量子力学の様々な構成方法 第3部 第1章 §3.1.2 ★★★ 「すべての経路の振幅を足す」という形と、どの経路の重みを選んでも成り立つ合成則を導く
前節の規則を、スリットと衝立の数を増やした配置に当てはめる。こうすると、Feynman の構成の骨格である「全経路の和」が思考実験だけから出てくる。
続けて起こる過程は振幅を掛ける
スリット 1 を通って x に着く振幅 A1(x) は、「S からスリット 1 に着く」と「スリット 1 から x に着く」という2段の過程からなる。規則として、続けて起こる過程の振幅は掛け算で合成する。
Aj(x)=A(x←j)A(j←S)(j=1,2)(3.1.5)
A(b←a) は a から b へ行く振幅を表す。確率でも、独立に続けて起こる過程は掛け算になるので、この規則は確率の規則を振幅へ写したものである。異なるのは、途中の段で道すじが見分けられないときに和を振幅の段階で取る点だけである。
衝立にスリットを M 本あけると、x に着く振幅は
A(x)=j=1∑MA(x←j)A(j←S)(3.1.6)
になる。衝立を2枚にして、1枚目に M1 本、2枚目に M2 本のスリットをあけると、道すじは「1枚目のどのスリットか」と「2枚目のどのスリットか」の組で番号が付き、振幅はすべての組について足す。
A(x)=j1=1∑M1j2=1∑M2A(x←j2)A(j2←j1)A(j1←S)(3.1.7)
衝立を消す極限
ここで2つの極限をとる(図 3.1.2)。第一に、各衝立のスリットの数を増やし、隙間なくあけて衝立そのものを無くす。このとき「どのスリットを通ったか」の和は、その衝立の位置での座標 xk についての積分になる。第二に、衝立の枚数を増やし、源と検出面の間を細かく区切る。

図 3.1.2 スリットと衝立を増やす思考実験。左は衝立2枚の場合で、道すじは各衝立で通るスリットの組で番号が付く(3本だけ描いた)。右はスリットを隙間なくあけて衝立を消し、枚数を増やした極限で、道すじは各時刻の位置 x1,…,xN−1 の組=折れ線の経路になる
粒子が一定の速さで源から検出面へ進む配置を考えると、衝立の位置は時刻と対応させられる。そこで以後は、位置 xi を時刻 ti に出た粒子が位置 xf に時刻 tf に着く振幅を
K(xf,tf;xi,ti)
と書き、伝播関数(伝播の核)と呼ぶ。区間 [ti,tf] を N 等分した時刻 tk=ti+kϵ(ϵ=(tf−ti)/N)に仮想の衝立を置くと、式 (3.1.7) の和は積分に変わる。
K(xf,tf;xi,ti)=∫dx1⋯∫dxN−1K(xf,tf;xN−1,tN−1)⋯K(x2,t2;x1,t1)K(x1,t1;xi,ti)(3.1.8)
積分変数の組 (x1,…,xN−1) は、xi と xf を結ぶ1本の折れ線の経路を指定する。N→∞ で式 (3.1.8) は「すべての経路にわたる振幅の和」になる。何を各経路の振幅にするかは、ここまでの議論では決まっていない。
合成則
式 (3.1.8) を中間の1つの時刻 t で2つに分けると、各経路の振幅の中身によらず次の関係が出てくる。
K(xf,tf;xi,ti)=∫−∞∞dxK(xf,tf;x,t)K(x,t;xi,ti)(ti<t<tf)(3.1.9)
これを合成則と呼ぶ。時刻 t に置いた「隙間なくあいた衝立」のどこを通ったかで道すじを分け、続けて起こる2段の振幅を掛けて足したものである。
源の側の準備がもっと一般な場合を考える。時刻 t′ に粒子が位置 x′ にいる振幅を ψ(x′,t′) とすると、時刻 t に位置 x にいる振幅は同じ考え方で
ψ(x,t)=∫−∞∞dx′K(x,t;x′,t′)ψ(x′,t′)(t>t′)(3.1.10)
になる。Feynman の構成では、波動関数 ψ(x,t) は「これまでの準備のもとで、時刻 t に位置 x に着く振幅」として後から定義される量である。基準(第1部)では状態ベクトル ∣ψ⟩ が最初からあり、ψ(x)=⟨x∣ψ⟩ がその位置表示だった(第1部第3章)。両者が同じものであることは 3.1.6節で述べる。
例題 3.1.2 3本のスリットの強度分布 ★★
オリジナル等間隔の3本のスリットに同じ大きさの振幅が割り当てられ、隣り合うスリットの振幅の位相差が θ であるとする。すなわち A(x)∝1+eiθ+e2iθ とする。
- (1) 強度 I(θ)=∣1+eiθ+e2iθ∣2 を三角関数で書け。
- (2) 0≤θ<2π で I が 0 になる θ と、主極大の間にある副極大の θ と値を求めよ。
- (3) 確率を足す古典の規則(式 (3.1.1) の3本版)なら強度はいくらか。主極大の値と比べよ。
解答
(1) 絶対値の2乗を展開すると、交差項は e±iθ が2組、e±2iθ が1組出るので、
I(θ)=3+4cosθ+2cos2θ
となる。等比級数の和として計算すると I(θ)=sin2(3θ/2)/sin2(θ/2) とも書け、θ→0 の極限は 9 である。
(2) sin2(3θ/2)=0 かつ sin(θ/2)=0 から、零点は θ=2π/3 と 4π/3 である。dθdI=−4sinθ−4sin2θ=−4sinθ(1+2cosθ) は θ=π で 0 になり、そこでの値は I(π)=3−4+2=1 である。したがって副極大は θ=π にあり、強さは主極大の 1/9 である。
(3) 確率を足すと、位相によらず I=1+1+1=3 になる。振幅を足す規則では、主極大で 32=9 と古典の3倍になり、零点で 0 になる。θ について1周期の平均をとると 3+4⟨cosθ⟩+2⟨cos2θ⟩=3 で古典と一致し、干渉は確率を作り出すのでなく並べ替えるだけであることがわかる。
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