物理屋の直観との対応と、第6章へ
AI 生成・木下が未勉強
近似の数理 第5章 §5.10 ★★★ 平均場の直観のうち、何が証明され何が証明されていないかの線引き
「各電子は、他の電子がつくる平均の場の中を独立に運動する」という直観を、この章の言葉で書き直すと次の2つになる。
- 多体の試行関数を、積(を反対称化した Slater 行列式)の形に制限して変分をとる。
- その停留条件(Euler–Lagrange 方程式)が、1体の演算子 の固有値問題という形をとる。 に入っている が「平均の場」である。
「平均の場」は近似の出発点ではなく、制限された変分問題の結果として現れる。そして、この近似の正当化として数学が保証しているのは次のことに限られる。
- 上界 (変分原理)。
- 中性・正イオンで最小解が存在すること(Lieb–Simon)、最小解が下から詰めた構造をもつこと(aufbau)。
- 最小化問題を凸集合上の問題に置き換えてよいこと(Lieb)。
ここには、誤差 が小さいという主張は含まれていない。He では 1.4% と小さく、H の解離や H の束縛では定性的に誤る。どちらが起こるかは、変分の枠組みの中からは判定できない。
では「HF は良い近似だ」という主張が定理になる場面はあるか。それは何らかのパラメータの極限の中だけである。
- 粒子数 で相互作用を に弱める平均場極限。多体の基底状態のエネルギーが1体(Hartree)汎関数の最小値に、1粒子あたりで収束する。
- 原子番号 の極限。主要項は Thomas–Fermi 理論で決まり、HF は厳密な基底エネルギーをさらに高い次数まで正しく与える。
これらは第6章で扱う B 型の近似であり、「平均場が正しくなる」理由(相関が で弱まる、あるいは大部分の電子が半古典的に振る舞う)を極限操作として数学に組み込んだものである。この章の A 型の見方と第6章の B 型の見方は、同じ Hartree–Fock 方程式を別の角度から正当化する。前者は「どんな でも成り立つが上界しか言わない」、後者は「誤差が小さいことまで言えるが極限でしか成り立たない」。
例題 5.11 2電子イオンを上下から挟む ★★
オリジナル核電荷 の2電子イオン( が H、 が He)の基底エネルギーを とする。
- 例題 5.4 と同じ計算で、上界 を示せ。
- 電子間反発が非負であることから、下界 を示せ。
- 上界と下界の相対的な幅 を で求め、 でのふるまいを述べよ。
- He の厳密値 と比べ、この章の A 型の保証と第6章の B 型の保証の違いを述べよ。
解答
(1) 例題 5.4 の (2) で を一般にしたままにすると で、最小は 、値は 。変分原理により はこれ以下である。
(2) (作用素の意味で)。 の最低固有値は なので、どんな正規化された でも 。下限をとって 。
(3) 。 で 、 で 、 で 。 では で、上下の評価は主要項 で一致する。幅そのもの は大きくなるので、縮むのは相対的な幅だけである。
(4) He の上界 は厳密値から相対的に 1.93% しか離れていない。しかし (1)(2) だけから言えるのは「誤差は 28.8% 以下」であり、1.93% という小ささは厳密値を別に知って初めて分かる。 を固定したままでは、A 型(Slater 行列式への制限)の枠組みは上界を与えるだけで、誤差の大きさを保証しない。誤差が小さいと言えるのは という極限の中だけで、それも相対的な意味に限られる。このように極限の中で誤差を制御するのが第6章の B 型の見方である。(検算スクリプト)
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