解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第3章 §5.3.4 ★★★ フォノンの g(ω) は低い ω で光子と同じ ω2 なので、低温の比熱は光子気体と同じ T3 則。モードが 3N 個で止まるので高温で Dulong–Petit に戻る
低温:音の黒体放射
低温では ℏω≲kBT の低いモードしか励起されず、そこでは g(ω) は式 (5.3.15) の ω2 の形である。式 (5.3.16) の積分の上限を ∞ に延ばしてよく(上の方のモードの寄与は e−ℏω/kBT で小さい)、光子と同じ計算で
U−E0=2π2(ℏvˉ)33V(kBT)4⋅15π4=10(ℏvˉ)3π2V(kBT)4,CV=52π2VkB(ℏvˉkBT)3(5.3.26)
になる。光子気体の U=15π2V(kBT)4/(ℏc)3 と比べると、分岐の数の比 3/2 と速さの比 (c/vˉ)3 が掛かっただけで、同じ式である。低温の固体の比熱が T3 に比例することは、固体の中の「音の黒体放射」の T4 則にほかならない。音速は光速の 10−5 程度なので、同じ温度・同じ体積ではフォノンの気体のほうがはるかに多くのエネルギーを持つ。
この T3 則は、低い ω で g(ω)∝ω2 になることだけを使っている。音響分岐の分散が k→0 で線形であることは、結晶全体を一様にずらしてもエネルギーが変わらないこと(並進対称性。第2部第4章で k=0 のモードが全運動量の Noether の保存量に当たることを見た)の帰結なので、どの結晶でも成り立つ。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの kBT/(ℏωD)→0(熱のエネルギーが格子振動の最大のエネルギーに比べて小さい) | 証明 条件付き(低い ω で g(ω)=Aω2+O(ω3)、すなわち音響分岐が k→0 で線形で、ほかに低い ω のモードが無い。そのとき積分の漸近展開の主要項が T3) | 行き先 近似の数理 第2章
Debye のモデル
高温では事情が違う。格子振動のモードは全部で 3N 個しかないので、kBT がすべてのモードの ℏω を超えると、各モードに kBT が入って CV=3NkB(Dulong–Petit)で止まる。光子にはモードの上限が無いので、この飽和は起きない。
低温と高温の両方を1つの式で表すために、Debye は g(ω) を「ω2 の形のまま、モードの総数が 3N になる角振動数 ωD で打ち切る」もので置き換えた(Debye(1912)、Ann. Phys. 39, 789)。
gD(ω)=⎩⎨⎧2π2vˉ33Vω2=ωD39Nω20(ω≤ωD)(ω>ωD),ωD3=6π2VNvˉ3.(5.3.27)
ωD は ∫0ωDgDdω=3N から決めた。ΘD=ℏωD/kB を Debye 温度と呼ぶ。式 (5.3.17) に入れると
CV=9NkB(ΘDT)3∫0ΘD/T(ex−1)2x4exdx(5.3.28)
になる。T≫ΘD では被積分関数を x2 で近似して CV=3NkB。T≪ΘD では上限を ∞ にし、部分積分で∫0∞x4ex/(ex−1)2dx=4∫0∞x3/(ex−1)dx=4π4/15 を使うと
CV=512π4NkB(ΘDT)3(5.3.29)
で、式 (5.3.26) の CV に ωD の定義を入れたものと一致する。
第3部第6章の Einstein のモデルは、3N 個のモードをすべて1つの角振動数に置いたもので、g(ω)=3Nδ(ω−ωE) に当たる。低い ω のモードが無いので、低温の比熱は e−ΘE/T で下がり、実際の固体の T3 より速く 0 に近づく(図 5.3.1)。図では ΘE=3/5ΘD とした。これは高温の展開 CV=3NkB[1−⟨(ℏω)2⟩/(12(kBT)2)+⋯] の補正の係数を Debye のモデル(⟨ω2⟩=53ωD2)と揃える選び方で、高温側では2つの曲線が重なる。

