量子力学の様々な構成方法 第10部 第6章 §10.6.3 ★★★ Hilbert 空間を作らずに、時間発展の ⋆ 指数関数を Moyal 積で解き、その Fourier 展開の周波数としてスペクトル ℏω(n+21) を、係数として 2πℏWn を得る
スペクトルを関数の言葉で定義する
変形量子化には Hilbert 空間が無いので、「演算子の固有値」をそのままでは定義することができない。Bayen らは、時間発展の演算子 e−iH^t/ℏ の記号にあたる⋆ 指数関数
Exp⋆(−ℏitH)=k=0∑∞k!1(−ℏit)kH⋆k(10.6.10)
(H⋆k は H の k 個の ⋆ 積)を作り、それを時間について Fourier 展開したときに現れる周波数をスペクトルと定義した(Bayen らの論文の第 II 部)。Exp⋆ は微分方程式
iℏ∂tE=H⋆E,E(0)=1(10.6.11)
の解である。第5部第3章で解いた Bloch 方程式 ∂βΩ=−H⋆Ω は、この式で t=−iℏβ と置いたものにあたる。ここでは実時間のまま解き、展開の形を見る。
調和振動子の ⋆ 指数関数
H=2mp2+2mω2q2=ℏω∣z∣2 とし、u=∣z∣2=H/(ℏω) の関数 F(u) に H を ⋆ 積で掛ける。式 (10.6.5) の指数を展開すると、1次の項は 21[∂zˉ(zzˉ)∂zF−∂z(zzˉ)∂zˉF]=21[z⋅zˉF′−zˉ⋅zF′]=0 で消える。2次の項は2!1⋅41[∂zˉ2(zzˉ)∂z2F−2∂z∂zˉ(zzˉ)∂z∂zˉF+∂z2(zzˉ)∂zˉ2F]=−41∂z∂zˉF で、∂z∂zˉF(u)=∂z(zF′)=F′+uF′′ を使うと
H⋆F=ℏω[uF−41(F′+uF′′)](10.6.12)
となる。zzˉ は2次なので3次以上の項は無い。同じ計算で F⋆H も同じ式になり、H は u の関数と ⋆ 可換である。
式 (10.6.11) の解を E=A(t)eb(t)u と置く。F′=bF、F′′=b2F なので式 (10.6.12) は ℏω[u(1−4b2)−4b]E で、左辺は iℏ(A˙/A+b˙u)E である。u の係数と定数項を比べて
ib˙=ω(1−4b2),iAA˙=−4ωb,b(0)=0, A(0)=1.
第1式は b=−2itan(ωt/2) で解ける(ib˙=ωsec2(ωt/2)、1−b2/4=1+tan2(ωt/2))。第2式は A˙/A=2ωtan(ωt/2) で A=sec(ωt/2)。よって
Exp⋆(−ℏitH)=cos(ωt/2)1exp[−ℏω2iHtan2ωt](10.6.13)
である(∣ωt∣<π)。t=−iℏβ と置くと sech(βℏω/2)exp[−ℏω2Htanh(βℏω/2)] となり、第5部第3章の Bloch 方程式の解と一致する。
Fourier 展開とスペクトル
s=e−iωt と置くと sec(ωt/2)=2e−iωt/2/(1+s)、−2itan(ωt/2)=−2(1−s)/(1+s) で、1+s1−s=1−1+s2s を使うと
E=e−iωt/21+s2e−2uexp(1+s4us).
