ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第4部 第5章 §4.5.3 ★★★ n 型の電子の密度は、低温では NcND/2e−ED/(2kBT)(凍結)、中間で ND(飽和)、高温で ni(真性)。素子が使うのは n が温度によらない飽和の領域
n 型半導体の電子の密度
ドナーだけを加えた結晶(NA=0)を考える。真性のキャリアが無視できる温度では p≪n で、中性の条件 (4.5.10) は n=ND+ になる。式 (4.5.9) から eβμ=(n/Nc)eβεc を式 (4.5.7) に入れて μ を消すと
n=1+2NcneβEDND
となる。これは n の2次方程式 Nc2eβEDn2+n−ND=0 で、正の解は
n=1+1+8NcNDeβED2ND(4.5.11)
である。平方根の中の 8(ND/Nc)eβED の大小で、2つの領域に分かれる。
凍結の領域(低温、8(ND/Nc)eβED≫1)では
n≈2NcNDe−ED/(2kBT)(4.5.12)
である。電子のほとんどがドナーに束縛されていて、出ていく割合が指数関数的に小さい。指数の分母が 2kBT なのは、真性半導体の e−Eg/(2kBT) と同じ理由である。μ が εD と εc のほぼ中間に来て、電子がドナーから伝導帯へ移るときに越える高さが実質的に ED/2 になる。
飽和の領域(8(ND/Nc)eβED≪1)では n≈ND で、ドナーはほとんどすべてイオン化している。μ は
εc−μ=kBTlnNDNc(4.5.13)
で、ドナーの密度が大きいほど伝導帯に近づく。この領域では電子の密度がドナーの数で決まり、温度にも ED にもよらない。少数のキャリアである正孔は、質量作用の法則から p=ni2/ND で、n よりはるかに少ない。
真性の領域(高温)では、ギャップを越えて励起される ni が ND を上回り、ドナーの寄与は相対的に小さくなる。ドナーが全部イオン化しているとして、中性の条件 n=p+ND と np=ni2 を連立すると
n=2ND+4ND2+ni2(4.5.14)
で、ni≪ND なら n≈ND、ni≫ND なら n≈ni になる。

図 4.5.1 n 型の電子の密度の温度依存性。Si を模して ND=1016cm−3、ED=45meV、me∗=1.08m、mh∗=0.81m、Eg=1.12eV(温度によらない)とし、中性の条件 (4.5.10) を数値で解いた。青の線は補償なし、赤の線はアクセプターを 1015cm−3 加えて補償したもの、点線は真性キャリア密度 ni。右の凍結の領域の傾きは、補償なしで ED/2、補償ありで ED を与える。
図 4.5.1 が3つの領域を示す。Si を模した値では、凍結の領域から飽和の領域に移る目安(ドナーの半分がイオン化する温度)は 86K、飽和から真性に移る目安(ni=ND の温度)は 719K で、室温はその間の広い平らな領域の中にある。半導体の素子がドーピングで決めたキャリア密度を当てにできるのは、この平らな領域があるからである。平らな領域の幅を決めているのは、浅い準位の ED が小さいことと、ギャップ Eg が大きいことの両方である。
補償
ドナーとアクセプターを両方加えると(ND>NA)、ドナーの電子はまずアクセプターに落ちて、アクセプターをすべてイオン化させる。これを補償と呼ぶ。伝導帯に出せる電子は ND−NA 個までに減り、飽和の領域の n は ND−NA になる。低温では、NA−=NA のまま中性の条件 n+NA=ND+ を式 (4.5.7) と組み合わせて
ND−NA−nn(n+NA)=2Nce−ED/(kBT)
を得る。n≪NA まで冷やすと n≈2NA(ND−NA)Nce−ED/(kBT) で、指数の分母が 2kBT から kBT に変わる。補償されていると、空のドナーが常に NA 個あり、μ が εD の近くに固定される。そのため電子はドナーから伝導帯までの高さ ED をまるごと越えなければならない。図 4.5.1 の赤の線の傾きが青の線のほぼ2倍なのはこのためで、測った傾きから ED を読むときは補償の有無を確かめる必要がある。
縮退半導体と Mott 転移
ドナーの密度を増やして ND が Nc に近づくと、式 (4.5.13) の μ が εc に等しくなり、非縮退近似が使えなくなる(第2部第7章の例題)。このような半導体を縮退半導体と呼び、電子の統計は金属と同じく Fermi 分布そのもので扱う。Si の Nc は室温で 2.8×1019cm−3 である。
