tecktom.com

当てる道具:Dirac の恒等式と、低い準位の組への有効 Hamiltonian

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第5部 第2章 磁性 I:Hund 則と交換相互作用
目次
  1. Dirac の恒等式
  2. 低い準位の組への有効 Hamiltonian
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第2章 §5.2.2 ★★★ スピンを含まない H^\hat H でも、Pauli の排他律のために1重項と3重項のエネルギーが分かれる。その差は Dirac の恒等式で JS^1⋅S^2J\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2 の形に書き直せ、電荷を動かす高い状態は縮退摂動で消して、低い準位の組だけの有効 Hamiltonian に置き換えられる

Dirac の恒等式

スピン 12\frac12 の2つの粒子のスピンの状態を入れ替える演算子を P^12σ\hat P^\sigma_{12} とする(P^12σ∣σ1σ2⟩=∣σ2σ1⟩\hat P^\sigma_{12}| \sigma_1\sigma_2 \rangle =| \sigma_2\sigma_1 \rangle)。3重項は入れ替えで対称なので P^12σ=+1\hat P^\sigma_{12}=+1、1重項は反対称なので −1-1 である。一方、S^1⋅S^2=12[(S^1+S^2)2−S^1 2−S^2 2]=12[S(S+1)−32]\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2=\frac12\bigl[(\hat{\bm{S}}_1+\hat{\bm{S}}_2)^2-\hat{\bm{S}}_1^{\,2}-\hat{\bm{S}}_2^{\,2}\bigr]=\frac12\bigl[S(S+1)-\frac32\bigr] は、3重項で 14\frac14、1重項で −34-\frac34 である。2つの演算子はどちらも1重項と3重項の上で定数なので、その値を合わせれば

P^12σ=12+2 S^1⋅S^2(5.2.5)\hat P^\sigma_{12}=\frac12+2\,\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2\tag{5.2.5}

が成り立つ。これを Dirac の恒等式と呼ぶ(Dirac(1929)、Proceedings of the Royal Society A 123、714)。入れ替えという置換群の操作が、スピンの内積という回転で不変な量で書ける、という主張である。

命題 5.2.1(2つのスピンの有効 Hamiltonian ★★★)

スピンを含まない H^\hat H の低い準位が、スピン 12\frac12 を1つずつ持つ2つの局在した部分の1重項(エネルギー ESE_S)と3重項(ETE_T)の4状態だけからなり、ほかの準位から離れているとする。この4状態の中で、H^\hat H は

H^eff=ES+3ET4+J S^1⋅S^2,J=ET−ES(5.2.6)\hat H_{\mathrm{eff}}=\frac{E_S+3E_T}{4}+J\,\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2,\qquad J=E_T-E_S\tag{5.2.6}

と同じ固有値と固有ベクトルを持つ。

証明

式 (5.2.6) の右辺に S^1⋅S^2=14\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2=\frac14 を入れると ES+3ET4+ET−ES4=ET\frac{E_S+3E_T}{4}+\frac{E_T-E_S}{4}=E_T、−34-\frac34 を入れると ES+3ET4−3(ET−ES)4=ES\frac{E_S+3E_T}{4}-\frac{3(E_T-E_S)}{4}=E_S である。H^\hat H は全スピンと交換するので、4状態の中での固有ベクトルは1重項と3重項そのものであり、右辺の固有ベクトルと一致する。

命題 5.2.1 は、交換相互作用の JJ を計算する問題を「1重項と3重項のエネルギーの差を求める問題」に置き換える。以下の節で計算するのはすべてこの差である。JJ の符号は、どちらが低いかで決まる。3重項が低ければ J<0J<0 で2つのスピンはそろい(強磁性)、1重項が低ければ J>0J>0 で逆を向く(反強磁性)。

