ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第5部 第3章 §5.3.4 ★★★ そろった状態からのずれを Bose 粒子で数えると、強磁性では ℏω∝k2 のマグノンが出て、磁化は T3/2 で減る(Bloch 則)。2次元では熱のマグノンの数が発散し、有限温度の秩序が無い。反強磁性では分散が k に比例し、T=0 でも零点の揺らぎが副格子の磁化を縮める
Holstein–Primakoff の表し方
この節は B=0 とし、強磁性の秩序の向きを +z に選ぶ(無限小の磁場で向きを選んだと考える)。格子点 i のスピンが Sz=S からどれだけ下がっているかを数える演算子 ni=bi†bi を、[bi,bj†]=δij を満たす Bose 粒子の演算子で
Siz=S−bi†bi,Si+=2S−bi†bibi,Si−=bi†2S−bi†bi(5.3.19)
と表す(Holstein, Primakoff(1940)、Physical Review 58、1098)。この表し方はスピンの交換関係を厳密に満たすが、ni≤2S の制限を課す必要がある。低温でずれが少ない(⟨ni⟩≪2S)ときは根号を 2S で置き換えてよく、Si+≈2Sbi、Si−≈2Sbi† とする。これが線形スピン波の近似である。
強磁性のマグノン
式 (5.3.2) にこれを入れ、b について2次までを残すと
Si⋅Sj≈S2−S(ni+nj)+S(bi†bj+bj†bi)
となる。J=−∣J∣ を掛けて組について足すと
H=E0+∣J∣S⟨ij⟩∑(bi†−bj†)(bi−bj)
で、E0 は式 (5.3.3) である。ずれが隣と同じ位相なら(bi=bj)エネルギーがかからないことが、この形から読める。格子の Fourier 変換 bi=N−1/2∑keik⋅Ribk を入れる。組についての和を「各格子点からその z 個の隣へ」の和に直すと、∑⟨ij⟩(ni+nj)=z∑ini=z∑kbk†bk、∑⟨ij⟩(bi†bj+bj†bi)=∑i∑δbi†bi+δ=∑kzγkbk†bk となるので、
H=E0+k∑ℏωkbk†bk,ℏωk=z∣J∣S(1−γk),γk=z1δ∑eik⋅δ(5.3.20)
を得る(δ は隣への変位)。bk† が作る励起をマグノンと呼ぶ。1個のマグノンは全スピンの z 成分を1だけ下げ、波数 k の位相で格子全体に広がったスピンの傾きである。
k=0 では ℏω=0 になる。これは全体を一様に傾けた状態で、5.3.1節で見た基底状態の縮退そのものである。連続な対称性(スピンの回転)が秩序で破れると、その向きをゆっくり変える励起のエネルギーが k→0 で 0 に下がる。これは Goldstone の定理の一例である。単純立方格子(z=6)では 1−γk≈k2a2/6 なので、小さい k で
ℏωk≈Dswk2,Dsw=∣J∣Sa2(5.3.21)
となる。Dsw をスピン波のこわさ(スピン剛性)と呼ぶ。
1個のマグノンの状態については、線形スピン波は近似でなく厳密である。全スピンの z 成分が NS−1 の状態は、どれか1つの格子点のスピンが1つ下がった状態の重ね合わせしかなく、その空間の中で H は1粒子の強束縛の Hamiltonian(第2部第3章の原子の輪)と同じ形になるからである。図 5.3.3 でこれを確かめる。マグノンが2個以上あるときは、同じ格子点に重なる効果(根号の補正と SzSz の4次の項)が現れ、マグノンどうしの相互作用になる。

図 5.3.3 S=1/2 の強磁性 Heisenberg 模型の1次元の輪(N=12)で、全スピンの z 成分が1つ下がった状態の励起エネルギー。点は 12 次元の部分空間で H を厳密に対角化した値、実線は線形スピン波の式 (5.3.20)(z=2、γk=coska)。1マグノンでは両者が一致する(verify_ch5-03.py)。
Bloch の T3/2 則
マグノンは Bose 粒子で、粒子数を保存しない(化学ポテンシャル 0)ので、温度 T で ⟨nk⟩=1/(eβℏωk−1) だけ励起される。マグノン1個が Stotz を1下げるので、1格子点あたりの磁化の減りは
S−⟨Sz⟩=N1k∑⟨nk⟩=v0∫(2π)3d3keβDswk2−11
である(v0 は1格子点あたりの体積、単純立方で a3)。低温では小さい k だけが占められるので、分散を式 (5.3.21) で置き換え、積分を無限大まで延ばしてよい。∫(2π)3d3keβDk2−11=ζ(3/2)(kBT/(4πD))3/2(理想 Bose 気体の数密度と同じ積分)を使って、単純立方格子では
M(0)M(0)−M(T)=Sζ(3/2)(4π∣J∣SkBT)3/2,ζ(3/2)=2.612(5.3.22)
を得る。これが Bloch の T3/2 則である(Bloch(1930)、Zeitschrift für Physik 61、206)。マグノンのエネルギーは同じ積分で U∝T5/2 になり、比熱はC/V=415ζ(5/2)kB(kBT/(4πDsw))3/2 と T3/2 に比例する。平均場の式 (5.3.12) では、スピンを1つ倒すのに z∣J∣S かかるので減り方は指数関数的だった。スピン波では、隣と少しずつ位相をずらして全体でゆっくり傾ける励起がいくらでも安くできるので、減り方が温度の冪になる。
2次元では有限温度の秩序が無い
