tecktom.com

収束の速さは解の正則性で決まる

2026年10月9日22分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4章 射影型近似:Rayleigh–Ritz・Galerkin と収束の速さ
目次
  1. 滑らかさと展開係数の減り方
  2. Kato のカスプ条件
  3. ガウス基底はカスプを表せない
  4. 数値実験:尖りのある解と滑らかな解で収束の速さを比べる
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第4章 §4.5 ★★★ 量子化学の計算がなかなか収束しない根本の理由=波動関数の尖り(カスプ)

Céa の補題で、Galerkin 法の誤差は inf⁡v∈Vn∥u−v∥\inf_{v\in V_n}\lVert u-v\rVert、つまり「真の解を nn 個の関数の線型結合でどこまで近似できるか」に帰着した。この量が nn とともにどう減るかは、真の解の正則性(何回微分できるか、どこで尖るか)で決まる。正則性という語は「規則正しさ」の意で、ここでは関数の滑らかさの度合いを指す。

滑らかさと展開係数の減り方

最も単純な場合として、周期 2π2\pi の関数 ff の Fourier 展開 f(x)=∑mf^meimxf(x)=\sum_m\hat f_m\mathrm{e}^{\mathrm{i} mx} を考える。f^m=12π∫02πf(x)e−imxdx\hat f_m=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}f(x)\mathrm{e}^{-\mathrm{i} mx}\mathrm{d} x を kk 回部分積分すると(周期性で境界項は消える)

f^m=1(im)k⋅12π∫02πf(k)(x)e−imxdx,∣f^m∣≤1∣m∣k⋅12π∫02π∣f(k)∣dx.(4.10)\hat f_m=\frac{1}{(\mathrm{i} m)^k}\cdot\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}f^{(k)}(x)\mathrm{e}^{-\mathrm{i} mx}\mathrm{d} x,\qquad \lvert \hat f_m\rvert \le\frac{1}{\lvert m\rvert ^k}\cdot\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\lvert f^{(k)}\rvert \mathrm{d} x .\tag{4.10}

命題 4.13(滑らかさと係数の減り方 ★★★)

(i) ff が kk 回微分可能で f(k)f^{(k)} が可積分なら f^m=O(∣m∣−k)\hat f_m=\mathcal{O}(\lvert m\rvert ^{-k}) で、最良近似誤差(∣m∣≤n\lvert m\rvert \le n で打ち切った誤差の L2L^2 ノルム)はO(n−k+1/2)\mathcal{O}(n^{-k+1/2}) で減る(代数収束)。(ii) ff が実軸を含む帯 ∣Im⁡z∣<a\lvert \operatorname{Im} z\rvert <a で正則(解析的)なら f^m=O(e−a′∣m∣)\hat f_m=\mathcal{O}(\mathrm{e}^{-a'\lvert m\rvert })(任意の a′<aa'<a)で、誤差は指数的に減る。(iii) ff が1点で折れていれば(ff は連続だが f′f' が跳ぶ)、f^m\hat f_m はちょうど ∣m∣−2\lvert m\rvert ^{-2} 程度でしか減らない。

証明

(i) は (4.10) から直ちに従い、誤差は ∑∣m∣>n∣f^m∣2≲∑m>nm−2k∼n−2k+1\sum_{\lvert m\rvert >n}\lvert \hat f_m\rvert ^2\lesssim\sum_{m>n}m^{-2k}\sim n^{-2k+1} の平方根である。(ii) は f^m\hat f_m の積分路を x↦x−ia′sgn⁡(m)x\mapsto x-\mathrm{i} a'\operatorname{sgn}(m) に平行移動すると(周期性で両端の寄与が打ち消し合う)、被積分関数にe−a′∣m∣\mathrm{e}^{-a'\lvert m\rvert } が掛かることから従う。(iii) は折れ点を x0x_0、傾きの跳びを JJ とすると、1回部分積分した後の f′f' が x0x_0 で跳ぶので、もう1回部分積分すると境界項 Je−imx0/(2π(im)2)J\mathrm{e}^{-\mathrm{i} mx_0}/(2\pi(\mathrm{i} m)^2) が残り、これが ∣m∣−2\lvert m\rvert ^{-2} の項を与える。