第二量子化で書くと、同じ内容は演算子の恒等式

∑σ,σ′c^1σ†c^2σ′†c^1σ′c^2σ=−2(S^1⋅S^2+14n^1n^2),S^j=12∑σ,σ′c^jσ† σσσ′ c^jσ′(5.2.7)\sum_{\sigma,\sigma'}\hat c^\dagger_{1\sigma}\hat c^\dagger_{2\sigma'}\hat c_{1\sigma'}\hat c_{2\sigma}=-2\Bigl(\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2+\frac14\hat n_1\hat n_2\Bigr),\qquad \hat{\bm{S}}_j=\frac12\sum_{\sigma,\sigma'}\hat c^\dagger_{j\sigma}\,\bm{\sigma}_{\sigma\sigma'}\,\hat c_{j\sigma'}\tag{5.2.7}

になる(σ\bm{\sigma} は Pauli 行列)。左辺は、反交換関係を使うと −∑σσ′c^1σ†c^1σ′c^2σ′†c^2σ-\sum_{\sigma\sigma'}\hat c^\dagger_{1\sigma}\hat c_{1\sigma'}\hat c^\dagger_{2\sigma'}\hat c_{2\sigma} と並べ替えられる。一方、Pauli 行列の恒等式 ∑α=x,y,zσabασcdα=2δadδbc−δabδcd\sum_{\alpha=x,y,z}\sigma^\alpha_{ab}\sigma^\alpha_{cd}=2\delta_{ad}\delta_{bc}-\delta_{ab}\delta_{cd} からS^1⋅S^2=12∑σσ′c^1σ†c^1σ′c^2σ′†c^2σ−14n^1n^2\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2=\frac12\sum_{\sigma\sigma'}\hat c^\dagger_{1\sigma}\hat c_{1\sigma'}\hat c^\dagger_{2\sigma'}\hat c_{2\sigma}-\frac14\hat n_1\hat n_2 なので、両者を合わせると右辺になる。したがって式 (5.2.4) の交換の項は −2K(S^1⋅S^2+14n^1n^2)-2K(\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2+\frac14\hat n_1\hat n_2) で、それだけで J=−2KJ=-2K の強磁性の相互作用である。

低い準位の組への有効 Hamiltonian

運動交換と超交換では、スピンの向きだけが違う低い準位の組(電子が各サイトに1個ずつの状態)と、電荷を動かした高い準位(あるサイトに2個入った状態)が、飛び移り tt でつながる。低い組への射影を P^\hat P、残りを Q^=1−P^\hat Q=1-\hat P とし、H^=H^0+T^\hat H=\hat H_0+\hat T の H^0\hat H_0 が P^\hat P の中で一定値 E0E_0 をとるとする。T^\hat T の2次までの縮退摂動は

H^eff=E0+P^T^P^+P^T^Q^ 1E0−Q^H^0Q^ Q^T^P^+O(T3)(5.2.8)\hat H_{\mathrm{eff}}=E_0+\hat P\hat T\hat P+\hat P\hat T\hat Q\,\frac{1}{E_0-\hat Q\hat H_0\hat Q}\,\hat Q\hat T\hat P+\mathcal{O}(T^3)\tag{5.2.8}

である。第3項は「高い準位へ一度飛び出して戻る」仮想的な過程で、エネルギーの分母 E0−Ehigh<0E_0-E_{\mathrm{high}}<0 のために必ず準位を下げる。下げ方がスピンの組み方で違えば、それがスピンの間の相互作用になる。超交換では2次で何も起きず、4次の項 P^T^Q^(E0−H^0)−1Q^T^Q^(E0−H^0)−1Q^T^Q^(E0−H^0)−1Q^T^P^\hat P\hat T\hat Q(E_0-\hat H_0)^{-1}\hat Q\hat T\hat Q(E_0-\hat H_0)^{-1}\hat Q\hat T\hat Q(E_0-\hat H_0)^{-1}\hat Q\hat T\hat P が主になる(4次にはほかに P^\hat P を途中で通る項もあるが、超交換の例ではスピンによらない定数にしかならない)。

