である。F(t) は外から決めて与える時刻の関数(一般化された力)、A はその力が直接つかむ物理量(一般化された座標)である。当てる道具は第3部第1章の Liouville 方程式と、第1部第11章の Poisson 括弧である(3.9.2節)。Liouville 方程式を F の1次まで解くと、物理量 B の応答が平衡の時間相関 ⟨A(0)B(t)⟩ の時間微分で書けることが分かる(久保の公式)。出てくるものは3つある。第一は、揺らぎのスペクトルとエネルギー吸収が同じ関数で決まるという揺動散逸定理である(3.9.3節)。第二は、時間反転について対称な Hamiltonian から摩擦がどうして現れるかの答えで、注目する座標に無数の振動子をつないで消去すると、摩擦と雑音が対になって出てくる(3.9.4節)。第三は、時間反転の対称性から輸送係数の行列が対称になるという Onsager の相反定理である(3.9.5節)。最後に、Einstein の関係・Johnson–Nyquist の雑音・量子力学の久保公式として授業で習った形と並べ(3.9.6節)、まとめと総合問題で終える。
記号の約束を先に書く。この章では外力に F を使うので、Helmholtz の自由エネルギーは記号で書かず −kBTlnZ と書く。相空間の点を Γ=(q,p) とまとめ、Γ から出発して時間 t だけ H(外力なし)で動かした点を φt(Γ) と書く(第1部第12章)。物理量 A の時刻 t の値を A(t):=A(φt(Γ)) と書き、⟨⋯⟩ は初期点 Γ をカノニカル分布 ρeq(Γ)=e−βH(Γ)/Z で平均したものを表す。時間の Fourier 変換は記法の正本の流儀 f~(ω)=∫dtf(t)e+iωt に従う。この章には温度があるので、時間の長さに T を使わない。
外力は Hamiltonian の1項
質量 m の粒子に一様な力 F をかけると、ポテンシャルに −Fq が足される。電荷 e の粒子に一様な電場 E をかけると −eEx が足され、双極子 d を持つ分子に電場 E をかけると −d⋅E が足される。どの場合も、外から決めた数(力・電場)と系の物理量(位置・双極子)の積に負号をつけた項になっている。これを一般化して、外から加える量を F(t)、それがつかむ系の物理量を A(Γ) とし、
HF(Γ,t)=H(Γ)−F(t)A(Γ)(3.9.1)
を選ぶ。F と A の積がエネルギーの次元を持つように F の単位を決める。A が位置なら F は力、A が双極子なら F は電場である。F を一般化された力、A をそれに共役な座標と呼ぶ。負号をつける理由は、F>0 のとき A を大きくした方がエネルギーが下がり、A が F の向きへ引かれるようにするためである。
この形の外力は Hamilton 方程式の中で力として働く。A=q なら p˙=−∂HF/∂q=−∂H/∂q+F(t) で、Newton の運動方程式に力 F(t) を足したものになる。外力を Hamiltonian の項として入れたので、外力があっても運動は Hamilton 方程式に従い、相空間の流れは体積を保つ(第3部第1章 の Liouville の定理は時刻を含む H でも成り立つ)。この性質が 3.9.2節で Liouville 方程式をそのまま使える根拠になる。
静的な感受率は揺らぎに等しい
まず F が時刻によらない一定値のときを考える。十分長く待てば、系は HF のカノニカル分布 e−β(H−FA)/ZF に落ち着くと仮定する(どの分布に落ち着くかは Liouville 方程式だけでは決まらない。この仮定の位置づけは 第3部第3章 を参照)。このとき物理量 B の平均は
を得る。添字の T は等温(isothermal)の頭文字で、温度を一定に保ったまま力をかけたときの感受率という意味である。B=A とおけば χAAT=βVar(A) で、力をかけたときに A がどれだけ動くか(応答)は、力をかけないときに A が自然にどれだけ揺らいでいるか(揺らぎ)に β を掛けたものになる。分散は負にならないので、χAAT≥0、つまり力の向きに A が動くことも同時に分かる。