近似の数理 第7章 §7.2 ★★★ 外部解・内部解・接合・合成解という特異摂動の手順をすべて誤差評価つきで追う
モデル問題 (7.1) を、厳密解と照らし合わせながら解く。手順は (1) 外部解、(2) 内部解、(3) 接合、(4) 合成解、(5) 誤差評価、の5段階である。
厳密解
定数係数なので特性方程式 ελ2+λ+1=0 から λ1,2=(−1±1−4ε)/(2ε)(0<ε<1/4)が得られ、
y(x)=eλ1−eλ2eλ1x−eλ2x,λ1=−1−ε+O(ε2),λ2=−ε1+1+O(ε)(7.2)
である(検算スクリプト)。λ1 は ε=0 の問題の根 −1 の摂動であり、λ2 は代数方程式の例と同じく無限遠へ逃げる根である。eλ2x≈e−x/ε は x が ε 程度離れるとほぼ消えるので、この解の成分は x=0 の近くの幅 O(ε) の層にしか存在しない。厳密解が書けない問題でもこの構造を取り出せるようにするのが、以下の手順の目的である。
外部解
x が 0 から離れた領域(外部領域)では y の変化はゆるやかで、εy′′ は他の項より小さいと仮定する。y=y0+εy1+⋯ を代入して ε0 の項を集めると y0′+y0=0 であり、解は y0=Ce−x である。定数を一つしか持たないので、境界条件のどちらか一方しか課せない。どちらを課すかは次の小節で内部解が決める。ここでは x=1 の条件 y0(1)=1 を課して
y0(x)=e1−x
とする(この選択が正しいことは後の小節「境界層はどちらの端にできるか」で原理から説明する)。外部解は y0(0)=e=0 となり、x=0 の条件を破っている。
内部解
x=0 の近くには、y が e から 0 へ急に変わる層(境界層)があるはずである。その厚さを δ(ε) として伸長変数 X=x/δ、Y(X)=y(δX) を導入すると、方程式は
δ2εY′′+δ1Y′+Y=0
となる。3つの項の大きさを比べる。δ を ε より大きくとると第2項が最大で Y′=0 しか残らず、層の中で変化する解が得られない。δ を ε より小さくとると第1項だけが残り Y′′=0 となるが、これでは Y′ の項との釣り合いが無い。第1項と第2項が同じ大きさになる δ=ε が、二つの項が釣り合う唯一の選び方(主要釣り合い、distinguished limit)である。δ=ε とすると
Y′′+Y′+εY=0
となり、今度は ε が最低階の項に掛かっているので正則摂動になる。主要項は Y0′′+Y0′=0、条件 Y0(0)=0 から
Y0(X)=A(1−e−X)
を得る。定数 A はまだ決まらない。
接合
外部解は x→0 で値 e に近づき、内部解は X→∞ で値 A に近づく。両者が同じ関数の異なる領域での近似であるなら、二つの領域が重なる中間の領域で一致しなければならない。この要請を接合条件(matching condition)という。最も簡単な形(Prandtl の接合則)は
X→∞limY0(X)=x→0limy0(x)
であり、A=e が決まる。
この条件の根拠は中間変数で確かめられる。ε≪η(ε)≪1 を満たす η(たとえば η=ε)をとり、x=ηξ(ξ は固定)とおく。このとき X=x/ε=(η/ε)ξ→∞ かつ x=ηξ→0 なので、中間変数で固定した点は「内部から見れば遠方、外部から見れば境界の近く」にある。外部解はそこでe1−ηξ=e+O(η)、内部解は A(1−e−ηξ/ε)=A+(指数的に小) となるので、二つが同じ関数を近似するには A=e でなければならない。高次の項を接合するときは、外部解を内部変数で書き直して展開したものと内部解を外部変数で書き直して展開したものを、項数をそろえて比較する Van Dyke の接合則を使う。この章では主要項の接合で足りる。
合成解と誤差評価
外部解と内部解はそれぞれの領域でしか正しくない。全域で使える一つの式にするには、二つを足して、重なり領域で二重に数えた共通部分(e)を引けばよい。これを合成解(composite solution)という。
yc(x)=y0(x)+Y0(x/ε)−e=e1−x−e1−x/ε.(7.3)
yc(0)=0 は正確に成り立ち、yc(1)=1−e1−1/ε は指数的に小さい誤差で 1 に等しい。
定理 7.3(合成解の一様誤差 ★★★)
0<ε≤1/8 に対し、(7.2) の厳密解 y と合成解 (7.3) は
0≤x≤1sup∣y(x)−yc(x)∣≤Cε
を満たす。ここで C は ε によらない定数である。さらに ε→0 で sup∣y−yc∣/ε→e となる。
証明
D=eλ1−eλ2 とおく。λ1=−1−ε+O(ε2) と eλ2=O(e−1/(2ε))から e−1/D=1+ε+O(ε2) である。差を二つに分ける。
y−yc=(i)[Deλ1x−e1−x]−(ii)[Deλ2x−e1−x/ε].
(i) は e1−x[e(λ1+1)x(e−1/D)−1] と書け、∣(λ1+1)x∣≤2ε とe−1/D=1+O(ε) から、x∈[0,1] について一様に ∣(i)∣≤e⋅O(ε) である。(ii) は e1−x/ε[e(λ2+1/ε)x(e−1/D)−1] と書ける。λ2+1/ε=1+O(ε) なので角括弧は ex(1+O(ε))(1+O(ε))−1=O(x+ε)(x≤1 で一様)である。したがって
∣(ii)∣≤C′e1−x/ε(x+ε)≤C′e(x≥0supxe−x/ε+ε)=C′eε(e−1+1).
