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多電子系:配置間相互作用と基底の完全性

2026年10月9日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4章 射影型近似:Rayleigh–Ritz・Galerkin と収束の速さ
目次
  1. Slater 行列式の張る部分空間
  2. 電子間カスプと部分波展開の遅い収束
  3. 部分空間を変えて解決する:explicitly correlated 法
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第4章 §4.7 ★★ 完全 CI が「基底を固定した下での厳密解」であることと、電子間カスプが相関エネルギーの収束を遅くする理由

Slater 行列式の張る部分空間

NN 電子系の状態空間は、NN 個の電子の座標(位置とスピン)の関数のうち、2電子の入れ替えで符号を変える(反対称な)もの全体 HN\mathcal{H}_N である。1電子の正規直交なスピン軌道 χ1,…,χM\chi_1,\dots,\chi_M を選ぶと、そのうち NN 個χi1,…,χiN\chi_{i_1},\dots,\chi_{i_N}(i1<⋯<iNi_1<\dots<i_N)からSlater 行列式

Φi1⋯iN(x1,…,xN)=1N!det⁡[χia(xb)]a,b=1N\Phi_{i_1\cdots i_N}(x_1,\dots,x_N)=\frac{1}{\sqrt{N!}}\det\bigl[\chi_{i_a}(x_b)\bigr]_{a,b=1}^N

が作れる。これらは互いに正規直交で、その個数は (MN)\binom{M}{N} である。

完全 CI(full configuration interaction)とは、この (MN)\binom{M}{N} 次元部分空間で Rayleigh–Ritz を行うことである。したがって4.2節の結果がそのまま当てはまる。完全 CI のエネルギーは真の基底状態エネルギーの上界で、軌道を足せば単調に下がり、励起状態の根も交互定理に従う。しかも、選んだ MM 個の軌道で作れるあらゆる反対称関数の中で最良なので、「軌道の基底を固定した下での厳密解」と呼ばれる。誤差はすべて1電子基底の不完全さに由来する。

1電子基底を増やしていって {χi}\{\chi_i\} が1電子の空間で完備になれば、Slater 行列式全体は HN\mathcal{H}_N で完備になる。理由は、{χi}\{\chi_i\} が正規直交基底なら積 χi1(x1)⋯χiN(xN)\chi_{i_1}(x_1)\cdots\chi_{i_N}(x_N) の全体が NN 電子の(反対称とは限らない)関数空間の正規直交基底になり(テンソル積の基底)、それを反対称化したものが Slater 行列式だからである。したがって定理4.9により、完全 CI のエネルギーは真の値に収束する。これに対して、Hartree–Fock 法は Slater 行列式1個の中で最良のものを探す方法で、部分空間ではなく「行列式1個」という非線型な集合の上の変分である(第5章)。また CI 展開を1電子・2電子励起までで打ち切る方法(CISD)も、より小さな部分空間での Rayleigh–Ritz なので上界性は保たれる。

電子間カスプと部分波展開の遅い収束

完全 CI は収束するが、その速さは遅い。原因は4.5節の例題で見た電子間カスプである。Slater 行列式は軌道の積の和なので、2電子の座標が一致する点 r12=0r_{12}=0 のまわりで滑らかで、r12r_{12} についての傾きは 00 になる。真の波動関数は ψˉ≈ψ∣r12=0(1+12r12)\bar\psi\approx\psi|_{r_{12}=0}\bigl(1+\frac12r_{12}\bigr) と尖っているので、有限個の行列式ではこの尖りを再現できない。

ヘリウム原子でこれを定量的に見る。2電子の波動関数を、2電子の位置ベクトルのなす角 θ12\theta_{12} についてLegendre 多項式で展開する(部分波展開)。角運動量 ll までの軌道を使った CI は、この展開を ll で打ち切ったものに当たる。2電子が同じ距離 r1=r2=rr_1=r_2=r にいるとき r12=r2−2cos⁡θ12r_{12}=r\sqrt{2-2\cos\theta_{12}} なので、カスプの因子 1+12r121+\frac12r_{12} をcos⁡θ12\cos\theta_{12} の Legendre 展開にすると、(4.11) により係数は l−2l^{-2} でしか減らない。これを受けて、エネルギーへの部分波 ll の寄与がおよそ (l+12)−4(l+\frac12)^{-4} で減ること、したがって l≤Ll\le L で打ち切った誤差がL−3L^{-3} 程度でしか減らないことが C. Schwartz(1962年)によって示された。指数収束からは程遠い。

