解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第12章 §5.12.6 ★★ Planck 分布のカノニカルな導出・Doppler 効果・Stefan–Boltzmann の法則・次元解析と、この章の Bogoliubov 係数・指数関数の赤方偏移・虚時間の周期を並べる
Planck 分布:カノニカル分布と Bogoliubov 係数
統計力学の授業では、角振動数 Ω のモードに量子が n 個ある状態の重みを e−nℏΩ/(kBT) とし、
⟨n⟩=∑ne−nℏΩ/(kBT)∑nne−nℏΩ/(kBT)=eℏΩ/(kBT)−11(5.12.42)
と Planck 分布を出す。この章では、同じ式が ∣β∣2/∣α∣2=e−2πcΩ/a と ∣α∣2−∣β∣2=1 から∣β∣2=1/(e2πcΩ/a−1) として出た。2つが同じになる理由は、式 (5.12.28) を満たす状態を書き下すと分かる。R と L のモード1組(同じ Ω)について
∣0M⟩=1−e−2πνn=0∑∞e−nπν∣nL⟩∣nR⟩(5.12.43)
が2つの条件を満たす(5.12.6)。右の楔の観測者は L の自由度を見ないので、L について部分トレースを取った密度行列
ρ^R=TrL∣0M⟩⟨0M∣=(1−e−2πν)n∑e−2πnν∣nR⟩⟨nR∣=Ze−H^R/(kBTU)(5.12.44)
で状態を記述する(H^R=ℏΩb^R†b^R、2πν=ℏΩ/(kBTU))。これは式 (5.12.42) のカノニカル分布そのものである。授業の式の「重み e−nℏΩ/(kBT)」は、この章では「全体は純粋状態で、見えない相手と n 個ずつ対になっている振幅 e−nπν の2乗」として出てくる。式 (5.12.43) の形の状態は、熱場の理論で熱場二重状態(thermofield double)と呼ばれる。
Doppler 効果と指数関数の赤方偏移
特殊相対論の授業では、光源から遠ざかる速さ v の観測者が受け取る角振動数を ωobs=ω(1−v/c)/(1+v/c) と習う。速度をラピディティ θ(v/c=tanhθ)で書くと (1−v/c)/(1+v/c)=e−θ である。加速度 a の観測者のラピディティは固有時 τ に比例して θ=aτ/c と増えるので(第2部第3章)、後ろから来る光の角振動数は
ωobs(τ)=ωe−aτ/c=ωdτdU(5.12.45)
と指数関数で下がる。式 (5.12.21) の U=−ace−au/c は、このことを座標で書いたものである。単一の振動数の波が指数関数で赤方偏移していくと、その Fourier 成分は1つの振動数に集まらず、広がった分布になる。その分布の形が Planck 分布になる、というのが5.12.3節の計算の中身である。ブラックホールでは、地平面のそばから出た光が遠方へ届くまでに受ける重力赤方偏移がe−κu/c と指数関数になり、同じことが起きる。
Stefan–Boltzmann の法則と次元解析
3次元の黒体の放射のエネルギーの流れは σSBT4 で、1次元では πkB2T2/(12ℏ) である(5.12.3の (3))。次数の違いは、角振動数あたりのモードの数が3次元で Ω2、1次元で Ω0 に比例することによる。式 (5.12.40) の P∝M−2 は3次元の T4∝M−4 と面積 A∝M2 の積で、2次元の模型の T2∝M−2 と偶然同じ次数になる。
Hawking 温度の大きさは次元解析で見当がつく。ブラックホールの大きさ rs と同じ桁の波長の量子のエネルギーは ℏc/rs で、kBTH=ℏc/(4πrs) はその 1/(4π) である。古典の一般相対論には ℏ が無いので、温度は ℏ に比例するしかない。「地平面のそばで仮想的な粒子の対ができ、片方が落ちて片方が逃げる」という説明が一般向けの解説でよく使われる。式 (5.12.43) の対の構造はその描像の数式の側にあたるが、この章の計算は粒子の対ができる場所を地平面の上の点に決めていない。モードの波長が rs と同じ桁なので、粒子の位置を地平面の近くに限ることには意味がない。
例題 5.12.6 熱場二重状態の確かめ ★★
オリジナルR と L の1組のモード([b^R,b^R†]=[b^L,b^L†]=1、R と L の演算子は交換する)を考え、q=e−πν とおく。
- 状態 ∣ψ⟩=∑ncn∣nL⟩∣nR⟩ が (b^R−qb^L†)∣ψ⟩=0 を満たす条件を cn の漸化式で書き、規格化した cn を求めよ。
- もう1つの条件 (b^L−qb^R†)∣ψ⟩=0 も満たされることを確かめよ。
- ⟨b^R†b^R⟩ を求め、ν=0.2 のときの値を出せ。
解答
(1) b^R∣ψ⟩=∑ncnn∣nL⟩∣(n−1)R⟩、b^L†∣ψ⟩=∑mcmm+1∣(m+1)L⟩∣mR⟩。後者で m=n−1 とおいて係数を比べると cnn=qcn−1n、つまり cn=qcn−1 で cn=c0qn。規格化 ∑∣cn∣2=∣c0∣2/(1−q2)=1 から cn=1−q2qn。これが式 (5.12.43) である。
(2) 状態が L と R について対称(cn が L と R の入れ替えで変わらない)なので、(1) の計算で L と R を入れ替えれば同じ漸化式が出る。
(3) R の粒子が n 個である確率は ∣cn∣2=(1−q2)q2n で、
⟨b^R†b^R⟩=n∑n(1−q2)q2n=1−q2q2=e2πν−11.
ν=0.2 では 1/(e0.4π−1)=0.398。2πν=ℏΩ/(kBTU) なので、これは ℏΩ=1.26kBTU のモードの Planck 分布の値である。
図 5.12.3 に、粒子の数 ∣β∣2=1/(ex−1)(x=ℏΩ/(kBT))と、古典の等分配に対応する 1/x を並べる。x≪1(加速度の目盛りに比べて低い振動数)では2つが一致し、x≳1 で量子の分布は指数関数で小さくなる。

図 5.12.3 Bogoliubov 係数から出た粒子数 ∣β∣2=1/(ex−1)(点線、厳密)と、古典の等分配の近似 1/x(実線)。x=2πcΩ/a(Unruh)または 2πcΩ/κ(Hawking)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com