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量子版:BBGKY 階層と Hartree 方程式

2026年10月9日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第6章 平均場極限:多体から一体へ
目次
  1. 縮約密度行列
  2. BBGKY 階層の導出
  3. 平均場スケーリングでの極限と、積状態による閉包
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第6章 §6.4 ★★★ 多体の方程式から一体の方程式を作ろうとすると「閉じない」階層が現れ、平均場近似はその打ち切りに当たる

縮約密度行列

量子系では NN 個のボソンの波動関数 ψN(x1,…,xN)\psi_N(x_1,\dots,x_N)(変数の入れ替えで対称、∥ψN∥=1\lVert \psi_N\rVert =1)を考える。古典系の kk 粒子周辺分布に当たるのがkk 体縮約密度行列

γN(k)(x1,…,xk;y1,…,yk)=∫ψN(x1,…,xk,z) ψN(y1,…,yk,z)‾ dz(6.7)\gamma_N^{(k)}(x_1,\dots,x_k;y_1,\dots,y_k)=\int\psi_N(x_1,\dots,x_k,z)\,\overline{\psi_N(y_1,\dots,y_k,z)}\,\mathrm{d} z\tag{6.7}

である(z=(zk+1,…,zN)z=(z_{k+1},\dots,z_N) について積分する。これを部分トレース γN(k)=Tr⁡k+1,…,N∣ψN⟩⟨ψN∣\gamma_N^{(k)}=\operatorname{Tr}_{k+1,\dots,N}| \psi_N \rangle \langle \psi_N | と書く)。この核を持つ積分作用素 γN(k)\gamma_N^{(k)} は正(⟨u, γu⟩≥0\langle u,\,\gamma u\rangle \ge0)でトレースが 1 であり、kk 粒子までの観測量の期待値はすべて γN(k)\gamma_N^{(k)} で決まる。たとえば ⟨ψN, A1ψN⟩=Tr⁡(AγN(1))\langle \psi_N,\,A_1\psi_N\rangle =\operatorname{Tr}(A\gamma_N^{(1)}) である。積状態 ψN=φ⊗N\psi_N=\varphi^{\otimes N} なら γN(k)=∣φ⟩⟨φ∣⊗k\gamma_N^{(k)}=| \varphi \rangle \langle \varphi |^{\otimes k} になる。

縮約密度行列の差を測るにはトレースノルムを使う。自己共役なトレースクラスの作用素 AA(固有値の絶対値の和が有限なもの)について∥A∥1=Tr⁡∣A∣=∑∣λn∣\lVert A\rVert _1=\operatorname{Tr}\lvert A\rvert =\sum\lvert \lambda_n\rvert と定める。∥A∥1\lVert A\rVert _1 が小さいことは、すべての有界な観測量 BB について ∣Tr⁡(BA)∣≤∥B∥∥A∥1\lvert \operatorname{Tr}(BA)\rvert \le\lVert B\rVert \lVert A\rVert _1 が小さいことを意味する。古典の W1W_1 に当たる量だが、量子では状態が波動関数(重ね合わせ)なので、点の輸送のような幾何は無く、作用素のノルムで足りる。

BBGKY 階層の導出

ハミルトニアン (6.1) で h=−Δh=-\Delta とし、i∂tψN=HNψN\mathrm{i}\partial_t\psi_N=H_N\psi_N に従う時間発展を考える。

命題 6.8(BBGKY 階層 ★★★)

k=1,…,Nk=1,\dots,N について

i∂tγN(k)=∑j=1k[hj, γN(k)]+λN∑1≤i<j≤k[Wij, γN(k)]+λN(N−k)∑j=1kTr⁡k+1[Wj,k+1, γN(k+1)].(6.8)\mathrm{i}\partial_t\gamma_N^{(k)}=\sum_{j=1}^k\left[h_j,\,\gamma_N^{(k)}\right]+\lambda_N\sum_{1\le i<j\le k}\left[W_{ij},\,\gamma_N^{(k)}\right] +\lambda_N(N-k)\sum_{j=1}^k\operatorname{Tr}_{k+1}\left[W_{j,k+1},\,\gamma_N^{(k+1)}\right].\tag{6.8}