同じ計算を2次元で行うと、∫(2π)2d2keβDk2−11 は小さい k で被積分関数が kBT/(Dk2) になり、∫dk/k の形で対数発散する。磁化の減りが有限にとどまるという前提が崩れるので、2次元の等方な Heisenberg 模型は T>0 で自発磁化を持たない。1次元ではさらに強く発散する。これは近似の破れでなく、Mermin と Wagner が Bogoliubov の不等式から厳密に示した定理で、短距離の等方な Heisenberg 模型は1次元と2次元で T>0 に強磁性も反強磁性も持たない(Mermin, Wagner(1966)、Physical Review Letters 17、1133)。平均場は次元によらず有限の Tc を出すので、2次元ではこの点で定性的に誤る。
反強磁性のマグノン
反強磁性では、A のスピンを +z、B のスピンを −z に向けた Néel 状態のまわりで展開する。B では向きを逆にとってSjz=−S+bj†bj、Sj+≈2Sbj†、Sj−≈2Sbj、A では ai を使って式 (5.3.19) と同じにする。すると
Si⋅Sj≈−S2+S(ai†ai+bj†bj)+S(aibj+ai†bj†)
となり、強磁性と違って粒子を2つ同時に作る項 a†b† が現れる。これが5.3.1節で見た「Néel 状態は固有状態でない」ことの、Bose 粒子の言葉での表れである。副格子ごとに Fourier 変換すると(副格子の格子点の数 N/2)、
H=EN+zJSk∑[ak†ak+bk†bk+γk(akb−k+ak†b−k†)]
(EN=−JS2Nz/2 は Néel 状態の古典のエネルギー)で、k ごとに ak と b−k† が混ざった2行2列の問題になる。αk=ukak−vkb−k†、uk2−vk2=1 の形の Bogoliubov 変換で対角化すると(交換関係を保つため u2+v2 でなく u2−v2=1 に規格化する)、運動方程式 iℏa˙k=zJS(ak+γkb−k†)、iℏb˙−k†=−zJS(b−k†+γkak) の固有振動数として
ℏωk=zJS1−γk2(5.3.23)
を得る(係数行列 (1−γγ−1) の固有値が ±1−γ2)。単純立方では 1−γk2≈k2a2/3 なのでℏω≈23JSka で、反強磁性のマグノンは、音波と同じく k に比例する分散を持つ。
例題 5.3.4 平均場とスピン波の低温の磁化 ★★★
オリジナル単純立方格子の強磁性体で S=1/2、∣J∣=10meV とする。
- (1) 平均場の Tc を求めよ。
- (2) T=50K で、Bloch 則 (5.3.22) による磁化の減り ΔM/M(0) を求めよ。
- (3) 同じ温度で平均場の式 (5.3.12) による減りを求め、(2) と比べよ。
解答
(1) 式 (5.3.8) から kBTc=6×10×21×23/3meV=15meV で、Tc=174K。
(2) kBT=4.31meV、4π∣J∣S=62.8meV なので、比は 0.0686、その 3/2 乗は 0.0180。ΔM/M(0)=2.612/0.5×0.0180=0.0938 で、約 9% 減る。分散を式 (5.3.21) で近似せず、Brillouin 域全体で γk の和を取ると 0.097 で、近似の差は数 % にとどまる。
(3) 1格子点あたり S−σ≈e−z∣J∣S/(kBT)=e−30/4.31=9.5×10−4 で、ΔM/M(0)=1.9×10−3。スピン波の減りは平均場の約 50 倍である。平均場はスピン1個を倒す高い励起しか持たないので、長い波長の安い励起による減りを見落とす。
例題 5.3.5 反強磁性の零点の揺らぎ ★★
オリジナル反強磁性の基底状態(マグノンの真空)でも、Bogoliubov 変換の係数 vk の分だけ元の a 粒子が含まれ、副格子の磁化は⟨SAz⟩=S−ΔS、ΔS=N2∑kvk2=21⟨1−γk21−1⟩BZ に縮む(⟨⋅⟩BZ は Brillouin 域での平均)。
- (1) vk2=21(1/1−γk2−1) を、Bogoliubov 変換が H の a†b† の項を消す条件から導け。
- (2) ΔS を1次元の鎖・正方格子・単純立方格子で求めよ(数値積分でよい)。
- (3) S=1/2 の副格子の磁化を正方格子と単純立方格子で求め、1次元で何が起きるかを述べよ。
解答
(1) u=coshθ、v=sinhθ と置き、逆変換 a=uα+vβ†、b−k†=vα+uβ†(β は B 側の新しい粒子)を H の k の部分に入れると、αβ の係数は 2uv+γ(u2+v2)=sinh2θ+γcosh2θ に比例する。これを 0 にすると tanh2θ=−γ で、v2=sinh2θ=21(cosh2θ−1)=21(1/1−γ2−1)。
(2) 1次元(γ=coska)では 1/∣sinka∣ が k→0 で ∫dk/k の形に発散し、ΔS=∞ である。正方格子(γ=(coskxa+coskya)/2)では ΔS=0.197、単純立方では ΔS=0.078 である(verify_ch5-03.py の数値積分)。
(3) S=1/2 では副格子の磁化は正方格子で 0.5−0.197=0.303、単純立方で 0.422 に縮む。ΔS は S によらないので、相対的な縮みは ΔS/S で 1/S の補正である(例題 5.3.1 と同じ大きさの見積もり)。1次元では零点の揺らぎだけで Néel の秩序が壊れ、T=0 でも副格子の磁化を持たない。正方格子では T=0 に限って秩序が残り、T>0 では Mermin–Wagner の定理のとおり壊れる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com