量子力学の様々な構成方法 第10部 第2章 §10.2.5 ★★ 次元が半分で ω が消える部分多様体。位置表示は「q=一定の面」で相空間を埋めることにあたり、第4章の偏極になる
定義と例
定義 10.2.10(Lagrange 部分多様体)
2fd 次元のシンプレクティック多様体 (M,ω) の fd 次元の部分多様体 Λ で、その上の任意の2つの接ベクトル u,v について ω(u,v)=0 となるものを Lagrange 部分多様体と呼ぶ。
ω が消える部分空間の次元は fd を超えない(ω が非退化なので、ω が消える部分空間 V は「V のすべてと ω が0になるベクトルの空間」Vω に含まれ、dimV+dimVω=2fd だから)。Lagrange 部分多様体はこの上限の次元を持ち、各点で接空間 TΛ が (TΛ)ω に一致する。
典型的な例は3つある。第一に、q= 一定の面 {(q0,p)} で、接ベクトルは ∂pi の結合だけなので ω=∑dqi∧dpi は消える。p= 一定の面も同じである。第二に、関数 S(q) の勾配のグラフ ΛS={(q,∇S(q))} である。ΛS の上では pi=∂iS なので
ω∣ΛS=i∑dqi∧d(∂iS)=i,j∑∂j∂iSdqi∧dqj=0(10.2.20)
(2階偏微分は対称、dqi∧dqj は反対称)。逆に、p=a(q) のグラフが Lagrange なら ∂iaj=∂jai で、局所的に a=∇S と書ける。第三に、1自由度ではどの曲線も Lagrange である(1次元の接空間では ω(u,u)=0)。特に H の等高線、つまり周期軌道は Lagrange 部分多様体である。
WKB の波動関数 ψ≈AeiS(q)/ℏ の位相 S が、相空間ではグラフ ΛS に対応する。ΛS の上で H が一定になる条件 H(q,∇S)=E が Hamilton–Jacobi 方程式で、そのとき軌道は ΛS から出ていかない。
命題 10.2.11(Hamilton–Jacobi と Lagrange 部分多様体 ★★)
Lagrange 部分多様体 Λ の上で H が一定なら、XH は Λ に接する。特に H(q,∇S)=E なら、ΛS から出発した軌道は ΛS の上にとどまる。
証明
Λ の任意の接ベクトル v について ω(XH,v)=dH(v)=0(H は Λ の上で一定)。したがって XH∈(TΛ)ω=TΛ。
第10部第5章で Bohr–Sommerfeld 条件を「Lagrange 部分多様体(等高線)の上で θ を1周積分した量の条件」として述べるとき、この命題を使う。
葉層と偏極の予告
相空間を Lagrange 部分多様体で隙間なく埋め尽くしたもの(各点を通る葉が1枚ずつある分け方)を Lagrange 葉層と呼ぶ。q= 一定の面で埋めたもの(鉛直の葉層)では、葉の上で一定な関数は q だけの関数で、波動関数を「葉の上で一定」に制限すると ψ(q)、つまり位置表示になる。p= 一定の面で埋めれば運動量表示になる。第10部第4章では、葉層の選び方(実偏極)を表示の選び方として扱う。
葉層を選ぶと、量子化できる関数の範囲も絞られる。Xf の流れが葉を葉へ写す(葉層を保つ)関数は限られている。
命題 10.2.12(鉛直の葉層を保つ関数 ★★★)
1自由度で、Xf の流れが鉛直の葉層 {q=一定} を保つ([Xf,∂p] が ∂p の倍数になる)ための必要十分条件は ∂p2f=0、すなわち f=a(q)+b(q)p である。
証明
Xf=fp∂q−fq∂p と ∂p の交換子は、成分の式から [Xf,∂p]=−∂p(fp)∂q+∂p(fq)∂p=−fpp∂q+fpq∂p。∂q の成分が0になることが fpp=0 と同値で、これを p について2回積分すると f=a(q)+b(q)p。
第10部第1章で、偏極によって量子化できる関数が p について1次以下に絞られることを予告した(第10部第1章)。命題 10.2.12 がその幾何の理由である。運動エネルギー p2/2m はこの範囲に入らないので、位置表示の偏極では H^ を直接には作れず、第10部第4章で別の扱い(BKS の方法)が要る。
例題 10.2.5 Lagrange かどうかを判定し、葉層を保つ関数を選ぶ ★★
オリジナル
- (1) 2自由度の相空間 (q1,q2,p1,p2) で、次のグラフ p=a(q) が Lagrange 部分多様体かどうか判定し、Lagrange なら a=∇S となる S を求めよ。(a) a=(q1,q2) (b) a=(q2,−q1) (c) a=(q2,q1)
- (2) 1自由度で、f1=q3+qp、f2=p2/(2m)、f3=eqp のうち、ハミルトンベクトル場の流れが鉛直の葉層を保つものを選べ。保たないものは [Xf,∂p] を求めよ。
解答
(1) グラフの上の ω は ∑idqi∧dai(q) で、dq1∧dq2 の係数は ∂1a2−∂2a1 である。(a) ∂1q2−∂2q1=0 で Lagrange、S=21(q12+q22)。(b) ∂1(−q1)−∂2q2=−2 で、ω∣=−2dq1∧dq2=0 なので Lagrange でない(a は回転する場で、勾配で書けない)。(c) ∂1q1−∂2q2=0 で Lagrange、S=q1q2。
(2) 命題 10.2.12 から、p について1次以下のものを選ぶ。f1=q3+qp(a=q3, b=q)と f3=eqp(a=0, b=eq)は葉層を保つ。f2 は fpp=1/m なので保たず、[Xf2,∂p]=−m1∂q。Xf2=mp∂q は p が違う点を違う速さで q 方向へ動かすので、q= 一定の線を傾けてしまう。
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