ここで WijW_{ij} は W(xi−xj)W(x_i-x_j) を掛ける作用素、Tr⁡k+1\operatorname{Tr}_{k+1} は k+1k+1 番目の変数についての部分トレースである。

証明

k=1k=1 の場合を核で計算する(一般の kk も同じ計算である)。(6.7) を時間微分して i∂tψ=Hψ\mathrm{i}\partial_t\psi=H\psi を使うと

i∂tγ(1)(x;y)=∫[(Hψ)(x,z)ψ(y,z)‾−ψ(x,z)(Hψ)(y,z)‾]dz\mathrm{i}\partial_t\gamma^{(1)}(x;y)=\int\Bigl[(H\psi)(x,z)\overline{\psi(y,z)}-\psi(x,z)\overline{(H\psi)(y,z)}\Bigr]\mathrm{d} z

となる。HH の項を一つずつ見る。

  • h1h_1:xx と yy にそれぞれ作用して (hx−hy)γ(1)(x;y)(h_x-h_y)\gamma^{(1)}(x;y)、これは作用素として [h, γ(1)]\left[h,\,\gamma^{(1)}\right] の核である。
  • hjh_j(j≥2j\ge2):zjz_j について積分しているので、hh の自己共役性(部分積分)から ∫(hjψ)ψˉ dzj=∫ψ hjψ‾ dzj\int(h_j\psi)\bar\psi\,\mathrm{d} z_j=\int\psi\,\overline{h_j\psi}\,\mathrm{d} z_j となって打ち消し合う。
  • WijW_{ij}(i,j≥2i,j\ge2):掛け算の作用素で、xx 側と yy 側で同じ値 W(zi−zj)W(z_i-z_j) を掛けるので差は 0。
  • W1jW_{1j}(j≥2j\ge2):[W(x−zj)−W(y−zj)]ψ(x,z)ψ(y,z)‾\bigl[W(x-z_j)-W(y-z_j)\bigr]\psi(x,z)\overline{\psi(y,z)} を積分する。zjz_j 以外を積分すると γ(2)(x,zj;y,zj)\gamma^{(2)}(x,z_j;y,z_j) が現れ、∫[W(x−zj)−W(y−zj)]γ(2)(x,zj;y,zj) dzj\int[W(x-z_j)-W(y-z_j)]\gamma^{(2)}(x,z_j;y,z_j)\,\mathrm{d} z_j となる。これは Tr⁡2[W12, γ(2)]\operatorname{Tr}_2\left[W_{12},\,\gamma^{(2)}\right] の核であり、ボソンの対称性から N−1N-1 個の jj で同じ値になる。

以上を合わせて i∂tγ(1)=[h, γ(1)]+λN(N−1)Tr⁡2[W12, γ(2)]\mathrm{i}\partial_t\gamma^{(1)}=\left[h,\,\gamma^{(1)}\right]+\lambda_N(N-1)\operatorname{Tr}_2\left[W_{12},\,\gamma^{(2)}\right] を得る。

式 (6.8) の最後の項が要点である。γ(1)\gamma^{(1)} の方程式には γ(2)\gamma^{(2)} が、γ(2)\gamma^{(2)} の方程式には γ(3)\gamma^{(3)} が現れ、どの段も次の段を含む。有限の kk で切ると方程式が閉じない。全体は k=Nk=N で NN 体の Schrödinger 方程式そのものに戻るので、階層は元の問題と同じ難しさを持つ。この構造は量子に固有のものではなく、古典の Liouville 方程式から周辺分布の方程式を作っても同じ階層が現れる(BBGKY は Bogoliubov・Born・Green・Kirkwood・Yvon の頭文字である)。第9章で扱う乱流のクロージャー問題、つまり平均流の方程式に2次相関(Reynolds 応力)が現れ、その方程式に3次相関が現れる、という無限の連鎖も同じ構造をしている。違いは、平均場スケーリングには小さいパラメータ 1/N1/N があり、閉じ方が極限として導かれるのに対し、乱流にはそれが無く、閉じ方をモデルとして置くしかない(C 型)ことである。