量子化学の実務でもこの代数収束がそのまま現れる。相関を取り込む計算で基底関数の大きさ(含める角運動量の上限など)を上げていったとき、相関エネルギーの誤差がおおよそ X−3X^{-3}(XX は基底の大きさの指標)で減るという経験則が知られ、これを使って無限大の基底への外挿が行われる。基底の大きさの −3-3 乗という遅さは、Schwartz の L−3L^{-3} と同じ起源を持つ。

ヘリウムの基底状態エネルギーの階層

核電荷 Z=2Z=2 のヘリウムで、e−ζ(r1+r2)\mathrm{e}^{-\zeta(r_1+r_2)} 1個の試行関数を使うと、E(ζ)=ζ2−2Zζ+58ζE(\zeta)=\zeta^2-2Z\zeta+\frac58\zeta を最小化して ζ=Z−516=2716\zeta=Z-\frac5{16}=\frac{27}{16}、E=−(2716)2≈−2.8477E=-\bigl(\frac{27}{16}\bigr)^2\approx-2.8477 hartree になる(検算スクリプト)。軌道の形を自由にした Hartree–Fock の極限は約 −2.8617-2.8617、真の値は約 −2.9037-2.9037 である(いずれも文献値)。Hartree–Fock と真の値の差 ≈−0.042\approx-0.042 hartree が相関エネルギーで、これを CI で取り込もうとすると、上で述べた電子間カスプのために部分波が L−3L^{-3} でしか収束しない。

部分空間を変えて解決する:explicitly correlated 法

収束の遅さの原因が「部分空間の関数がすべて r12r_{12} について滑らか」であることなら、対処は明らかで、r12r_{12} を陽に含む関数を部分空間に入れればよい。E. A. Hylleraas は1929年に、r1+r2r_1+r_2、r1−r2r_1-r_2、r12r_{12} の多項式と指数関数の積でヘリウムの波動関数を展開し、少数の項で精度の高いエネルギーを得た。現代の量子化学の R12 法・F12 法も同じ考えで、通常の行列式展開に r12r_{12} の関数(r12r_{12} そのものや(1−e−γr12)/γ(1-\mathrm{e}^{-\gamma r_{12}})/\gamma)を掛けた項を加えて電子間カスプを満たさせ、基底の大きさに対する収束を大きく速める。

これは Céa の補題の右辺 inf⁡v∈Vn∥u−v∥\inf_{v\in V_n}\lVert u-v\rVert を小さくするために、真の解の特異性の形を部分空間に組み込む、という戦略である。数学の言葉では「解の正則性を事前に知っていれば、それに合わせた近似空間で代数収束を指数収束に近づけられる」。カスプ条件は方程式から導かれる解の正則性の情報であり、ここで微分方程式の定性的理論が直接計算の役に立っている。

例題 4.8 2サイト模型の完全 CI と行列式1個 ★★

オリジナル2つの原子の位置に置いた正規直交な空間軌道 ϕa,ϕb\phi_a,\phi_b だけを使う、2電子の模型を考える。1電子のハミルトニアン hh の行列要素は⟨ϕa, hϕa⟩=⟨ϕb, hϕb⟩=0\langle \phi_a,\,h\phi_a\rangle =\langle \phi_b,\,h\phi_b\rangle =0、⟨ϕa, hϕb⟩=−t\langle \phi_a,\,h\phi_b\rangle =-t(t>0t>0)とし、電子間の反発は2電子が同じ軌道 ϕa\phi_a または ϕb\phi_b にいるときだけ U>0U>0 のエネルギーを与えるとする(Hubbard の2サイト模型)。結合性軌道 g=(ϕa+ϕb)/2g=(\phi_a+\phi_b)/\sqrt2 と反結合性軌道 u=(ϕa−ϕb)/2u=(\phi_a-\phi_b)/\sqrt2 は hh の固有関数で、固有値はそれぞれ −t-t、+t+t である。

