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LCAO:水素分子イオンを2つの原子軌道で解く

2026年10月9日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4章 射影型近似:Rayleigh–Ritz・Galerkin と収束の速さ
目次
  1. LCAO の永年方程式
  2. 結果:部分空間の選び方が誤差を決める
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第4章 §4.6 ★★★ 「原子軌道の線型結合」が2次元部分空間への Rayleigh–Ritz そのものであり、部分空間の選び方が誤差を決める実例

最も簡単な分子である水素分子イオン H2+_2^+(陽子2個と電子1個)を考える。陽子を zz 軸上に距離 RR 離して固定し(核の運動を止める Born–Oppenheimer 近似。第7章)、電子のハミルトニアンを原子単位で

H=−12Δ−1ra−1rb+1RH=-\frac12\Delta-\frac{1}{r_a}-\frac{1}{r_b}+\frac1R

とする(ra,rbr_a,r_b は電子と各陽子の距離、1/R1/R は陽子間の反発)。この問題は楕円座標で変数分離でき、1次元の常微分方程式の数値解として「厳密解」が得られる。ここでは比較の基準として、楕円座標の多項式基底e−βξξjη2k\mathrm{e}^{-\beta\xi}\xi^j\eta^{2k}(j<7j<7、k<5k<5、β\beta を最適化)による35次元の Rayleigh–Ritz を用い、基底を (j,k)<(8,5)(j,k)<(8,5) に増やしても R=2R=2 のエネルギーが 10−1010^{-10} 以下しか変わらないことを確かめた値を「厳密値」と呼ぶ(検算スクリプト。R=2R=2 で E=−0.6026342E=-0.6026342 hartree)。

LCAO の永年方程式

陽子 a,ba,b を中心とする水素の 1s1s 軌道 ϕa=π−1/2e−ra\phi_a=\pi^{-1/2}\mathrm{e}^{-r_a}、ϕb=π−1/2e−rb\phi_b=\pi^{-1/2}\mathrm{e}^{-r_b} の張る2次元部分空間 V2V_2 でRayleigh–Ritz を行うのが LCAO(Linear Combination of Atomic Orbitals)である。必要な積分は3種類で、

S=⟨ϕa, ϕb⟩=e−R(1+R+R23)(重なり積分)J=⟨ϕa, 1rbϕa⟩=1R−e−2R(1+1R)(クーロン積分)K=⟨ϕa, 1raϕb⟩=e−R(1+R)(交換積分)\begin{align*}S&=\langle \phi_a,\,\phi_b\rangle =\mathrm{e}^{-R}\Bigl(1+R+\frac{R^2}{3}\Bigr)&&\text{(重なり積分)}\tag{4.14}\\J&=\langle \phi_a,\,\tfrac{1}{r_b}\phi_a\rangle =\frac1R-\mathrm{e}^{-2R}\Bigl(1+\frac1R\Bigr)&&\text{(クーロン積分)}\tag{4.15}\\K&=\langle \phi_a,\,\tfrac{1}{r_a}\phi_b\rangle =\mathrm{e}^{-R}(1+R)&&\text{(交換積分)}\tag{4.16}\end{align*}

である(JJ は「陽子 bb が ϕa\phi_a の電子雲から受けるクーロン引力」、KK は2つの軌道の重なった部分が生む項で、古典的な対応物を持たない。「交換積分」という名前は慣用で、多電子の交換相互作用とは別物である)。ϕa\phi_a は (−12Δ−1ra)ϕa=−12ϕa\bigl(-\frac12\Delta-\frac1{r_a}\bigr)\phi_a=-\frac12\phi_a を満たすので、

Haa=−12−J+1R,Hab=−12S−K+SR.H_{aa}=-\frac12-J+\frac1R,\qquad H_{ab}=-\frac12S-K+\frac{S}{R}.

