量子力学の様々な構成方法 第8部 第3章 §8.3.3 ★★★ 調和振動子を「CCR 代数+状態+時間発展」で書き、Schrödinger・Fock・Bargmann の表示が1つの表現の別の書き方であること、振動数を変えると真空が同じ表現の中で動くことを示す
振動子を代数の言葉で書く
共通例題①を代数的な構成で書くと、次の3つの組になる。
- 観測量の代数:自由度1の CCR 代数 W(R2)。これは m にも ω にもよらない。
- 時間発展:∗自己同型 αt(W(a,b))=W(a(t),b(t))。(a(t),b(t)) は前の章で求めた回転で、∣z(t)∣ω=∣z∣ω を保つ。
- 状態:基底状態 φ0(W(z))=e−∣z∣ω2/4、熱平衡状態 φβ(W(z))=e−coth(βℏω/2)∣z∣ω2/4。
mω は時間発展と状態にだけ入り、代数には入らない。振動子の「物理」は代数の外にある。
時間発展 αt は相空間 R2 の線形なシンプレクティック変換(s を保つ線形写像)Tt で W(z)↦W(Ttz) と書くことができる。一般に線形なシンプレクティック変換 T は、W(z)↦W(Tz) で CCR 代数の ∗自己同型 αT を定める(Weyl の関係の位相 s が保たれるから)。Schrödinger 表現 πS∘αT は再び正則で既約な表現なので、定理 8.3.2 によりユニタリ UT があって
UTπS(W(z))UT−1=πS(W(Tz))(8.3.8)
となる。有限自由度では、相空間の線形な正準変換はすべてユニタリで実装される。時間発展なら UTt=eiH^t/ℏ で、これは前の章の命題(不変な状態の GNS での実装)と同じものを、状態によらずに出したことになる。
Schrödinger・Fock・Bargmann は1つの表現の3つの書き方
共通例題①を解くとき、この巻ではいくつかの表示を使ってきた。波動関数 ψ(x)(Schrödinger 表現)、数状態 ∣n⟩ の係数の列(Fock 表現。第2部第4章の代数的な解き方)、正則関数 F(αˉ)(Bargmann 表示。第1部第3章・第10部第4章)である。定理 8.3.2 によれば、3つとも CCR 代数の正則で既約な表現なので互いにユニタリ同値で、ユニタリはスカラー倍を除いて一意である(既約表現の間の絡み写像は Schur の補題によりスカラー倍しかない)。具体的には、Schrödinger から Fock へのユニタリは Hermite 関数への展開 ψ↦(⟨n∣ψ⟩)n で、Fock から Bargmann へのユニタリは (cn)↦∑ncnαˉn/n! である。どれを選んでも、振動子の物理(スペクトル・遷移確率・熱平衡)は同じに出る。これが有限自由度で「構成の同値」が成り立つ代数的な理由である。
振動数を変えると、真空は同じ表現の中で動く
同じ CCR 代数の上で、振動数 ω の振動子と ω′ の振動子は、時間発展と状態だけが違う。ω′ の基底状態 φ0′ も正則な純粋状態なので、その GNS 表現は Schrödinger 表現とユニタリ同値で、φ0′ は ω の Fock 空間の中の1つの単位ベクトル ∣0′⟩ で表すことができる。その具体的な形を消滅演算子で求める。位置表示の x^、p^ をx^=ℏ/(2mω)(a^+a^†)、p^=iℏmω/2(a^†−a^) と書き、a^′=mω′/(2ℏ)(x^+ip^/(mω′)) に入れると
a^′=21(ωω′+ω′ω)a^+21(ωω′−ω′ω)a^†.
er:=ω′/ω とおけば
a^′=coshra^+sinhra^†,r=21ln(ω′/ω)(8.3.9)
で、これは Bogoliubov 変換(交換関係 [a^′,a^′†]=cosh2r−sinh2r=1 を保つ線形変換)である。∣0′⟩ は a^′∣0′⟩=0 で決まるスクイーズド真空で、位置の幅が e−r 倍に縮んだ Gauss 関数である(光の巻のスクイーズド状態と同じもの。光学と量子エレクトロニクス 第31章)。
2つの真空の重なりは、波動関数の Gauss 積分 ∫ψ0ψ0′dx で
⟨0∣0′⟩=(ω+ω′2ωω′)1/2=coshr1(8.3.10)
となる(ψ0ψ0′∝e−m(ω+ω′)x2/(2ℏ) の積分 2πℏ/(m(ω+ω′)) に規格化定数 (mω/πℏ)1/4(mω′/πℏ)1/4 を掛ける。2つ目の等号は ω′/ω=e2r を入れて 2er/(1+e2r)=1/coshr)。∣0′⟩ の中の ω の量子の数は、(8.3.9) を逆に解いたa^=coshra^′−sinhra^′† から
⟨0′∣a^†a^∣0′⟩=sinh2r(8.3.11)
である。どちらも有限なので、∣0′⟩ は ω の Fock 空間のちゃんとしたベクトルで、φ0′ は ω の表現の中の正規状態である。
例題 8.3.3 振動数を4倍にした真空 ★★★
オリジナルω′=4ω とする。
- (1) r、coshr、sinhr を求めよ。
- (2) 重なり ∣⟨0∣0′⟩∣2 と ⟨0′∣a^†a^∣0′⟩ を求めよ。
- (3) ⟨0′∣H^ω∣0′⟩(もとの振動子のエネルギー)を、(2) の数を使う方法と ⟨x^2⟩・⟨p^2⟩ を使う方法の両方で求めよ。
解答
(1) r=21ln4=ln2。coshr=(2+21)/2=45、sinhr=(2−21)/2=43。
(2) (8.3.10) から ∣⟨0∣0′⟩∣2=1/coshr=4/5=0.8(左の形でも 24/5=4/5)。(8.3.11) から ⟨0′∣a^†a^∣0′⟩=9/16。
(3) H^ω=ℏω(a^†a^+21) なので ℏω(169+21)=1617ℏω。もう1つの方法:∣0′⟩ では ⟨x^2⟩=ℏ/(2mω′)=ℏ/(8mω)、⟨p^2⟩=ℏmω′/2=2ℏmω なので⟨p^2⟩/(2m)+mω2⟨x^2⟩/2=ℏω+ℏω/16=1617ℏω。両者は一致する。検算スクリプトでは、切り詰めた Fock 行列で p^2/2+16x^2/2(ℏ=m=ω=1)を対角化し、(2) の 0.8・9/16 と ⟨0′∣a^2∣0′⟩=−sinhrcoshr=−15/16 を確かめた。
この節の結論は、共通例題①については「表現はいつも同じで、ハミルトニアン(時間発展)が変わると、その表現の中で真空と呼ぶベクトルが変わるだけ」ということである。次の節では、同じ操作を無限個の振動子に一度に施すと、この結論が成り立たなくなることを見る。
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