この章で選ぶ H と当てる道具:Heisenberg 模型
AI 生成・木下が未勉強
ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第3章 §5.3.1 ★★★ 格子点ごとの大きさ のスピンと、隣どうしの等方な交換 だけを残す。強磁性の基底状態は厳密に分かるが、反強磁性の Néel 状態は固有状態でない。その差が平均場とスピン波の両方の出発点になる
前の第5部第2章では、磁性を担うのはどの電子かを決め、Hund 則で原子1個の中のスピンの大きさ を、直接交換・超交換・Dzyaloshinskii–Moriya の相互作用で原子どうしのスピンの結合を出した。とくに、半分詰まった Hubbard 模型で電子の飛び移り が Coulomb の反発 より十分小さいとき、隣り合う原子のスピンの間に反強磁性の交換相互作用 が現れることを示した。この章はその結果を出発点にし、原子の中の電子の自由度を捨てて、格子点ごとに1本のスピン が置かれ、隣どうしが で結合している模型、すなわち Heisenberg 模型だけを残す。
Heisenberg 模型は見た目が単純だが、量子のスピンが 個結合した多体問題で、3次元では厳密には解けない。そこで2つの道具を当てる。1つめは Weiss の平均場で、ほかのスピンを平均値で置き換え、1個のスピンの問題に縮める。これは解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章で Ising 模型に当てたものと同じ近似を、量子のスピン に広げたものである。2つめはスピン波で、低温で秩序がほとんど完全なときに、そろった向きからの小さなずれを Bose 粒子(マグノン)として数える。
この章の節の並びは次のとおりである。最初に Heisenberg 模型を書き、強磁性の基底状態が厳密に分かること、反強磁性ではそうでないことを2スピンで確かめる(5.3.1節)。次に平均場を強磁性に当てて Curie 温度・Curie–Weiss の法則・磁化の温度変化を出し(5.3.2節)、副格子を2つ用意して反強磁性の Néel 温度と、磁場の向きで違う帯磁率を出す(5.3.3節)。そのあとスピン波で強磁性体の Bloch の 則と、反強磁性体の線形な分散・零点の揺らぎを出す(5.3.4節)。削ったものを並べて近似の裏付けの札を貼り、帯磁率と中性子散乱で確かめ(5.3.5節)、授業の分子場の式と対応させ(5.3.6節)、まとめと総合問題で終える。
この章では次の約束を置く。スピン演算子 は を単位にした無次元の量で、、 を満たす。したがって Zeeman のエネルギーは (電子のスピンの磁気モーメントは )と書ける。この章では演算子の帽子を省く(スピン演算子もマグノンの生成消滅演算子 , も帽子なしで書く)。交換相互作用 は記法の正本どおり が反強磁性で、強磁性では なので大きさを と書く。磁化率は と書く。
選ぶ H
選ぶ Hamiltonian は
である。 は隣り合う格子点の組を1組につき1回ずつ数える和で、格子点の数を 、1つの格子点の隣の数(配位数)を とすると、組の数は である。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章の Ising 模型は ( で強磁性)と書くので、 の前の符号の向きがこの章と逆である。向こうの はこの章の にあたる( と の換算は総合問題 (5) の )。磁場 は 方向にかけた。式 (5.3.1) に残っているのは、格子点ごとのスピンの向きという自由度だけである。電子がどの軌道にいるか、電子が原子から原子へ動くかといった情報は、第5部第2章で と の2つの数に畳み込まれている。
内積 は、昇降演算子 を使うと
と書ける。第1項は2つのスピンの 成分をそのまま掛けたもので、第2項は一方のスピンを1つ上げ、もう一方を1つ下げる「スピンの交換」である。磁性の物理の多くは、この第2項をどう扱うかで決まる。
対称性と、強磁性の基底状態
式 (5.3.1) の第1項はスピンを全部同じだけ回しても変わらないので、全スピン と交換する。これは解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第5章の回転対称性と Noether の定理の、スピン空間での形である。磁場の項は 軸のまわりの回転だけを残すので、磁場があっても は保存する。
強磁性()では、基底状態が厳密に分かる。すべてのスピンが をとる状態 に式 (5.3.2) を当てると、 は最大の状態を消すので第2項は 0 になり、第1項は を返す。したがって は磁場のないときの固有状態で、エネルギーは
である。一方、どの状態についても1組の は2つのスピンを合成した大きさが最大 の場合の値 を超えないので、エネルギーは を組の数だけ足したものより下がらない。 はこの下限に達しているので基底状態である。全スピンが保存するので、 を全体で回した状態もすべて同じエネルギーをもち、基底状態は 重に縮退している。
反強磁性では Néel 状態が固有状態でない
反強磁性()で同じことを試す。格子が2つの副格子 A・B に分かれ、どの組も A と B を結ぶとき(単純立方・正方格子・1次元の鎖)、A のスピンを全部 、B のスピンを全部 にした Néel 状態 が古典的には最もエネルギーが低い。しかし に式 (5.3.2) の第2項を当てると、A のスピンを1つ下げ B のスピンを1つ上げた状態が出てくるので、 は固有状態でない。反強磁性の基底状態は、Néel 状態に「隣どうしのスピンの交換」が重なった、厳密には書けない状態である。次の例題で、その差の大きさを2スピンで測る。
当てる道具
この章で当てる道具は2つある。1つめは Weiss の平均場で、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第7章の Gibbs–Bogoliubov の不等式 を、格子点ごとの密度行列の積に制限して当てる。そこで示したとおり、最良の積は「ほかのスピンを平均値で置き換えた1体の Hamiltonian」のカノニカル分布になる。ここでは Ising の を量子のスピン に替えるので、1体の問題に Brillouin 関数が現れる(5.3.2節)。2つめは スピン波で、Holstein と Primakoff のスピン演算子の Bose 粒子による表し方を使い、そろった状態からのずれの2次までを残して調和振動子の集まりに直す(5.3.4節)。平均場は転移温度の近くまで含めた全体の形を、スピン波は低温の正確な形を与えるので、2つは互いに補い合う。
例題 5.3.1 2つのスピン:一重項と Néel 状態の差 ★★
オリジナル大きさ のスピン2つが ()で結合している。
- (1) 全スピンの大きさ を使って固有値を書き、基底状態のエネルギーを求めよ。
- (2) Néel 状態 (1つめが 、2つめが )でのエネルギーの期待値を求めよ。
- (3) (2) と (1) の比を求め、 の値を出せ。 が大きいとき比はどうなるか。
ほかの巻では
- 相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部第2章:平均場近似を、試す分布を積に狭めた Gibbs の変分原理として読み、自由エネルギーの上界になる理由が分かる
木下の勉強ステータス
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