同じことは Fourier 展開に限らず、Legendre 多項式や球面調和関数による展開、ガウス関数や原子軌道による展開でも起こる。要点は「展開に使う関数がすべて滑らかなのに、展開したい関数がどこかで尖っていると、その尖りを再現するのに非常に多くの項が要る」ということである。一例として、x∈[−1,1]x\in[-1,1] 上の 2−2x\sqrt{2-2x}(x=cos⁡θx=\cos\theta とすると2sin⁡(θ/2)2\sin(\theta/2)、つまり単位球面上の2点間の距離で、θ=0\theta=0 で尖る)を Legendre 多項式で展開すると、係数は厳密に

2−2x=∑l=0∞alPl(x),al=−4(2l−1)(2l+3)(4.11)\sqrt{2-2x}=\sum_{l=0}^\infty a_lP_l(x),\qquad a_l=-\frac{4}{(2l-1)(2l+3)}\tag{4.11}

となり(l=0l=0 も含めて成り立つ。検算スクリプト)、al∼−l−2a_l\sim-l^{-2} と代数的にしか減らない。これは4.7節で電子間の尖りを部分波展開するときにそのまま現れる。

Kato のカスプ条件

量子力学の多粒子系の波動関数は、どこで尖るのか。ハミルトニアンの係数は、粒子どうしが衝突する点(rij=0r_{ij}=0)のクーロンポテンシャル qiqj/rijq_iq_j/r_{ij} でだけ特異になる。それ以外の点では、ポテンシャルが解析的なので波動関数も解析的になる(楕円型方程式の解は係数と同じだけ滑らかになる、という楕円型正則性の一般論による)。衝突点では 1/r1/r の発散を打ち消すために、波動関数が特定の傾きで尖らなければならない。

まず1電子が電荷 ZZ の固定された原子核の近くにいる場合を考える。原子核を原点にとり、ψ\psi を原点を中心とする半径 rr の球面上で平均したもの(球平均)を

ψˉ(r)=14π∫∣n^∣=1ψ(rn^) dΩ\bar\psi(r)=\frac{1}{4\pi}\int_{\lvert \hat n\rvert =1}\psi(r\hat n)\,\mathrm{d}\Omega

と書く。他の電子や原子核からのポテンシャルは原点の近くで滑らかなので、原点の近くでは(−12Δ−Zr+W(x)−E)ψ=0\bigl(-\frac12\Delta-\frac{Z}{r}+W(\bm{x})-E\bigr)\psi=0(WW は原点で有界)と書ける。これを球平均する。Laplacian の球平均は、球対称な部分 ψˉ\bar\psi に対する動径部分 ψˉ′′+2rψˉ′\bar\psi''+\frac2r\bar\psi' になる(角度部分のΔS2\Delta_{S^2} は球面上で積分すると 00)。−Z/r-Z/r は球対称なので平均の外に出る。よって

−12(ψˉ′′+2rψˉ′)−Zrψˉ+(W−E)ψ‾=0.(4.12)-\frac12\Bigl(\bar\psi''+\frac2r\bar\psi'\Bigr)-\frac{Z}{r}\bar\psi+\overline{(W-E)\psi}=0 .\tag{4.12}

ψˉ(r)=ψˉ(0)+ψˉ′(0)r+O(r2)\bar\psi(r)=\bar\psi(0)+\bar\psi'(0)r+\mathcal{O}(r^2) と展開できるとして、両辺に rr を掛けて r→0r\to0 とすると、rψˉ′′r\bar\psi'' と r (W−E)ψ‾r\,\overline{(W-E)\psi} は 00 に行き、

−ψˉ′(0)−Zψˉ(0)=0,すなわち∂ψˉ∂r∣r=0=−Z ψ(0)-\bar\psi'(0)-Z\bar\psi(0)=0,\qquad\text{すなわち}\qquad \left.\frac{\partial\bar\psi}{\partial r}\right|_{r=0}=-Z\,\psi(0)

