量子力学の様々な構成方法 第3部 第4章 §3.4.6 ★★★ 停留位相の結果と、基準の Schrödinger 方程式の WKB 解が一致することを両向きに示し、流体・位相空間・行列力学の古典極限と並べる
基準との両向き
この章の結果は、計画の同値性の地図では「経路積分」から「解析力学(古典)」へ伸びる矢印に当たる。同じ矢印を基準(第1部)から引くこともでき、両者が一致することを示す。
命題 3.4.2(停留位相と WKB 解の一致 ★★★)
軌道が1本で焦点を通らない領域で、次の2つは同じ関数を与える。
- (a) 経路積分 (3.4.1) を停留位相で評価した Van Vleck の公式 (3.4.14)。
- (b) 基準の Schrödinger 方程式を AeiS/ℏ の形で ℏ の1次まで解き(式 (3.4.17) と (3.4.18))、初期条件 t→0 で K→δ(x−xi) を課した解。
どちらも Schrödinger 方程式を、残り 2mℏ2(∂x2A/A)K を除いて満たす。
証明
(a) から (b):3.4.5節で、Scl が式 (3.4.17) を、A2=D/(2πiℏ) が式 (3.4.18) を満たすことを示した(命題 3.4.1)。t→0 では古典軌道は直線に近づき Scl→m(x−xi)2/(2t)、D→m/t なので、KVV は自由粒子の伝播関数に近づき、δ(x−xi) に収束する。
(b) から (a):初期条件 δ(x−xi) は、t→0 で S→m(x−xi)2/(2t) を要求する。この初期条件を持つ Hamilton–Jacobi 方程式の解は、特性曲線(古典軌道)を xi から全部の初速度で出したもので、S=Scl(x,t;xi) に限る。次に、A2 と D/(2πiℏ) はどちらも同じ速度場 v の連続の式を満たすので、比 r=2πiℏA2/D は∂tr+v∂xr=D1[∂t(2πiℏA2)+∂x(2πiℏA2v)]−Dr[∂tD+∂x(vD)]=0 を満たし、古典軌道に沿って一定である。t→0 で A2→m/(2πiℏt)、D→m/t なので r→1 で、全部の軌道で r=1、すなわち A2=D/(2πiℏ) である。これは (a) の前因子に等しい。残りの項は式 (3.4.19) による。
経路積分の側では「揺らぎの Gauss 積分の行列式」として、基準の側では「確率の流れの保存」として、同じ前因子が出る。どちらの側でも、ℏ を落とした式を解く手続きは古典軌道を求めることに帰着する。
流体の言葉で(第7部第2章)
第7部第1章の Madelung 変換 ψ=ρeiS/ℏ は、Schrödinger 方程式を連続の式と量子ポテンシャル Q=−2mℏ2∂x2ρ/ρ つきの量子 Hamilton–Jacobi 方程式 ∂tS+2m(∂xS)2+V+Q=0 に厳密に書き直す。式 (3.4.16) と比べると、A=ρ(実数)と置いたときの右辺の第3項が −QA そのものである。したがって第7部第2章(第7部第2章)の「Q を落とした流体」は、この章の式 (3.4.17) と (3.4.18) と同じ2本の式で、∣KVV∣2=∣D∣/(2πℏ) はその流体の密度、つまり点 xi から運動量について一様に出発した古典粒子の集団の密度である。
違いは軌道が複数あるときに出る。経路積分は3.4.4節のとおり各軌道の寄与を位相つきで足すが、流体は各点に速度を1つしか持てない。2本の軌道の重ね合わせを流体として書き直すと、次の例題のとおり Q は ℏ→0 でも小さくならない。
例題 3.4.6 2本の軌道の重ね合わせの量子ポテンシャル ★★
オリジナル例題 3.4.4 の壁のある半直線の伝播関数 K=m/(2πiℏt)eim(x2+xi2)/(2ℏt)(−2i)sin(mxxi/(ℏt)) を、Madelung の形 ρeiS/ℏ に読む。
- (1) sin の符号が一定の区間で、ρ と S を書け。
- (2) 量子ポテンシャル Q を求め、ℏ→0 でどうなるかを述べよ。
- (3) S と Q が量子 Hamilton–Jacobi 方程式 ∂tS+(∂xS)2/(2m)+Q=0 を満たすことを確かめよ。
