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エネルギーの誤差は波動関数の誤差の2乗

2026年10月9日7分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4章 射影型近似:Rayleigh–Ritz・Galerkin と収束の速さ

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第4章 §4.3 ★★★ 「エネルギーは合うのに他の物理量が合わない」という量子化学の経験則の数学的な理由

前の例題で、エネルギーの相対誤差 1.5×10−51.5\times10^{-5} に対して、波動関数の誤差はどのくらいだろうか。次の恒等式が答えを与える。

命題 4.10(エネルギー誤差の恒等式 ★★★)

Hψ0=E0ψ0H\psi_0=E_0\psi_0、∥ψ0∥=1\lVert \psi_0\rVert =1 とし、近似 ψ~\tilde\psi を ⟨ψ0, ψ~⟩=1\langle \psi_0,\,\tilde\psi\rangle =1 となるように位相と大きさをそろえてψ~=ψ0+e\tilde\psi=\psi_0+e(e⊥ψ0e\perp\psi_0)と書く。このとき

⟨ψ~, Hψ~⟩∥ψ~∥2−E0=⟨e, (H−E0)e⟩1+∥e∥2.(4.7)\frac{\langle \tilde\psi,\,H\tilde\psi\rangle }{\lVert \tilde\psi\rVert ^2}-E_0=\frac{\langle e,\,(H-E_0)e\rangle }{1+\lVert e\rVert ^2}.\tag{4.7}

さらに E0E_0 が基底状態でその上の固有値(またはスペクトル)が E1E_1 以上なら

(E1−E0)∥e∥21+∥e∥2≤⟨ψ~, Hψ~⟩∥ψ~∥2−E0≤⟨e, (H−E0)e⟩1+∥e∥2.(4.8)\frac{(E_1-E_0)\lVert e\rVert ^2}{1+\lVert e\rVert ^2}\le\frac{\langle \tilde\psi,\,H\tilde\psi\rangle }{\lVert \tilde\psi\rVert ^2}-E_0\le\frac{\langle e,\,(H-E_0)e\rangle }{1+\lVert e\rVert ^2}.\tag{4.8}

証明

(H−E0)ψ0=0(H-E_0)\psi_0=0 と HH の自己共役性から ⟨ψ0, (H−E0)e⟩=⟨(H−E0)ψ0, e⟩=0\langle \psi_0,\,(H-E_0)e\rangle =\langle (H-E_0)\psi_0,\,e\rangle =0。したがって⟨ψ~, (H−E0)ψ~⟩=⟨e, (H−E0)e⟩\langle \tilde\psi,\,(H-E_0)\tilde\psi\rangle =\langle e,\,(H-E_0)e\rangle。これを ∥ψ~∥2=1+∥e∥2\lVert \tilde\psi\rVert ^2=1+\lVert e\rVert ^2 で割れば (4.7)。下からの評価は、e⊥ψ0e\perp\psi_0 なのでスペクトル分解で ee は E1E_1 以上の成分しか持たず、⟨e, (H−E0)e⟩≥(E1−E0)∥e∥2\langle e,\,(H-E_0)e\rangle \ge(E_1-E_0)\lVert e\rVert ^2 となることから従う。

右辺 ⟨e, (H−E0)e⟩\langle e,\,(H-E_0)e\rangle は誤差 ee のエネルギーノルムの2乗(運動エネルギーを含む重み付きの2乗ノルム)である。すなわち

E[ψ~]−E0  ≈  ∥ψ~−ψ0∥エネルギー2,E[\tilde\psi]-E_0\;\approx\;\lVert \tilde\psi-\psi_0\rVert ^2_{\text{エネルギー}},

エネルギーの誤差は波動関数の誤差の2乗になる。理由は、E0E_0 が Rayleigh 商の停留点(最小点)であることに尽きる。関数の最小点の近くでは、変数を δ\delta ずらしても関数値は δ2\delta^2 しか変わらない。

これに対して、エネルギー以外の物理量 AA の期待値は

⟨ψ~, Aψ~⟩/∥ψ~∥2−⟨ψ0, Aψ0⟩=2Re⁡⟨e, Aψ0⟩+O(∥e∥2)\langle \tilde\psi,\,A\tilde\psi\rangle /\lVert \tilde\psi\rVert ^2-\langle \psi_0,\,A\psi_0\rangle =2\operatorname{Re}\langle e,\,A\psi_0\rangle +\mathcal{O}(\lVert e\rVert ^2)

と、誤差の1乗で変わる。ψ0\psi_0 は AA の期待値の停留点ではないからである。エネルギーで 10−410^{-4} の精度が出ていても、波動関数の誤差は 10−210^{-2} 程度ありえ、他の物理量の誤差も 10−210^{-2} 程度になる。量子化学で「全エネルギーは良いのに双極子モーメントや超微細結合定数が合わない」と言われるのはこのためである。とくに超微細結合定数(Fermi 接触項)は原子核の位置での電子密度 ∣ψ(0)∣2\lvert \psi(0)\rvert ^2 に比例し、変分法の最適化がほとんど気にしない一点の値なので、外れ方が大きい(4.5節の数値例を参照)。

