ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第1章 §4.1.3 ★★★ Sommerfeld 展開を (4.1.8) に当てると μ は (kBT)2 でわずかに下がり、内部エネルギーは 6π2D(εF)(kBT)2 だけ増える。電子比熱は C=γT で、古典値の T/TF 倍しかない
化学ポテンシャルの温度変化
粒子数の式 (4.1.8) に (4.1.9) を H=D で当てる。T を変えても n は変わらないので、
∫0μD(ε)dε+6π2(kBT)2D′(μ)+⋯=∫0εFD(ε)dε
である。μ−εF は (kBT)2 の大きさなので、左辺の第1項を ∫0εFDdε+(μ−εF)D(εF) と近似し、第2項の D′(μ) を D′(εF) に置き換えてよい(誤差は (kBT)4)。すると
μ=εF−6π2(kBT)2D(εF)D′(εF)+O((kBT)4)(4.1.10)
を得る。この式の意味ははっきりしている。温度を上げると Fermi 分布は μ のまわりで対称になまり、μ の下から kBT 程度の電子が上へ移る。状態密度が上に向かって増えている(D′>0)なら、上には席が多いので、μ を固定したままだと粒子が増えてしまう。粒子数を保つには μ を下げなければならない。3次元の自由電子では D∝ε1/2 より D′/D=1/(2ε) なので
εFμ=1−12π2(TFT)2−80π4(TFT)4+⋯(4.1.11)
である(4次の項は (4.1.9) の第3項まで入れて同じ手順で求めたもので、verify_ch4-01.py で sympy で確かめた)。
内部エネルギーと比熱
内部エネルギーの式には H=εD(ε) を当てる。(εD)′=D+εD′ なので
u=∫0μεDdε+6π2(kBT)2[D(εF)+εFD′(εF)]+⋯
であり、第1項は u0+εFD(εF)(μ−εF) と近似できる(u0=E0/V)。ここに (4.1.10) を入れると εFD′ の項がちょうど打ち消し、
u=u0+6π2D(εF)(kBT)2+O((kBT)4)(4.1.12)
が残る。状態密度の傾き D′ は μ の動きには現れるが、エネルギーの増え方には(この次数では)現れない。単位体積あたりの比熱は
cV=∂T∂u=3π2D(εF)kB2T≡γVT(4.1.13)
で、温度に比例する。3次元の自由電子では D(εF)=3n/(2εF) を入れて、1電子あたり
NkBC=2π2TFT−203π4(TFT)3+⋯,NU=53εF[1+125π2(TFT)2−16π4(TFT)4+⋯](4.1.14)
である。比熱が温度に比例することから、エントロピーも S=∫0T(C/T′)dT′=C と同じ式になり、T→0 で 0 に向かう(熱力学の第三法則と整合する)。
なぜ古典値の T/TF 倍か
古典的な単原子気体なら、1粒子あたりの比熱は 23kB である。自由電子気体の比熱はこれの 3π2TFT 倍しかなく、金属の室温ではおよそ 1% である。理由は4.1.2節の図 4.1.1 から読み取れる。温度を上げたときに状態を変えられるのは、μ のまわり幅 kBT の中の電子だけである。それより深い電子は、kBT 程度のエネルギーをもらっても、上の状態が全部埋まっているので行き先が無い。動ける電子の数は単位体積あたり D(εF)kBT 程度で、それぞれが kBT 程度のエネルギーをもらうので、エネルギーの増加は D(εF)(kBT)2 程度になる。(4.1.12) の正確な係数 π2/6 を決めるのが Sommerfeld 展開の役目である。動ける電子の割合は D(εF)kBT/n=23T/TF で、比熱の古典値との比はこの割合で決まっている。
図 4.1.2 と図 4.1.3 は、3次元の自由電子気体の μ(T) と C(T) を厳密に(Fermi 積分を数値で解いて)求めたものと、Sommerfeld 展開の最初の項とを比べたものである。T≲0.1TF では見分けがつかず、T∼0.3TF あたりから離れ始める。高温では μ は 0 を横切って負になり(T≈TF)、比熱は古典値 23NkB に近づく。金属の TF は 104〜105K なので、融点までの全域が図の左端のごく狭い範囲に収まる。

図 4.1.2 3次元の自由電子気体の化学ポテンシャル。実線は (4.1.11) の2次まで、点線は Fermi 積分 −Li3/2(−eβμ)=3π4(TF/T)3/2 を数値で解いた厳密な値(verify_ch4-01.py)。

図 4.1.3 3次元の自由電子気体の比熱。実線は Sommerfeld 展開の1次 2π2T/TF、点線は厳密な値、破線は古典気体の値 23。
例題 4.1.3 室温の銅の電子はどれだけ動くか ★★
オリジナル例題 4.1.1 の銅(εF=7.03eV、TF=8.16×104K)を T=300K で考える。気体定数を R=8.314Jmol−1K−1 とする。
- (1) εF−μ を eV で求めよ。
- (2) 1電子あたりの比熱 C/(NkB) と、古典値 23 に対する比を求めよ。
- (3) 1 mol あたりの電子比熱の係数 γ=2π2R/TF と、300K での電子比熱を求め、格子の比熱の高温の値 3R と比べよ。
解答
(1) T/TF=3.68×10−3。(4.1.11) から εF−μ=12π2(T/TF)2εF=7.82×10−5eV。kBT=0.0259eV と比べても3桁小さく、金属の μ は室温でも εF と区別しなくてよい。
(2) C/(NkB)=2π2×3.68×10−3=0.0181、古典値との比は 3π2T/TF=0.0121 である(第1部第1章で結果だけ借りた値)。動ける電子の割合 23T/TF=5.5×10−3 と同じ桁である。
(3) γ=2π2×8.314/(8.16×104)=5.03×10−4Jmol−1K−2=0.503mJmol−1K−2。300K では γT=0.151Jmol−1K−1 で、3R=24.9Jmol−1K−1 の 0.6% にすぎない。伝導電子を古典的な気体とみなすと1 mol あたり 23R を足すはずであるが、金属の室温の比熱は Dulong–Petit の値 3R に近い。この食い違いの答えが、電子比熱のこの小ささである。電子比熱を測るには、格子の比熱が T3 で小さくなる低温へ行く必要がある(4.1.5節)。
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