解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第9章 §3.9.3 ★★★ 周波数で書くと、応答の虚部(エネルギーの吸収)と揺らぎのスペクトルが C~AA(ω)=(2kBT/ω)ImχAA(ω) で結ばれる
周波数で見た応答
外力を F(t)=Re[F0e−iωt] と単振動させると、式 (3.9.8) から応答も同じ周波数で振動し、
δ⟨B⟩(t)=Re[χBA(ω)F0e−iωt],χBA(ω)=∫0∞χBA(t)eiωtdt(3.9.12)
となる。χ(ω) を複素感受率(周波数応答)と呼ぶ。χ(t) は実数なので χ(−ω)=χ(ω)∗、すなわち実部 Reχ は ω の偶関数、虚部 Imχ は奇関数である。積分が t>0 だけにわたることから、χ(ω) は ω を複素数に延長したとき上半面(Imω>0)で正則になり、実部と虚部は Kramers–Kronig の関係で結ばれる(因果律だけから出る。光学と量子エレクトロニクス 第12章)。
虚部はエネルギーの吸収
外力がする仕事を計算する。外力のない Hamiltonian H の時間変化は、HF の流れに沿ってdtdH={H,HF}=−F{H,A}=FA˙ である。単振動の外力で時間平均をとると、δ⟨A⟩=Re[χF0e−iωt] の時間微分 Re[−iωχF0e−iωt] と F の積の平均は記法の正本の公式 Re[ae−iωt]Re[be−iωt]=21Re(ab∗) から
P=FA˙=21Re[F0(−iωχAAF0)∗]=2ω∣F0∣2ImχAA(ω)(3.9.13)
となる。Imχ が外力のエネルギーを系が吸収する割合を決める。系が熱平衡にあって外からエネルギーを取り出せない(第二法則)なら、ω>0 で ImχAA(ω)≥0 でなければならない。吸収されたエネルギーは最終的に熱になるので、Imχ を応答の散逸の部分と呼ぶ。
揺動散逸定理
一方、外力のない平衡での揺らぎの周波数の分布は、相関関数の Fourier 変換
C~AA(ω)=∫−∞∞CAA(t)eiωtdt,∫−∞∞2πdωC~AA(ω)=CAA(0)=Var(A)(3.9.14)
で表される。これを揺らぎのパワースペクトルと呼ぶ。古典系で A=B の相関関数は実数で偶関数(CAA(−t)=⟨A(0)A(−t)⟩=⟨A(t)A(0)⟩=CAA(t))なので、C~AA(ω)=2∫0∞CAA(t)cosωtdt も実数で偶関数である。
久保の公式 (3.9.10) を式 (3.9.12) に入れ、部分積分すると
χAA(ω)=−β∫0∞C˙AA(t)eiωtdt=βCAA(0)+iωβ∫0∞CAA(t)eiωtdt
である(CAA(∞)=0 とした)。虚部をとると、∫0∞CAAcosωtdt=C~AA(ω)/2 だから
C~AA(ω)=ω2kBTImχAA(ω) (3.9.15)
を得る。これが古典系の揺動散逸定理である。左辺は外力をかけない平衡で A がどの周波数でどれだけ揺らいでいるか、右辺は周波数 ω の外力のエネルギーをどれだけ吸収するかである。散逸の大きい周波数では揺らぎも大きい。右辺は正なので、Imχ≥0 は揺らぎのスペクトルが負にならないことと同じ内容になっている。量子系への一般化は Callen と Welton が与えた(Callen and Welton (1951), Phys. Rev. 83, 34。3.9.6節)。
摩擦のある振動子で確かめる
具体的な例として、質量 m の粒子が角振動数 ω0 のばねにつながれ、速度に比例する摩擦 −mγq˙ を受けながら温度 T の環境にいる場合を考える。運動方程式は3.9.4節で Hamiltonian から導く Langevin 方程式
mq¨=−mω02q−mγq˙+ξ(t)+F(t),⟨ξ(t)ξ(s)⟩=2mγkBTδ(t−s)(3.9.16)
で、ξ(t) は環境が及ぼす乱雑な力である。ここでは結果だけ使う。外力 F0e−iωt への応答は q=χF0e−iωt とおいて