  1. スピン軌道は gα,gβ,uα,uβg\alpha,g\beta,u\alpha,u\beta の4個である。作れる Slater 行列式の個数を求めよ。また gg に2電子を入れた行列式Φg\Phi_g のエネルギー ⟨Φg, HΦg⟩\langle \Phi_g,\,H\Phi_g\rangle を求めよ。
  2. Φg\Phi_g と行列要素を持ちうる行列式は uu に2電子を入れた Φu\Phi_u だけであることを示し、2行2列の CI 行列を作って最低固有値を求めよ。
  3. t=1t=1、U=4U=4 のとき、Φg\Phi_g のエネルギーと (2) の値、および相関エネルギーを求めよ。また U/t→∞U/t\to\infty でそれぞれがどうなるかを述べよ。
解答

(1) 4個のスピン軌道から2個を選ぶので (42)=6\binom42=6 個である。Φg\Phi_g の空間部分はg(r1)g(r2)=12[ϕaϕa+ϕaϕb+ϕbϕa+ϕbϕb]g(\mathbf r_1)g(\mathbf r_2)=\frac12\bigl[\phi_a\phi_a+\phi_a\phi_b+\phi_b\phi_a+\phi_b\phi_b\bigr] で、スピン部分は1重項である。1電子部分は 2×(−t)2\times(-t)。2電子が同じ軌道にいる成分 ϕaϕa\phi_a\phi_a、ϕbϕb\phi_b\phi_b の重みは 14+14=12\frac14+\frac14=\frac12 なので反発は U/2U/2。よって ⟨Φg, HΦg⟩=−2t+U/2\langle \Phi_g,\,H\Phi_g\rangle =-2t+U/2 である。

(2) ϕa↔ϕb\phi_a\leftrightarrow\phi_b の入れ替えで HH は変わらず、gg は符号を変えず uu は符号を変える。gg と uu を1個ずつ含む行列式は入れ替えで符号を変え、Φg\Phi_g は変えないので、両者の間の HH の行列要素は 00 である。また2電子のスピンがそろった2個の行列式はスピンの zz 成分が ±1\pm1 で、zz 成分 00 の Φg\Phi_g とは結合しない。残るのは Φu\Phi_u だけである。Φu\Phi_u の空間部分は 12[ϕaϕa−ϕaϕb−ϕbϕa+ϕbϕb]\frac12\bigl[\phi_a\phi_a-\phi_a\phi_b-\phi_b\phi_a+\phi_b\phi_b\bigr] なので、(1) と同じ数え方で⟨Φu, HΦu⟩=2t+U/2\langle \Phi_u,\,H\Phi_u\rangle =2t+U/2。非対角要素は、hh が g,ug,u について対角なので1電子部分は 00 で、反発の部分はϕaϕa\phi_a\phi_a、ϕbϕb\phi_b\phi_b の成分の係数の積から U(14+14)=U/2U(\frac14+\frac14)=U/2 となる。CI 行列と最低固有値は

(−2t+U/2U/2U/22t+U/2),ECI=U2−4t2+U24.\begin{pmatrix}-2t+U/2&U/2\\U/2&2t+U/2\end{pmatrix},\qquad E_{\mathrm{CI}}=\frac U2-\sqrt{4t^2+\frac{U^2}{4}} .

Φg\Phi_g と同じ対称性を持つ行列式はこの2個で尽きるので、これは6個の行列式全部を使った完全 CI と同じ答えであり、この軌道の基底を固定した下での厳密な基底状態エネルギーである。

(3) t=1t=1、U=4U=4 では ⟨Φg, HΦg⟩=0\langle \Phi_g,\,H\Phi_g\rangle =0、ECI=2−22=−0.8284E_{\mathrm{CI}}=2-2\sqrt2=-0.8284 で、相関エネルギーは −0.8284-0.8284 である。Rayleigh–Ritz の上界性どおり、1次元の部分空間 {Φg}\{\Phi_g\} の値は2次元の部分空間の値より上にある。U/t→∞U/t\to\infty では ⟨Φg, HΦg⟩=−2t+U/2\langle \Phi_g,\,H\Phi_g\rangle =-2t+U/2 は UU に比例して増えるのに対し、ECI≈−4t2/U→0E_{\mathrm{CI}}\approx-4t^2/U\to0 である。行列式1個は UU の大きさに関係なく2電子を確率 12\frac12 で同じ原子に置いてしまい、反発を避けるように2電子の位置をずらすことができない。Φu\Phi_u を混ぜるとこの成分を打ち消せる。行列式1個という集合の外へ出ることで初めて電子相関が取り込まれる、という事情の最小の例である(検算スクリプト)。

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