を得る。これが電子と原子核のカスプ条件である。水素の 1s1s 軌道 e−Zr\mathrm{e}^{-Zr} は ψ′(0)=−Zψ(0)\psi'(0)=-Z\psi(0) を満たし、これは偶然ではなく、1/r1/r の発散を打ち消すための必然である。

次に2電子が衝突する場合を考える。2電子の位置 r1,r2\bm{r}_1,\bm{r}_2 を重心 R=(r1+r2)/2\bm{R}=(\bm{r}_1+\bm{r}_2)/2 と相対座標 r=r1−r2\bm{r}=\bm{r}_1-\bm{r}_2 に取り替えると、運動エネルギーは −12(Δ1+Δ2)=−14ΔR−Δr-\frac12(\Delta_1+\Delta_2)=-\frac14\Delta_{\bm{R}}-\Delta_{\bm{r}} になる(相対運動の換算質量は 1/21/2)。相互作用は +1/r+1/r(斥力)。同じ手順で相対座標について球平均すると

−(ψˉ′′+2rψˉ′)+1rψˉ+(有界)=0⟹−2ψˉ′(0)+ψˉ(0)=0,∂ψˉ∂r12∣r12=0=+12 ψ(r12=0).-\Bigl(\bar\psi''+\frac2r\bar\psi'\Bigr)+\frac1r\bar\psi+(\text{有界})=0\quad\Longrightarrow\quad -2\bar\psi'(0)+\bar\psi(0)=0,\qquad \left.\frac{\partial\bar\psi}{\partial r_{12}}\right|_{r_{12}=0}=+\frac12\,\psi(r_{12}=0).

一般に、換算質量 μ\mu、電荷 qi,qjq_i,q_j の2粒子では ∂ψˉ/∂rij∣0=μqiqjψ∣rij=0\partial\bar\psi/\partial r_{ij}|_0=\mu q_iq_j\psi|_{r_{ij}=0} となる(電子と無限に重い核では μ=1\mu=1、qiqj=−Zq_iq_j=-Z。電子どうしでは μ=1/2\mu=1/2、qiqj=+1q_iq_j=+1)。(検算スクリプト:ψˉ=1+br+cr2\bar\psi=1+br+cr^2 を代入して 1/r1/r の係数が消える条件を sympy で解く。)

数学的に厳密にするときの難所

上の導出は「ψˉ\bar\psi が r=0r=0 で a+br+O(r2)a+br+\mathcal{O}(r^2) と展開できる」ことを仮定している。この仮定、すなわち多電子のシュレディンガー方程式の解が衝突点で有界かつ Lipschitz 連続で、球平均が1次まで展開できることを示すのがT. Kato の1957年の論文の中身で、ここが本当の難所である。それを認めれば、残りは上の通り 1/r1/r の係数を比べるだけである。カスプ条件は球平均についての条件であって、ψ\psi 自身の方向微分が全方向で −Zψ(0)-Z\psi(0) になるとは限らない(pp 成分などの角度依存部分は原点で rlr^l の形で消えるので傾きに寄与しない)。

例題 4.5 ヘリウム型の試行関数のカスプ ★★

オリジナルヘリウム型原子(核電荷 ZZ、電子2個)の試行関数 Ψ=e−Z(r1+r2)(1+12r12)\Psi=\mathrm{e}^{-Z(r_1+r_2)}\bigl(1+\frac12r_{12}\bigr) を考える。

  1. 電子1と原子核のカスプ条件を満たすことを示せ。
  2. 2電子のカスプ条件を満たすことを示せ。
  3. 因子 (1+12r12)(1+\frac12r_{12}) を除いた e−Z(r1+r2)\mathrm{e}^{-Z(r_1+r_2)} は (1)(2) のどちらを満たし、どちらを破るか。
解答