χqq(ω)=m(ω02−ω2−iγω)1,Imχqq(ω)=m[(ω02−ω2)2+γ2ω2]γω(3.9.17)
である。時間の側では、γ<2ω0 のとき ω1=ω02−γ2/4 として
Cqq(t)=mω02kBTe−γ∣t∣/2(cosω1t+2ω1γsinω1∣t∣),χqq(t)=mω1e−γt/2sinω1tθ(t)(3.9.18)
で、χqq(t)=−βC˙qq(t) が成り立つ(検算スクリプトで確かめた)。図 3.9.1 に2つを描いた。C は t=0 で傾き 0 から出発し、χ は 0 から立ち上がる。χ は C の傾きに負号をつけたものなので、C が下がっている間 χ は正になる。

図 3.9.1 摩擦のある振動子(γ=0.4ω0)の平衡の相関関数 Cqq(t)(実線)と応答関数 χqq(t)(破線)。どちらも式 (3.9.18) の厳密な形で、縦軸は無次元にした。χ=−βC˙ なので、C の極大・極小で χ は 0 を横切る。
周波数の側では、式 (3.9.18) の Fourier 変換が C~qq(ω)=2γkBT/{m[(ω02−ω2)2+γ2ω2]} で、式 (3.9.17) の虚部と比べると揺動散逸定理 (3.9.15) がそのまま成り立っている(図 3.9.2)。積分の公式 ∫−∞∞dω/[(ω02−ω2)2+γ2ω2]=π/(γω02) を使うと ∫C~dω/(2π)=kBT/(mω02) で、式 (3.9.14) の和則は等分配則 ⟨q2⟩=kBT/(mω02) を再現する。摩擦の大きさ γ はスペクトルの形を変えるが、面積(全体の揺らぎ)は変えない。

図 3.9.2 同じ振動子(γ=0.4ω0)の揺らぎのスペクトル C~qq(ω)(実線)と応答の虚部 Imχqq(ω)(破線)。どの ω でも実線の値は破線の値の 2kBT/ω 倍で、これが揺動散逸定理 (3.9.15) である。ω→0 で Imχ は 0 に向かうが、C~ は 2γkBT/(mω04) に向かう。
例題 3.9.3 共鳴での吸収と和則 ★★
オリジナル式 (3.9.16) の振動子に外力 F(t)=F0cosωt(F0 は実数)をかける。
- (1) 平均の吸収の仕事率 P(ω) を求め、共鳴 ω=ω0 での値を F0,m,γ で書け。摩擦の小さい極限 γ→0 で何が起きるか。
- (2) Kramers–Kronig の関係から出る和則 χqq(0)=π2∫0∞ωImχqq(ω)dω を、γ=0.4ω0 で数値的に確かめよ。
- (3) (2) の和則と揺動散逸定理 (3.9.15) を組み合わせると、どの関係が出るか。
解答
(1) 式 (3.9.13) と (3.9.17) からP(ω)=2F02m[(ω02−ω2)2+γ2ω2]γω2。ω=ω0 では P=F02/(2mγ) である。γ→0 では共鳴での吸収が発散し、共鳴の幅 γ は 0 に縮む。P(ω) の ω についての面積 ∫0∞Pdω は πF02/(4m) で γ によらないので、吸収は ω0 に集中した細い山になる。摩擦がなければ、共鳴の外力は振動子のエネルギーを際限なく増やし、平均の吸収は定常にならない。
(2) Imχ/ω=γ/{m[(ω02−ω2)2+γ2ω2]} は偶関数なので、∫0∞ は ∫−∞∞ の半分で mγ⋅2γω02π。2/π を掛けると 1/(mω02)=χqq(0) に一致する。数値積分でも γ=0.4ω0、m=ω0=1 で 1.000000 を得る(検算スクリプト)。
(3) 揺動散逸定理で Imχ/ω=C~/(2kBT) を代入すると、χqq(0)=π2∫0∞2kBTC~qqdω=β∫−∞∞2πdωC~qq=βCqq(0)。これは静的な感受率と揺らぎの関係 (3.9.3) そのものである。3.9.1節の静的な関係は、揺動散逸定理を周波数で積分したものになっている。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com