近似の数理 第6章 §6.8 ★★ 平均場極限は「大きい N」と「小さい ħ」が組になって現れることが多い
例題 6.7 (3) で見たとおり、原子では長さを TF のスケールに測り直すと、N=Z 個の粒子が係数 1/N の相互作用を持ち、同時に ℏeff=N−1/3 になる。これは偶然ではない。N 個のフェルミオンは Pauli の原理によって位相空間の体積 (2πℏ)3 ごとに(スピンを除いて)1個ずつしか入れないので、位相空間の大きさが O(1) の領域に N 個を詰めるには ℏ3∼1/N、つまり ℏ∼N−1/3 でなければならない。フェルミオンの平均場極限は、自動的に半古典極限を伴う。
二つの極限が組になると、得られる有効方程式も古典に近づく。ボソンの平均場極限は Hartree 方程式(量子の一体方程式)だったが、フェルミオンでは ℏ=N−1/3 の組で Hartree–Fock 方程式が得られ(Benedikter–Porta–Schlein らの結果)、さらに ℏ→0 で第6.2節の Vlasov 方程式に移る。TF 理論はその定常版で、Vlasov 方程式の定常解のうち「位相空間で Fermi 面まで一様に詰まった」分布f(x,p)=1{p2/2<ϕTF(x)} の密度が TF 密度になっている。こうして本章の三つの話題(古典の Vlasov、ボソンの Hartree、フェルミオンの TF)は、1/N と ℏ の二つの小さいパラメータの平面上の異なる点として一つにつながる。
二つの小さいパラメータ
- 1/N→0(ℏ 固定):ボソンの平均場極限。多体 Schrödinger → Hartree 方程式。
- 1/N→0 と ℏ=N−1/3→0 の組:フェルミオンの平均場極限。多体 Schrödinger → Hartree–Fock → Vlasov/Thomas–Fermi。
- 古典粒子系の 1/N→0:Newton 方程式 → Vlasov 方程式(Dobrushin)。
半古典の補正(ℏ のべき)は Scott・Schwinger 項として原子のエネルギーに現れ、平均場からのずれ(1/N のべき)は Bogoliubov の揺らぎとして現れる。
例題 6.9 位相空間の数え上げと ℏ∼N−1/3 ★★
オリジナル3次元の調和ポテンシャル 21x2 の中の、相互作用のないフェルミオン(スピン2重度あり、質量 1)を考える。
- (1) 位相空間の分布 f(x,p)=1{p2/2<ϕ(x)} の密度が、スピンを含めて ρ(x)=(2ϕ(x))3/2/(3π2ℏ3) になることを示せ(ℏ=1 で TF 方程式の左辺と同じ関係)。
- (2) Fermi エネルギーを μ とし、ϕ(x)=μ−21x2 として、半古典の粒子数 Nsc=μ3/(3ℏ3) を導け。
- (3) 量子力学の準位は ℏ(n+23)、縮退度は (n+1)(n+2)/2 である。n=0,…,K−1 の殻を満たしたときの粒子数 N=K(K+1)(K+2)/3 を示し、μ=ℏ(K+1) とおくと N=Nsc−μ/(3ℏ) となることを確かめよ。μ=1 に固定したときの ℏ の N 依存を述べよ。
解答
(1) 点 x で運動量の大きさが pF=2ϕ(x) 以下の状態がすべて埋まる。位相空間の体積 (2πℏ)3 に1つの状態があり、スピンで2倍なので
ρ(x)=2⋅(2πℏ)334πpF3=3π2ℏ3pF3=3π2ℏ3(2ϕ(x))3/2.
ℏ=1 では 21(3π2ρ)2/3=ϕ となり、TF 方程式の「局所 Fermi エネルギー=ポテンシャル」と一致する。
(2) 埋まる領域は6次元の球 {p2/2+x2/2<μ} で、半径は 2μ。6次元の単位球の体積 π3/6 を使うと体積は 6π3(2μ)3=34π3μ3。よって Nsc=2⋅34π3μ3/(2πℏ)3=μ3/(3ℏ3)。
(3) ∑n=0K−12⋅2(n+1)(n+2)=∑m=1Km(m+1)=3K(K+1)(K+2)。μ=ℏ(K+1) なら μ/ℏ=K+1 で、3(K+1)3−(K+1)=3(K+1)K(K+2)=N が成り立つ。主要項は位相空間の体積の数え上げ Nsc で、離散性の補正は相対的に O(N−2/3) である(例題 6.8 の殻の数え上げと同じ構造)。μ=1 に固定すると N≈1/(3ℏ3)、つまり ℏ≈(3N)−1/3。エネルギーの尺度を O(1) に保ったまま粒子を増やすと、Pauli の原理によって ℏ が N−1/3 で小さくならざるを得ない。たとえば K=13 では N=910、ℏ=1/14≈0.071 で、(3N)−1/3≈0.072 に近い(検算スクリプト)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com