解答
(1) 定数の位相を除いて、ρ∝t−1/2∣sin(mxxi/(ℏt))∣、S=m(x2+xi2)/(2t) である。S は2本の軌道の作用 S1=m(x−xi)2/(2t) と S2=m(x+xi)2/(2t) の平均で、速度場 ∂xS/m=x/t はどちらの軌道の速度とも違う。
(2) k=mxi/(ℏt) と書くと、ρ∝∣sinkx∣ の2階微分は −k2ρ なので(節 sinkx=0 を除く)
Q=−2mℏ2ρ∂x2ρ=2mℏ2k2=2t2mxi2
である。Q は ℏ を含まない。ℏ→0 で縞の間隔 π/k は 0 に縮むが、Q は一定のまま残る。値 21m(xi/t)2 は、2本の軌道の速度 (x∓xi)/t の差の半分 xi/t を速さとする運動エネルギーである。
(3) ∂tS=−m(x2+xi2)/(2t2)、(∂xS)2/(2m)=mx2/(2t2) なので、和は −mxi2/(2t2) で、Q を足すと 0 になる。Q を落とした古典の Hamilton–Jacobi 方程式は満たされない。流体の古典極限が使えるのは軌道が1本の所だけで、2本の軌道が重なる所では、経路積分の「軌道ごとに古典極限を取ってから足す」処方が要る。
位相空間・行列力学・授業の形
位相空間の構成(第5部)では、Wigner 関数の時間発展は Moyal 方程式で、ℏ→0 で Liouville 方程式になる(第5部第3章)。単一運動量の分布 ρ(x)δ(p−∂xS) の Liouville 方程式が、この章の2本の式 (3.4.17)・(3.4.18) と同値であることは第7部第2章で示されている。行列力学(第2部)では、Heisenberg の運動方程式の期待値が Ehrenfest の定理 dtd⟨x^⟩=⟨p^⟩/m、dtd⟨p^⟩=−⟨V′(x^)⟩ を与え(第2部第3章)、波束の幅の中で V′ が変わらない限り重心が古典軌道を描く。
表 3.4.1 古典極限で何を落とすか。どの構成でも、2次の H(作用が2次式)では落とす項が 0 になり、古典の式が量子の式と厳密に一致する。| 構成 | 落とすもの | 残る古典の式 |
| 経路積分(この章) | 古典軌道のまわりの揺らぎの3次以上 | 古典軌道+Van Vleck の前因子 |
| 基準(Schrödinger) | AeiS/ℏ の残り 2mℏ2∂x2A | Hamilton–Jacobi+輸送方程式 |
| 流体(第7部) | 量子ポテンシャル Q | Hamilton–Jacobi+連続の式 |
| 位相空間(第5部) | Moyal 括弧の ℏ2 の項 | Liouville 方程式 |
| 行列力学(第2部) | ⟨V′(x^)⟩−V′(⟨x^⟩) | Newton 方程式(重心) |
学部の授業では、WKB 近似を ψ=eiσ/ℏ と置いて σ を ℏ で展開する形で習う。最低次が時間によらない Hamilton–Jacobi 方程式 (σ0′)2/(2m)+V=E、次の次数が σ1=2ilnp で、ψ≈pCexp(±ℏi∫pdx) となる。式 (3.4.23) はこの形の解のうち、点源 xi から外へ向かう枝 + を選び、係数 C まで決めたものになっている。授業で「古典の経路が主に寄与する」と言葉で述べられる経路積分の性質は、この章の式 (3.4.14) として係数まで決まる。
ほかの巻では
解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第7章は WKB を Hamilton–Jacobi 方程式の量子版として位相 σ の展開で導き、転回点の接続と Maslov の指数、Bohr–Sommerfeld の条件まで進む。同 第4部第8章は経路積分の停留位相から同じ Van Vleck の公式を出す。この章は同じ計算を「経路積分と基準の古典極限が一致すること」の証明として読み、Gel'fand–Yaglom の漸化式で前因子を一般の V に対して出した(第4部第7章・第4部第8章)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com