平均場スケーリングでの極限と、積状態による閉包

λN=1/(N−1)\lambda_N=1/(N-1) とすると、(6.8) の第2項の係数は 1/(N−1)→01/(N-1)\to0、第3項の係数は (N−k)/(N−1)→1(N-k)/(N-1)\to1 になる。形式的に N→∞N\to\infty とすると、Hartree 階層

i∂tγ(k)=∑j=1k[hj, γ(k)]+∑j=1kTr⁡k+1[Wj,k+1, γ(k+1)](6.9)\mathrm{i}\partial_t\gamma^{(k)}=\sum_{j=1}^k\left[h_j,\,\gamma^{(k)}\right]+\sum_{j=1}^k\operatorname{Tr}_{k+1}\left[W_{j,k+1},\,\gamma^{(k+1)}\right]\tag{6.9}

を得る。これも閉じていない無限の連立方程式だが、特別な解を持つ。

命題 6.9(積状態は階層を閉じる ★★★)

φt\varphi_t が Hartree 方程式

i∂tφ=−Δφ+(W∗∣φ∣2)φ(6.10)\mathrm{i}\partial_t\varphi=-\Delta\varphi+(W*\lvert \varphi\rvert ^2)\varphi\tag{6.10}

を満たすなら、γ(k)=∣φt⟩⟨φt∣⊗k\gamma^{(k)}=| \varphi_t \rangle \langle \varphi_t |^{\otimes k}(k=1,2,…k=1,2,\dots)は Hartree 階層 (6.9) の解である。

証明

p=∣φ⟩⟨φ∣p=| \varphi \rangle \langle \varphi |、V=W∗∣φ∣2V=W*\lvert \varphi\rvert ^2 とおく。鍵になる恒等式は

Tr⁡2[W12 (p⊗p)]=V p,Tr⁡2[(p⊗p) W12]=p V(6.11)\operatorname{Tr}_2\bigl[W_{12}\,(p\otimes p)\bigr]=V\,p,\qquad \operatorname{Tr}_2\bigl[(p\otimes p)\,W_{12}\bigr]=p\,V\tag{6.11}

である。左の式の核は ∫W(x−z)φ(x)φ(z)φ(y)‾ φ(z)‾ dz=(W∗∣φ∣2)(x)φ(x)φ(y)‾\int W(x-z)\varphi(x)\varphi(z)\overline{\varphi(y)}\,\overline{\varphi(z)}\,\mathrm{d} z=(W*\lvert \varphi\rvert ^2)(x)\varphi(x)\overline{\varphi(y)} で、これは VpVp の核に等しい。右の式も同様である。これを γ(k+1)=p⊗(k+1)\gamma^{(k+1)}=p^{\otimes(k+1)} の jj 番目と k+1k+1 番目に使うとTr⁡k+1[Wj,k+1, p⊗(k+1)]=[Vj, p⊗k]\operatorname{Tr}_{k+1}\left[W_{j,k+1},\,p^{\otimes(k+1)}\right]=\left[V_j,\,p^{\otimes k}\right] となり、(6.9) の右辺は ∑j[hj+Vj, p⊗k]\sum_j\left[h_j+V_j,\,p^{\otimes k}\right] になる。一方、(6.10) から i∂tp=[h+V, p]\mathrm{i}\partial_tp=\left[h+V,\,p\right] であり、積の微分で i∂tp⊗k=∑j[hj+Vj, p⊗k]\mathrm{i}\partial_tp^{\otimes k}=\sum_j\left[h_j+V_j,\,p^{\otimes k}\right]。両辺が一致する。

この命題が平均場近似の「閉じ方」の正体である。多体の相関を捨てて「2粒子の状態は1粒子の状態の積」と置くと、階層は第1段で閉じ、1粒子の非線形方程式(Hartree 方程式)になる。ポテンシャル V=W∗∣φ∣2V=W*\lvert \varphi\rvert ^2 は「他のすべての粒子が平均としてつくる場」である。

