量子力学の様々な構成方法 第5部 第3章 §5.3.2 ★★ 結合律・共役・トレースの性質は演算子の性質がそのまま移ったもの。x⋆ と p⋆ は微分演算子になり、多項式の計算は有限項で終わる
演算子の代数から移る性質
定理 5.3.2 によって、⋆ 積は演算子の積を写したものなので、演算子の積の性質はそのまま ⋆ 積の性質になる。
命題 5.3.3(⋆ 積の基本の性質 ★★)
- (i) 結合律 (f⋆g)⋆h=f⋆(g⋆h)。可換ではない。
- (ii) 複素共役 (f⋆g)∗=g∗⋆f∗。
- (iii) 積分 ∫f⋆gdxdp=∫fgdxdp(両辺が収束するとき)。
- (iv) ℏ の展開
f⋆g=fg+2iℏ{f,g}−8ℏ2(fxxgpp−2fxpgxp+fppgxx)+O(ℏ3)(5.3.6)
(添字は偏微分)。
証明
(i) 演算子の積の結合律を記号に写す。(ii) (A^B^)†=B^†A^† と、エルミート共役が記号の複素共役に写ること(前の章)から。(iii) 前の章のトレースの公式 Tr(A^B^)=∫AWBWdxdp/(2πℏ) と TrC^=∫CWdxdp/(2πℏ) を C^=A^B^ に当てて比べる。直接には、(5.3.4) の n≥1 の項が全微分の和になっていることからも分かる。たとえば n=1 の項は fxgp−fpgx=∂x(fgp)−∂p(fgx) で、積分すると境界の値だけが残り、0 になる。(iv) (5.3.4) の n=0,1,2 の項を書き出したものである。
(iii) は、2つの関数の ⋆ 積を積分するときは普通の積に戻してよいということで、期待値の公式 ⟨A^⟩=∫WAW がトレースの公式と矛盾しない理由でもある。3つ以上の積では ∫f⋆g⋆h=∫f(g⋆h)=∫(f⋆g)h のように1か所だけ普通の積にでき、これは Tr(A^B^C^) の巡回性に当たる。
x⋆ と p⋆ は微分演算子
一方が x や p のときは、⋆ 積の級数は1次で止まる。(5.3.4) で f=x とすると n≥2 の項はすべて x を2回以上微分するので
x⋆F=(x+2iℏ∂p)F,p⋆F=(p−2iℏ∂x)F,F⋆x=(x−2iℏ∂p)F,F⋆p=(p+2iℏ∂x)F(5.3.7)
を得る。左から x を ⋆ で掛ける操作は、位相空間の関数に作用する微分演算子 x+(iℏ/2)∂p である。この2つの微分演算子の交換子は[x+2iℏ∂p,p−2iℏ∂x]=2iℏ+2iℏ=iℏ で、正準交換関係を満たす。位置表示では x^ は「x を掛ける」、p^ は「−iℏ∂x」だったが、位相空間では x と p の両方が「半分は掛け算、半分は微分」になる。(5.3.7) を繰り返し使えば、多項式の ⋆ 積は微分の有限回で計算できる。
積分の形
⋆ 積は積分でも書ける。
(f⋆g)(x,p)=(πℏ)21∫f(x′,p′)g(x′′,p′′)exp{ℏ2i[p(x′′−x′)+p′(x−x′′)+p′′(x′−x)]}dx′dp′dx′′dp′′.
指数の肩の角括弧は、3点 (x,p)、(x′,p′)、(x′′,p′′) の作る三角形の符号つき面積の2倍である。級数 (5.3.4) が収束しない関数(Gauss 関数など)を扱うときはこの形が使える。2つの Gauss 関数について、演算子の位置表示の核を数値で掛けて記号に戻した値と、この積分の値が一致することを verify_ch5-03.py で確かめた。
例題 5.3.2 p^x^2p^ の記号と期待値 ★★
オリジナル
- (1) (5.3.7) を使って p⋆x2⋆p を求めよ。また x⋆p2⋆x と比べよ。
- (2) 調和振動子の基底状態の Wigner 関数 W0=πℏ1e−2H/(ℏω)(H=p2/(2m)+mω2x2/2)で ⟨p^x^2p^⟩ を求め、p^x^2p^=(x^p^)†(x^p^) から位置表示で直接求めた値と照合せよ。前の章の 21(x^2p^2+p^2x^2) の期待値 −ℏ2/4 とも比べよ。
解答
(1) 右から先に計算する。x2⋆p=(p+2iℏ∂x)x2=x2p+iℏx。次に左から p⋆ を当てると
p⋆(x2p+iℏx)=(p−2iℏ∂x)(x2p+iℏx)=x2p2+iℏxp−iℏxp−2iℏ⋅iℏ=x2p2+2ℏ2.
同じ計算で x⋆p2⋆x=x2p2+ℏ2/2 も得られる。p^x^2p^ と x^p^2x^ は記号が同じなので、Weyl 対応が1対1であることから同じ演算子である。一方、21(x^2p^2+p^2x^2) の記号は x2p2−ℏ2/2 で、古典の関数 x2p2 に対応しうる3つの演算子の記号は ℏ2 の定数だけ違う(順序の曖昧さの具体的な形。第2部第2章)。
(2) W0 では x と p は独立な Gauss 分布で、⟨x2⟩=ℏ/(2mω)、⟨p2⟩=mℏω/2 である。したがって
⟨p^x^2p^⟩=∫W0(x2p2+2ℏ2)dxdp=2mωℏ⋅2mℏω+2ℏ2=43ℏ2.
直接には、ψ0∝e−mωx2/(2ℏ) に p^=−iℏ∂x を当てると p^ψ0=imωxψ0、さらに x^ を当てて x^p^ψ0=imωx2ψ0 である。⟨p^x^2p^⟩=∥x^p^ψ0∥2=m2ω2⟨x4⟩=m2ω2⋅3(ℏ/(2mω))2=3ℏ2/4 で一致する。p^x^2p^ は (x^p^)†(x^p^) の形なので期待値は必ず非負で、実際に正の値になった。21(x^2p^2+p^2x^2) はこの形に書けず、期待値 −ℏ2/4 は負である。古典の x2p2 は非負の関数だが、それに対応する演算子が非負になるかどうかは並べ方で決まる。
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