(1) r2\bm{r}_2 を固定し(r2>0r_2>0)、r1→0r_1\to0 を考える。r12=∣r1−r2∣r_{12}=\lvert \bm{r}_1-\bm{r}_2\rvert は r1=0\bm{r}_1=0 の近くで滑らかで、その r1\bm{r}_1 についての勾配は r1\bm{r}_1 の向きに依らない一定ベクトル −r^2-\hat{\bm{r}}_2 に近づく。したがって 1+12r121+\frac12r_{12} を r1\bm{r}_1 の方向について球平均すると、1次の項 12(−r^2⋅r1)\frac12(-\hat{\bm{r}}_2\cdot\bm{r}_1) は平均で消え、球平均は (1+12r2)+O(r12)\bigl(1+\frac12r_2\bigr)+\mathcal{O}(r_1^2) となる。よってΨˉ(r1)=e−Zr1e−Zr2(1+12r2)+O(r12)\bar\Psi(r_1)=\mathrm{e}^{-Zr_1}\mathrm{e}^{-Zr_2}(1+\frac12r_2)+\mathcal{O}(r_1^2) で、∂Ψˉ/∂r1∣0=−Z Ψ∣r1=0\partial\bar\Psi/\partial r_1|_0=-Z\,\Psi|_{r_1=0}。

(2) 重心 R\bm{R} を固定し、相対座標 r=r1−r2\bm{r}=\bm{r}_1-\bm{r}_2 について r→0r\to0 を考える。r1,2=R±r/2\bm{r}_{1,2}=\bm{R}\pm\bm{r}/2 なのでr1+r2=2R+O(r2)r_1+r_2=2R+\mathcal{O}(r^2)(1次の項 ±12R^⋅r\pm\frac12\hat{\bm{R}}\cdot\bm{r} は打ち消し合う)。したがってΨˉ(r)=e−2ZR(1+12r)+O(r2)\bar\Psi(r)=\mathrm{e}^{-2ZR}\bigl(1+\frac12r\bigr)+\mathcal{O}(r^2) で、∂Ψˉ/∂r∣0=12Ψ∣r=0\partial\bar\Psi/\partial r|_0=\frac12\Psi|_{r=0}。

(3) e−Z(r1+r2)\mathrm{e}^{-Z(r_1+r_2)} は (1) の議論で (1+12r12)(1+\frac12r_{12}) が無いだけなので、原子核のカスプは満たす。しかし (2) の議論で Ψˉ(r)=e−2ZR+O(r2)\bar\Psi(r)=\mathrm{e}^{-2ZR}+\mathcal{O}(r^2) となり、r12r_{12} についての傾きが 00 で、2電子のカスプ条件を破る。軌道の積(およびその線型結合である Slater 行列式)は r12r_{12} を陽に含まないので、どれも電子間の傾きが 00 になる。これが4.7節の問題の出発点である。

ガウス基底はカスプを表せない

量子化学の計算では、原子軌道の代わりにガウス型関数 e−αr2\mathrm{e}^{-\alpha r^2}(に多項式を掛けたもの)を基底に使うことが多い。多中心の積分が閉形式で計算できるからである(2つのガウス関数の積は、間の点を中心とする1つのガウス関数になる)。しかし e−αr2\mathrm{e}^{-\alpha r^2} は r=0r=0 での傾きが 00 なので、有限個の線型結合も原点での傾きが 00 になり、カスプ条件を決して満たせない。エネルギーの意味(H1H^1 ノルム)では、ガウス関数の線型結合で e−r\mathrm{e}^{-r} をいくらでも近似できる(基底は完備)。したがって定理4.9から Ritz 値は収束する。問題は速さである。

ss 型ガウス関数 ga=e−ar2g_a=\mathrm{e}^{-ar^2}(規格化しない)について、水素原子の行列要素は閉形式で書ける。p=a+bp=a+b として