(i) と (ii) を合わせて主張の一様評価を得る。極限値については、(ii) が x≫ε で指数的に消え、(i) がe1−x(e−εx(1+ε)−1)+O(ε2)=e1−xε(1−x)+O(ε2) となることから、外部領域での誤差 εe1−x(1−x) が x→0 で最大値 eε に近づくことによる。
数値で確かめると次の通りで、比 sup∣y−yc∣/ε は単調に増えながら e≈2.718 に近づく(検算スクリプト)。収束が遅いのは、最大を与える点が層の外縁 x∼εln(1/ε) にあり、そこで (ii) の残りがまだ完全には消えていないためである。
| ε | 0.1 | 0.05 | 0.01 | 10−3 | 10−4 | 10−5 |
| sup∣y−yc∣ | 0.110 | 0.0862 | 0.0242 | 2.67×10−3 | 2.71×10−4 | 2.72×10−5 |
| sup∣y−yc∣/ε | 1.10 | 1.72 | 2.42 | 2.67 | 2.71 | 2.72 |

図 7.1 モデル問題 εy′′+y′+y=0、y(0)=0、y(1)=1 の ε=0.05 での厳密解・外部解・内部解・合成解。外部解は x=0 で境界条件を破り、内部解は層の外で一定値 e にとどまる。合成解は全域で厳密解と O(ε) の差に収まる。
境界層はどちらの端にできるか
外部解に x=1 の条件を課したのは、境界層が x=0 にあると仮定したからであった。逆に x=1 に層を置こうとするとどうなるか。ξ=(1−x)/ε を伸長変数にとると d/dx=−ε−1d/dξ なので、主要項はY′′−Y′=0、解は Y=B+Ceξ となる。ξ→∞(層の外)で外部解に接合するには有界でなければならずC=0、すると Y は定数で境界条件の不一致を埋められない。つまり x=1 に境界層は作れない(検算スクリプト)。
一般に εy′′+a(x)y′+b(x)y=0 で a(x) が区間上で符号を変えないとき、内部方程式は Y′′±aY′=0 となり、層の外へ向かって減衰する解が存在するのは a>0 なら左端、a<0 なら右端だけである。この規則には物理的な意味がある。εy′′+ay′=0 を定常な移流拡散方程式 εy′′=−ay′ と読むと、−a が「流れの速度」に当たり、a>0 なら情報は右から左へ(x=1 から x=0 へ)運ばれる。外部解は1階方程式すなわち純粋な移流であり、上流端(x=1)の境界条件を下流へ運ぶことしかできない。下流端(x=0)で課された条件は移流では届かないので、拡散 εy′′ が支配する薄い層でつじつまを合わせる。境界層は流れの下流端にできるというのがこの規則の内容である。a(x) が区間の内部で符号を変える場合(転回点)は、層が内部に現れたり、外部解そのものが一意に決まらなくなったりする。転回点は WKB の節で別の形で再び現れる。
例題 7.2 右端にできる境界層 ★★★
オリジナル0<ε≪1 とし、境界値問題
εy′′−y′−y=0,y(0)=1,y(1)=0
を考える。
- (1) 境界層がどちらの端にできるかを、前小節の規則と内部方程式の解の有界性の両方から判定せよ。
- (2) 外部解・内部解を主要項まで求め、接合して合成解を作れ。
- (3) 厳密解の指数 λ± を ε で展開し、合成解との差が一様に O(ε) であることを示せ。
解答
(1) y′ の係数は a=−1<0 なので、規則から境界層は右端 x=1 にできる。確認として、左端に層を置くとX=x/ε で内部方程式 Y′′−Y′=0、解 B+CeX は X→∞ で増大するので接合できない。右端なら ξ=(1−x)/ε でY′′+Y′=0、解 B+Ce−ξ は層の外で減衰して定数 B に近づくので接合できる。
(2) 外部解は −y0′−y0=0 から y0=Ce−x、左端の条件 y0(0)=1 から y0=e−x である。内部解は Y0=B(1−e−ξ)(Y0(0)=0 を満たす形)。接合 limξ→∞Y0=limx→1y0 から B=e−1。合成解は外部解+内部解−共通部分 e−1 で
yc(x)=e−x−e−1e−(1−x)/ε.
(3) 特性方程式 ελ2−λ−1=0 の根は λ±=(1±1+4ε)/(2ε) で、λ−=−1+ε+O(ε2)、λ+=1/ε+1+O(ε) である。厳密解をy=Aeλ−x+Beλ+(x−1) と書くと、境界条件から A=1+O(e−1/ε)、B=−eλ−+O(e−1/ε)=−e−1(1+O(ε)) である。外部の成分の差はe−x(eεx+O(ε2)−1)=O(ε)、内部の成分の差は本文の定理と同様にe−(1−x)/εO((1−x)+ε) で、sups≥0se−s/ε=ε/e を使うと O(ε) である。よって sup∣y−yc∣=O(ε)。数値では ε=10−3 で sup∣y−yc∣/ε≈0.42 である(検算スクリプト)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com