ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第5章 §4.5.2 ★★★ 不純物の準位にはスピンの上下2状態があるのに電子は1個しか入れないので、イオン化の確率は Fermi 分布でなく 1/(1+2eβ(μ−εD)) になる。μ は電荷中性の条件で決まる
不純物準位の占有の統計
ドナーの準位 εD には、スピンの上向きと下向きの2つの状態がある。ところが、2つとも電子で埋めると、電子どうしが同じ aD ほどの領域で Coulomb 反発し、そのエネルギー Urep(ED と同じ大きさ)だけ高くなる。2個目の電子はほとんど束縛されない。そこで、1個のドナーがとりうる状態を、空(電子が出ていってイオン化した状態、電荷 +e)、上向きの電子が1個、下向きの電子が1個、の3つに限る。この3つの状態を化学ポテンシャル μ の熱浴と粒子をやりとりする小さな系とみなすと、大分配関数は
ΞD=1+2e−β(εD−μ)(4.5.6)
である(β=1/(kBT))。第1項が空の状態、第2項がスピンの向き2つの状態である。イオン化している確率は第1項の割合で、
NDND+=1+2eβ(μ−εD)1(4.5.7)
になる。ND はドナーの数密度、ND+ はイオン化したドナーの数密度である。
Fermi 分布 f(εD)=1/(eβ(εD−μ)+1) を使って空の確率を 1−f=1/(1+eβ(μ−εD)) とすると、因子 2 が抜ける。Fermi 分布は1つの状態の占有で、上向きと下向きの状態が独立に埋まる場合にあたる。そのときは2状態がともに空である確率 (1−f)2 がイオン化の確率になる。ドナーではこの2状態が独立でなく、片方が埋まるともう片方には入ることができない。式 (4.5.7) の 2 は、中性のドナーがスピンの自由度の分だけ2倍の重みを持つことを表している。
アクセプターでは、中性のアクセプターが正孔を1個束縛した状態で、正孔を放した(電子を1個受け取った)状態がイオン化(電荷 −e)である。Si・Ge・GaAs では価電子帯の上端が重い正孔と軽い正孔の2本の縮退したバンドからできているので、束縛された正孔はスピンを含めて gA=4 通りの状態をとる。同じ計算で
NANA−=1+gAeβ(εA−μ)1(4.5.8)
になる。
電荷中性の条件
伝導帯の電子 n と価電子帯の正孔 p は、第2部第7章と同じ非縮退近似で
n=Nce−β(εc−μ),p=Nve−β(μ−εv),Nc,v=2(2πℏ2me,h∗kBT)3/2(4.5.9)
と書ける。積 np=NcNve−βEg=ni2 は μ によらない(質量作用の法則)。不純物を加えて μ を動かすと、n と p は片方が増えた分だけもう片方が減る。
μ を決めるのは、結晶全体が電気的に中性であるという条件
n+NA−=p+ND+(4.5.10)
である。左辺が負の電荷、右辺が正の電荷の密度(e で割ったもの)である。n・p・ND+・NA− はどれも μ の単調な関数で、左辺は μ とともに増え、右辺は減るので、式 (4.5.10) の解はちょうど1つある。第2部第7章の真性半導体は、ND=NA=0 の場合の n=p だった。
例題 4.5.3 因子 2 の意味を大分配関数で確かめる ★★
オリジナルドナーの準位にスピンの上下2つの状態があり、2個入ると反発のエネルギー Urep が加わるとする。
- (1) 空・1個(2通り)・2個の4つの状態で大分配関数 Ξ(Urep) を書き、Urep→∞ で式 (4.5.6) に、Urep=0 で空の確率が (1−f(εD))2 になることを示せ。
- (2) Urep→∞ のとき、μ=εD でイオン化している確率はいくらか。イオン化の確率がちょうど 1/2 になる μ を求めよ。
解答
(1) x=β(εD−μ) とおくと、Ξ(Urep)=1+2e−x+e−2x−βUrep である。Urep→∞ で最後の項が消えて 1+2e−x になる。Urep=0 では Ξ=(1+e−x)2 と因数分解でき、空の確率は 1/(1+e−x)2 である。1−f=1/(1+e−x) なので、これは (1−f)2 に等しい。2つの状態が独立に埋まる場合である。
(2) μ=εD では x=0 で、イオン化の確率は 1/(1+2)=1/3 である。Fermi 分布なら 1/2 になるところが、中性の重みが2倍なので 1/3 に下がる。イオン化の確率 1/(1+2e−x)=1/2 は e−x=1/2、すなわち μ=εD−kBTln2 のときである。半分がイオン化する点は、準位より kBTln2 だけ下にずれる。
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