励起状態と縮退

(4.8) の下からの評価は、ギャップ E1−E0E_1-E_0 が小さいと弱くなる。ほぼ縮退した状態がある系では、エネルギーが良く合っていても、波動関数は縮退した状態どうしの混合が決まらず、大きく外れていることがある。

例題 4.3 箱の中の粒子で誤差の2乗則を確かめる ★★

オリジナルH=−d2dx2H=-\frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d} x^2} を (0,1)(0,1) 上で ψ(0)=ψ(1)=0\psi(0)=\psi(1)=0 のもとで考える。基底状態は ψ0=2sin⁡πx\psi_0=\sqrt2\sin\pi x、E0=π2E_0=\pi^2 で、x=1/2x=1/2 について対称な次の固有状態の固有値は 9π29\pi^2 である。試行関数 ϕ=x(1−x)\phi=x(1-x) の Rayleigh 商は 1010 であった(例題 4.2)。

  1. ⟨ψ0, ϕ⟩\langle \psi_0,\,\phi\rangle を求め、ψ~=ϕ/⟨ψ0, ϕ⟩\tilde\psi=\phi/\langle \psi_0,\,\phi\rangle と大きさをそろえたときの ∥e∥2=∥ψ~∥2−1\lVert e\rVert ^2=\lVert \tilde\psi\rVert ^2-1 を求めよ。
  2. 命題 4.10 の (4.8) の左側の不等式が成り立つことを数値で確かめよ。
  3. エネルギー以外の量として A=(x−12)2A=(x-\frac12)^2 をとり、期待値の相対誤差をエネルギーの相対誤差と比べよ。
解答

(1) 部分積分を3回行うと ∫01x(1−x)sin⁡πx dx=4/π3\int_0^1x(1-x)\sin\pi x\,\mathrm{d} x=4/\pi^3 なので ⟨ψ0, ϕ⟩=42/π3\langle \psi_0,\,\phi\rangle =4\sqrt2/\pi^3 である。∥ϕ∥2=∫01x2(1−x)2 dx=1/30\lVert \phi\rVert ^2=\int_0^1x^2(1-x)^2\,\mathrm{d} x=1/30 と合わせて

∥e∥2=∥ϕ∥2⟨ψ0, ϕ⟩2−1=π6960−1=1.4471×10−3,∥e∥=0.0380.\lVert e\rVert ^2=\frac{\lVert \phi\rVert ^2}{\langle \psi_0,\,\phi\rangle ^2}-1=\frac{\pi^6}{960}-1=1.4471\times10^{-3},\qquad \lVert e\rVert =0.0380 .

ψ~−ψ0\tilde\psi-\psi_0 が ψ0\psi_0 に直交することは、⟨ψ0, ψ~⟩=1=∥ψ0∥2\langle \psi_0,\,\tilde\psi\rangle =1=\lVert \psi_0\rVert ^2 から従う。波動関数の誤差は約 3.8%3.8\% である。

(2) ϕ\phi も ψ0\psi_0 も x=1/2x=1/2 について対称なので ee も対称で、ee は対称な励起状態の成分しか持たない。したがって (4.8) の E1E_1 には 9π29\pi^2 を使ってよい。左辺は

8π2∥e∥21+∥e∥2=0.1141,\frac{8\pi^2\lVert e\rVert ^2}{1+\lVert e\rVert ^2}=0.1141,

右辺に当たるエネルギーの誤差は 10−π2=0.130410-\pi^2=0.1304 で、確かに 0.1141≤0.13040.1141\le0.1304 である。対称性を使わずに E1=4π2E_1=4\pi^2 とすると左辺は 0.04280.0428 になり、不等式は成り立つが弱くなる。どちらの場合も、エネルギーの誤差は「ギャップ ×∥e∥2\times\lVert e\rVert ^2」の大きさであって、∥e∥\lVert e\rVert の1乗の大きさではない。

(3) 近似のほうは ∫01(x−12)2x2(1−x)2 dx/∥ϕ∥2=(1/840)/(1/30)=1/28=0.03571\int_0^1(x-\frac12)^2x^2(1-x)^2\,\mathrm{d} x\big/\lVert \phi\rVert ^2=(1/840)/(1/30)=1/28=0.03571。厳密なほうは 2∫01(x−12)2sin⁡2πx dx=112−12π2=0.032672\int_0^1(x-\frac12)^2\sin^2\pi x\,\mathrm{d} x=\frac1{12}-\frac1{2\pi^2}=0.03267。相対誤差は 0.0930.093、すなわち 9.3%9.3\% で、エネルギーの相対誤差 (10−π2)/π2=1.3%(10-\pi^2)/\pi^2=1.3\% の約7倍である。AA の期待値は ψ0\psi_0 で停留しないので誤差は ∥e∥\lVert e\rVert の1乗で入り、しかも AA は壁の近くに重みを置くので、ϕ\phi と ψ0\psi_0 の形の違いが大きく出る場所を拾っている(検算スクリプト)。

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