解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第9章 §3.9.6 ★★ Einstein の関係・Johnson–Nyquist の雑音・Drude の交流伝導度・量子の久保公式は、どれもこの章の古典の式の特別な場合か量子化した形である
Einstein の関係と Nyquist の雑音
半導体や電気化学の授業では、移動度 μe(電場あたりの終端速度)と拡散係数 D のあいだの Einstein の関係を
D=eμekBT
と習う。電荷 e の粒子に電場 E をかけると力は F=eE なので、vd/F=μe/e で、これは式 (3.9.25) そのものである。授業ではこの式を、拡散の流れとドリフトの流れが釣り合う平衡(濃度が Boltzmann 分布)の条件から出すことが多い。この章ではそれを久保の公式の一例として出した。
電気回路の授業では、抵抗 R の両端に現れる熱雑音(Johnson–Nyquist 雑音)を、帯域 Δf あたり
V2=4kBTRΔf
と習う(Johnson (1928), Phys. Rev. 32, 97 が測り、Nyquist (1928), Phys. Rev. 32, 110 が導いた)。この章の形に直す。インダクタンス L、抵抗 R、容量 C の直列回路の電荷 q はLq¨+Rq˙+q/C=Vext に従い、これは式 (3.9.16) で m→L, mγ→R, mω02→1/C と読み替えたものである。熱浴の雑音 ξ は抵抗の中の電圧の揺らぎで、式 (3.9.23) から ⟨ξ(t)ξ(s)⟩=2RkBTδ(t−s)、そのパワースペクトルは周波数によらず C~ξξ(ω)=2RkBT である。この章の C~ は −∞<ω<∞ の両側に広がり dω/(2π)=df で積分するものなので、正の周波数だけで数える授業の流儀に直すと2倍して 4RkBT になる。
Drude の交流伝導度
固体物理の授業では、Drude の交流伝導度を σ(ω)=σ0/(1−iωτ) と習う。久保の公式で、外力を電場 F=E(x 方向)、それがつかむ量を A=∑a(−e)xa(電子の電荷 −e と位置の積の和)とし、B を電流密度 Jx=Vvol1∑a(−e)va(Vvol は体積)とすると、A˙=VvolJx なので伝導度は電流の相関の積分 σ(ω)=βVvol∫0∞⟨Jx(0)Jx(t)⟩eiωtdt になる。粒子どうしの速度の相関を無視すると Vvol⟨Jx(0)Jx(t)⟩=ne2⟨v(0)v(t)⟩ で、1粒子の速度の相関を緩和時間 τ で ⟨v(0)v(t)⟩=mkBTe−t/τ とおくと、σ(ω)=ne2β∫0∞mkBTe−t/τeiωtdt=1−iωτne2τ/m で、授業の式が出る。同じ式を Boltzmann 方程式の緩和時間近似から出す道筋は第3部第8章にある(第3部第8章)。
量子力学の久保公式
量子統計の授業では、久保の公式を
χBA(t)=ℏiθ(t)⟨[B^H(t),A^]⟩eq
と習う。B^H(t) は Heisenberg 描像の演算子、⟨⋯⟩eq=Tr(ρ^eq⋯) である。古典との対応は、交換子を Poisson 括弧に置き換える規則 [⋅,⋅]/(iℏ)→{⋅,⋅}(第4部第1章)で見える。i/ℏ=−1/(iℏ) だから右辺は −⟨{B(t),A}⟩=⟨{A,B(t)}⟩ になり、部分積分(∫{A,ρB}dΓ=0)と式 (3.9.6) から⟨{A,B(t)}⟩=−∫B(t){A,ρeq}dΓ=β⟨A˙(0)B(t)⟩ となって、式 (3.9.8) に戻る。
揺動散逸定理の量子版は、対称化しない相関 C~AA(ω)=∫dteiωt⟨A^H(t)A^⟩eq について
C~AA(ω)=1−e−βℏω2ℏImχAA(ω)
である。βℏω≪1 では 1−e−βℏω≈βℏω で、古典の式 (3.9.15) に戻る。量子の式では C~(−ω)=e−βℏωC~(ω) で、正と負の周波数が対称でない。正の周波数(系がエネルギーを受け取る向き)の揺らぎは、低い準位にいる確率が高い分だけ大きい。量子統計の一般論は第5部第1章で扱う(第5部第1章)。
例題 3.9.6 抵抗の熱雑音と量子の補正 ★
オリジナル
- (1) R=1kΩ の抵抗が 300K にある。帯域 10kHz で測った雑音電圧の2乗平均の平方根を求めよ。
- (2) 古典の揺動散逸定理が使えなくなるのは、ℏω が kBT と同じ程度になる周波数である。300K でその周波数 f=kBT/h を求めよ。
- (3) (1) の周波数 10kHz での βℏω を求め、量子の補正が無視できることを確かめよ。
解答
(1) 4kBTRΔf=4×1.381×10−23×300×103×104=4.07×10−7V=0.407μV。
(2) f=kBT/h=1.381×10−23×300/(6.626×10−34)=6.25×1012Hz(6.25THz、赤外線の領域)。
(3) βℏω=hf/(kBT)=6.626×10−34×104/(4.14×10−21)=1.6×10−9。量子の因子 βℏω/(1−e−βℏω) は 1+βℏω/2 と書けるので、補正は 10−9 の程度で無視できる。電気回路の周波数では揺らぎは古典で扱ってよく、熱雑音が量子の性質を示すのは、極低温かテラヘルツ帯に限られる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com