解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部 第9章 §3.9.5 ★★★ H が時間反転について対称なら χBA=ϵAϵBχAB。磁場があるときは磁場の向きも反転させる(Onsager–Casimir)
時間反転の写像
相空間の時間反転を Θ:(q,p)↦(q,−p) と書く。H(q,p)=∑ipi2/(2m)+U(q) の形の Hamiltonian は H(ΘΓ)=H(Γ) を満たし、このとき「ΘΓ から出発して時間 t 進んだ点」は「Γ から時間 t 戻った点」を反転したものに等しい。
φt(ΘΓ)=Θφ−t(Γ)(3.9.26)
これは、Hamilton 方程式で p→−p, t→−t とすると同じ方程式に戻ることの言い換えである。物理量 A が時間反転で A(ΘΓ)=ϵAA(Γ)(ϵA=±1)を満たすとき、ϵA を A の時間反転のパリティと呼ぶ。位置・双極子・エネルギーは ϵ=+1、運動量・速度・電流・角運動量は ϵ=−1 である。Θ の Jacobi 行列式の絶対値は 1 で、ρeq(ΘΓ)=ρeq(Γ) である。
相関関数の対称性
相関関数 CAB(t)=∫ρeq(Γ)A(Γ)B(φtΓ)dΓ(平均は 0 としておく)で積分変数を Γ=ΘΓ′ に取り替える。式 (3.9.26) を使うと
CAB(t)=∫ρeq(Γ′)ϵAA(Γ′)ϵBB(φ−tΓ′)dΓ′=ϵAϵB⟨A(0)B(−t)⟩=ϵAϵB⟨B(0)A(t)⟩
で、最後に時刻の原点を t だけずらした。したがって CAB(t)=ϵAϵBCBA(t) で、久保の公式 (3.9.10) から
χBA(t)=ϵAϵBχAB(t) (3.9.27)
を得る。「A をつかむ力で押したときの B の応答」と「B をつかむ力で押したときの A の応答」が、パリティの積を除いて等しい。これが Onsager の相反定理である(Onsager (1931), Phys. Rev. 37, 405; 38, 2265)。導出に使ったのは、Liouville の定理(体積が保たれる)と、運動方程式の時間反転の対称性だけである。
磁場があるとき
荷電粒子が磁場の中にあると、Hamiltonian は (p−qA)2/(2m) を含み(第2部第2章)、p→−p だけでは不変でない。しかし (−p−qA)2=(p+qA)2 なので、p→−p と同時にベクトルポテンシャル(したがって磁場 B)の向きも反転させれば元に戻る。同じ計算を繰り返すと
χBA(t;B)=ϵAϵBχAB(t;−B)(3.9.28)
となる。これを Onsager–Casimir の関係と呼ぶ(Casimir (1945), Rev. Mod. Phys. 17, 343)。磁場の中では、x 方向に押して y 方向に出る応答と、y 方向に押して x 方向に出る応答は等しくなくてよい。等しいのは、磁場を反転させた系の応答とである。検算スクリプトでは、磁場中の2次元の振動子で Cxy(t;B)=Cyx(t;−B) が成り立ち、Cxy(t;B)=Cyx(t;B) であることを確かめた。
輸送係数の対称性
定常な輸送では、流れ Ji(電流・熱流)と、それを駆動する力 Xj(電場・温度勾配)を線形に結ぶ Ji=∑jLijXj の係数行列 Lij に式 (3.9.27) が当てはまる。流れはどれも時間反転で符号を変える量(ϵ=−1)で、ϵiϵj=+1 だから
Lij(B)=Lji(−B)(3.9.29)
である。熱電効果では、温度差で電流を流す係数(Seebeck 効果)と電流で熱を運ぶ係数(Peltier 効果)がこの対称性で結ばれ、Kelvin の関係(Peltier 係数 = 温度 × Seebeck 係数)が出る。その計算は固体の巻に送る(ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部第3章)。
例題 3.9.5 磁場中の Drude 伝導度と相反定理 ★★
オリジナル電荷 −e、質量 m の電子(密度 n)が、緩和時間 τ の Drude 模型 mv˙=−e(E+v×B)−mv/τ に従う。B=Bez、電場は xy 面内とする。
- (1) 定常状態の電流 J=−nev から伝導度の行列 σij(Ji=∑jσijEj)を求めよ。σ0=ne2τ/m、ωc=eB/m とおく。
- (2) σxy(B)=σyx(−B) を確かめ、これが式 (3.9.29) の一例であることを説明せよ。
- (3) ωcτ=1 のとき σxx と σxy を σ0 で書け。
解答
(1) 定常 v˙=0 で vx=−meτ(Ex+vyB), vy=−meτ(Ey−vxB)。これを解いて J=−nev を作ると
σxx=σyy=1+(ωcτ)2σ0,σxy=−σyx=−1+(ωcτ)2σ0ωcτ.
(2) σyx(B)=+σ0ωcτ/(1+(ωcτ)2) で ωc∝B だから、B→−B とすると σyx(−B)=−σ0ωcτ/(1+(ωcτ)2)=σxy(B)。電流 Jx, Jy はどちらも時間反転で符号を変え、電場がつかむ量(分極、すなわち位置)はどちらも符号を変えない。パリティの積は等しいので、式 (3.9.29) は σxy(B)=σyx(−B) を要求し、Drude 模型はそれを満たしている。一方 σxy(B)=σyx(B)(符号が逆)で、磁場があると伝導度の行列は対称でない。この反対称な部分が Hall 効果である。
(3) ωcτ=1 では σxx=σ0/2、σxy=−σ0/2。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com