量子力学の様々な構成方法 第9部 第4章 §9.4.2 ★★★ 古典の状態空間が単体であることと、どの状態も純粋な状態へただ1通りに分解できることが同値であることを証明し、古典と非古典の境目を状態空間の形で定める
古典の系の状態空間
古典の d 準位系(d 面のさいころ)の状態は、確率分布 p=(p1,…,pd)(pi≥0、∑ipi=1)である。その全体
Δd−1={p∈Rdpi≥0, i∑pi=1}(9.4.2)
は d 個の点 δ1,…,δd(i 番目だけ 1 の決定的な分布)の凸包である。d=2(古典ビット)では線分、d=3 では三角形になる。δi は他の状態の混合に書けない端点(純粋な状態)で、目の出方が確定した状態に当たる。
効果は p の affine な関数で [0,1] に値をとるものなので、e(p)=∑ieipi(ei=e(δi)∈[0,1])と書ける。効果の全体は [0,1]d の超立方体である。どの測定 {e(k)} も、「目の値 i を読み、確率 ei(k) で結果 k を出す」という手順で実現できる。すべての測定が目の値を読む1つの測定の後処理になるので、古典の系の測定はどの組も同時に行うことができる。N=d、K=d である。
単体と分解の一意性
d 個の点 v1,…,vd が affine 独立であるとは、∑icivi=0 かつ ∑ici=0 を満たす実数 ci が ci=0 に限ることをいう。affine 独立な点の凸包を単体と呼ぶ。Δd−1 の頂点 δi は affine 独立なので、古典の状態空間は単体である。
定理 9.4.3(単体と分解の一意性 ★★★)
有限個の端点 v1,…,vm を持つ凸多面体 S について、次の2つは同値である。
- (a) S は単体である(v1,…,vm が affine 独立)。
- (b) S のどの点も、端点の凸結合 ∑iwivi(wi≥0、∑iwi=1)にただ1通りに書ける。
証明
(a) ⇒ (b):∑iwivi=∑iwi′vi なら ∑i(wi−wi′)vi=0、∑i(wi−wi′)=0 なので、affine 独立から wi=wi′。
(b) ⇒ (a):対偶を示す。端点が affine 従属なら、∑icivi=0、∑ici=0 で c=0 の実数がある。ci>0 の添字の集合を I+、ci<0 の集合を I− とすると、∑ici=0 と c=0 から両方とも空でなく、C=∑i∈I+ci=∑i∈I−∣ci∣>0 である。∑icivi=0 を C で割って移項すると
i∈I+∑Ccivi=i∈I−∑C∣ci∣vi
で、左右はどちらも端点の凸結合である。添字の集合 I+ と I− は交わらないので、この点は2通りに分解され、(b) が成り立たない。
物理の言葉に直すと、古典の混合状態は「本当はどの純粋な状態にいるか」の無知として、ただ1通りに読むことができる。量子の混合状態はそう読めない。同じ ρ^ を作るアンサンブルが無数にあることは 第4部第3章 で示した(Schrödinger–HJW の定理)。定理 9.4.3 はそれを状態空間の形の言葉で言い直したもので、分解が一意でないことは量子論に固有の性質でなく、単体でない状態空間を持つ一般確率論すべてに共通する性質である(J. Barrett (2007), Physical Review A 75, 032304 はこの点を強調した)。端点が無限個ある凸集合(例えば球)でも、2本の異なる弦の交点は2通りに分解されるので、分解は一意でない。

図 9.4.1 4つの状態空間。黒い点が端点(純粋な状態)、赤い点が混合状態、赤い線がその分解である。単体(線分・三角形)では分解が1通りに決まる。Bloch 球の断面では、点 r=(21,0,0) を通る弦が無数にあり、どの弦の両端でも分解を書くことができる(図は水平と垂直の2本)。正方形の中心は2本の対角線の2通りに分解される。
例題 9.4.2 正方形の状態空間で分解の自由度を数える ★★
オリジナル正方形の状態空間 S=conv{v1,v2,v3,v4}、v1=(1,1), v2=(1,−1), v3=(−1,−1), v4=(−1,1) を考える。
- (1) 頂点の affine 従属の関係を1つ書け。
- (2) 点 s=(21,0) を ∑iwivi と分解する重み (w1,w2,w3,w4) をすべて求めよ。
- (3) 古典 trit の状態 p=(21,31,61) の分解が1通りであることと比べよ。
解答
(1) v1+v3=(0,0)=v2+v4 なので、c=(1,−1,1,−1) で ∑icivi=0、∑ici=0。
(2) 条件は w1+w2−w3−w4=21(第1成分)、w1−w2−w3+w4=0(第2成分)、w1+w2+w3+w4=1 である。第1式と第3式から w1+w2=43、w3+w4=41、第2式と第3式から w1+w4=21。w1=t とおくと w2=43−t、w4=21−t、w3=41−w4=t−41 で、
(w1,w2,w3,w4)=(t, 43−t, t−41, 21−t),41≤t≤21.
t の範囲は全部の重みが非負になる条件から出る。分解は1つの媒介変数を持つ無数の組で、t を動かすことは (1) の従属関係 c の向きに重みをずらすことに当たる。
(3) 三角形の頂点 δ1,δ2,δ3 は affine 独立なので、重みは p の成分そのもの (21,31,61) に限られる。従属関係が無いので、重みをずらす向きが無い。
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