量子力学の様々な構成方法 第3部 第4章 §3.4.2 ★★★ 時間分割した作用の停留条件は離散の Newton 方程式で、N→∞ で Euler–Lagrange 方程式になる
停留条件は離散の Newton 方程式
式 (3.4.1) の積分変数は中間の位置 x1,…,xN−1 で、位相は SN/ℏ である。多変数の停留位相 (3.4.6) を当てるには、まず停留点を求める。xk(1≤k≤N−1)を含むのは SN の第 k−1 項と第 k 項だけなので
∂xk∂SN=ϵm(2xk−xk+1−xk−1)−ϵV′(xk)=0⟺mϵ2xk+1−2xk+xk−1=−V′(xk)(3.4.7)
である。右の式は Newton 方程式 mx¨=−V′(x) の2階微分を差分にしたもので、両端 x0=xi、xN=xf を固定した境界値問題になっている。N→∞ でこれは端を固定した Euler–Lagrange 方程式、すなわち作用の停留条件 δS=0 に移る(解析力学の側の導出は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第4章)。したがって、ℏ→0 で式 (3.4.1) に寄与するのは、時刻 0 に xi を出て時刻 t に xf に着く古典軌道 xcl(s) の近くの経路だけである。停留点での位相は古典軌道の作用 Scl(xf,t;xi)=S[xcl] になる。
古典軌道は1本とは限らない。端の値を与える境界値問題には、解が無いことも、複数あることもある(調和振動子で ωt=π なら xf=−xi のときだけ解があり、そのとき無数にある)。停留点が複数あれば、式 (3.4.5) と同じく寄与を位相つきで足す。これが第3部第1章の「全経路の和」が ℏ→0 で「古典軌道の和」に縮む仕組みである。
寄与する経路の幅
停留点のまわりで寄与する経路の幅は、1変数の場合の ℏ/∣φ′′∣ に当たる。自由粒子で古典軌道から η(s)=asin(πs/t) だけずらした経路の作用の増分は、2m∫0tη˙2ds=4tmπ2a2 である(端は固定したまま、1次の変化は停留性で消える)。この増分が ℏ の程度になる振幅は
a∼mℏt(3.4.8)
で、これより大きくずれた経路は打ち消し合う。ℏt/m が系の大きさに比べて小さいこと、あるいは同じことだが作用 Scl が ℏ に比べて大きいことが、古典極限の条件である。
例題 3.4.2 作用の大きさと経路の束の幅 ★★
オリジナル
- (1) 質量 0.145kg の野球の球が速さ 40m/s で 0.5s 飛ぶ。重力を無視し、作用 Scl=mv2t/2 と Scl/ℏ、寄与する経路の幅 ℏt/m を求めよ。
- (2) 電子が 1ns のあいだ自由に飛ぶとき、寄与する経路の幅を求めよ。速さ 1m/s の電子の作用は ℏ の何倍か。
- (3) (1)(2) から、停留位相の近似がどちらで正しいかを述べよ。
解答
(1) 等速直線運動の作用は運動エネルギー 21mv2 の時間積分で、Scl=21×0.145×402×0.5Js=58Js である。ℏ=1.055×10−34Js で割ると Scl/ℏ=5.5×1035 になる。経路の幅は 1.055×10−34×0.5/0.145m=1.9×10−17m で、陽子の大きさの約 1/50 である。
(2) ℏt/m=1.055×10−34×10−9/(9.109×10−31)m=3.4×10−7m=0.34μm である。速さ 1m/s なら Scl=21×9.109×10−31×1×10−9Js=4.6×10−40Js で、ℏ の 4.3×10−6 倍しかない。
(3) 野球の球では、古典軌道から 10−17m ずれただけで位相が打ち消し合い、軌道は古典力学で決まる。電子では、1ns の間にサブマイクロメートルの幅の経路の束全体が寄与し、作用が ℏ より小さい運動では停留位相の展開の小さいパラメータ ℏ/Scl が小さくない。ただし自由粒子では作用が2次式なので、次節で見るとおり停留位相は ℏ の大きさによらず厳密になる。近似の良し悪しは ℏ/Scl だけでなく、作用が2次式からどれだけ外れているかにもよる。
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