解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部 第3章 §5.3.5 ★★ 零点エネルギーは温度によらないので熱の量には入らない。壁の位置による差だけが Casimir 力として観測される。占有数の揺らぎは粒子の項 nB と波の項 nB2 の和
零点エネルギーの和
式 (5.3.8) の E0=∑α21ℏωα は、すべての段の数が 0 の状態(光子もフォノンも無い状態)のエネルギーである。格子振動ではモードが有限個なので E0 は有限である。1次元の列では、第5部第2章の5.2.7節の総合問題 (2) でE0/N→2ℏω0/π を出した(その章の ω0 は最大の角振動数の半分で、ωm=2ω0)。この章の記号では
E0N→∞πNℏωm
である(∣sin(ka/2)∣ の Brillouin 域での平均が 2/π)。電磁場では ∫gph(ω)21ℏωdω∝∫ω3dω が発散する。
熱力学の量に E0 が入らない理由は2つある。第一に、E0 は温度によらないので、CV にも S=−∂F/∂T にも寄与しない。第二に、圧力 −∂E0/∂V は、体積に比例する部分(単位体積あたりの零点エネルギー×V)が壁の外側の同じ量と打ち消し合う。壁の両側に同じ真空があれば、壁を押す正味の力は 0 である。残るのは、壁があることでモードの並び方が変わる分の差だけである。
Casimir 力
その差を、1次元の場で計算する。長さ Lb の区間の両端で場が 0 になる条件では、モードは ωn=nπc/Lb(n=1,2,…)である。E0 は発散するので、角振動数の高いモードを e−ω/Λ で弱める因子を入れて計算し、最後に Λ→∞ でどの項が残るかを見る。ϵ=πc/(LbΛ) と置くと ∑n≥1ne−nϵ=eϵ/(eϵ−1)2=1/ϵ2−1/12+O(ϵ2) なので、
E0(Lb)=2Lbℏπcn=1∑∞ne−nϵ=2πcℏΛ2Lb−24Lbπℏc+O(Λ−2)(5.3.31)
になる。第1項は Lb に比例し、Λ に依存して発散する。これは単位長さあたりの零点エネルギーで、区間の外側の同じ長さの真空と同じ値なので、壁にかかる力には寄与しない。第2項は Λ によらず有限で、壁の位置だけで決まる。壁にかかる力は
FC=−∂Lb∂(−24Lbπℏc)=−24Lb2πℏc(5.3.32)
で、負なので2つの壁は引き合う(Casimir 力と Helmholtz 自由エネルギーの記号が重ならないように、力に添字 C を付けた)。弱める因子 e−ω/Λ を別の形に替えても、有限の項 −πℏc/(24Lb) は変わらない。
3次元で、間隔 d の平行な2枚の完全導体の板の間の電磁場について同じ計算をすると、単位面積あたりの力(圧力)は
A⊥FC=−240d4π2ℏc(5.3.33)
になる(Casimir(1948)、Proc. K. Ned. Akad. Wet. 51, 793)。ℏ が入っていて kBT が入っていないので、これは零点エネルギーの差であって熱の放射の圧力ではない。板の間隔が μm の程度の測定で確かめられている(例えば Lamoreaux(1997)、Phys. Rev. Lett. 78, 5。球と平板の配置)。
格子振動の零点エネルギーも、熱では見えないが、原子の位置の揺らぎとして観測される。T=0 でも原子のずれの2乗平均は 0 にならず、軽い原子ほど大きい。第3部第6章で古典の熱揺らぎ ⟨q2⟩=kBT/K が質量によらないことを示したが、零点の揺らぎ ℏ/(2mω) には質量が入る。
占有数の揺らぎ:粒子の項と波の項
段の数の分布 (5.3.12) の分散は
⟨(Δnα)2⟩=⟨nα2⟩−⟨nα⟩2=nB+nB2(5.3.34)
である。モード α のエネルギーの揺らぎは (ℏωα)2(nB+nB2) で、これは kBT2∂(ℏωnB)/∂T に等しく、第3部第6章の ⟨(ΔH)2⟩=kBT2C を1つのモードで確かめたことになる。
Einstein は式 (5.3.34) の2つの項を別々に読んだ(Einstein(1909)、Phys. Z. 10, 185)。第1項 nB だけなら、平均と分散が等しい Poisson 分布の揺らぎで、独立に飛び回る粒子の数の揺らぎの形である。第2項 nB2 だけなら、標準偏差が平均と同じ大きさで、位相がばらばらの波を重ねたときの強度の揺らぎの形である(古典の等分配で ℏωnB→kBT とした Rayleigh–Jeans の領域では、この項だけが残る)。ℏω≫kBT(nB≪1)では粒子の項が、ℏω≪kBT(nB≫1)では波の項が主になる。振動子の量子化はこの2つを1つの式に含んでいて、光子とフォノンは「粒子でもあり波でもある」と言葉で言う必要はない。同じ H^ の同じ分布から、両方の形の揺らぎが出る。
例題 5.3.5 Casimir 力を数える ★★
オリジナル
- (1) ∑n=1∞ne−nϵ=eϵ/(eϵ−1)2 を示し、ϵ→0 の展開の最初の2項を求めよ。
- (2) 弱める因子を e−ω/Λ の代わりに e−(ω/Λ)2 にしても、式 (5.3.31) の有限の項が −πℏc/(24Lb) のままであることを、数値で確かめよ。
- (3) 式 (5.3.33) で、d=1μm と d=100nm のときの圧力の大きさを求めよ。
解答
(1) ∑n≥1e−nϵ=1/(eϵ−1) を ϵ で微分して −1 を掛けると ∑ne−nϵ=eϵ/(eϵ−1)2。eϵ−1=ϵ(1+ϵ/2+ϵ2/6+⋯) から展開すると 1/ϵ2−1/12+ϵ2/240+⋯ で、最初の2項は 1/ϵ2−1/12。
(2) ℏ=c=1, Lb=π の単位では ωn=n で、E0(Λ)=21∑nne−(n/Λ)2。Euler–Maclaurin の公式では、f(n)=ne−(n/Λ)2 について ∑n≥1f(n)=∑n≥0f(n)=∫0∞fdn+21f(0)−121f′(0)+⋯ で、f(0)=0、f′(0)=1、高い階数の項は Λ→∞ で 0 になる。積分は Λ2/2 なので、有限の項は 21×(−121)=−241 で、−πℏc/(24Lb) に Lb=π を入れた値と一致する。数値では Λ=200 で 21∑nne−(n/Λ)2−Λ2/4=−0.041667 となり、−1/24=−0.041667 と6桁まで一致する。
(3) ℏc=3.162×10−26Jm、π2/240=0.04112 なので、d=1μm では0.04112×3.162×10−26/(10−6)4=1.30×10−3Pa、d=100nm では d−4 で 104 倍になり 13.0Pa。間隔を10分の1にすると力は1万倍になるので、微小な機械の部品どうしの間では無視できない大きさになる。
ほかの巻では
- 光学と量子エレクトロニクス 第32章:光子数の揺らぎ nB+nB2 が熱的な光の強度相関 g(2)(0)=2 として測られ、HBT の干渉計で見える
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com