Sab=(πp)3/2,Tab=⟨ga, −12Δgb⟩=3abp(πp)3/2,Vab=⟨ga, −Zrgb⟩=−2πZp.(4.13)S_{ab}=\Bigl(\frac{\pi}{p}\Bigr)^{3/2},\qquad T_{ab}=\langle g_a,\,-\tfrac12\Delta g_b\rangle =\frac{3ab}{p}\Bigl(\frac{\pi}{p}\Bigr)^{3/2},\qquad V_{ab}=\langle g_a,\,-\tfrac{Z}{r}g_b\rangle =-\frac{2\pi Z}{p}.\tag{4.13}

導出はいずれも動径積分 ∫0∞rme−pr2dr\int_0^\infty r^m\mathrm{e}^{-pr^2}\mathrm{d} r に帰着する。重なりは Sab=∫e−pr2d3xS_{ab}=\int\mathrm{e}^{-pr^2}\mathrm{d}^3x そのもの、核引力は Vab=−4πZ∫0∞re−pr2drV_{ab}=-4\pi Z\int_0^\infty r\mathrm{e}^{-pr^2}\mathrm{d} r、運動エネルギーは部分積分した形Tab=12∫∇ga⋅∇gb d3x=12∫4ab r2e−pr2d3xT_{ab}=\frac12\int\nabla g_a\cdot\nabla g_b\,\mathrm{d}^3x=\frac12\int4ab\,r^2\mathrm{e}^{-pr^2}\mathrm{d}^3x から得られる。

例題 4.6 ガウス関数1個による水素原子 ★★★

オリジナル[標準的な題材を自作]試行関数 e−αr2\mathrm{e}^{-\alpha r^2} 1個で水素原子(Z=1Z=1)の基底状態エネルギーを変分的に求めよ。最適な α\alpha と、そのときのエネルギー、原点での電子密度 ∣ψ(0)∣2\lvert \psi(0)\rvert ^2 を真の値と比べよ。

解答

(4.13) で a=b=αa=b=\alpha(p=2αp=2\alpha)とすると

E(α)=Tαα+VααSαα=32α−2π/(2α)(π/2α)3/2=32α−22απ.E(\alpha)=\frac{T_{\alpha\alpha}+V_{\alpha\alpha}}{S_{\alpha\alpha}}=\frac32\alpha-\frac{2\pi/(2\alpha)}{(\pi/2\alpha)^{3/2}}=\frac32\alpha-2\sqrt{\frac{2\alpha}{\pi}} .

E′(α)=32−2πα=0E'(\alpha)=\frac32-\sqrt{\frac{2}{\pi\alpha}}=0 より α=232π\sqrt\alpha=\frac23\sqrt{\frac2\pi}、すなわち α=89π≈0.2829\alpha=\dfrac{8}{9\pi}\approx0.2829。このとき

E=32⋅89π−2⋅43π=−43π≈−0.42441.E=\frac32\cdot\frac{8}{9\pi}-2\cdot\frac{4}{3\pi}=-\frac{4}{3\pi}\approx-0.42441 .

真の値 −0.5-0.5 に対して誤差は 0.07560.0756(15%15\%)で、確かに上界になっている。原点の密度は規格化したガウス関数で (2α/π)3/2=64/(27π3)≈0.0765(2\alpha/\pi)^{3/2}=64/(27\pi^3)\approx0.0765、真の値は 1/π≈0.31831/\pi\approx0.3183 で、比は 0.240.24 にすぎない。エネルギーの誤差 15%15\% に対して、原点の密度は 76%76\% 外れている。エネルギーは誤差の2乗、一点の値は1乗という4.3節の議論の典型例で、しかもガウス関数は原点の尖りを再現できないので、原点付近こそ最も外れる(検算スクリプト)。