系は2つの陽子の入れ替えについて対称なので Haa=HbbH_{aa}=H_{bb}、Saa=Sbb=1S_{aa}=S_{bb}=1 で、2×22\times2 の一般化固有値問題det⁡(Haa−EHab−ESHab−ESHaa−E)=0\det\begin{pmatrix}H_{aa}-E&H_{ab}-ES\\H_{ab}-ES&H_{aa}-E\end{pmatrix}=0 の解は Haa−E=∓(Hab−ES)H_{aa}-E=\mp(H_{ab}-ES)、すなわち

E±=Haa±Hab1±S=−12+1R−J±K1±S,ψ±=ϕa±ϕb2(1±S)(4.17)E_\pm=\frac{H_{aa}\pm H_{ab}}{1\pm S}=-\frac12+\frac1R-\frac{J\pm K}{1\pm S},\qquad \psi_\pm=\frac{\phi_a\pm\phi_b}{\sqrt{2(1\pm S)}}\tag{4.17}

となる。E+E_+ が結合性軌道、E−E_- が反結合性軌道である。R→∞R\to\infty では S,J,K→0S,J,K\to0 で E±→−12E_\pm\to-\frac12(水素原子+陽子)に戻る。

軌道の指数も変分パラメータにして ϕa=(ζ3/π)1/2e−ζra\phi_a=(\zeta^3/\pi)^{1/2}\mathrm{e}^{-\zeta r_a} とする場合は、w=ζRw=\zeta R としてS=e−w(1+w+w2/3)S=\mathrm{e}^{-w}(1+w+w^2/3)、J=ζ[1/w−e−2w(1+1/w)]J=\zeta[1/w-\mathrm{e}^{-2w}(1+1/w)]、K=ζe−w(1+w)K=\zeta\mathrm{e}^{-w}(1+w)、運動エネルギーの行列要素は ⟨ϕa, −12Δϕa⟩=ζ2/2\langle \phi_a,\,-\frac12\Delta\phi_a\rangle =\zeta^2/2、⟨ϕa, −12Δϕb⟩=−ζ22S+ζK\langle \phi_a,\,-\frac12\Delta\phi_b\rangle =-\frac{\zeta^2}{2}S+\zeta K(ϕb\phi_b が (−12Δ−ζrb)ϕb=−ζ22ϕb\bigl(-\frac12\Delta-\frac{\zeta}{r_b}\bigr)\phi_b=-\frac{\zeta^2}{2}\phi_b を満たすことから)となる。これらの閉形式は楕円座標での数値積分と 10−1310^{-13} 以下で一致することを確かめた(検算スクリプト)。

例題 4.7 重なり積分と交換積分を楕円座標で計算する ★★

オリジナル[標準的な題材を自作]楕円座標 ξ=(ra+rb)/R∈[1,∞)\xi=(r_a+r_b)/R\in[1,\infty)、η=(ra−rb)/R∈[−1,1]\eta=(r_a-r_b)/R\in[-1,1]、φ∈[0,2π)\varphi\in[0,2\pi) では体積要素が d3x=R38(ξ2−η2) dξ dη dφ\mathrm{d}^3x=\frac{R^3}{8}(\xi^2-\eta^2)\,\mathrm{d}\xi\,\mathrm{d}\eta\,\mathrm{d}\varphi である。これを使って

  1. 重なり積分 (4.14) を導け。
  2. 交換積分 (4.16) を導け。
解答

(1) ϕaϕb=π−1e−(ra+rb)=π−1e−Rξ\phi_a\phi_b=\pi^{-1}\mathrm{e}^{-(r_a+r_b)}=\pi^{-1}\mathrm{e}^{-R\xi} は η,φ\eta,\varphi に依らない。∫−11(ξ2−η2)dη=2ξ2−23\int_{-1}^1(\xi^2-\eta^2)\mathrm{d}\eta=2\xi^2-\frac23 なので

S=1π⋅R38⋅2π∫1∞e−Rξ(2ξ2−23)dξ.S=\frac{1}{\pi}\cdot\frac{R^3}{8}\cdot2\pi\int_1^\infty\mathrm{e}^{-R\xi}\Bigl(2\xi^2-\frac23\Bigr)\mathrm{d}\xi .

∫1∞e−Rξdξ=e−R/R\int_1^\infty\mathrm{e}^{-R\xi}\mathrm{d}\xi=\mathrm{e}^{-R}/R、∫1∞ξ2e−Rξdξ=e−R(1R+2R2+2R3)\int_1^\infty\xi^2\mathrm{e}^{-R\xi}\mathrm{d}\xi=\mathrm{e}^{-R}\bigl(\frac1R+\frac2{R^2}+\frac2{R^3}\bigr) を代入して

S=R34e−R(2R+4R2+4R3−23R)=e−R(1+R+R23).S=\frac{R^3}{4}\mathrm{e}^{-R}\Bigl(\frac2R+\frac4{R^2}+\frac4{R^3}-\frac{2}{3R}\Bigr)=\mathrm{e}^{-R}\Bigl(1+R+\frac{R^2}{3}\Bigr).

