解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第1章 §5.1.5 ★★ トレースの巡回性から KMS 条件と詳細つり合い C~(−ω)=e−βℏωC~(ω) が出て、量子の揺動散逸定理 C~=2ℏImχ/(1−e−βℏω) になる
量子の久保公式
第3部第9章では、古典の系に外力 −F(t)A を加えたときの応答を Liouville 方程式の1次で計算し、揺動散逸定理を出した(第3部第9章)。量子でも同じ手順を von Neumann 方程式で行う。H^−F(t)A^ のもとで ρ^=ρ^eq+δρ^ とおき、F の1次だけを残すと
iℏ∂t∂δρ^=[H^,δρ^]−F(t)[A^,ρ^eq],δρ^(t)=−iℏ1∫−∞tdsF(s)e−iH^(t−s)/ℏ[A^,ρ^eq]eiH^(t−s)/ℏ
である([H^,ρ^eq]=0 を使った)。δ⟨B^⟩=Tr(B^δρ^) を計算し、トレースの巡回性で Tr(B^H[A^,ρ^eq])=⟨[B^H,A^]⟩ と並べ替えると
δ⟨B^⟩(t)=∫−∞∞χBA(t−s)F(s)ds,χBA(t)=ℏiθ(t)⟨[B^H(t),A^]⟩(5.1.26)
を得る(久保の公式)。⟨⋯⟩ は ρ^eq での平均である。交換子を iℏ で割ったものを Poisson 括弧に替えると、第3部第9章の古典の式に戻る。複素感受率 χBA(ω)=∫0∞χBA(t)eiωtdt の定義も第3部第9章と同じにする。
KMS 条件と詳細つり合い
揺らぎの側は、相関関数 CAB(t)=⟨A^H(t)B^⟩ とその Fourier 変換 C~AB(ω)=∫dteiωtCAB(t) で表す。量子では A^H(t) と B^ が交換しないので、並べる順で値が違う。2つの順序を結ぶのが、虚時間の並べ替えの規則である。eβH^A^H(t)e−βH^=A^H(t−iβℏ) とトレースの巡回性から
⟨B^A^H(t)⟩=Z1Tr(A^H(t)e−βH^B^)=Z1Tr(e−βH^A^H(t−iβℏ)B^)=CAB(t−iβℏ)(5.1.27)
が成り立つ。これを KMS 条件(Kubo–Martin–Schwinger)と呼ぶ。熱平衡の相関関数は、時刻を虚数の方向に βℏ ずらすと順序の入れ替わった相関関数になる。虚時間の相関 G(τ)=⟨A^(τ)A^⟩(式 (5.1.15))で書くと G(βℏ−τ)=G(τ) で、5.1.2節の周期 βℏ がここにも現れる。
周波数で見るには、H^ の固有状態で展開するのが早い。pm=e−βEm/Z、Amn=⟨m∣A^∣n⟩、ωnm=(En−Em)/ℏ とするとCAA(t)=∑m,npm∣Amn∣2e−iωnmt だから
C~AA(ω)=2πm,n∑pm∣Amn∣2δ(ω−ωnm)(5.1.28)
である。ω>0 の成分は準位 m から高い準位 n へ上がる過程で、重みは下の準位にいる確率 pm である。ω→−ω にすると m と n の役が入れ替わり、pn=pme−βℏωnm だから
C~AA(−ω)=e−βℏωC~AA(ω)(5.1.29)
を得る。これを詳細つり合いと呼ぶ。式 (5.1.27) の Fourier 変換としても同じ式が出る。系がエネルギー ℏω を放出する揺らぎは、受け取る揺らぎより e−βℏω 倍だけ弱い。古典の C~AA は ω の偶関数で、この非対称は βℏω→0 で消える。
量子の揺動散逸定理
式 (5.1.26) の χAA の虚部を、相関関数で書く。A^ がエルミートなら ⟨[A^H(t),A^]⟩ は純虚数で t の奇関数なので、
ImχAA(ω)=2ℏ1∫−∞∞dteiωt⟨[A^H(t),A^]⟩=2ℏ1[C~AA(ω)−C~AA(−ω)](5.1.30)
である(2つ目の等号は定常性 ⟨A^A^H(t)⟩=CAA(−t) による)。詳細つり合い (5.1.29) を入れると
C~AA(ω)=1−e−βℏω2ℏImχAA(ω) ,21[C~AA(ω)+C~AA(−ω)]=ℏcoth2βℏωImχAA(ω)(5.1.31)
を得る。これが量子の揺動散逸定理で、右の式は対称化した相関についての形である。βℏω≪1 では ℏcoth(βℏω/2)→2kBT/ω となり、第3部第9章の古典の式に戻る。βℏω≫1 では ℏcoth→ℏ で、温度が 0 でも揺らぎが残る。これが零点振動である。古典の揺動散逸定理では揺らぎの大きさを決めたのが kBT だったが、量子では 2ℏωcoth2βℏω、すなわち角振動数 ω の量子の振動子の平均エネルギー(第3部第6章)がその役をする。
例題 5.1.5 振動子の座標の揺らぎを揺動散逸定理から出す ★★
オリジナル質量 m、角振動数 ω0 の調和振動子に外力 F(t) を加えると、座標の応答は古典でも量子でも χqq(ω)=1/[m(ω02−ω2−iγω)] で、γ→+0 とする。
- (1) Imχqq(ω) を求め、式 (5.1.31) から ⟨q^2⟩=∫2πdωC~qq(ω) を計算せよ。
- (2) ℏω0=41.4meV の振動が 300K にある。⟨q^2⟩ と古典の値 kBT/(mω02) の比と、エネルギー ℏω0 を放出する揺らぎと吸収する揺らぎの強さの比を求めよ。
解答
(1) γ→+0 で Imω02−ω2−iγω1=πsgn(ω)δ(ω02−ω2) なのでImχqq(ω)=2mω0π[δ(ω−ω0)−δ(ω+ω0)]。対称化した相関の式に入れて積分すると
⟨q^2⟩=∫2πdωℏcoth2βℏωImχqq(ω)=2mω0ℏcoth2βℏω0
となる(coth と Imχ はどちらも奇関数で、積は偶関数)。準位の分布から直接 ⟨q^2⟩=mω0ℏ(⟨n^⟩+21) と計算した値と一致する(第4部第4章)。
(2) kBT=25.85meV で βℏω0=1.60。比は 2βℏω0coth2βℏω0=1.205 で、量子の揺らぎは古典より 20% 大きい。詳細つり合い (5.1.29) から、放出の側(ω=−ω0)と吸収の側(ω=+ω0)の強さの比は e−1.60=0.202 である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの 外力 F の1次で打ち切る(F による準位の変化が kBT と準位の幅に比べて小さい) | 証明 要確認(第3部第9章と同じく、線形応答の正当化の範囲は原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com