量子力学の様々な構成方法 第9部 第1章 §9.1.2 ★★ 分配律・モジュラー律・直交モジュラー律の強弱を定義と例で区別する。量子の命題の束の位置を決める物差し
束と直交補
前の節の要請を数学の言葉に直す。
定義 9.1.2(束・直交補束)
半順序集合 (L,≤) で、どの2元 a,b にも最大の下界 a∧b(交わり)と最小の上界 a∨b(結び)があるものを束と呼ぶ。最小元 0 と最大元 1 を持ち、写像 a↦a⊥ が
(a⊥)⊥=a,a≤b ⇒ b⊥≤a⊥,a∧a⊥=0,a∨a⊥=1
を満たすとき、a⊥ を a の直交補、L を直交補束と呼ぶ。a≤b⊥ のとき a と b は直交するといい、a⊥b と書く。
直交補束では De Morgan の法則 (a∨b)⊥=a⊥∧b⊥ が成り立つ。a≤a∨b から (a∨b)⊥≤a⊥、同じく (a∨b)⊥≤b⊥ なので(a∨b)⊥≤a⊥∧b⊥ である。逆に a⊥∧b⊥≤a⊥ の両辺の直交補をとると a≤(a⊥∧b⊥)⊥、同様に b≤(a⊥∧b⊥)⊥ なのでa∨b≤(a⊥∧b⊥)⊥、もう一度直交補をとって a⊥∧b⊥≤(a∨b)⊥ を得る。否定の命題は「かつ」と「または」を入れ替えるという、論理の De Morgan の法則がそのまま成り立っている。
3つの法則
定義 9.1.3(分配律・モジュラー律・直交モジュラー律)
直交補束 L が次を満たすとき、それぞれの名で呼ぶ。
分配律:モジュラー律:直交モジュラー律:a∧(b∨c)=(a∧b)∨(a∧c)(すべての a,b,c)a≤c ⇒ a∨(b∧c)=(a∨b)∧ca≤b ⇒ b=a∨(b∧a⊥)(9.1.4)(9.1.5)(9.1.6)
分配律を満たす直交補束を Boole 束(Boole 代数)と呼ぶ。
3つの法則は、この順に弱くなる。分配律からモジュラー律が出ることは、a≤c のとき分配律(∧ と ∨ を入れ替えた形。直交補束では De Morgan で入れ替えられる)を使ってa∨(b∧c)=(a∨b)∧(a∨c)=(a∨b)∧c と計算すればわかる。最後の等号は a≤c から a∨c=c による。モジュラー律から直交モジュラー律が出ることは、モジュラー律で c=b、b の位置に a⊥ を入れると
a∨(a⊥∧b)=(a∨a⊥)∧b=1∧b=b
となることからわかる。逆向きはどれも成り立たない。直交モジュラー律の意味は「a を含む命題 b は、a と、b のうち a に直交する部分とに分けられる」で、ヒルベルト空間の言葉では、部分空間 M⊆N に対して N=M⊕(N∩M⊥) と直和に分けられることに当たる(9.1.4節で示す)。
図 9.1.1 に3つの有限の直交補束を描いた。Hasse 図では、a<b で間にほかの元が無いとき、b を a の上に置いて線で結ぶ。(a) は3元集合の部分集合の束で Boole 束、(b) はスピン 21 の命題の一部を取り出した束(9.1.4節)、(c) は直交補束だが直交モジュラー律を満たさない六角形の束である。

図 9.1.1 3つの直交補束の Hasse 図。(a) は分配律を満たす。(b) は分配律を満たさないが直交モジュラー律を満たす(z± は σz の固有状態、x± は σx の固有状態の張る直線。直交補は z+↔z−、x+↔x−)。(c) は直交モジュラー律も満たさない。
例題 9.1.2 六角形の束 O6 は直交モジュラーでない ★★
オリジナル図 9.1.1(c) の束 O6 は、6元 0<a<b<1, 0<b⊥<a⊥<1 からなり(2本の鎖の元どうしは 0 と 1 以外比べられない)、直交補を a↔a⊥, b↔b⊥, 0↔1 で定める。
- (1) O6 が直交補束であることを確かめよ。
- (2) a≤b について a∨(b∧a⊥) を計算し、直交モジュラー律が破れることを示せ。
- (3) 3元集合の部分集合の束(図 9.1.1(a))では直交モジュラー律が成り立つ理由を、集合の言葉で述べよ。
解答
(1) 鎖が2本なので、異なる鎖の元 x,y(0,1 以外)の交わりは 0、結びは 1 である。同じ鎖の元どうしは大きい方が結び、小さい方が交わりになる。これで任意の2元に交わりと結びがあり、O6 は束である。a∧a⊥ は異なる鎖の元なので 0、a∨a⊥=1、b についても同じ。a<b の直交補は b⊥<a⊥ で順序が逆になり、(a⊥)⊥=a も定義どおりである。
(2) b と a⊥ は異なる鎖の元なので b∧a⊥=0 で、a∨(b∧a⊥)=a∨0=a。a=b なので b=a∨(b∧a⊥) は成り立たない。「a を含む b を、a と b のうち a に直交する部分に分ける」と、b のうち a に直交する部分が 0 しか無く、b を作り直せない。
(3) 集合の束では a≤b は A⊆B、b∧a⊥ は B∖A で、A∪(B∖A)=B が点ごとに成り立つ。直交補が集合の補集合で与えられる限り、b の中で a に入らない部分がいつも残る。
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