数値実験:尖りのある解と滑らかな解で収束の速さを比べる

ガウス関数を何個使うと水素の基底状態がどこまで再現できるかを、実際に Rayleigh–Ritz で調べる。指数を等比数列 αk=α0βk\alpha_k=\alpha_0\beta^{k}(k=0,…,n−1k=0,\dots,n-1)にとる even-tempered 基底を使い、各 nn ごとにα0,β\alpha_0,\beta の2つを最適化した。比較のために、同じ基底で、尖りを持たない滑らかなポテンシャル V=−3e−r2V=-3\mathrm{e}^{-r^2} の基底状態も解いた。このポテンシャルの行列要素も閉形式 Vab=−3(π/(p+1))3/2V_{ab}=-3\bigl(\pi/(p+1)\bigr)^{3/2} で、基底状態は原点で解析的、遠方では水素と同じく指数関数的に減衰する(束縛エネルギー −0.3698902-0.3698902。動径方程式の数値積分で求めた)。したがって2つの問題の違いは「原点に尖りがあるかどうか」だけである。結果が表4.1と図4.1である(数値は scripts/gen_ch04.py で計算し、検算スクリプト で再評価した)。

表 4.1 even-tempered ガウス基底 nn 個による基底状態エネルギーの誤差(α0,β\alpha_0,\beta は水素の場合の最適値)
nn水素:En−(−12)E_n-(-\frac12)α0\alpha_0β\beta滑らかな井戸:En−EexactE_n-E_{\text{exact}}
17.56×10−27.56\times10^{-2}0.2829—5.75×10−25.75\times10^{-2}
21.42×10−21.42\times10^{-2}0.20156.612.16×10−32.16\times10^{-3}
41.25×10−31.25\times10^{-3}0.13484.072.18×10−52.18\times10^{-5}
61.59×10−41.59\times10^{-4}0.10423.264.73×10−74.73\times10^{-7}
82.57×10−52.57\times10^{-5}0.08652.844.11×10−94.11\times10^{-9}
121.06×10−61.06\times10^{-6}0.06632.41—
167.17×10−87.17\times10^{-8}0.05442.18—
図

図 4.1 ガウス基底の数に対する誤差の減り方。縦軸は対数。滑らかな解ではほぼ直線(指数収束)的に速く減るのに対し、カスプのある水素では傾きがだんだん緩くなる

違いは歴然としている。滑らかな井戸では n=8n=8 で誤差が 4×10−94\times10^{-9} に達するが、水素では 2.6×10−52.6\times10^{-5} にとどまり、同じ精度に達するには基底を倍以上に増やさなければならない。しかも水素の場合、隣り合う nn の誤差の比err(n+1)/err(n)\mathrm{err}(n+1)/\mathrm{err}(n) は n=2n=2 で 0.190.19、n=8n=8 で 0.430.43、n=15n=15 で 0.530.53 と 11 に向かって増え続け、一定の比で減る指数収束ではない。片対数グラフで傾きが緩くなっていくのはこのためである。n=4n=4 から 1616 のデータに ln⁡(誤差)=A−cn\ln(\text{誤差})=A-c\sqrt n をあてはめると c≈4.9c\approx4.9 となり、誤差はおおむね exp⁡(−4.9n)\exp(-4.9\sqrt n) の形で減っている(あてはめの残差は ln⁡\ln で 0.130.13 以内。これは実測の形であり、この cc の値を理論から導いたものではない。検算スクリプト)。exp⁡(−cn)\exp(-c\sqrt n) は nn のどんな負べきよりも速く減るが、exp⁡(−cn)\exp(-cn) よりは遅い。最適化した指数の列は、nn を増やすほど α0\alpha_0 が小さく(遠方の裾を担当)、β\beta が 11 に近く(間隔を詰めて)なり、同時に最大の指数α0βn−1\alpha_0\beta^{n-1} は大きくなっていく(n=16n=16 で約 6.5×1036.5\times10^{3})。極端に細いガウス関数を原点に積み上げて、少しずつ尖りに近づけようとしているわけである。

図

図 4.2 原点付近の波動関数(規格化済み)。厳密解は r=0r=0 で傾き −ψ(0)-\psi(0) の尖りを持つが、ガウス関数の線型結合はr=0r=0 で必ず傾き 00 になり、原点の値も低く出る

