量子力学の様々な構成方法 第9部 第5章 §9.5.2 ★★★ 部分空間の公理から K(N) の単調性、合成系の公理から完全乗法性を出し、2つを合わせて K=Nr(r は正の整数)を証明する。公理から量子力学を導く道の最初の関門
単調性と完全乗法性
補題 9.5.2(K(N) の2つの性質 ★★★)
(H2)〜(H4) の下で、次が成り立つ。
- (a) K(1)=1、かつ K(N+1)≥K(N)+1。とくに K は狭義の単調増加である。
- (b) すべての N,M≥1 について K(NM)=K(N)K(M)(完全乗法性)。
証明
(a) N=1 の系は1つの状態しか区別できず、規格化の確率 1 だけで状態が決まるので K(1)=1 である。次元 N+1 の系で、区別できる N+1 個の状態のうち N 個が張る部分空間 W と、残りの1個が張る部分空間 W′ を考える。(H3) から、W に制限した状態は次元 N の系として K(N) 個の確率で指定され、W′ に制限した状態は次元 1 の系である。W の状態を重み λ、W′ の状態を重み 1−λ で混ぜた状態の全体は、W の状態の K(N) 個の自由度に加えて λ という1つの自由度を持つ。λ は W の状態の確率からは決まらないので、この状態の族は少なくとも K(N)+1 個の確率を要し、K(N+1)≥K(N)+1 である。
(b) 次元 N の系と次元 M の系を合わせると、(H4) から次元 NM、自由度 K(N)K(M) の系になる。(H2) から自由度は次元だけで決まるので、K(NM)=K(N)K(M) である。
(b) は N と M が互いに素でなくても成り立つ。数論では、このような関数を完全乗法的と呼ぶ。完全乗法的で単調増加な関数は冪しかないことを次に示す。
定理 9.5.3(K=Nr ★★★)
(H2)〜(H4) の下で、正の整数 r があって、すべての N で K(N)=Nr となる。
証明
段階1:冪であること。 N,M≥2 を任意にとる。完全乗法性から K(Na)=K(N)a である。正の整数 b に対して、整数 a を
Ma≤Nb<Ma+1(9.5.1)
となるように選ぶ。K は単調増加なので K(M)a≤K(N)b≤K(M)a+1。対数をとって b で割ると
balnK(M)≤lnK(N)≤ba+1lnK(M).
(9.5.1) から ba≤lnMlnN<ba+1 なので、b→∞ で a/b→lnN/lnM となり、
lnNlnK(N)=lnMlnK(M)
を得る。左辺は N だけ、右辺は M だけの式なので、両辺は N にも M にもよらない定数 r である。よって K(N)=Nr。K(2)≥K(1)+1=2 から r≥1。
段階2:r は整数。 K(N)=Nr はすべての N で整数である。r より大きい整数 k をとり、f(n)=nr の k 階の差分
(Δkf)(n)=j=0∑k(−1)k−j(jk)f(n+j)
を考える。各項が整数なので (Δkf)(n) も整数である。一方、平均値の定理を k 回使うと (Δkf)(n)=f(k)(ξ)(n<ξ<n+k)で、f(k)(x)=r(r−1)⋯(r−k+1)xr−k は x→∞ で 0 に近づく。整数値で 0 に近づく列は、ある所から先で 0 に等しい。r が整数でなければ係数 r(r−1)⋯(r−k+1) は 0 でなく、f(k)(ξ)=0 なので矛盾する。よって r は整数である。
段階2の「整数値の差分が 0 に近づく」という論法は、K が確率の個数という整数であることだけを使う。Hardy の論文は段階1を付録で示し、段階2は「K は整数なので r は正の整数」と短く述べている。ここではその1行を差分の議論で補った。
実数・四元数の量子論は乗法性を満たさない
同じ形式で、ヒルベルト空間の数を実数や四元数に替えた理論を考えることができる。実数の量子論では密度行列が実対称行列で K(N)=N(N+1)/2、四元数の量子論では四元数エルミート行列で K(N)=N(2N−1) である。どちらも単調増加だが、完全乗法的でない。したがって補題 9.5.2 の (b)、すなわち (H4) の K=KAKB が、実数と四元数を除く。この点は 9.5.4節で状態の言葉に直す。
例題 9.5.2 冪にならない K(N) がどこで破れるか ★★
オリジナル
- (1) 実数の量子論の K(N)=N(N+1)/2 と四元数の量子論の K(N)=N(2N−1) について、K(2)2 と K(4) を比べよ。
- (2) 仮に K(2)=3 で K が完全乗法的かつ単調増加だとすると、定理 9.5.3 の段階1から K(3) はいくらになるか。それが許されない理由を述べよ。
解答
(1) 実数では K(2)=3 で K(2)2=9、K(4)=10 である。四元数では K(2)=6 で K(2)2=36、K(4)=28 である。どちらも K(4)=K(2⋅2)=K(2)2 で、2つの2準位系を合わせた系の自由度が、局所的な確率の数の積と一致しない。実数では合成系の自由度が1つ多く、四元数では8つ少ない。
(2) 段階1から K(N)=Nr、r=log2K(2)=log23≈1.585 となり、K(3)=3log23=e(ln3)2/ln2≈5.70 である。K は確率の個数で整数でなければならないので、この値は許されない。段階2の議論は、この「途中の N で整数にならない」ことを、すべての非整数の r について示したものである。
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