量子力学の様々な構成方法 第3部 第4章 §3.4.1 ★★★ 激しく振動する積分は、位相の停留点のまわりの Gauss 積分だけで決まる
第3部第1章(第3部第1章)は、古典の経路が選ばれる理由を「作用が停留する経路のまわりでは位相がそろう」と言葉で述べ、式にするのを先送りにした。第3部第2章(第3部第2章)は基準から時間分割の経路積分
K(xf,t;xi,0)=N→∞lim(2πiℏϵm)N/2∫dx1⋯∫dxN−1eiSN/ℏ,SN=k=0∑N−1ϵ[2m(ϵxk+1−xk)2−V(xk)](3.4.1)
を導いた(ϵ=t/N、x0=xi、xN=xf)。この章は第3部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)のうち、「得意な問題」の最初の1つである古典極限を受け持つ。出発点は式 (3.4.1) そのもので、新しい要請は置かない。
道具は1つだけで、停留位相の方法である。ℏ が作用に比べて小さいとき、指数 eiS/ℏ は経路を少し変えるだけで激しく振動し、足し合わせると打ち消し合う。打ち消し合わないのは、経路を変えても作用が1次で変わらない経路、つまり δS=0 を満たす古典軌道の近くだけである。この考えを1変数の積分で式にし(3.4.1節)、多重積分 (3.4.1) に当てると、古典軌道が選ばれること(3.4.2節)と、そのまわりの揺らぎが前因子を決めること(3.4.3節)が出てくる。結果は Van Vleck の公式
K(xf,t;xi,0)≈古典軌道∑2πiℏ1∂xf∂xi∂2Scl1/2exp(ℏiScl(xf,t;xi)−2iπν)(3.4.2)
である。ν はその軌道が途中で通った焦点の数で、焦点を越えるたびに位相が π/2 ずれる理由は3.4.4節で示す。3.4.5節では、式 (3.4.2) の位相 Scl が Hamilton–Jacobi 方程式を、前因子の2乗が連続の式を満たすことを示し、時間について Fourier 変換して WKB 近似の振幅 1/p を出す。3.4.6節は、同じ古典極限が基準・流体(第7部)・位相空間(第5部)・行列力学(第2部)でどう書けるかを並べる。
この章でも位置を x、経過時間を t と書く。古典軌道の作用を、両端と経過時間の関数として Scl(xf,t;xi) と書く(解析力学の Hamilton の主関数に始点の引数を足したもの)。
Fresnel 積分
出発点は、第3部第1章で前因子を決めるのに使った Fresnel 積分である。実数 a=0 について
∫−∞∞dyeiay2/(2ℏ)=∣a∣2πℏeiπsgn(a)/4(3.4.3)
が成り立つ。左辺は収束因子 e−δy2 を掛けて δ→+0 とした値で、π/(δ−ia/(2ℏ)) の主値の極限として右辺が出る。a>0 なら右辺は 2πiℏ/a(i=eiπ/4)、a<0 なら 2πℏ/∣a∣e−iπ/4 である。位相 ±π/4 は、2次関数の向き(上に凸か下に凸か)で決まる。この符号が3.4.4節の焦点の位相 −π/2 の起源になる。
停留位相の公式
滑らかな実関数 φ(y) と、滑らかで速く減衰する g(y) について
I(ℏ)=∫dyg(y)eiφ(y)/ℏ(3.4.4)
を ℏ→0 で評価する。φ′(y)=0 の所では、y が 2πℏ/∣φ′∣ だけ動くたびに位相が1周するので、g がほぼ一定に見える区間で正と負の寄与が打ち消し合う。部分積分 eiφ/ℏ=iφ′ℏdydeiφ/ℏ を n 回繰り返すと、停留点の無い区間からの寄与は O(ℏn) より速く小さくなることがわかる。
残るのは φ′(y∗)=0 を満たす停留点 y∗ の近くである。φ′′(y∗)=0(非退化)なら、φ(y)=φ(y∗)+21φ′′(y∗)(y−y∗)2+O((y−y∗)3) と展開し、g を g(y∗) で置き換えて式 (3.4.3) を使うと
