとると、制約 ∑llml=N が外れて各 ml の和が指数関数になり、
lnΞ=l=1∑∞l(±1)l−1zlZ1(lβ),z=eβμ(5.1.22)
を得る。z を逃散能と呼ぶ(第4部第4章の複素振幅 z とは別物で、この節だけで使う)。
Bose 分布と Fermi 分布
1粒子の準位を εk とすると Z1(lβ)=∑ke−lβεk で、式 (5.1.22) の l についての和は対数の級数になる。
lnΞ=∓k∑ln(1∓ze−βεk),⟨nk⟩=−β1∂εk∂lnΞ=eβ(εk−μ)∓11(5.1.23)
上の符号が Bose 分布、下の符号が Fermi 分布 f(ε) である。Fermi では ⟨nk⟩≤1 で、Pauli の排他律が出る。Bose では ⟨nk⟩≥0 のために μ<minkεk が要り、μ=0 で粒子数が保存しない場合が Planck 分布 nB(ω)=1/(eβℏω−1) である(光子とフォノンは第5部第3章で数える。第5部第3章)。授業では式 (5.1.23) を「各準位に粒子を何個置くか」の和として出す(5.1.6節)。ここでは同じ結果が、虚時間の経路のつなぎ方の和として出た。
ze−βεk≪1 のとき、つまり eβ(εk−μ)≫1 では、分母の ∓1 が無視できて ⟨nk⟩≈e−β(εk−μ)(Maxwell–Boltzmann 分布)になる。これは式 (5.1.22) の l=1 の項(恒等置換)だけを残すことに当たる。
理想量子気体の状態方程式
体積 V の箱の中の自由粒子(スピンの縮重度 gs)では Z1(lβ)=gsV/λT(lβ)3=gsV/(l3/2λT3) である(λT∝β)。PV=kBTlnΞ と N=z∂zlnΞ から
gskBTPλT3=l≥1∑(±1)l−1l5/2zl,gsnλT3=l≥1∑(±1)l−1l3/2zl(5.1.24)
を得る(n=N/V)。古典の極限は l=1 だけを残した P=nkBT である。2番目の式を z について解き、z=y∓y2/23/2+⋯(y=nλT3/gs)を1番目に入れると
nkBTP=1∓25/21gsnλT3+O((nλT3)2)(5.1.25)
となる。Bose 粒子は古典より圧力が低く、Fermi 粒子は高い。粒子の間に力は無いが、交換の項が Bose 粒子では引力、Fermi 粒子では斥力のように働く。展開のパラメータ nλT3 は「粒子1個あたりの体積に熱的波長の立方体が何個入るか」の逆数で、虚時間の経路の幅 λT が隣の粒子に届くかどうかを測っている。図 5.1.3 に厳密な曲線と式 (5.1.25) を並べた。Bose 気体は nλT3/gs=ζ(3/2)=2.612 で z=1 に達し、そこから先は Bose–Einstein 凝縮で、この級数では扱えない。

図 5.1.3 理想量子気体の状態方程式。点線は式 (5.1.24) の厳密な曲線(赤が Fermi、青が Bose)、実線は2次まで打ち切った式 (5.1.25) の 1±nλT3/(25/2gs)。nλT3/gs≲0.5 では両者はほとんど重なる。
例題 5.1.4 ヘリウムの気体と金属の電子 ★★
オリジナル
- (1) 4He(質量 4.0026u、Bose 粒子、gs=1)の気体が 300K, 1.013×105Pa にある。λT と nλT3、式 (5.1.25) による圧力の補正の割合を求めよ。
- (2) 数密度 n=1.0×1029m−3 の電子(gs=2)が 300K にあるとする。nλT3/gs を求め、それが 1 になる温度を求めよ。
解答
(1) λT=h/2πmkBT=5.04×10−11m、n=P/kBT=2.45×1025m−3 で nλT3=3.13×10−6。圧力は古典より nλT3/25/2=5.5×10−7 の割合だけ低い。室温・大気圧の気体では、量子統計による補正は 10−6 の程度で、測定にはかからない。
(2) 電子は軽いので λT=4.30×10−9m と長く、nλT3/gs=3.98×103 である。式 (5.1.25) の展開はまったく使えず、電子は Fermi 分布の ⟨nk⟩≈1 の準位を下から詰めた状態にある。nλT3/gs=1 となる温度は λT∝T−1/2 からT=mekB2πℏ2(n/gs)2/3=7.54×104K で、室温はその 1/250 である。金属の電子の比熱が古典の等分配則の値よりはるかに小さいのはこのためで、詳しい計算(Sommerfeld 展開で電子比熱を出す)は ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第1章で行う。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの nλT3/gs→0(熱的波長の立方体が粒子1個あたりの体積より小さい) | 証明 証明済み(相互作用のない気体では z の級数 (5.1.24) が ∣z∣<1 で収束し、式 (5.1.25) はその正則な展開。相互作用のある気体へは別の議論が要る) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com