図 5.3.1 3次元の固体の比熱。点線は Debye のモデル (5.3.28)、実線はその低温の近似 T3 則 (5.3.29)、破線は Einstein のモデル(ΘE=3/5ΘD)。T≲0.05ΘD では Debye のモデルと T3 則が重なり、Einstein のモデルはそれより速く 0 に近づく。高温ではどれも Dulong–Petit の 1 に近づく。
Debye のモデルの gD(ω) は、低い ω の形と、モードの総数の2つだけを正しく持たせたもので、途中の形は実際の結晶と合わない。実際の g(ω) には、分散 ωs(k) の傾きが 0 になる所で特異点(van Hove 特異点)が現れる。Debye のモデルは、両端の極限を正しく持つ内挿の式であり、その間の誤差を評価する小さいパラメータは無い。
近似の裏付け
型 C(閉じる) | 小さいもの g(ω) を「低い ω の ω2 の形をモードの総数 3N で打ち切ったもの」に置き換える(小さいパラメータなし) | 証明 C 型=内部の評価なし(T→0 と T→∞ の極限だけが正しい) | 行き先 近似の数理 第9章
厳密に解ける場合:原子の列
Debye のモデルがどこで合いどこで外れるかを、g(ω) が厳密に分かる1次元の原子の列 (5.3.2) で確かめる。k は幅 2π/a の範囲に N 個一様に並び、ωk=ωm∣sin(ka/2)∣ なので、∣k∣ と −∣k∣ の2つを数えて
g(ω)=2⋅2πNadωdk=π2Nωm2−ω21(0≤ω<ωm)(5.3.30)
になる。ω→ωm(Brillouin 域の端)で群速度が 0 になり、g は発散する。これが1次元の van Hove 特異点である。1次元の Debye のモデルは、ω=0 での値 g(0)=2N/(πωm) を保ったまま、総数が N になる ωD=πωm/2 まで一定値で延ばしたものgD=N/ωD である(図 5.3.2)。

図 5.3.2 1次元の原子の列のモードの密度。点線は厳密な式 (5.3.30)(ωm で発散する)、実線は1次元の Debye のモデル(ωD=πωm/2 まで一定)。両者は ω=0 での値と、曲線の下の面積(モードの総数 N)が等しい。

図 5.3.3 1次元の原子の列の比熱。点線は厳密な g(ω) (5.3.30) を使ったもの、実線は1次元の Debye のモデル。低温では両方とも C=(2π/3)NkB⋅kBT/(ℏωm) の直線に乗り、高温では NkB に近づく。途中では厳密な比熱のほうが大きい。
図 5.3.3 の途中の温度で厳密な比熱のほうが大きいのは、厳密な g(ω) ではモードがすべて ωm より下にあるのに、Debye のモデルでは ωm<ω<1.57ωm にもモードを置いているからである。高い所に置かれたモードは同じ温度で凍りやすいので、Debye のモデルの比熱は小さく出る。
例題 5.3.4 1次元の列と3次元の結晶の比熱を数える ★★
オリジナル
- (1) 1次元の原子の列の低温の比熱を、式 (5.3.17) と g(0)=2N/(πωm) から求め、T に比例することを示せ。
- (2) kBT=0.1ℏωm と kBT=ℏωm で、厳密な比熱と1次元の Debye のモデルの比熱を数値積分で比べよ。
- (3) Debye 温度 ΘD=300K の3次元の結晶で、T=10K と T=300K のモル比熱を求めよ。
解答
(1) 低温では x=ℏω/(kBT) が大きい所の寄与は e−x で小さいので、g(ω) を g(0) に置き換え、上限を ∞ にする。dω=(kBT/ℏ)dx と∫0∞x2ex/(ex−1)2dx=2∫0∞x/(ex−1)dx=2ζ(2)=π2/3 から
C=kBg(0)ℏkBT3π2=32πNkBℏωmkBT.
1次元では g(ω) が低い ω で定数なので、3次元の T3 の代わりに T1 になる。d 次元なら g∝ωd−1 で C∝Td である。
(2) t=kBT/(ℏωm) として、厳密な比熱は k を θ=ka/2 に替えて C/(NkB)=π2∫0π/2(ex−1)2x2exx=sinθ/tdθ、Debye のモデルは C/(NkB)=π2t∫0π/(2t)(ex−1)2x2exdx。数値積分するとt=0.1 で厳密 0.221、Debye 0.209((1) の直線では 0.209)、t=1 で厳密 0.960、Debye 0.936。低温では両者は (1) の直線の近くにあり、t=0.1 でも厳密な値は直線より 5% 大きい。これは g(ω) が ω とともに増える分(式 (5.3.30) の ω2 の補正)である。
(3) 式 (5.3.29) の NkB を気体定数 R に替えると、512π4R=1944Jmol−1K−1 なので、T=10K では 1944×(1/30)3=0.0720Jmol−1K−1。式 (5.3.28) を数値積分しても同じ 0.0720 になり、T3 則はここで十分よく成り立つ。T=ΘD では数値積分で CV/(3R)=0.952、CV=23.7Jmol−1K−1 で、Dulong–Petit の 3R=24.9 の 95% に当たる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com