エネルギー以外の量も見ておく。表4.2は、同じ近似波動関数について、厳密解との重なりの不足1−∣⟨ψ~, ψ0⟩∣21-\lvert \langle \tilde\psi,\,\psi_0\rangle \rvert ^2(=∥e∥2/(1+∥e∥2)=\lVert e\rVert ^2/(1+\lVert e\rVert ^2))、原点の電子密度の比 ∣ψ~(0)∣2/∣ψ0(0)∣2\lvert \tilde\psi(0)\rvert ^2/\lvert \psi_0(0)\rvert ^2、平均距離 ⟨r⟩\langle r \rangle(厳密値 1.51.5)を並べたものである。

表 4.2 ガウス基底による近似波動関数の各種の量(水素の基底状態)
nnEn+12E_n+\frac121−∣⟨ψ~, ψ0⟩∣21-\lvert \langle \tilde\psi,\,\psi_0\rangle \rvert ^2∣ψ~(0)∣2/∣ψ0(0)∣2\lvert \tilde\psi(0)\rvert ^2/\lvert \psi_0(0)\rvert ^2⟨r⟩\langle r \rangle
17.6×10−27.6\times10^{-2}4.3×10−24.3\times10^{-2}0.2401.5000
21.4×10−21.4\times10^{-2}6.7×10−36.7\times10^{-3}0.5501.4787
41.2×10−31.2\times10^{-3}5.7×10−45.7\times10^{-4}0.8031.4990
82.6×10−52.6\times10^{-5}1.1×10−51.1\times10^{-5}0.9471.5002
121.1×10−61.1\times10^{-6}4.2×10−74.2\times10^{-7}0.9821.5000
167.2×10−87.2\times10^{-8}2.4×10−82.4\times10^{-8}0.9931.5000

2列目と3列目はどの nn でも同じ桁で、エネルギーの誤差が波動関数の誤差の2乗(∥e∥2\lVert e\rVert ^2)程度であることが確かめられる(命題4.10の下からの評価 ∥e∥2/(1+∥e∥2)≤(En−E0)/(E1−E0)\lVert e\rVert ^2/(1+\lVert e\rVert ^2)\le(E_n-E_0)/(E_1-E_0)、E1−E0=3/8E_1-E_0=3/8 もすべての行で成り立つ)。一方、原点の密度は n=8n=8 でエネルギーの相対誤差が 5×10−55\times10^{-5} なのに 5%5\% も外れ、n=16n=16 でもまだ 0.7%0.7\% 外れている。∥e∥\lVert e\rVert 自体は n=12n=12 で 6×10−46\times10^{-4} 程度なのに原点の値が 2%2\% 外れるのは、一点での値が L2L^2 ノルムでもH1H^1 ノルムでも制御されない量だからである(3次元の H1H^1 関数は連続とは限らないことを思い出す)。それに対して ⟨r⟩\langle r \rangle は遠方の裾で決まる量で、ガウス関数1個でも偶然 1.51.5 に一致し、n≥4n\ge4 では 10−310^{-3} 以内で合う。「どの物理量が合うか」は、その量が波動関数のどの部分を見ているかで決まる。

最後に、Temple 下界をガウス基底の近似に適用してみる。ss 状態の第2固有値 −1/8-1/8 を ε\varepsilon にとると、n=1n=1 で σ=0.540\sigma=0.540、下界 −1.40-1.40、n=4n=4 で σ=0.394\sigma=0.394、下界 −0.915-0.915、n=10n=10 で σ=0.168\sigma=0.168、下界 −0.575-0.575 となり(検算スクリプト)、エネルギーの上界が 10−610^{-6} の精度に達しても下界は 0.0750.075 も離れている。スレーター型の例題(ζ=0.9\zeta=0.9 で σ=0.09\sigma=0.09)と比べて σ\sigma が極端に大きいのは、ガウス関数がカスプ条件を破るためにHψ~H\tilde\psi が原点付近で −ψ~(0)/r-\tilde\psi(0)/r のように発散し、それが ⟨H2⟩\langle H^2 \rangle に大きな寄与をするからである。エネルギーは原点付近の失敗にあまり敏感でないが、分散は敏感である。カスプを満たさない基底では、Temple 型の下界で誤差の幅を知ることが難しい。

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

← AI生成教科書『虎の巻』の記事一覧へ