量子力学の様々な構成方法 第3部 第4章 §3.4.4 ★★★ 焦点を1つ越えるたびに Hessian の固有値が1つ負になり、位相が π/2 ずれる。軌道が複数あれば位相つきで足す
焦点の位相 −π/2
f(s)=0 となる時刻 s=tc を、始点 xi の焦点(共役点)と呼ぶ。式 (3.4.13) から、そこでは初速度を少し変えても終点が1次で動かない。始点から扇状に出た古典軌道の束が、1点に集まっている。図 3.4.4 は調和振動子の例で、xi を初速度だけ変えて出た軌道は、半周期 ωt=π ごとに −xi と xi に集まる。

図 3.4.4 調和振動子で xi=1 から初速度だけ変えて出た古典軌道 x=cosωs+(vi/ω)sinωs。ωs=π で全部が x=−1 に、2π で x=1 に集まる。ωt が π と 2π のあいだの終点 xf へ着く軌道は、焦点を1つ通っている。
焦点を越えると式 (3.4.10) の位相が変わる理由を示す。ϵDN−1=fN は t の連続関数で、焦点 t=tc で 0 を通って符号を変える。detM は固有値の積なので、符号が変わるのは固有値の1つが 0 を通って負になるときである。M が3重対角で非対角成分が 0 でないことから、左上の小行列式の列 D0,D1,…,DN−1 の符号の変化の回数が負の固有値の数 n− に等しい(Sturm の定理)。N→∞ でこの回数は f(s) が 0<s<t で 0 になる回数、すなわち通った焦点の数 ν に移る。負の固有値を持つ方向では、Fresnel 積分 (3.4.3) の位相が e+iπ/4 から e−iπ/4 に変わり、その比が e−iπ/2 である。焦点を1つ越えるたびに経路の束の向きが表と裏で入れ替わり、Gauss 積分の1方向が「上に凸」から「下に凸」へ変わるので、位相が π/2 遅れる。
調和振動子では V′′=mω2 で f=sinωt/ω なので、ν=⌊ωt/π⌋ である(N=600 の M の負の固有値を数えて、ωt=0.5,2,3.5,5,7,10 で一致を確かめた)。共通例題①の Mehler 核 mω/(2πiℏsinωt)exp{⋯} は 0<ωt<π で書かれた形で、これを t の関数として下半平面から(t→t−i0)連続につなぐと、平方根の位相は ωt=π を越えるごとに −π/2 ずつ進み、ちょうど式 (3.4.14) の e−iπν/2 になる。焦点の上 ωt=π では、前因子が発散する代わりに K=e−iπ/2δ(xf+xi) となる(第3部第3章)。焦点のすぐ近くでは η の3次の項が落とせなくなり、式 (3.4.14) は使えない。そこでは Airy 関数などの一様な近似が要る(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第7章)。
複数の古典軌道の干渉
始点と終点を結ぶ古典軌道が複数あるとき、式 (3.4.14) はそれぞれの寄与を位相 Scl/ℏ−πν/2 つきで足す。∣K∣2 には軌道どうしの干渉項が現れる。これは、二重スリットの縞(第3部第1章)の、外から置いたスリットでなく古典力学そのものが複数の経路を与える場合の姿である。輪の上の自由粒子で巻き数の違う軌道を足した例は第3部第2章にある。次の例題は、硬い壁で跳ね返る軌道を足す。
例題 3.4.4 壁で跳ね返る軌道との干渉 ★★
オリジナルx>0 を自由に動き、x=0 に硬い壁がある粒子(x≤0 で V=+∞)を考える。
- (1) xi>0 から時間 t で xf>0 に着く古典軌道を2本挙げ、それぞれの作用を求めよ。
- (2) 壁で跳ね返る軌道の位相を −π(ν=2 と数える)として Van Vleck の公式で K を書き、それが壁の条件 K(0,t;xi)=0 と自由粒子の Schrödinger 方程式を満たすことを示せ。
- (3) ∣K∣2 を求めよ。
- (4) 中性子(m=1.675×10−27kg)で xi=10μm、t=1ms のとき、∣K∣2 の縞の間隔を求めよ。
解答
(1) 壁に当たらない直進の軌道は作用 S1=m(xf−xi)2/(2t) を持つ。壁で1回跳ね返る軌道は、壁の向こうの鏡像の点 −xi から直進する軌道を折り返したもので、長さは xf+xi、作用は S2=m(xf+xi)2/(2t) である。どちらも速さが一定なので ∂2S/∂xf∂xi の絶対値は m/t で等しい。
(2) 直進の軌道は焦点を通らない。跳ね返りの位相 −π を入れると
K=2πiℏtm[eim(xf−xi)2/(2ℏt)−eim(xf+xi)2/(2ℏt)]
である。xf=0 で2項が等しくなり K=0 を満たす。各項は自由粒子の伝播関数なので Schrödinger 方程式を満たし、和も満たす。t→0 で第1項は δ(xf−xi)、第2項は δ(xf+xi) に近づき、後者は xf>0 で 0 なので初期条件も正しい。この K は鏡像法による厳密な伝播関数で、2本の軌道の Van Vleck の公式が厳密になっている。硬い壁を ν=2 と数えるのは、滑らかな壁を硬い壁の極限と見て、跳ね返りの前後で焦点を2つ通ると数えることに当たる(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第7章 の Maslov の指数と同じ数え方)。
(3) eim(xf2+xi2)/(2ℏt) をくくり出すと K=m/(2πiℏt)eim(xf2+xi2)/(2ℏt)(−2i)sin(mxfxi/(ℏt)) なので
∣K∣2=πℏt2msin2ℏtmxfxi
である。各軌道だけなら ∣K∣2=m/(2πℏt) で一様だが、2本を足すと干渉で 0 から4倍まで振動する。
(4) 縞の間隔は sin2 の周期 πℏt/(mxi)=π×1.055×10−34×10−3/(1.675×10−27×10−5)m=19.8μm である。直進と反射の2本の軌道の速さの差に当たる相対運動の速さは xi/t=1cm/s の程度で、その de Broglie 波長 2πℏ/(m⋅xi/t)=39.6μm の半分が縞の間隔になっている。
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