階層による証明の難所

命題 6.9 は「積状態は極限の階層を満たす」と言っているだけで、「NN 体の解の極限が積状態になる」とは言っていない。後者を階層の方法で示すには、(1) γN(k)\gamma_N^{(k)} の部分列が何かに収束し、(2) その極限が Hartree 階層を満たし、(3) Hartree 階層の解が初期値から一意に決まる、の3段階が要る。(3) が難所で、有界な WW なら級数展開で示せる(Spohn)が、クーロン型や接触型の相互作用では Erdős–Schlein–Yau による長大な組合せ論的評価が必要になった。次節では、この難所を迂回する別の方法を述べる。

例題 6.4 BBGKY 第1式と閉包の確認 ★★★

オリジナル[標準的な題材を自作] N=2N=2 のボソン系 H=h1+h2+W12H=h_1+h_2+W_{12}(λ=1\lambda=1)を考える。

  1. γ(1)\gamma^{(1)} の方程式が i∂tγ(1)=[h, γ(1)]+Tr⁡2[W12, γ(2)]\mathrm{i}\partial_t\gamma^{(1)}=\left[h,\,\gamma^{(1)}\right]+\operatorname{Tr}_2\left[W_{12},\,\gamma^{(2)}\right] になることを、γ(2)=∣ψ⟩⟨ψ∣\gamma^{(2)}=| \psi \rangle \langle \psi | に注意して確かめよ。
  2. ψ=φ⊗φ\psi=\varphi\otimes\varphi を仮に代入したとき、右辺が [h+W∗∣φ∣2, γ(1)]\left[h+W*\lvert \varphi\rvert ^2,\,\gamma^{(1)}\right] になることを示せ。
  3. (2) の右辺が正しい γ(1)\gamma^{(1)} の時間微分と一致し続けないのはなぜか。N=2N=2 と N→∞N\to\infty で何が違うかを述べよ。
解答

(1) 命題 6.8 の証明で N=2N=2、λN=1\lambda_N=1 とすれば、W1jW_{1j} の項は j=2j=2 の1つだけで、係数 λN(N−1)=1\lambda_N(N-1)=1 である。N=2N=2 では γ(2)\gamma^{(2)} は2体の状態そのもの ∣ψ⟩⟨ψ∣| \psi \rangle \langle \psi | であり、階層は2段で閉じている(第2段は Schrödinger 方程式)。

(2) γ(2)=p⊗p\gamma^{(2)}=p\otimes p とすれば恒等式 (6.11) から Tr⁡2[W12, p⊗p]=Vp−pV=[V, p]\operatorname{Tr}_2\left[W_{12},\,p\otimes p\right]=Vp-pV=\left[V,\,p\right]、V=W∗∣φ∣2V=W*\lvert \varphi\rvert ^2。γ(1)=p\gamma^{(1)}=p なので右辺は [h+V, γ(1)]\left[h+V,\,\gamma^{(1)}\right] になる。

(3) 時刻 0 で積状態でも、W12W_{12} は2粒子をもつれさせるので、ψt\psi_t は直ちに積状態でなくなる。そのずれ γ(2)−γ(1)⊗γ(1)\gamma^{(2)}-\gamma^{(1)}\otimes\gamma^{(1)} はN=2N=2 では O(1)\mathcal{O}(1) の大きさで育ち、Hartree 方程式からのずれも O(1)\mathcal{O}(1) になる。N→∞N\to\infty で λN=1/(N−1)\lambda_N=1/(N-1) のときは、1対あたりのもつれが O(1/N)\mathcal{O}(1/N) に抑えられ、粒子1に関わる N−1N-1 対の寄与を合わせても、粒子1が凝縮から外れる確率は O(1/N)\mathcal{O}(1/N) にとどまる。これを定量化するのが次節の定理である(BBGKY 第1式そのものは有限次元の数値微分で検算スクリプト)。

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

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