H^eff\hat H_{\mathrm{eff}} の形には、回転の対称性から強い制限がかかる。H^\hat H がスピンを含まなければ H^eff\hat H_{\mathrm{eff}} は全スピンの回転で不変で、スピン 12\frac12 の組の上の回転で不変な演算子は S^i⋅S^j\hat{\bm{S}}_i\cdot\hat{\bm{S}}_j と、その積の和だけである。2次の過程は2つのサイトしか結ばないので、H^eff\hat H_{\mathrm{eff}} は ∑JijS^i⋅S^j\sum J_{ij}\hat{\bm{S}}_i\cdot\hat{\bm{S}}_j の形に限られる。4次以上になると3つ・4つのサイトを回る過程が現れ、(S^i⋅S^j)(S^k⋅S^l)(\hat{\bm{S}}_i\cdot\hat{\bm{S}}_j)(\hat{\bm{S}}_k\cdot\hat{\bm{S}}_l) のような多スピンの項が加わる。

例題 5.2.2 三角形に並んだ3つのスピン ★★

オリジナルスピン 12\frac12 が3つ、正三角形の頂点にあり、H^=J(S^1⋅S^2+S^2⋅S^3+S^3⋅S^1)\hat H=J(\hat{\bm{S}}_1\cdot\hat{\bm{S}}_2+\hat{\bm{S}}_2\cdot\hat{\bm{S}}_3+\hat{\bm{S}}_3\cdot\hat{\bm{S}}_1)(J>0J>0)で相互作用する。

  1. (1) H^\hat H を全スピン S^tot=S^1+S^2+S^3\hat{\bm{S}}_{\mathrm{tot}}=\hat{\bm{S}}_1+\hat{\bm{S}}_2+\hat{\bm{S}}_3 で書き、準位とその縮退度を求めよ。
  2. (2) 2つのスピンの組(たとえば 1 と 2)がすべて1重項になる状態が無いことを説明し、反強磁性の相互作用がすべての組で同時には満たされないことを確かめよ。
解答

(1) S^tot 2=∑iS^i 2+2∑i<jS^i⋅S^j=94+2∑i<jS^i⋅S^j\hat{\bm{S}}_{\mathrm{tot}}^{\,2}=\sum_i\hat{\bm{S}}_i^{\,2}+2\sum_{i<j}\hat{\bm{S}}_i\cdot\hat{\bm{S}}_j=\frac94+2\sum_{i<j}\hat{\bm{S}}_i\cdot\hat{\bm{S}}_j なのでH^=J2(S^tot 2−94)\hat H=\frac J2\bigl(\hat{\bm{S}}_{\mathrm{tot}}^{\,2}-\frac94\bigr)。12\frac12 を3つ合成すると Stot=32S_{\mathrm{tot}}=\frac32(4状態)と Stot=12S_{\mathrm{tot}}=\frac12(2組、4状態)が出る。準位は Stot=12S_{\mathrm{tot}}=\frac12 で J2(34−94)=−3J4\frac J2(\frac34-\frac94)=-\frac{3J}{4}(4重に縮退)、Stot=32S_{\mathrm{tot}}=\frac32 で J2(154−94)=+3J4\frac J2(\frac{15}{4}-\frac94)=+\frac{3J}{4}(4重)である。

(2) 3つの組の S^i⋅S^j\hat{\bm{S}}_i\cdot\hat{\bm{S}}_j がすべて −34-\frac34 なら、エネルギーは −9J4-\frac{9J}{4} になるはずだが、(1) の最低値は −3J4-\frac{3J}{4} である。1と2が1重項を組むと、3は残りのどちらとも組めない(スピン 12\frac12 の1重項は2つのスピンで閉じている)。最低の準位では、3つの組の平均が ⟨S^i⋅S^j⟩=−14\langle \hat{\bm{S}}_i\cdot\hat{\bm{S}}_j \rangle =-\frac14 にとどまる。三角形の上の反強磁性ではすべての組を同時に反平行にできず、基底状態が縮退して残る。この性質は第5部第3章で格子の上の Heisenberg 模型を扱うときに、平均場が当てはまりにくい例として現れる。(検算 scripts/verify_ch5-02.py)

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

← AI生成教科書『虎の巻』の記事一覧へ