I(ℏ)=y∗∑∣φ′′(y∗)∣2πℏg(y∗)eiφ(y∗)/ℏ+iπsgnφ′′(y∗)/4[1+O(ℏ)](3.4.5)
を得る。寄与する y の幅は ℏ/∣φ′′∣ で、ℏ→0 で停留点に縮む。この幅の中で3次の項は ℏ3/2/ℏ=ℏ1/2 の大きさの位相しか加えず、奇数次の項は対称な積分で消えるので、補正は ℏ の1次から始まる。

図 3.4.1 φ(y)=y2/2、ℏ=0.03 の被積分関数の実部(実線)。停留点 y=0 の近くでは位相がゆっくり変わり、離れるほど振動が細かくなって正負が打ち消し合う。積分に残るのは幅 ℏ/∣φ′′∣ の部分である。
多変数の停留位相
n 変数の積分 ∫dnyg(y)eiφ(y)/ℏ では、停留点 ∇φ(y∗)=0 のまわりの2次の項を Hessian 行列 Φjk=∂j∂kφ(y∗) で書き、Φ を直交行列で対角化すると、固有値ごとに式 (3.4.3) が1つずつ出る。固有値の積は detΦ、位相は正の固有値の数 n+ と負の固有値の数 n− の差で決まるので
∫dnyg(y)eiφ(y)/ℏ≈y∗∑∣detΦ∣1/2(2πℏ)n/2g(y∗)eiφ(y∗)/ℏ+iπ(n+−n−)/4(3.4.6)
である。n+−n− を Hessian の符号数と呼ぶ。n−=0 なら位相は eiπn/4 で、前因子は (2πiℏ)n/2/detΦ とまとめて書ける。経路積分 (3.4.1) は n=N−1 変数の積分なので、3.4.3節でこの式をそのまま当てる。
例題 3.4.1 Bessel 関数の漸近形を停留位相で出す ★★
オリジナル0次の Bessel 関数は積分表示 J0(z)=2π1∫02πeizcosθdθ を持つ。
- (1) 1/ℏ を z と読み替え、停留位相の公式 (3.4.5) で z→∞ の漸近形を求めよ。
- (2) z=2,10,30 で (1) の値と J0(z) の値を比べよ。
解答
(1) 位相は φ(θ)=cosθ で、φ′=−sinθ=0 から停留点は θ=0 と θ=π の2つである。θ=0 では φ=1、φ′′=−1(上に凸)なので寄与は 2π/zeiz−iπ/4、θ=π では φ=−1、φ′′=+1(下に凸)なので寄与は 2π/ze−iz+iπ/4 である。2π1 を掛けて足すと
J0(z)≈2π1z2π(ei(z−π/4)+e−i(z−π/4))=πz2cos(z−4π)
となる。2つの停留点の寄与は位相 ±(z−π/4) を持ち、その干渉が J0 の振動になる。−π/4 のずれは、2つの停留点で φ′′ の符号が逆であることの差 π/2 を半分ずつ持ったものである。
(2) J0(2)=0.2239 に対して漸近形は 0.1967(相対誤差 12%)、J0(10)=−0.2459 に対して −0.2468(0.3%)、J0(30)=−0.0864 に対して −0.0859(0.6%。零点に近いので相対誤差は大きめに見える)である。誤差の絶対値は z−3/2 の割合で小さくなり、これは式 (3.4.5) の補正 O(ℏ) が O(1/z) の相対誤差であることに当たる。

図 3.4.2 J0(z)(点線、厳密)と停留位相の漸近形 2/(πz)cos(z−π/4)(実線、近似)。z≳3 でほぼ重なる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ→0(有限次元の積分で、位相の変わる尺度に比べ ℏ が小さい) | 証明 証明済み(φ・g が滑らかで停留点が孤立し非退化) | 行き先 近似の数理 第7章
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