それより手前で、ドナーどうしの距離そのものが問題になる。ドナーの間隔 ND−1/3 が aD に近づくと、隣のドナーの包絡線が重なり、電子はドナーからドナーへ移れるようになる。ドナーの準位は孤立した準位でなく、幅を持った不純物バンドになる。不純物バンドには、ドナー1個あたり電子1個、すなわち半分だけ電子が入っている。第2部の考え方ならこれは金属であるが、低い密度では電子間の反発のために各ドナーに電子が1個ずつ局在して絶縁体になる。密度を上げると、ある臨界の密度 nc で絶縁体から金属に変わる。これが不純物バンドの Mott 転移である。多くの物質を比べると、臨界の密度はおおよそ
nc1/3aD≈0.26(4.5.15)
にそろう(P. P. Edwards and M. J. Sienko (1978), Phys. Rev. B 17, 2575)。この数そのものは経験的なもので、相関の強い問題を解いて得た値ではない(第5部第1章・第5部第2章で相関を扱う)。
例題 4.5.4 液体窒素温度の n 型 Si ★★
オリジナル図 4.5.1 と同じ値(ND=1016cm−3、ED=45meV、me∗=1.08m)を使う。Nc(T)=2.51×1019(me∗/m)3/2(T/300K)3/2cm−3 である。
- (1) T=77K で Nc と eED/(kBT) を求め、式 (4.5.11) で n とイオン化の割合を求めよ。
- (2) 同じ温度で、凍結の領域の近似式 (4.5.12) はどれだけずれるか。
- (3) 300K の μ の位置 εc−μ と、少数キャリアの密度 p を求めよ(ni=8.88×109cm−3、第2部第7章)。
解答
(1) kBT=6.64meV なので ED/(kBT)=6.78、eED/(kBT)=882 である。Nc=2.51×1019×1.083/2×(77/300)3/2=3.66×1018cm−3 である。8(ND/Nc)eED/(kBT)=8×(1016/3.66×1018)×882=19.3 で、1+19.3=4.50 から n=2×1016/5.50=3.64×1015cm−3、イオン化の割合は 36% である。液体窒素温度でも、このドナーの3分の2近くはまだ電子を束縛している。
(2) 式 (4.5.12) は 3.66×1018×1016/2e−3.39=4.56×1015cm−3 で、25% 大きく出る。平方根の中の 19.3 がまだ 1 に比べて十分大きくないためで、近似式が使えるのは 8(ND/Nc)eED/(kBT) が 102 を超える低温(図の 1000/T≳20)である。
(3) 300K では Nc=2.82×1019cm−3 で、ドナーはほぼ全部イオン化している(数値解で 99.6%)。式 (4.5.13) から εc−μ=0.02585eV×ln(2.82×103)=0.205eV で、μ はギャップの中央(伝導帯から 0.56eV)よりずっと伝導帯に寄る。少数キャリアは p=ni2/n=(8.88×109)2/(9.96×1015)=7.9×103cm−3 で、電子の 1012 分の1である。
例題 4.5.5 GaAs と Si のドナーが金属になる密度 ★
オリジナル式 (4.5.15) を使い、例題 4.5.1 の GaAs(aD=10.2nm)と、Si を等方な有効質量 0.26m・εr=11.7 で近似したドナーについて、Mott 転移の密度 nc を見積もれ。
解答
GaAs では nc=(0.26/aD)3=(0.26/1.02×10−6cm)3=1.66×1016cm−3 である。Si では aD=11.7/0.26×0.0529nm=2.38nm で、nc=(0.26/2.38×10−7cm)3=1.3×1018cm−3 になる。nc∝aD−3∝(m∗/εr)3 なので、電子の軽い GaAs は Si の約 80 分の1の密度で金属になる。GaAs では 1017cm−3 のドープで既に金属で、低温でも凍結しない。この見積もりは Si の質量の異方性や谷の数を無視しているので、桁を見るためのものである。
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