(2) 1/ra=2/(R(ξ+η))1/r_a=2/(R(\xi+\eta)) と (ξ2−η2)/(ξ+η)=ξ−η(\xi^2-\eta^2)/(\xi+\eta)=\xi-\eta を使うと

K=1π⋅R38⋅2π⋅2R∫1∞ ⁣ ⁣∫−11e−Rξ(ξ−η) dη dξ=R22∫1∞2ξe−Rξdξ=R2e−R(1R+1R2)=e−R(1+R).\begin{aligned} K&=\frac{1}{\pi}\cdot\frac{R^3}{8}\cdot2\pi\cdot\frac{2}{R}\int_1^\infty\!\!\int_{-1}^1\mathrm{e}^{-R\xi}(\xi-\eta)\,\mathrm{d}\eta\,\mathrm{d}\xi\\ &=\frac{R^2}{2}\int_1^\infty2\xi\mathrm{e}^{-R\xi}\mathrm{d}\xi=R^2\mathrm{e}^{-R}\Bigl(\frac1R+\frac{1}{R^2}\Bigr)=\mathrm{e}^{-R}(1+R). \end{aligned}

結果:部分空間の選び方が誤差を決める

(4.17) を RR の関数として描いたのが図4.3、極小点の値をまとめたのが表4.3 である。

図

図 4.3 H2+_2^+ のポテンシャル曲線。灰色の水平線 −0.5-0.5 は解離極限(水素原子+陽子)。LCAO の結合性軌道の曲線は、すべての RR で厳密値の上にある。反結合性軌道は R=2R=2 付近で −0.16-0.16 まで上がるので枠外

表 4.3 H2+_2^+ の平衡核間距離 ReR_e と結合エネルギー De=−12−E(Re)D_e=-\frac12-E(R_e)(1 hartree =27.211=27.211 eV で換算)。次元の「+1」は非線型の変分パラメータ(軌道の指数)の数
方法次元ReR_e(bohr)DeD_e(hartree)DeD_e(eV)
LCAO(ζ=1\zeta=1 固定)22.4930.06481.76
LCAO(ζ\zeta 最適化、ζ=1.238\zeta=1.238)2+12.0030.08652.35
厳密値(楕円座標の多項式基底)35+11.9970.10262.79

ζ=1\zeta=1 の LCAO は結合エネルギーを厳密値の 63%63\% しか再現せず、平衡距離は 25%25\% 長い。軌道の指数 ζ\zeta を1つ最適化するだけで、ReR_e はほぼ厳密値に一致し、DeD_e は 84%84\% まで回復する(検算スクリプト)。

この結果を射影型近似の言葉で読む。第一に、LCAO の結合性軌道のエネルギーは各 RR で2次元部分空間への Rayleigh–Ritz なので、定理4.6によりすべての RR で厳密値の上界になっている(図4.3)。ζ\zeta を最適化した場合も、各 ζ\zeta が1つの部分空間を定め、その中の最良の上界をさらに ζ\zeta について最小化しているだけなので、上界性は保たれる。第二に、上界性はエネルギー E(R)E(R) という1つの RR での値についての保証であって、ReR_e や DeD_e のような「曲線の形」から読む量についての保証ではない。この例では解離極限 E(∞)=−12E(\infty)=-\frac12 が3つとも厳密なのでDeD_e は過小評価になるが、ReR_e が長く出るか短く出るかを定理は何も言わない。実際 ζ=1\zeta=1 では長すぎ、ζ\zeta 最適化では厳密値よりわずかに長い。第三に、ζ\zeta の最適値は ReR_e 付近で 1.241.24 と、水素原子の 11 からかなり大きい。R→0R\to0 では2つの陽子が重なってHe+^+(核電荷2)になるので ζ→2\zeta\to2、R→∞R\to\infty では ζ→1\zeta\to1 となる(R=0.01R=0.01 で ζ=1.9997\zeta=1.9997。検算スクリプト)。「分子の中の原子軌道は孤立原子の軌道より縮む」という物理的な描像が、ζ\zeta を変えて部分空間を取り替えたときのCéa の補題の inf⁡\inf の改善として現れている。どの部分空間を選ぶかで誤差がほぼ決まり、それは数学ではなく物理的な推測(分子中では電子が核に引き寄せられる)で決まる、という本章の主張の最小の実例である。

ほかの巻では

木下の勉強ステータス

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