Laguerre 多項式の母関数 ∑nLn(x)rn=1−r1exp(−1−rxr) で r=−s、x=4u と置くと(第5部第5章で熱平衡の W を足し上げたのと同じ母関数。第5部第5章)、
Exp⋆(−ℏitH)=n=0∑∞e−iEnt/ℏπn,En=ℏω(n+21),πn=2(−1)ne−2H/(ℏω)Ln(ℏω4H)(10.6.14)
を得る。周波数 En/ℏ の集合がスペクトルで、共通例題①の正答 En=ℏω(n+21) と一致する。係数 πn は補足の表の Wn を使うと πn=2πℏWn である。
命題 10.6.4(⋆ 指数関数の展開の係数は ⋆ 射影 ★★★)
式 (10.6.14) の πn は πn⋆πk=δnkπn、∑nπn=1、H⋆πn=Enπn を満たす。
証明
E(t1)⋆E(t2) と E(t1+t2) はどちらも t2 について式 (10.6.11) を満たし(結合律から iℏ∂t2(E(t1)⋆E(t2))=E(t1)⋆H⋆E(t2) で、H と u の関数が ⋆ 可換なので H⋆E(t1)⋆E(t2))、t2=0 で等しいので一致する。展開を入れると∑n,ke−i(Ent1+Ekt2)/ℏπn⋆πk=∑ne−iEn(t1+t2)/ℏπn で、t1、t2 の指数関数の係数を比べて πn⋆πk=δnkπn。t=0 で ∑nπn=E(0)=1。H⋆πn=Enπn は、式 (10.6.11) に展開を入れて e−iEnt/ℏ の係数を比べれば出る。
πn⋆πn=πn は Wn⋆Wn=Wn/(2πℏ)(第5部第3章の純粋状態の条件)と同じ式で、H⋆πn=Enπn は第5部第5章の ⋆ 固有値方程式である。第5部第5章では ⋆ 固有値方程式を Laguerre の微分方程式に直して En と Wn を出した。この節では時間発展だけを解き、スペクトルと Wn を Fourier 展開の周波数と係数として同時に読み取った。どちらの道も Hilbert 空間を一度も使っていない。
例題 10.6.3 正規順序の ⋆ 積でスペクトルを出すと零点が消える ★★★
オリジナル正規順序の積 ⋆N で、同じ関数 H=ℏω∣z∣2 の ⋆ 指数関数を作る。
- (1) u=∣z∣2 の関数 F(u) について H⋆NF=ℏω(uF+uF′) を示せ。
- (2) iℏ∂tE=H⋆NE、E(0)=1 を解き、Fourier 展開の周波数(スペクトル)と係数を求めよ。
- (3) (2) のスペクトルと式 (10.6.14) の違いを、定理 10.6.3 の TN で説明せよ。βℏω=1 での分配関数の比も求めよ。
解答
(1) 式 (10.6.6) で ∂zˉ(zzˉ)=z、∂zˉ2(zzˉ)=0 なので級数は2項で切れ、H⋆NF=ℏω(zzˉF+z∂zF)=ℏω(uF+uF′)。
(2) E=ec(t)u と置くと ic˙u=ω(u+cu) で ic˙=ω(1+c)、c(0)=0 から c=e−iωt−1。E=exp[(e−iωt−1)u]=e−u∑nn!une−inωt で、スペクトルは ℏωn、係数は e−uun/n! である。係数は ∣n⟩⟨n∣ の正規順序の記号 ∣⟨z∣n⟩∣2(∣z⟩ は規格化したコヒーレント状態)にあたる。
(3) 関数 H を ⋆N で扱うことは、正規順序の記号が ℏω∣z∣2 の演算子 ℏωa^†a^ を扱うことである。その Weyl 記号は TN−1(ℏω∣z∣2)=ℏω(∣z∣2−21)=H−2ℏω で、Moyal 積の側から見ると、別の関数 H−ℏω/2 の ⋆ 指数関数を計算したことになる。同値な ⋆ 積は同じ代数を与えるが、同じ関数に別の演算子を割り当て、スペクトルが定数だけずれる。分配関数は Moyal 積で 1/(2sinh21)=0.9595、正規順序の積で 1/(1−e−1)=1.582 で、比は e1/2 である(第10部第5章の例題の、半形式なしと半形式つきの比と同じ)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com