ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第4章 §4.4.3 ★★★ 電子と正孔が共存すると、Hall 電場は両方の Lorentz 力を同時には打ち消せない。Hall 係数が磁場で符号を変え、抵抗が磁場で増える。補償された半金属では抵抗が B2 で増え続ける
伝導度は足し、抵抗率は逆行列で
電子(密度 ne、移動度 μe)と正孔(nh、μh)が同時にいる場合を考える。半金属や、2つのバンドが Fermi 準位を横切る金属で起きることである。2つの集団は同じ電場の中を独立に流れるので、伝導度テンソルは (4.4.8) の形のものを2つ足したものになる(正孔は非対角の符号が逆)。Hall の配置で測る量は、その和の逆行列から出る。計算すると
ρxx(B)RH(B)=e[(neμe+nhμh)2+μe2μh2B2(nh−ne)2](neμe+nhμh)+(neμh+nhμe)μeμhB2,=e[(neμe+nhμh)2+μe2μh2B2(nh−ne)2](nhμh2−neμe2)+μe2μh2B2(nh−ne)(4.4.13)(4.4.14)
を得る。nh=0 と置けば、ρxx=1/(neeμe)、RH=−1/(nee) に戻る。
2つの極限を見ると、Hall 係数が何を測っているかがはっきりする。弱い磁場では
RH(0)=e(neμe+nhμh)2nhμh2−neμe2,RH(∞)=(nh−ne)e1(4.4.15)
である。弱い磁場の RH は移動度の2乗の重みの付いた平均で、移動度の大きい方のキャリアの符号が現れやすい。強い磁場の RH は移動度によらず、正味の電荷の密度 nh−ne だけを測る。強い磁場では、どのキャリアも散乱される前に何周も回り、電流を運ぶのは軌道の中心の漂流(E×B の向き、速さ E/B)だけになる。漂流の速度は電荷にも質量にもよらないので、電荷の総量だけが効果を持つ。第2部第7章で見た「Fermi 面のどの部分が正孔のように振る舞うか」は、強い磁場の RH がいちばん素直に測る。
磁気抵抗
1種類のキャリアでは ρxx が変わらなかったのは、Hall 電場が全員の Lorentz 力を同時に打ち消せたからである。2種類あると、電子と正孔は逆向きに曲がり、しかも移動度が違うので、1つの Hall 電場では両方を打ち消せない。打ち消されずに残った曲がりが、電流の向きに沿った速度を減らし、抵抗を増やす。(4.4.13) を B について展開すると、σe=neeμe、σh=nheμh として
ρxx(0)Δρxx≈(σe+σh)2σeσh(μe+μh)2B2(4.4.16)
である。電子と正孔が同じ数ある補償された半金属(ne=nh=n)では、分母の B2 の項が消えて
ρxx(B)=ne(μe+μh)1+μeμhB2,RH=ne(μe+μh)μh−μe(4.4.17)
となる。抵抗は飽和せずに B2 で増え続け、Hall 係数は磁場によらないが、その値から密度を読むと n を誤る。補償された系では電荷の総量が 0 で、強い磁場でも Hall 電場が漂流を止められないからである。Bi のような移動度の大きい半金属で、低温の抵抗が磁場で何桁も増えるのはこの機構による。

図 4.4.1 2種類のキャリアの Hall 係数(左)と磁気抵抗(右)。実線は例題 4.4.3 の ne=1×1022m−3、nh=4×1022m−3、μe=1、μh=0.1m2V−1s−1。破線は強い磁場の極限。RH は 5.66T で符号を変え、抵抗は 6.38 倍で飽和する。右の点線は同じ移動度で nh=ne に補償した場合で、1+μeμhB2 のまま飽和しない。どの線も (4.4.13)・(4.4.14) の厳密な値である。
例題 4.4.3 Hall 係数が符号を変える磁場 ★★
オリジナルne=1×1022m−3、μe=1m2V−1s−1 の電子と、nh=4×1022m−3、μh=0.1m2V−1s−1 の正孔がいる。
- (1) RH(0) と RH(∞) を求めよ。弱い磁場の符号と強い磁場の符号が違う理由を述べよ。
- (2) RH(B)=0 になる磁場を求めよ。
- (3) ρxx(0) と、(2) の磁場および B→∞ での ρxx(B)/ρxx(0) を求めよ。
解答
(1) neμe+nhμh=1.4×1022、nhμh2−neμe2=4×1020−1022=−9.6×1021(単位は m−3 と移動度の積)なのでRH(0)=−9.6×1021/(1.602×10−19×1.96×1044)=−3.06×10−4m3C−1。RH(∞)=1/(3×1022×1.602×10−19)=+2.08×10−4m3C−1。弱い磁場では移動度の2乗の重みが付くので、数は少ないが移動度が10倍大きい電子の寄与が上回る。強い磁場では移動度が式から消え、数の多い正孔の寄与が上回る。
(2) (4.4.14) の分子を 0 と置くと B2=(neμe2−nhμh2)/(μe2μh2(nh−ne))=9.6×1021/(0.01×3×1022)=32 で、B=5.66T。この磁場では Hall 電圧が 0 になるが、キャリアがいないわけではない。Hall の測定を1つの磁場だけで解釈する危うさを示している。
(3) ρxx(0)=1/(e×1.4×1022)=4.46×10−4Ωm。5.66T で μeμhB2=3.2 を (4.4.13) に入れると、分子は 1.4×1022+(1021+4×1022)×3.2=1.452×1023、分母(e を除く)は 1.96×1044+0.32×9×1044=4.84×1044 で、比は 4.20。B→∞ では ρxx→(neμh+nhμe)/(eμeμh(nh−ne)2) で、比は 6.38。正味の電荷があると、強い磁場で Hall 電場が漂流を止めるので、抵抗は有限の値で飽和する。
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